第 5 章 地球の歴史

参考書

歴史科学としての地球科学:歴史を調べるというのが地球科学の大きな特徴であり、 同時に胡散臭いところでもある。歴史は一度しか起こらず再現実験ができないから。

5-1 大量絶滅と生物の進化

参考書
デビッド・ラウプ「大絶滅」(平河出版社)

さて、話は変わって、地球の歴史を見てゆこう。

[地質年代の図] 図は高校の教科書から取った。
まず、ふつう地学を勉強すると習う年代の名前について考えてみることにする。 地球史45億年を大きく分けて、先カンブリア時代、古生代、中生代、新生代 と分けるやり方だ。

まず、この分け方は非常に偏っている。とくに6億年より前をひとつの色に塗りつぶす これはひどい。なぜこうなっているのか?[学生に聞いてみる] 答:それより前には骨格を持った大型の動物化石がないから。 骨を持つ生物の出現は、非常に短期間に突然起こった(カンブリア紀の大爆発)。 それは 5 億 3000 万年前から数 100 - 数 1000 万年間。 このときに現生の生物の門のほとんどすべてが出現した。つまり、 動物の解剖学的なデザインのすべてがここで完成してしまった。 その後は動物のデザインには大きい変化がない。

次に、古生代・中生代・新生代という区分が何で分けられているのか? 化石生物の種類の交代で分けられている。○○紀もそう。 だいたい、この時代にはこういう動物がいた、ということだ。 なるほど、と思うかもしれないが、ここで冷静に考えてみる必要がある。 ある時期に生物種が入れ替わるということは、生態系に激変があるということだ。 何が起こったのでしょう?実は、それが生物の大量絶滅だ。 大量絶滅の後に、空っぽになった生態系に新しい種がでてきた、と考えられる。 なお、NHK 地球大進化の7月版は「大量絶滅」だそうなので、みんな見てね。

実は、このことがちゃんと認識されるようになったのは、あんまり昔のことではない。

Alvarez et al (1980) 隕石衝突による恐竜絶滅(中生代と新生代の境界)
もちろんこれ以前から、大量絶滅は古生物学のはじめから薄々気付いていた人もいたのだが、 考えないようにしていた。それは、化石記録は不完全だからということと、 がはびこっていたせいだ。だから、大量絶滅とはいっても、日常的な絶滅よりほんの少し 激しい絶滅が起こったにすぎないと思い込んでいた。 Alvarez 以来、世の中大きく変わった。【漸進説の崩壊】 という2つのことがらがはっきり認識されるようになった。地球科学で ものの考え方ががらっと変わることが時々ある。 Alvarez 論文とは何か?
論文の最初の2人、Luis Alvarez と Walter Alvarez は親子。 Luis Alvarez は 1968 年に素粒子実験でノーベル物理学賞を受賞している。 Walter Alvarez はその息子で地質学者。 恐竜絶滅の原因を知りたいということで(正確には K/T 境界の層の堆積時間を 知りたいということで)白金族元素を調べ始めた。すると、あーら不思議、 Ir がいっぱいあった。Ir は地球ができるときには、コアに吸い取られるので、 地表には非常に少ない。ところが、K/T 層だけ 160 倍も大きかった。 その理由を隕石の衝突に求めた。太陽系の初期の生き残りの隕石ならば、 コア形成を経験していないので、Ir が多くて良い。

その後、いろいろな論争があったが、メキシコのユカタン半島でちょうどよい クレーターが見つかった、ということなどで、ほとんどこの考えが確立された。

[Raup and Sepkoski の図, raul_l[1].png]
では、本当に生物がどのくらい絶滅しているかを見てみよう。 これは、化石のデータから、むかしの海洋無脊椎動物の科の数を調べたものである。 すると、はっきりと何回か大量にいなくなっている時期があることがわかる。 ちょっとへこんでいるだけじゃないかと思う人もいるかもしれないが、それは正しくない。 たとえば、こう考えて見ましょう。今の人間の 99.9 % を殺したとする。 人類は絶滅するかというとしない。60 億人が 600 万人になるだけだから、10 万年位前に 戻るだけ。これは人間が多すぎるせいでもあるが、言いたいことは本質的にはそういうことである。 たとえば、中生代と新生代の境目で、科の数が 10 % 強絶滅しているが、これは 種の数なら 70 % くらいの絶滅である。もっとすごいのは古生代と新生代の境目で、 科の数が半分くらいになっている。これは種の数だと 96 % くらいの絶滅に相当する (ただし、これは科に絶滅しやすさの違いがなかったとする場合である)。 個体数で言えば 99 % を超えるようなすごい絶滅である。

[写真:木曾川の P/T 境界, Inuyama.jpg (全地球史本カラーページ)]
とはいえ、実は古生代と中生代の境界の大量絶滅の原因はよくわかっていない。 これは、犬山の木曽川の川縁にある第6事件の地層の写真だ。大事件の証拠は こういう身近ところにある。そこのところだけ黒くなっているところに注目。 他のところは赤い。赤いのは鉄錆の色で、黒いところは鉄分が錆びなかったというこだ。 この地層は海底でたまったものだから、当時の海底がかなりすごい酸欠状態だったと いうことを意味している。どうしてそういう酸欠状態になったかは謎だ。 なくなった酸素がどこに行ったのかも大問題です。大気中にたまったのでしょうか? そうすると大気の方は酸素ありすぎ状態で山火事がたくさんおこったかもしれない。 実際、ここの化学教室の篠原先生のグループは火事の時にできると言われている フラーレンを検出している。ついでにいえば、このフラーレンの語源の バックミンスター・フラーという人は「宇宙船地球号」という概念を考え出した人で、 地球環境問題の先駆者の一人と言って良いような人だ。

ここで、非常に重要な帰結がある。(Gould and Eldridge 断続平衡説)

「生存競争は進化の主要な原動力ではない。理不尽な絶滅と それに引き続く生態系の回復こそが進化の原動力だ。」
絶滅は理不尽だ。隕石衝突のような大事件が起こってしまうと、それまで 環境に適応していたかどうかはあまり問題ではない。たまたま大事件に強い 性質を持っていたものが生き残るのである。また、平時は生態系が飽和しているので、 新しい種が出てくる余地が少ない。絶滅こそが新しい種を生み出す力になる。

そもそも遺伝子レベルでどのように進化が起こるか?

分子進化の中立説 (1968) by 木村資生(きむらもとお)
木村資生は岡崎の人で、東海地方ゆかりの人
「分子レベルの突然変異は偶然であって、その突然変異のほとんどは 淘汰に関して有利でも不利でもない。」
"Survival of the Luckiest 運が良いものが生き残る"
この説を出した当時、世界は neo-Darwinism 一色で、ほとんどの突然変異は 淘汰にとって中立ではありえないと思われていた。その思い込みと正反対なので、 最初は反発が多かった。
進化の原動力は偶然。多くの遺伝子の変異は益でも害でもない。 ダーウィン的淘汰は表現型でのみ働き、分子進化では働かない。

[これから先しばらくは中立説の詳しい説明:時間次第で話すかどうか決める]
ただし、有害な変異を否定するものではなくて、有害な変異は残らない、というだけ。 そのため、機能的制約の多い分子の進化速度は遅くなる。ただし、この 有害無害が環境とは無関係で、その分子の機能が損なわれるという意味だけだ ということが中立説の特徴。

例:ヘモグロビン分子のアミノ酸配列の違いは、人とウマの間、ウマとハツカネズミの間、 人とハツカネズミの間で全部同程度(アミノ酸 20 個)。これら3つの哺乳動物とコイの間は アミノ酸 70 個程度。ということで、進化速度はだいたい一定している。

例:偶蹄目(牛の仲間)は非常に多くの仲間がいて、全部それなりに生きているという ことは特に適応に関する有利不利はない 牛、水牛、鹿、カモシカ、インパラ、ガゼル、山羊、羊、駱駝、河馬、キリン、猪 etc [中立説詳論おしまい]

というような感じで、最近はっきりわかってきていることは、 生物の進化は、自然淘汰だけでは説明できないということだ。 ミクロなレベルでは淘汰は働かない。マクロなレベルでは、大量絶滅が重要。 なぜ人類がいるのか?偶然の賜物:たとえば、恐竜さんが死んでくれなかったら、 人類はいなかっただろう。今も、中生代の続きだっただろう。

適者生存は、個体やその集団レベルでのみ働く、局所的な適応原理である。 最適原理ではない。

[以下、伊藤繁先生の講義より:時間次第で話すかどうか決める]
例:何で陸上植物は緑色のものしかないのか?緑色植物は緑色を利用しないので、 最適を考えると、緑色を利用する植物がいても良い。海藻にはそういうのもある。 でも、なぜか陸上植物にはない。これも歴史的な偶然だろう。生物の世界は 最適化などされていない。
[以上、伊藤繁先生の講義より]

5-2 地球史7大事件

以上のように、旧来の地質時代区分が、硬い骨格を持った生命の誕生と、 引き続く何度かの絶滅事件に基づいているとすると、45億年の歴史を調べようという 立場からすると、余りにも生物に偏っている。実は、生物の歴史としても偏っている。 現在の生物で最も繁栄しているのは、バクテリアである。人間の体には バクテリアがたくさんいる。極端環境にも地底にもいる。 ほんとうは、バクテリアの歴史こそが生命の歴史。骨のある生物などごく一部。

そこで、もう少し別の観点からの時代区分を考えるという試みが、 私の指導教官だった熊澤さんとか、現東工大の丸山さんによって なされた(どちらも名大ゆかりの人)。まだ世界では市民権を得ていないが、 地球の45億年の歴史を語るのに便利なので、これを使って語る。

[図:地球史7大事件の図(熊澤図と丸山の造山帯、氷河期の図)]
地球史には歴史を画する7つの大きな事件があったととりあえず設定する。 これを手がかりに歴史を見てゆくという試みだと思って欲しい。 事件で歴史を語るというのも画期的。というのは、漸進説とはっきりおさらばしているからだ。 さて、これに沿って地球の歴史を見てゆこう。

[図:第1事件]
まず、第1事件。これは地球ができた、という事件。これは第2章で概要を話した。 地球の形はだいたいもうここで出来上がった。

[図:第2事件] 次は、第2事件。現在残っている最古の石がだいたいこの時代のものです。最古の石は だんだん古くなってはいるのだが、ある程度の大きさの岩体が残っているのがこのへんが 最古だ。

まず、それより古い岩体がないということは、それより古い時代は隕石などの衝突が激しく、 なかなか地層が残らなかったというふうに考えらる。

それから、38 億年の岩体を良く見ると、現在と余り変わらないプレートテクトニクスが すでにあったのであろうということも分かる。40 億年前の石も、花崗岩という墓石に 使うような石で、これもおそらくプレートテクトニクスがないとできない。そこで、 第2事件のあたりがプレートテクトニクスの始まりだろう。ということは、当時から すでに海があってマントル対流があって、それとともに地表も水平方向に移動していた、 ということになる。そういうわけで、第2事件は地球形成期の大騒ぎが一段落して、 地下の活動が現在とだいたい似たような感じになった時期だと考えられる。

参考:Q&A「38 億年前の岩石に見られるプレートテクトニクスの証拠とは何か?」
それは、付加体と呼ばれるものだ。
[図:付加体]
プレートテクトニクスで、沈み込むプレートを考える。沈み込むプレートの上には 海底で溜まったもの(生物の殻とか泥とか)が溜まっている。これが沈み込むときに 鉋(かんな)で削るように削られて(あるいは、刺身を削って並べたようになって)、 対岸の大陸側プレートにくっつくことがある。これを「付加体」という。 日本列島のとくに西南日本の骨組みはこれで出来ている。 前回、犬山の地層を紹介したが、それは実はそういうものの一部。それが、深海底で たまったものが地表で見られている理由。そういう刺身を並べたような構造が 38 億年前の岩石にも見られている。

参考書:平朝彦「日本列島の形成」(岩波書店)
[Q&A 終り]

生命が生まれたのもおそらくこのころだ。もう少し前からいたのかもしれない。 ひとつの証拠とされているのが、炭素の同位体 (陽子数が同じで、中性子数が異なる原子核)の割合だ。 炭素には 12C と 13C という同位体がある。 生き物が作る炭素化合物は、無機物よりも 13C が少ない。すなわち 軽い同位体が多い。そこで、軽い炭素同位体が多い炭素がみつかると、生物の証拠だと 考える。ただし、無機的にできる可能性もあるので、決定的ではない。でも、 たぶんすでにいたんじゃないか、と思っている人が多い。生命は地球の非常に初期に 生まれた、というわけだ。 また、光合成の起源も最近の丸山さんの見解だと 37 億年頃でかなり古い。

そこで生命の起源について考えてみよう。生命がどこで生まれたかということに関しては 現在いろいろな考え方があるのだが、最も有力な考え方は、深海底の温泉、 つまり海底熱水活動域、にあったのではないかというものだ。 まず、生命を構成する元素組成が海の組成と似通っているということから、 生命は海で生まれたということが一番自然だ。 熱水が起源であるとする根拠は2つある。 (1) 最近の分子進化学の結果からすると、始原的生物は超好熱菌、 つまりすごーく熱いところに住む菌であることがかなり確からしい。 そういう熱い環境というのは、海の底の温泉だ。 (2) 最古に近い生命の化石とみられる 35 億年前のものがあった場所が、 海底で火山活動が起こっているような場所であることがわかってきた。

[DVD : archaean park]
現在でも海底にそのような温泉がある場所がある。たとえばこの DVD の場所だ。 そういう研究に私もちょっとかかわっている。そういう場所では現在も奇妙な生き物が たくさんいる。そういう生き物で目に見えるようなものはもちろんかなり進化した生物で、 原始の生物とはかけはなれたものだが、しかし、こういう場所やこういうところに住む菌を 調べると、最古の生命についての情報が得られるかもしれない。そういうことでたとえば 日本でも現在アーキアン・パーク計画という共同研究が進んでいて、これはその宣伝 DVD だ。 もちろん原始の熱水系はこんなににぎやかではなくて、菌だけの世界だ。そうすると、 変な汚らしいけばけばしい色がついた温泉の様子の方がむしろ近い。

[図:第3事件]
第3事件と第4事件は、非常に激しい火山活動が起こった時代だ。その証拠は、 ジルコンという火山活動のときにできて、しかも安定な鉱物の年代がそこに 集中しているということだ。それから、地質学的にみて古い造山帯の年代も そこに集中する。これの一つの解釈は、マントル対流が上と下の2層に分かれていた 対流が1層になったということだ。前には言わなかったけれど、マントルは詳しく見ると 2層に分かれているみたいで、それをはさんで対流が起こったり起こらなかったりする、 ということがわかっている。そのモードが変わった、ということがあったのかもしれない。

[以下詳しすぎるかもしれず、時間がなければ省く]
そういうことが起こるという理由はいくつか考えられるのだが、 そのうちの一つを話す。これは東大の小河さんの考え方だ。マントルは初めは暖かくて 火山活動が盛んだった。火山活動が起こると石が融けて重い石と軽い石ができる。 重い石は沈んで軽い石は浮くということで、マントルは2つの層に分かれる。 その層の中でそれぞれ対流が起こります。だんだん地球が冷えてくると、火山活動で 重い石と軽い石ができるという作用よりも、重い石と軽い石がかき混ぜられるという 作用が大きくなる。そうすると、対流はマントル全体で起こるようになる。 ほかにもいろいろなことが考えられるのだが、マントルの中で起こっている大きな変化が 地表にも大きな影響をおよぼす。逆に、地表で現在考えられないような大事件が起こると いうことは、マントル対流の大きな変化のせいではないかと想像するということでもある。
[以上2層対流問題]

第3事件のあたりでは、生物界でも重要な事件が起こった。それは、光合成が非常にさかんに なったことだ。ストロマトライトと呼ばれる化石が多くなってきていて、これはシアノバクテリア という光合成生物が作ったと信じられている。そのことによって、海の中の酸素が増えた。 海の中の酸素は海の中の鉄イオンを酸化して酸化鉄を作る。そのようにしてできたこの時代の 酸化鉄の量は膨大で、現在私たちが使っている鉄の原料の鉄鉱石はほとんどその時代に できたものだ。そのようにこの時代のことはわれわれの生活にも関わっている。

次は、第4事件と行くわけだが、実は第3事件と第4事件の間にも時期はあまりはっきりしないが、2つ大きなことが起こっている。

[図:第4事件]
第4事件は、火山活動がやっぱり激しかったのだが、とくに重要なのは、このころ最初の 超大陸ができた、ということだ。超大陸というのは、世界中の大陸の大部分が1箇所に 集まった状態だ。超大陸は、地球の歴史の上で何回かできたことがわかっているが、 これが一番最初である。それ以前の大陸は、現在よりもサイズが小さい。これも、 マントル対流の2層から1層への変化ということと関連しているのかもしれない。

もうひとつ大事なのは、たぶん 20 億年前の前後あたりで大気中の酸素濃度が増えた、 ということだ。海の中で鉄を酸化し尽くして酸素があふれてきた。 酸素が大気中にでてきて、ミトコンドリアが酸素呼吸するようになって、 真核生物がでてきたんではないか、という考え方もある。 この話を聞くと、酸素が出てきて生物に住み良い環境ができたと思うかもしれないが 事実はおそらくその逆。これは地球史最大の 環境汚染だった可能性が高い。なぜか? 酸素は、ものを燃やすほどに反応性の高い物質だから、大気中の酸素は、生物にとっては もともとは猛毒だった。人間にとって酸素は必須ですからそうは思えないかもしれないが、 酸素は基本的には毒で、呼吸する生物はそれを無毒化する装置を備えている。 ミトコンドリアはさらに酸素を利用するというところまでいった。このように、 このあたりの時代は、生物界にとっても現在のような生物が生まれる大きなステップに なっている。

[図:第5事件(丸山・磯崎 図1.8)]
第5事件はたぶん単一の事件ではなくて、8 億年から 5 億年前くらいにかけての 一連の事件だと考えるのが良い。これは、古生代が始まるあたりで、いくつかの大きな事件が 起きている。まず、8億年から6億年前に極端な寒冷化とそれに引き続いて極端な温暖化が 起きたということが2回あったと言われている。寒いときは、いわゆる全球凍結 (スノーボールアース)と呼ばれている現象で、地球のほとんど全体が凍り付いてしまった。 名前は「スターチアン氷河期」と「ヴァランガー氷河期」というふうに付けられている。 これは、NHK スペシャル「地球大進化」を見た人は先月見たはずだ。詳しいことは、 時間があれば次の章でやる。いったん地球が凍ると、二酸化炭素が大気にたまるようになって、 あるとき突然氷が融け初めその次には気温60度とかいうような極端な温暖化が起きたと 言われている。そういう激変期だ。

それから、この時期から海水の量が減り始めたのではないかという説も東工大の丸山さんが 出している。

そういう激変が起こると、生き物なんか死んでしまいそうな気もするのだが、 そうでもなくて、6億年くらい前から結構大型の生物がでてくるようになった。 5億8千万年くらい前にはエディアカラ生物群と呼ばれるひらべったくてブヨブヨしたような 生物が出てきた。さらに5億4千万年くらい前になると堅い殻を持ったような生物が 一気に出現した。これが古生代の始まりで、カンブリア紀の大爆発と呼ばれる。

参考書:スティーブン・グールド「ワンダフル・ライフ」(ハヤカワ文庫)

[図:第6事件]
前に話したように、第6事件はそうやって繁栄した生物が今度は一気に絶滅するという 大事件が起こった。個体数 99 % が死んだかもしれない。いまでは考えられないくらいに 地球上から生物が一掃されたことになる。海底が酸欠状態になったという話をした。 こんなことが起こった理由として、東大の磯崎さんは「プルームの冬」という考えを 出している。当時、地球上の大陸は1ヵ所に集まっていてパンゲアという超大陸が できていた。大きい大陸ができるとそれは地球の中の熱に対しては断熱材の役割を するから、その下が熱くなってくる。やがて、激しい火山活動が起こるようになる。 そうすると噴出物が太陽光を遮って冬のようになるだろう。それを「核の冬」をもじって 「プルームの冬」と称したわけだ。

さて、第7事件は、地球の上のヒトという生物が科学などということをして、 自分とは何か、地球とは何かなどということを問い始める。これも、哲学風に言えば、 地球が地球自身を問うようになった、ということになるだろう。それは、 大事件ではないだろうか?