第 7 章 災害の科学〜とくに地震の科学

7-1 自然災害のいろいろ

[配布表:インターネットで防災情報を bosai-link.html]

自然災害のいろいろ

  地震、風水害・雪害(台風、集中豪雨)、火山
    地震:めったに起こらないけれど、起こったときの被害が大きい
            平均すると、年数 100 人くらい
    風水害・雪害:毎年だいたい同程度起こっている
            年 100 人くらい
    火山:普通の噴火で、適切に逃げていればそう多くの死者は出ない
          ただし、潜在的には巨大災害の可能性があり、年間?人というのは難しい
          (1万年に1回くらい 100 万人くらい人が死ぬ噴火が起こりうる)
               石黒耀「死都日本」(SF だが、科学的側面の方はレポートの題材になりうる)

    ただし、他の災害との比較では
      自然災害:年 数100 人
      火災:年 2000 人くらい
      交通事故:年10000 人くらい

この講義では、時間の関係上、地震災害を中心に話す。

[講義では省略] 防災関係予算のうち(平成 13 年)[H15 防災白書による]

    国土保全 60% (2.2 兆円)…河川改修、砂防ダムなど
    防災     25% (1 兆円)…安全なまちづくり
                     土建国家の面目躍如
    災害復旧 15% (0.6 兆円)
    科学研究  1% (500 億円)…地震予知を含む
        よく地震予知が槍玉に上がるが、この比率には注意しておく

7-2 地震の基礎知識

地震の基礎知識をまとめておこう。[配布図]

地震とは、
(1) 何らかの原因(ふつうは断層運動)で局所的で急激な破壊が起こり
(2) それが地中を伝わる波として波源から遠くに伝わる
現象であって、とくに
(3) 波が地表に到達したとき、被害を及ぼす揺れとなる(とくにこれを地震動と呼ぶ)

もうちょっと説明

(1) 断層運動とは?:地中にある面ができて、その両側が面に平行に動くこと
    [図:断層運動]
(2) 波とは?:P 波、S 波
    [図:弾性波]

震度とマグニチュード

マグニチュード M とエネルギー E(erg) の間の関係は、だいたい
log E = 11.8 + 1.5 M
となる。大事なことは、マグニチュードが 1 増えると、エネルギーは約 30 倍、 マグニチュードが 2 増えると、エネルギーが約 1000 倍になるということだ。

ただし、エネルギーを言われてもわかりにくいので、断層の長さと対応させる方が 大雑把にはわかりやすい。だいたい

M6 が 10 km
M7 が 30 km
M8 が 100 km
というのがひとつの目安だ。これは 静岡大学の小山先生の考え http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/etc/Abstracts/godo00.html だ。

地震の原因 (1) に関する更なる注釈

結局、地震というのは「地面が揺れる」という定義しかないので、いろいろなものがありうる。 ただ、被害という意味で重要なのは、急激な断層運動が原因となるものである。以下、そういう 地震に話を限る。

7-3 断層運動とプレートテクトニクス

参考書:石橋克彦「大地動乱の時代―地震学者は警告する―」(岩波新書)
断層運動による地震はプレートテクトニクスと密接なかかわりがある。 これを説明してゆこう(地震のたびにテレビで地震学者が解説しているが)。

[図:沈み込みといろいろな地震]
[図:震源分布図]
地震で重要なのは、日本のようにプレートが沈み込むところで起こる地震である。 これにはいくつかの種類がある。

7-4 日本の周りのプレート間地震とその規則性〜とくに東海・東南海・南海地震

[図:日本周辺のプレート]
海溝地震では M8 クラスの巨大地震が起こりうる。

[図:プレート間地震の図]
プレート間地震の特徴:セクター化された領域で規則的に起こっている

[図:駿河トラフ・南海トラフ沿いの地震 石橋 4-2]
駿河トラフ・南海トラフ沿いには 100 年おきくらいに規則的に地震が起こっている。

東海地震説の根拠と現状:前の東南海地震のすべり残し。しかし、現在では すべり残すことも時々起こるらしいことがわかってきたし、単独の東海地震は ないのではないかと思っている人も多い(でも本当はわからない)。 そこで、次は東南海地震と一緒に起こると思っている人も多い。

FAQ

Q 東海地震は 20 世紀中に起こりそうに無いのになぜこんなに早くから警戒されたか?
A E 領域だけが単独で起こる可能性が考えられたから。 当時はむしろ遠州灘の方が警戒されていて、駿河湾は大きな被害を及ぼす可能性が あるにもかかわらず警戒が薄かった、ということもある。

次の東南海・南海地震はいつ起こるか? 平均的には百数十年間隔。すると、 21 世紀後半。しかし、昭和の東南海・南海地震が小さかったので、次は早いという 考え方もあり、21 世紀前半を予測する人も多い(そういうモデルだと 2015 年くらい)。 いずれ、21 世紀中には起こるだろう。切迫しているわけではないが、都市計画は 早めに立てておく必要あり。

7-5 日本の内陸地震と活断層

内陸地震:大きいものでふつうは M7 クラス (海溝地震より一回り小さいが、震源が陸の真下なので被害が大きい)
    例:兵庫県南部地震 (1995; M7.3)
    例外的に大きいもの:濃尾地震 (1891; M8.0)
              中部地方は巨大内陸地震が起こりうる

M7 クラスの地震は予知は困難とされている(M8 クラスでもどうかわからない)

海溝地震の周期性に連動した内陸地震の活動:「大地動乱の時代」
    海溝地震の前、周期の 1/2〜1/3、後数〜10年くらいが活動期

  西南日本 [図:尾池 なゐふる oike_fig2.jpg]
    駿河トラフ・南海トラフ沿いの地震と関連した活動
      海溝地震の前 50 年、後 10 年くらいが活動期
      21 世紀前半は活動期であろうと予想される
        (兵庫県南部地震から次の東海南海地震まで)
  南関東 [図:茂木 8-9]
                      ? -- 1703 元禄関東大地震   の ?0 年間は地震が頻発
    1853 嘉永小田原地震 -- 1923 大正関東大地震   の 70 年間は地震が頻発
      海溝地震の前 70 年、後数年くらいが活動期
        南関東の活動期がいつ始まるか?

[図:海溝地震と内陸地震の関係の説明]
活動期と静穏期がある理由の説明はできる

防災のひとつの鍵は活断層:

活断層の定義:過去 100 万年程度以内に動いたことがあると見られる断層で、
              地表にその痕跡があるもの
  このような新しい断層は、将来も動きうるので、地震が起こりそうな可能性を示す
  (注)すべての地震が活断層でおこるわけではない。
        深さ 10 km くらいが起こりやすいので、地震の震源断層が地表に達しないこともある
        (例:兵庫県南部地震の神戸側)

[写真:根尾谷断層観察館 gake2[1].jpg, DSCF0200.JPG]
活断層を見たければ根尾谷断層観察館に行ってみよう:濃尾地震の跡が見られる

活断層がどこにあるかは、簡単に知ることができる

活断層デジタルマップ(東大出版会)

[図:活断層分布]
[図:GPS による変位速度 sokudo.gif]

日本の活断層分布
  とくに西南日本では、
    中央構造線より北:東西押しの横ずれ断層
      (太平洋プレートの影響 or アムールプレートの東進)

[以下話が細かいので省略]
  中央構造線:日本最大の横ずれ断層
  中央構造線より南:北西-南東押しの断層(フィリピン海プレートの影響)
[ここまで細かい話]

活断層と建物規制
地震は活断層だけで起こるものではないが、活断層直上に建物を建てるのは止めて! (防災セミナー:鈴木講演)

[以下の地震の発生確率ははやりだすと面倒なのでやらない]
地震発生確率
  あまり意味はない
      (防災セミナー:鈴木講演)
  とはいえ、全国規模で防災対策を決めるときの指針にはなる。
  全国規模での判断の参考資料としては良いが、個々の地域の問題としては意味がない。
      (防災セミナー:藤原講演)
[地震の発生確率終わり]

7-6 地形は災害の傷跡

地形は災害の跡である、ということを言って終わりにしたい。
とくに濃尾平野を例に取る
[図:濃尾平野のなりたち]
  平野:洪水が平野を作っている(日本の場合)
        例:濃尾平野そのもの
  山:山が出来るとき、地震が起こったり、火山噴火が起こったりする
        例:養老山地と養老断層と濃尾平野の関係
  谷:谷が出来るとき、崖崩れが起きたり、鉄砲水が出たりしている
        例:細かい谷や崖地形
地震と風水害に対する危険箇所(実は似ている):
    地形図や土地利用図を見よう
      国土交通省 土地・水資源局 国土調査課
          http://tochi.mlit.go.jp/tockok/index.htm
      [そこから取った図
          223001.jpg  愛知県土地分類図
          2312L.jpg  名古屋北部地形分類図
          2312G.jpg  名古屋北部表層地質図
          2311L.jpg  名古屋南部地形分類図
          2311G.jpg  名古屋南部表層地質図
          523004.jpg  愛知県災害履歴図]
      名古屋付近は、東海豪雨のおかげで国土地理院ホームページに電子形式で地形分類図がある
          http://www1.gsi.go.jp/geowww/nagoya/nagoya_landcondition.html
      [そこから取った図
          hanrei_1.jpg  凡例
          nagoyananbuNE1.jpg  名大周辺
          nagoyahokubuSE4.jpg  名古屋城周辺
                                   名古屋城は台地の端
                                   旧市街地は台地に作られた
          nagoyahokubuSW2.jpg  新川・五条川・庄内川合流点付近(東海豪雨)
                                   自然堤防:昔は宅地
                                   後背湿地:昔は田んぼ
          nagoyananbuNW4.jpg  日光川河口付近:干拓地]

(1) 近くに地震を起こす断層は無いか?(地震のみ)
    ・ 近くで地震が起こる可能性がどのくらい高いか?(海溝型地震、内陸地震)
    ・ 震源の可能性が高い場所(海溝、活断層)との距離はどのくらいか?
          とくに活断層の直上ではないか?
              活断層は地形から判断できるが、すでにある活断層図が十分に充実している
    ・ 養老断層のような逆断層は、日本の山を作る活動のひとつであることを認識しよう。
  参考にすべきデータ
        地震調査研究推進本部が発行している地震発生確率
                 (ただし、確率の読み方を注意。内陸地震なら、数 % で十分に高い)
        「活断層デジタルマップ」(東大出版会)  電子版あり  建物単位で詳しくわかる

(2) 地盤の脆弱地域〜洪水の危険地域
  ・ 沖積平野
         沖積平野は、過去1万年の間に洪水が起こったことを示す
                 (日本の平野は洪水で土砂が運ばれることで形作られている)。
         沖積平野は地盤が弱く振動が増幅されるし、液状化の危険も高い
              とはいえ、兵庫県南部地震のポートアイランドのように、柔らかすぎて
              人的被害がそれほど大きくならなかったところもある。ただし液状化は起こった。
              液状化はライフラインを破壊するので、もちろん良いわけではない。
         同じ平野でもちょっと高度の高い洪積台地は比較的安全
         可能なら、地下構造図を探して沖積平野かどうかを確かめる
    ・ 谷地形、河川の近く
         谷地形は、現在川がなくても、川の流路であったことを示すことが多い
         鉄砲水等の危険

(3) 津波・高潮の危険地域
    ・ 海岸近くの低地
          海岸からの近さ、標高、海岸の地形、逃げ場所の有無

(4) 崖と急斜面
    ・ 崖あるいは急斜面近くは危険(崖の上でも下でも、急斜面の途中でも)
    ・ 宅地造成の盛土部分も危険(古い地図と比較するとわかる)
    ・ 活断層による崖もある

(5) 建物の危険(とくに地震)
    ・ 危険な建物の中や近くにいないか?
          建物は凶器。古い建物は危ない(老朽化の問題、建築基準法の問題)。
    ・ 火災の危険は?
          住宅密集地は危険

しかし、危険がある場所は人が住み着く場所でもある(benefit もある)
    平野:洪水は肥沃な土地を生む e.g. 輪中
        川の近くは普段は景色が良く気持ちが良い(ドブでなければ)
    海岸や河岸: water front; 景色も良い
    崖:崖の上は景色が良い
    risk と benefit を良く天秤にかけよ(私は住むことをおすすめしない)

[ハザードマップは時間が無いので省略]
ハザードマップ:国立国語研究所の案(6/29 のニュース)では、
               「災害予測地図」「防災地図」という日本語を充てる。

ハザードマップ、活断層図等
  阪神大震災(1995)、北海道南西沖地震(1993:奥尻で大被害)、雲仙噴火(1990)など
  をきっかけにして一般化してきたので、みんなで見てみよう。
  それ以前:土地の値段に影響する、観光客が減る等の理由で作られてこなかった。
            作ろうとするだけで地元から猛反発を受けた。今や意識が変わった。
            そんなことを言っていられない。
      (防災セミナー:鈴木、藤原講演)

ハザードマップを活用しよう
  例:自分で住まいを決めるとき、都市計画を立てるとき

ハザードマップがないときも、ある程度の知識が自分でだいたいわかる。そこで
自分でどういう危険があるか判断しよう。逆に、すでにあるハザードマップを
鵜呑みにしない必要もある。理由
(1) 地震や火山のハザードマップはある特定の地震や火山噴火の起こり方を想定している。
    その想定外のこともある程度考える必要がある。
(2) まじめでない自治体が丸投げでハザードマップを作る場合、圧力がかかっている
    可能性がある(土地の値段が下がるからここは危険地帯にするな、など)。それを
    見破る必要がある。
[以上、ハザードマップは時間が無いので省略]