井田茂「惑星学が解いた宇宙の謎」(新書 y、洋泉社)
嶺重慎・小久保英一郎「宇宙と生命の起源」(岩波ジュニア新書)
この章全体として注目しておいて欲しいポイントは、元素の起源と行く先だ。 元素がどのように巡り巡っているかを見てほしい。元素は原子核反応で出来る。 原子核反応を起こすには高温と高圧が必要なので、できる可能性がある場所は 限られている。というのは、原子核反応が起るにはプラスの電気(電荷)を持った 原子核どうしが衝突しないといけないからだ。宇宙の中でそういう条件を 持った場所は限られる。最初に、道しるべとしてどういう元素がどういうときに できるかを簡単にまとめておく。これを道しるべに話を聞いて行って欲しい。 もう少し詳しいことは、その時々に説明する。
ビッグバン H, He, 少しの Li 恒星の中 He から Fe までの元素 超新星爆発 Fe より重い元素を含むありとあらゆる元素
杉山直「膨張宇宙とビッグバンの物理」(岩波講座 物理の世界)ただし、これは1年生にはちょっと難しい。大学の物理をある程度勉強し、 物理学の語り口を分かっている人向け。
宇宙はビッグバンという大爆発でできた、ということは良く知られている。 最近は 137±2 億年ということまでわかっている。 そういう最近のことは私も良く知らないので、ビッグバンという考え方が でてきた歴史を見てゆこう。
1929 年、Edwin Hubble は、アメリカのウィルソン天文台で、銀河がわれわれから 遠ざかっており、遠ざかる速さは距離に比例していることを発見した。 これは、宇宙全体が一様に膨張していると考えるのが自然だ。 これは、宇宙に関するわれわれの認識に対する革命的な出来事だった。
Hubble はまず、1924 年に、アンドロメダ星雲がわれわれの銀河系の外にあることを 証明した。距離は、セファイド型変光星の明るさによって測定した (セファイド型変光星では、周期と光度の間に関係があることがわかっている)。 当時は、アンドロメダ星雲との距離が 90 万光年であると推定した(現在の推定は 230 万光年)。これに対して、私たちの銀河の直径は約 10 万光年だから、 アンドロメダ星雲は私たちの銀河の外にあるというわけだ。 (余談:Hubble は、大学卒業後、一時父親の希望もあって法律を勉強していた。 でも、やっぱり天文学をやりたくなって、25 歳のときに天文学の大学院に戻る。)
その後、いろいろな銀河の光のドップラーシフトを調べて、銀河までの距離と 銀河が遠ざかる速度が比例していることを発見した。これは、宇宙が一様に 膨張しているということだ [1次元の模式図を描いて説明]。
そうすると、昔にさかのぼってみると、最初宇宙はものすごく小さくて高密度だったと 考えるのが自然だ。そういうわけで、1946 年、George Gamov は当時最先端の 原子核物理学を駆使して、火の玉宇宙論を作った。これがビッグバン理論の 始まりである。なお、ビッグバンという名前は、定常宇宙論の親玉の Hoyle が ビッグバン理論を揶揄するために作った言葉である。皮肉なことにこれが定着した。 (余談:Hoyle は「暗黒星雲」という SF を書いたり、始祖鳥は嘘だ、と言ったり、 変わった人である。)
さて、元素の起源ということでは、その後の理論の発展により、 ビッグバンで、水素とヘリウムと少量のリチウムができたことがわかってきた。 正確に言えば、宇宙の最初(最初がいつかは問題だが、本当の初めから1秒後 くらい)には、陽子や中性子や電子などがバラバラな状態だった。陽子と中性子は、 宇宙が始まってから 3 分以内くらいまでに、ある程度くっついて、ヘリウムおよび 少量の重水素とリチウムの原子核を作った。その後、38 万年くらい経ってから、 それらの原子核と電子が結合して原子になった。その結果として、 宇宙の物質の大部分は水素とヘリウムになった。 その存在比はだいたいどこでも 10:1 で、これはビッグバンの名残である。 地球惑星科学のコンテクストでは、とりあえず、水素とヘリウムが 宇宙の始まりにできた、ということが大切である。 ほかの元素については、すぐこの後で話すように恒星の中でできた。
最初の宇宙の景色はどういうものだったかというと、けっこうのっぺらぼうだった。 これは、さっきの 38 万歳の宇宙の観測からわかっている。 現在のように銀河や星などの様々な構造ができたのは、 基本的には万有引力のためである。 万有引力の式
F = G M1 M2 / r2を見てみよう。大事なことは、万有引力は、引力しかないということだ。 力は質量が大きいほど大きく、距離が近づくほど大きい。 すると、たとえば、密度のムラがいったんできると、そこはまわりから ものを引き付けるようになるのでますますものが集まってくる。 このようにして、銀河や星などの構造が宇宙にいろいろできたのである。
恒星というのは、宇宙にあるガス、つまり、ほとんど水素とヘリウムが 万有引力で集まって、その中で核融合が起こって光っているものである。 その恒星の性質は質量で決まってくる。 つまり、たまたまどれだけガスが集まったか、で決まる。
質量による進化の違いを説明してゆく。 [図(恒星進化の図)を描きながら]
注1:境目の質量はそれほど厳密ではない
M < 0.08 Msun 褐色矮星 0.08 Msun < M < 0.45 Msun He 白色矮星(He は燃えていないので、C, O が出来ていない) 0.45 Msun < M < 8 Msun C, O 白色矮星(C, O が出来ている) 8 Msun < M 超新星、残りは中性子星、ブラックホール
その集まった質量が 0.08 Msun 以下だと、核融合が起こらなくて恒星にならない。
核融合というのは、プラスの電気を持った原子核同士が衝突しないといけないので、
かなりの高温高圧にならないと発生しない。質量が小さいと内部が十分に
高温高圧にならず、褐色矮星(木星のような惑星と同じようなもの)になる。
参考:Q&A 「0.08 Msun 以下の星が褐色矮星なるのは
どうしてわかったのか?」
それより大きい星、たとえば太陽くらいの星になると、まず水素の原子核同士が くっついてヘリウムになる。とりあえず、水素が原子の中で一番電荷が小さくて 反発力が弱く、原子核同士が近づきやすいからだ [ヘリウムを作る反応: pp chain, CNO cycle]。そのうち、ヘリウムの原子核同士がくっついて 酸素とか炭素ができるようになる。太陽のような星は、やがて燃え尽きると 白色矮星になる。質量が 0.45 Msun 以下だと He が燃えずに He 白色矮星になる。 それ以上だと、C, O 白色矮星になる。
もっと大きな星(質量が 8 Msun より大きい)では、その炭素が燃え出して、 いろいろな核反応が起こり、最後は超新星爆発を起こし、 後には中性子星やブラックホールが残る。超新星爆発の時には、 (1) すでに星の中心で作られたいろいろな元素が撒き散らされると同時に、 (2) 激しい核反応で新しい元素もできる。とくに重い元素(鉄より重い元素)は、 超新星爆発のときにできる。ただし、これらの元素の生成機構はまだ詳細までは 分かっていない点がある。
これでも本当は簡単すぎ。もっと詳しく知りたい人は、たとえば
高原まり子「壮絶なる星の死―超新星爆発」(培風館)を見よ(ちょっと難しい。ただし、数式が多いわけではない。)
太陽系を形作る元素は、ビッグバンのときにできた水素、ヘリウムとそういった 超新星爆発の残骸である。
Solar Abundance (Anders and Grevesse, 1989) (Si の原子数を 106 とした場合の相対的な数)
H 2.79 x 1010 He 2.72 x 109 C 1.01 x 107 N 3.13 x 106 O 2.38 x 107 Ne 3.44 x 106 Mg 1.074x 106 Si 1.00 x 106 Fe 9.00 x 105
これらが Si と同程度かそれよりも多い元素のすべてである。 まず、H : He = 10 : 1 であることを確認する。これはビッグバンの名残である。 残りの元素は、近所の超新星爆発の名残である。先の星の進化の説明から、 これらの元素が恒星の中での核融合によってつくられやすい元素であることが わかるだろう。C, O が多いのは、星の中で He が核融合して出来る主要な元素が C, O だからである。
惑星科学的には、これらの元素を3種類に分けるのが便利である。
[板書] 太陽系の図を描く。
参考書
井田茂・小久保英一郎「一億個の地球」(岩波 科学ライブラリー 71)
太陽は、要するに銀河の中でガスの濃い部分が万有引力によって集まってできた。 そのほんの 1 % に満たないゴミのような部分から惑星などができた。 ゴミとはいえ、その上に私たちがいる惑星がどうやってできたかは非常に興味がある。
まず、星がどうやってできるのかを 2-2 節よりももう少し詳細に考える必要がある。 銀河の中でガスが少し濃い部分を星間雲という。いわゆる暗黒星雲である。 その中でもよりガスが濃い部分を星間雲コアという。 これが万有引力で互いに引き合って星ができてゆく。 ここで大事なのは角運動量保存則だ。 角運動量保存則は知っているかな?[学生に尋ねてみる] 角運動量保存則が言っていることは、縮むと早く回りだすということだ。 よく言われる例は、フィギュアスケーターの回転だ[図を描く]。
[図を描きながら]
最初ガスがあって、ほんの少しでも回転する成分があったとする。
縮むとその回転が強まって、遠心力が強くなる。
そこで、ガスは円盤状になってゆく。
この円盤のガスの大部分は中心に落ちて中心星になる。
ほんの少し落ち残ったものの中の岩石成分や氷成分が重力で集まって
(要するに雪が降るようなもの)、惑星ができる。
最近の発展として、天文観測でこのような円盤が若い星の周りに 確認されてきているということがある。たとえば、 Hubble space telescope によって、若い星の周りに円盤が見えてきた。
Hubble 望遠鏡の写真については Hubble 望遠鏡のホームページ http://hubblesite.org/を見ると たくさん出てくる。とくに星周円盤については News Archive : Protoplanetary Disk を見よ。円盤の例
惑星の作られ方をもう少し詳しく説明しよう
参考 web page: 東京工業大学井田研究室による解説
[配布] solar_system_formation_IDA.jpg:太陽系形成の標準モデル
[見せる] NASA-protoplanets-small.mpg : 太陽系形成のイメージ (Hubble の News Archive : Protoplanetary Disk からたどれる場所に あったもの)
[ビデオ鑑賞] 「NHK 地球大進化」 地球と月がどうやってできたか?
また、最近の発展として重要なこととしては、系外惑星系の発見がある。 最近、けっこう太陽以外の恒星のまわりに惑星が発見された(100個以上)。
参考 web page : California and Carnegie Planet Search見つけ方:恒星の光のドップラー効果(惑星によって恒星も少し振り回される)