参考書
本章は、上記 S.Y. 本のダイジェスト+αである。岩波講座地球惑星科学3 「地球システム科学」
- 第3章「地球システムにおける対流とエネルギーの流れ」 by S.Y.
- 岩波講座地球惑星科学10 「地球内部ダイナミクス」
地球の流れは、直接あるいは間接に熱が原因(浮力が原因)で起こっている 場合が多い。そこで、熱が原因でどういう流れが起こるのかを簡単に考えてみて、 それでイメージをつかんでほしい(数学的にちゃんと扱おうとすると、 学部3、4年レベル)。その熱がどういうものかは、4-2 でもう少しちゃんと話す。
熱が直接的な原因で起こる流れを熱対流と言う。熱対流の起こり方を大きく2つに分ける。
(1) 水平対流
(2) 鉛直対流
[配布図2]:エネルギーの流れ
熱は下から上へ運ばれる。
途中で一部が力学的エネルギーになり、内部摩擦でふたたび熱に戻る
[配布図4;岩波 図 3.3]
上の方から見てゆこう。太陽から来る光のエネルギーは 1.8 x 1017 W と
大きい。これが大気と海洋の運動のエネルギー源になる。
地球の内部からは熱が出て行っている。これが地球の内部の活動のエネルギー源になる。
こういうエネルギーがあるために、マントルやコアでは対流が起こっている。
このエネルギーの中身は、ここでは詳しくは言わない。
[配布図5,6]:エネルギーの中身
だが、2つ重要なエネルギー源があると覚えておくこと。 ひとつは原子核エネルギーで、これは原子核がα崩壊とかβ崩壊とかを起こして 変化してゆくときに熱を出すというものである。具体的には U, Th が何段階も 経て Pb に変わっていったり、40K が 40Ar に 変わってゆくのが代表的である。 もうひとつは、内部エネルギーで、これは何かというと、 もともとは地球ができるときに衝突を繰り返しているうちに熱くなった 余熱がまだ残っているもので、その熱が出ていって 地球が冷えてゆくというものだ。
あと、重力エネルギーは、もし地球の中で重いものが下に溜まって行っている ならば重力エネルギーが解放されて熱になる、というものだが、 そういうことが起こっているかどうかはわかっていない。
[配布図3]:流れの大きさの概要
そういうエネルギーに応じて、図のような大きさの流れができる。
大気や海洋は、エネルギーが大きいので速く流れる。地球内部は、それよりも
エネルギーが小さいので流れが遅い。同じ地球内部でも、マントルと内核は固体なので、
流れがずっと遅い。固体が流れるというと不思議かもしれないが、氷河などで実際われわれは
見ている。固体は、原子の並び方や結晶粒子の並び方がゆっくり変わることで流れる。
この図 (GPS) は、現在地面がどういうふうに動いているかを示している。今や こんなことがわかっちゃうんだからおそろしい(これはここ 20 年くらいの話)。 ただし、長期間平均がどうなっているかはこれではわからない。それは別の間接的な 方法で行われている(NUVEL-1 の図)。
ところで皆さん GPS って何か知っていますか?[聞いてみる] これは Global Positioning System の略で、カーナビで使われている技術。 もともとの目的はカーナビではなくて、軍事技術である。 でも、地球科学にも革命をもたらした。世の中、恐ろしいと思うのは、 カーナビにも科学にも便利に使われているものが、もともとは軍事技術だということ。 軍事に関係ある研究はしません、とは言えない。
見て欲しいのは、これでは良くわからないかもしれないが、 境界線で囲った中は、全体として硬い板(球面の一部)として動いている、 ということ。これがプレートというものである。地球は十数枚程度の プレートで覆われている。「プレート」は「一枚岩」という意味で、 全体が一緒に一枚岩として動いている。それを剛体的な運動という言い方をする ときもある。その意味は、そのプレートの内部では2点間の距離が変わらない ということである。プレートの境界でのみプレートが生成し消滅する。 もちろん厳密に言えば剛体ではない。それは、プレートの端近くにいる日本にいれば わかることだ(断層運動などを考えよう)。
あと見て欲しいのは、流れの大きさで、数 cm/yr くらい。ということは、1億年で 数千キロである。
プレートが生成消滅すると言ったが、これは具体的にはどういうこと何だろうか?
ところで、この講義はビッグバンから始まって、できるだけ因果関係をもって物事を 説明していこうとしてきた。が、このあたりで破綻する。マントル対流があるのは 必然としても、それがプレート運動という形を取るのが必然かどうかは今でもあまり わかっているとはいえない。それは金星と比べればわかる。 金星は地球と似ているから、マントル対流はあるだろう。 でも、金星にはプレート運動はない。why?よくわからない。 もちろんある程度の説明はあって、そういう議論は面白いのだが、 詳細に入りすぎるので省略しよう。
マントル対流は、プレート運動を支えている。マントル対流の速度もプレート運動と 同じくらいだとすると、数億年で1周する。
マントル対流が地球の中で具体的にどうなっているかも興味深い話題だ。なかなか これは直接見ることはできないが、地震波を使って地震波の速度分布からある程度 推定できる。高温のところは地震波が遅く、低温のところは速いという性質があるので それから推測する。
地球は、北極を S 極、南極を N 極とする磁石になっている。 この原因は何か?過去にはいろいろな説があったが、現在では外核での液体鉄の 流れであるという以外の説は生き残っていない。
たとえば、地球の内部が大きい磁石になっているという説があった。これは 次の2つの理由で間違いであることがわかる。
ただし、上の話は、そのような流れが作られうるということを述べているだけで、 本当に外核の中で中でどういう流れが現にあるかは、地球磁場の空間分布や 時間変化から推測する。しかし、本当のことはよくわかっていない。 これは私の専門分野である。
もうひとつ私の専門分野として、内核の中の流れというのもある。私は おそらく内核の中にも流れがあるのだと思っており、それは地震波の観測から ある程度証拠付けられるのだが、詳細はオタクになるので省略する。
そこで、コリオリ力は、北半球では進行方向に右向きにはたらく。 そして、大規模な流れの基本は地衡風になる。
[地衡風の図 : 黒板に描く]圧力勾配とコリオリ力が釣り合うように流れが出来る。これが 天気図(とくに高層天気図)を見るときの基本。
高気圧を右手に見て進む!コリオリ力のために水平対流は基本的にはなくなる。 ただし、赤道付近はコリオリ力が小さいので、水平対流的になる。 中緯度付近はそうではない。基本的には西風になる。これを説明する。
[温度風の図 : 黒板に描く]図より、上空で基本的に西風(いわゆるジェット気流)が吹くことがわかる。 これが大規模な大気の流れの基本である(Q&A4-4-1 の言葉で言えば「差動回転」)。
[配布 : 大気大循環の図]
(1 kg/m3)×(106m)×(4×107m 赤道一周) × w = 100×109 kg s-1くらいだから、
w = 2.5×10-3 m/s 〜 3 mm/sという程度。 <ふつうの低気圧に伴う上昇は数 cm/s。これは平均だからもっと小さい>
まず、海の特徴は、基本的に上から暖められているので、熱対流が起こ りにくいということだ。もう一つの特徴は、岸があるということだ。
[配布物1:世界の海流]
そこで、表面付近で起こる流れは、基本的には、風が駆動するものである
(風成循環)。詳しいことは省略するが、基本は、北半球では南向きに流れが
できることである。その反流として西岸に太平洋では黒潮、大西洋では
メキシコ湾流ができる。基本は南向きで、北向きに流れられるのは西岸しかないので、
西岸に強い北向きの流れが出来るという仕組みだ(詳細略)。
[配布物2:深層循環]
一方で、深いところの流れはこれとは違う。大西洋の南北の極の近く
(グリーンランド沖とウエェッデル海)で、
氷が出来る。氷の中には塩分が入りにくいので、氷ができるとそこの海が塩辛くなる。
それで、水が重くなる。また、寒いのでやはり水が重くなる。それで、大西洋の
南北で重くなった水が海底に沈んで、それが全世界に回るというのが基本的な描像。
このように、塩分と熱の両方の影響で起こる対流を熱塩循環という。
この循環は気候を決定づけるのに重要だと考えられており、映画
「The Day After Tomorrow」の初めの方で主人公が説明をする場面でも使われている。
[時間があれば、映画(DVD)のその部分を見る]
以上、地球のいろいろな場所でそれぞれ独特の流れが出来ているのが面白いところ。