第 3 章 地球と惑星の形と構造

最終更新日:2006/05/22
参考書
岩波講座地球惑星科学1 地球惑星科学入門
岩波講座地球惑星科学12 比較惑星学

3-1 固体地球の形成、組成、構造

地球は岩石成分元素だけで作られた(氷成分やガス成分も少しはあるけれど、 主体は岩石成分である)。
MgO : SiO2 : FeO 〜 1 : 1 : 1 (個数比)
そこで、地球はそういう割合の石でできているかというと、そうでもない。

[黒板に図を描く:地球の断面図]
現実の地球は、コアとマントルの2層構造になっている。 全体の半径は 6400 km、コアの半径は 3500 km である。これは 地震波の伝わり方を調べることによって明らかにされたものである。 ちなみに地球の1周が 40000 km であるというのが、もともとのメートル法の 定義である。

マントルは石でできている。

コアは、金属鉄でできている。つまり、地球ができるとき、鉄はそれほど 酸化されていなかった。鉄はそれほど酸化されやすくない。たとえば、 惑星ができつつあるときの大気に原始太陽系成分のガス成分がかなり多ければ、 まわりは水素だらけという状況になる。そういう状況ならば、鉄は酸化されていなくて良い。

[黒板にイメージ図を描きながら]
そうすると地球のでき方として予想されるシナリオは以下の通り。 原始地球にどんどん石が降ってくる。そのうち、降ってきたときの衝突のエネルギーで 地表が暖まって地表が融けるようになる。これをマグマオーシャンという。 マグマオーシャンでは、鉄成分と石成分(マグマ)が水と油のように混ざらない。 そうすると、重い鉄は下に落ちてゆく。マグマオーシャンの深さをどう考えるかで その後のシナリオはいろいろ考えられるが、ともかく重い鉄は中心に沈んでコアを作った。 ともかくそういうふうにして地球の大構造ができた。

マントルを構成する元素で主要なものは、そうすると

MgO : SiO2 = 1 : 1
である。実際、マントルの主要構成鉱物は MgSiO3 の組成を持つ。

ところで、ことばの説明をしておこう。[岩石、鉱物:違いを知っているか学生に尋ねる]

「岩石」とは、要するに石のこと。岩石は良く見ると(目で見えることもあるし、見えないこともある)、 いろいろな粒からできている。粒のひとつひとつは、化学組成がだいたい一定で結晶になっている。
結晶というのは、原子が整然と並んだ固体だ。そういう粒を「鉱物」という。

MgSiO3という鉱物はの名前はひとことでは言えない。というのは、圧力によって、原子の並び方 (結晶構造)が変わるからだ。地表付近では輝石(pyroxene)という。もう少し圧力が高くなると 柘榴石(garnet)になる。もっと圧力が高くなると silicate perovskite(珪酸塩ペロブスカイト) になる。詳細は省略する。マントルの主要な鉱物はこれである(本当はこれは言いすぎだが、 地球科学に進まない人には、石の名前は嫌われるし不必要なので、これ以上説明しない)。

コアは、よりちゃんと見ると、液体の外核と固体の内核からできている。 地球の中心は温度が高いが、圧力も高いので、内側が固体、外側が液体になっている。 固体のコアは、地球が冷えてくるにしたがって液体から結晶化してきたものだろう (地球の冷却については、これ以上言わないが、私の専門分野の一つ)。

これが地球内部の大構造だが、地表付近は構造が複雑になっていて、地殻という薄皮ができている。 厚さは場所によって異なり、6-60 km くらい。どうしてこんなものができるかは、 プレートテクトニクスを抜きにしては語れないので、そのときに議論しよう。

3-2 地球の大気の組成と形成

大気は薄い(〜10km:何をもって厚さと言うかにも依る)が、 無視できるとはいえない。 われわれがそのなかで暮らしているからだ。

[配布表「地球大気の基礎データ:地球大気の元素組成」]
まず、地球大気の組成から見てゆこう(重量比)。 これは非常に変な大気である。そのあたりを考えてゆこう。

(1) 奇妙さその1:原始太陽系星雲のガスとはだいぶん違う

木星や土星には、原始太陽系星雲にあったガス成分(H2, He)が 大量にある。 地球にもちょっとは残っていて良さそうなものだが、実はなくなっている(注1)。 H2, He は軽いので逃げたということもできるが、 Ne, Ar が少ないのが特徴(注2)。

(注1)なくなる原因には、原始太陽系星雲ガスの散逸と、衝突による 原始大気の散逸がある。前者の原始太陽系星雲ガスの散逸メカニズムは よくわかっていない。後者の原始惑星がトラップしていたはずの星雲ガスの 散逸については Genda and Abe (2005) Nature 433 842-844, doi:10.1038/nature03360 の研究がある。

(注2)Ar の量は 36Ar で見なければならない。 それは 40Ar は 40K から崩壊してくる分があるせいである。 地球では 40Ar が 99.6 % を占め、36Ar が 0.337 % に過ぎない(理科年表)。したがって、大気中では 36Ar は 31 ppm である。質量に直すと、36Ar は、地球には 2.06 × 1014 kg しかなく(地球大気質量 × 31 ppm だと 少し合わないがそのままにしておく。この数字の元は Genda and Abe (2005))、 金星には 1.0 × 1016 kg もある。Genda and Abe (2005) では、 これを地球には海があったから衝撃波の伝達効率が高くて hydrodynamic escape しやすかったためだと説明している。

したがって、大気は原始太陽系星雲のガスが元になったのではなくて、 少なくとも C, N, O などの元素は固体成分中に取り込まれていたものが 脱ガス(ガス成分が出てくること)してできたと考えられている。 希ガスが少ないのは、それで納得できる。なぜかというと、 希ガスは反応性が少ないので、固体成分中にはもともと入りにくいからだ。

(2) 奇妙さその2:C, N, O から自然にできる大気ではない

仮に solar abundance の C, N, O から大気を作るとすると、量が O > C > N なので、

CO2
N2 (NO2 よりも安定)
の大気ができて良さそうである。実際、金星や火星はそういう大気である。

比較:金星と火星の大気 [比較惑星学 第 4 章 表 4.5 その元は Fegley, 1995]

金星火星
CO296.5 %95.3 %
N23.5 %2.7 %
Ar70 ppm1.6 %
地球大気が今あるようになっているのは、海の存在と生命の存在が関係している。 CO2 は海に溶けて、炭酸塩になるので、現在の大気中にはあまり 存在しない。O2 は生物が作っている。 N2 は生物がいなければ、
2 N2 + 5 O2 + 2 H2O → 4 HNO3(aq)
によって硝酸という形で海に溶けているのが平衡状態から言えば自然である。 ただし、N2 は極めて安定な化合物なので、こういう反応はすぐには 起らない。(Lovelock の「ガイア」による。私はそのさらに元があるかどうかを 確認していない)。

というわけで、地球大気がどうして今あるような状態なのかを説明するのは そう簡単ではない。後で第 5 章、第 6 章で触れることにする予定。このことは、 「ガイア」「地球と生命の共進化」「地球環境問題」などと深く関連する。 たとえば CO2 がなぜ地球大気に少ないのか、が良くわかっていないと、 CO2 問題はよくわからない。海の役割の評価は今でも難しく、だから CO2 問題はいまだに解決できない。

3-3 地球の大気の構造

[配布図「地球大気の基礎データ:温度の鉛直分布」]
大気の構造というときは、まず温度と圧力の分布が基本である。

まず、圧力について。大気は、基本的には自分より上にある空気の圧力を支えている。 力のつりあい:

(圧力)×(面積)=(自分より上にある空気の重さ)
なお、(重さ)=(質量)×(重力加速度)である。 だから、下ほど圧力が高い。そのために下ほど空気が潰れていて密度が高い。 圧力は高さとともに指数関数的に減少する。それは下ほど空気が潰れている分重いから (もちろんこれは数式で言えるが、省略:図から 20 km あたり、圧力が 約 20 倍になっていることを確認する)。

次に、温度について。これは結構変てこりんな分布だ。温度が高い場所が3箇所ある。 これがどうして出来ているかをおさえるのがポイント。温度が高いということは 何かで加熱されていることを意味する。そうでなければ、周りに赤外線を放射して 冷えてしまう(以下の「参考」の部分を見よ)。他の部分は、そこから熱が 伝わっている(それについて詳しいことは省略する)。この温度分布によって、 大気が、対流圏、成層圏、中間圏、熱圏と分類されている。

下から考える。一番下(地表)がけっこう温度が高い。なぜだろう?[学生に聞いてみる] 基本的には地表は太陽の光が暖めている。太陽に近い上のほうが暖かくてよいような 気がするが、大気は太陽の光をあまり吸収できない (これは、大気を構成する化学種、大気の厚さ、大気の温度などに依存するが、 詳細は省略する)。これに対し、地面は太陽の光を吸収できる。 そもそも、大気を通して太陽が見えるということは、大気が太陽の光を吸収して いないことを意味する。そこで、太陽の光は直接に地面に降り注ぐというわけだ。

次に、成層圏界面も温度が高い。ここはオゾンが紫外線を吸収するために加熱される。 さきに大気が太陽の光を吸収しないと言ったが、それは可視光の話で、紫外線は ここで吸収される。そのために、地表には生命にとって有害な紫外線が来ない。 地球環境問題のオゾンホール問題もここから発生している。

さらに、超高層の熱圏も温度が高い。ここは、窒素や酸素が光電離によって紫外線を 吸収することによって加熱されている。温度は 〜1000 K になる (ただし、太陽活動によって温度は大きく変わる)。なぜ温度がこんなに高くなるかというと、 大気が非常に薄いので、熱容量が小さく、ちょっとの加熱で大きく温度が上がるからである。

参考:以下のQ&A

3-4 地球以外の惑星たち

参考書
松井孝典「惑星科学入門」(講談社学術文庫)[余談:松井理論とは?]
別冊日経サイエンス「驚異の太陽系ワールド 火星とその仲間たち」(日経サイエンス社)
Newton 別冊「太陽系グランドツアー」… Newton 別冊はたくさん出ているので、 これに限る必要はない。美しい図や写真を鑑賞するための本。
惑星の内部構造の概要 [配布図:Newton 別冊より 太陽系にある惑星とその組成]

地球型惑星 内部構造は、地球と大体同じ(マントル+コアの2層構造)
大気は、水星はほとんど無し(問 3-4-1 参照)、 金星・火星は二酸化炭素+窒素(ただし、金星は 92 気圧、火星は 0.006 気圧)
木星、土星 内部構造は、コア(岩石成分)+分厚い外層(H2 + He + 氷成分(溶けている))
天王星、海王星 内部構造は、岩石成分コア+分厚い氷層+あまり厚くない外層(H2 + He)

上の構造がどうしてできたのかを太陽系形成論の立場から復習してみよう。

参考:内部構造を決定する上で重要な量

上のような内部構造を決定するための材料としては、 質量(平均密度)や慣性モーメントの観測が用いられる。
平均密度=(質量)/(体積) ; [質量をどうやって知るかを学生に聞いてみる]
質量は、衛星の公転周期からわかる
遠心力=万有引力
m r ω2 = G M m / r2
ω = 2 π / T
密度は(岩石成分)>(氷成分)>(ガス成分)なので、 これだけから惑星が主としてどういう成分からできているか想像がつく。
慣性モーメント = ∫ρr2 dV
人工衛星の軌道の変化から決める。慣性モーメントは、 質量が中心に集まっているほど大きさが小さくなる。
惑星が(岩石成分)+(氷成分)+(ガス成分)の3層構造だとすると、 この2つの量がわかると、それら3成分の量比がわかる(量比は未知数2つ)。

3-5 「はやぶさ」による小惑星イトカワ探査

惑星科学の最近の話題として、日本が打ち上げた「はやぶさ (MUSES-C)」による 小惑星イトカワ探査を取り上げたい。 まずは、JAXA ホームページによる写真ショー [hayabusa-instruments.gif 搭載機器図, hayabusa-orbit.gif はやぶさの軌道, itokawa-rotation.jpg, itokawa-rotation.wmp イトカワの回転, itokawa-topography-name.jpg イトカワの地形]。 なお、はやぶさ関係のホームページは

ニュースで報じられている通り、 昨年 2005 年 11 月に小惑星イトカワに着陸した。 いろいろ失敗した部分もあるが、成功した部分もある。 とくにエンジンの故障があり、地球に無事帰り着けるかどうかが問題だが、 2010 年の帰還をめざしている。成功を祈りたい。技術的には 新しいことにいろいろ挑戦しているし、これまでの日本の惑星探査の遅れも 考えると、失敗した部分もあるものの、全体としては大成功といえるのでは ないだろうか。先週の学会で聴いてきたことも含めて、科学的な背景を説明したい。

「はやぶさ」の最大の目的は「サンプルリターン」であった。これは、 地球外の物質を人手に頼らず持ってこようとする世界初の試みであった。 これ自体は、あまりうまく行っていない。が、イトカワのかけらを拾っている 可能性はまだ少し残っているので、回収をめざしている。

それはそれとして、ここでは、なぜそういうことをしたいのか、ということを 説明したい。まず、隕石、小惑星、彗星とはそれぞれ何かを説明しておこう (学生に聞いてみる)。太陽系にある小天体(惑星より小さくて、衛星や環で ないもの)が小惑星や彗星で、それが地球に落ちてきたら隕石と呼ばれる。

おおざっぱに言って、太陽系にある固体は「岩石」と「氷」である。 小惑星は「岩石」で、彗星は「岩石」+「氷」であると言って良い。 太陽系の形成の話から推測できる通り、小惑星帯よりも内側で出来ると 小惑星に、木星よりも外側で出来ると彗星になると考えられる。 彗星も、太陽に何度か近づいて氷成分が蒸発してしまうと小惑星になる。 こういったものが落ちてくると隕石になる。ただし、氷は落ちてくると 蒸発してなくなるので、落ちてきたものは「岩石」でしかありえない。

さて、だんだん話が細かくなってくるが、隕石のさらに細かい分類を 知っておかないと、イトカワ探査の意義が分からない。隕石は大きく分けて 2種類ある。元の小惑星が、いったん融けて地球と同様のコアとマントルに 分かれたものと、融けていないものである。

地球に落ちてくる隕石の多くはコンドライトである。 太陽系の原始的な性質は、コンドライトの中に保存されている。

さて、そのコンドライトは、さらに3種類に分かれる。その分類の基準は Fe の酸化状態である。Fe は、たとえば Mg ほど酸化されやすくもなく、 Au ほど酸化されにくくもない。ちょうど微妙で、水素が多い状況(還元的環境)では Fe (金属) とか FeS になる。一方、酸素が多いと FeO, Fe2O3 などの酸化物になる(石の中に入る)。そこで、Fe が Fe or FeS になっているか 酸化鉄になっているかで、隕石が分類できる。

このうち、地球に落ちてくる隕石では O コンドライトが最も多い。

一方で、小惑星は、色(正しくはスペクトル)によって分類されている。 これは細かい分類があっていろいろ面倒なのだが、大きく言って重要なのは S 型と C 型である。C 型は黒っぽくて小惑星の中で最も多い。小惑星帯の 外側に多い。C コンドライトに対応すると考えられている。 これに対し S 型は赤っぽくて小惑星帯の内側に多い。数からすると O コンドライトであってほしいのだが、色が少し違う。これが、 なぜかというのが問題になっていた。それを解明するのが「はやぶさ」の 科学的には最も大きな目的で、結論から言えば、やっぱり S 型小惑星は O コンドライトに対応すると考えて良いという方向に 向かいつつある。

主目的のサンプルリターンができたかどうかは 2010 年にならないと わからないが、その他にも、カメラ、レーザー高度計、蛍光X線分光器、 近赤外線分光器を搭載しており、これらはおおむねうまくデータを送ってきている。 それによって、今説明した謎が解かれつつある。 とくに、蛍光X線と近赤外線で、ある程度元素や成分がわかる。 それによれば、イトカワは O コンドライト的であることがわかる。 ただ、それだけでは観測上の制約が大きくて決定的なことが言えない。 小惑星のかけらでも実際に回収できれば本当に確かめられるであろう。

一方で、室内実験により、石を宇宙環境においておくと赤っぽくなる ことがわかってきており(宇宙風化)、変色してくる原因も解明されている。