第 4 章 地球ダイナミクス

最終更新日:2006/06/12
だいたい地球や惑星の構造がわかったところで、今度は、地球で起こっている動的な 現象について概観してみよう。

参考書

岩波講座地球惑星科学2 「地球システム科学」
第3章「地球システムにおける対流とエネルギーの流れ」 by S.Y.
岩波講座地球惑星科学10 「地球内部ダイナミクス」
本章は、上記 S.Y. 本のダイジェスト+αである。

4-1 地球における対流とその役割

地球においては、コア、マントル、大気、海洋のいずれでも流れが起こっている。 流れも大規模なものから小規模なものまでさまざまだ (1-4 で言ったように、いろいろなスケールでものごとが起こっていることを 認識することが大切だ)。本章では、そのうちの地球規模の流れについて概観していく。

地球の流れは、直接あるいは間接に熱が原因(浮力が原因)で起こっている 場合が多い。そこで、熱が原因でどういう流れが起こるのかを簡単に考えてみて、 それでイメージをつかんでほしい(数学的にちゃんと扱おうとすると、 学部3、4年レベル)。その熱がどういうものかは、4-2 でもう少しちゃんと話す。

熱が直接的な原因で起こる流れを熱対流と言う。熱対流の起こり方を大きく2つに分ける。
(1) 水平対流
(2) 鉛直対流

  1. 「水平対流」はたとえば地面に水平方向に温度差ができた時に起こる
    [図を描く]
    暖かいところは、軽くなる(密度が低くなる)ので、上昇する。 そうすると、冷たいところは押し出されるのと、重くなる(密度が高くなる)ので、下降する。
    例:海陸風
  2. 「鉛直対流」は上下方向に温度差ができた時に起こる
    [配布図1]
    いったん上昇域ができると、そこは下で暖められて暖かくなり、 軽くなるので、上昇が持続する。
    いったん下降域ができると、そこは上で冷やされ冷たくなり、 重くなるので、下降が持続する。
    重要なこと
    (a) 熱と力学が結合している
    (b) 熱が下から上へと運ばれている(下でもらった熱を上で捨てる)
    例:積乱雲

[配布図2]:エネルギーの流れ
熱は下から上へ運ばれる。
途中で一部が力学的エネルギーになり、内部摩擦でふたたび熱に戻る

4-2 地球のエネルギー収支

エネルギーが保存するというのが物理学の基本法則だから、エネルギーの 流転を見てゆくことで地球で起こっている活動の結び付きをとらえるという ことがしばしば行われる。エネルギーはさまざまの運動の源であるという 言い方もできる。地球の中でいえば、マントル対流とか地球磁場生成など であり、地球表層では、大気や海洋の運動である。 そのエネルギー源と大きさを見てゆこう。

[配布図4;岩波 図 3.3]
上の方から見てゆこう。太陽から来る光のエネルギーは 1.8 x 1017 W と 大きい。これが大気と海洋の運動のエネルギー源になる。 地球の内部からは熱が出て行っている。これが地球の内部の活動のエネルギー源になる。 こういうエネルギーがあるために、マントルやコアでは対流が起こっている。 このエネルギーの中身は、ここでは詳しくは言わない。
[配布図5,6]:エネルギーの中身

だが、2つ重要なエネルギー源があると覚えておくこと。 ひとつは原子核エネルギーで、これは原子核がα崩壊とかβ崩壊とかを起こして 変化してゆくときに熱を出すというものである。具体的には U, Th が何段階も 経て Pb に変わっていったり、40K が 40Ar に 変わってゆくのが代表的である。 もうひとつは、内部エネルギーで、これは何かというと、 もともとは地球ができるときに衝突を繰り返しているうちに熱くなった 余熱がまだ残っているもので、その熱が出ていって 地球が冷えてゆくというものだ。

あと、重力エネルギーは、もし地球の中で重いものが下に溜まって行っている ならば重力エネルギーが解放されて熱になる、というものだが、 そういうことが起こっているかどうかはわかっていない。

[配布図3]:流れの大きさの概要
そういうエネルギーに応じて、図のような大きさの流れができる。 大気や海洋は、エネルギーが大きいので速く流れる。地球内部は、それよりも エネルギーが小さいので流れが遅い。同じ地球内部でも、マントルと内核は固体なので、 流れがずっと遅い。固体が流れるというと不思議かもしれないが、氷河などで実際われわれは 見ている。固体は、原子の並び方や結晶粒子の並び方がゆっくり変わることで流れる。

4-3 地球のマントルの流れとプレートテクトニクス

マントルは固体ながらも流動している。それの何よりの証拠はプレート運動である。 プレート運動の説明は、今の時代あまり面倒なことを言わなくて良い。 世界中で大地の微小な動きを衛星を使うとか(GPS)天体観測を使うとか(VLBI)して、 直接的に測定することができる。

配布図1:プレート運動の図
GPS : global.gif
source : JPL web : GPS Time Series
配布図2:プレート運動の図 (NUVEL1)
source : 岩波講座 地球惑星科学10「地球ダイナミクス」第1章(玉木賢策)図1.4
参考:プレート運動の図 (講義では用いない)
GPS : global_nnr.gif
NUVEL-1 : nuvel1a_nnr_itrf.gif
source : UNAVCO Facility Science Product Support : プレート運動
参考:プレートテクトニクス講義 pdf (講義では用いない)
plate_tectonics_2.pdf
source : lecture by Eric Calais : current plate motions

この図 (GPS) は、現在地面がどういうふうに動いているかを示している。今や こんなことがわかっちゃうんだからおそろしい(これはここ 20 年くらいの話)。 ただし、長期間平均がどうなっているかはこれではわからない。それは別の間接的な 方法で行われている(NUVEL-1 の図)。

ところで皆さん GPS って何か知っていますか?[聞いてみる] これは Global Positioning System の略で、カーナビで使われている技術。 もともとの目的はカーナビではなくて、軍事技術である。 でも、地球科学にも革命をもたらした。世の中、恐ろしいと思うのは、 カーナビにも科学にも便利に使われているものが、もともとは軍事技術だということ。 軍事に関係ある研究はしません、とは言えない。

見て欲しいのは、これでは良くわからないかもしれないが、 境界線で囲った中は、全体として硬い板(球面の一部)として動いている、 ということ。これがプレートというものである。地球は十数枚程度の プレートで覆われている。「プレート」は「一枚岩」という意味で、 全体が一緒に一枚岩として動いている。それを剛体的な運動という言い方をする ときもある。その意味は、そのプレートの内部では2点間の距離が変わらない ということである。プレートの境界でのみプレートが生成し消滅する。 もちろん厳密に言えば剛体ではない。それは、プレートの端近くにいる日本にいれば わかることだ(断層運動などを考えよう)。

あと見て欲しいのは、流れの大きさで、数 cm/yr くらい。ということは、1億年で 数千キロである。

プレートが生成消滅すると言ったが、これは具体的にはどういうこと何だろうか?

配布図3:プレート運動の模式図
source : 高等学校「地学II」(啓林館)(2003 : 平成17年度用)
参考:プレート境界の図 (講義では用いない)
plate-USGS.htm
source : USGS web : Illustration of the Main Types of Plate Boundaries
海底地形図
global_topo_large.gif
source: NOAA Bathymetry, Topography and Relief からたどって Global Seafloor Topography に来て 海底地形図 を得る
  1. プレートと地殻の生成:海底の地形を見ると、火山列が並んだ海嶺がある。 ここでは、地殻が生成されて、プレートはその両側に広がっている。 ただし、マントル対流の上昇域であるとは限らない。
  2. プレートの沈み込み:海底の地形を見ると、へこんだ溝(海溝)がある。 ここでは、プレートがマントルの中に突っ込んでいる。突っ込むときの 摩擦によって海溝型の地震が起こる。日本もそういう場所にあり、 だからこそ地震と火山の国になっている。
このような形で生成消滅が起こっている。

生成消滅の場所が海ばかりである点が疑問になるかもしれない。 大陸で生成は起こらないのだろうか?実は起こることもある。その現在の例は 紅海とアフリカの大地溝帯である。大地溝帯はプレートが裂け始めている場所だと 考えられている。裂けてしまうと、そこはプレートが薄くなるので海が入ってきて 紅海のようになる。つまり、大陸で生成が起こり始めてもやがてそこは海になる。 では、大陸がマントルに沈み込むことは無いのだろうか?大陸は軽いので、 そのまま沈むことはまずないと考えられている。通常は大陸の端の海側で沈み込み が起こる。陸と陸がぶつかってしまう例がヒマラヤである。陸と陸がぶつかると どちらもなかなか沈めないので、両側から圧縮されてそこに高い山が できることになる。

ところで、この講義はビッグバンから始まって、できるだけ因果関係をもって物事を 説明していこうとしてきた。が、このあたりで破綻する。マントル対流があるのは 必然としても、それがプレート運動という形を取るのが必然かどうかは今でもあまり わかっているとはいえない。それは金星と比べればわかる。 金星は地球と似ているから、マントル対流はあるだろう。 でも、金星にはプレート運動はない。why?よくわからない。 もちろんある程度の説明はあって、そういう議論は面白いのだが、 詳細に入りすぎるので省略しよう。

マントル対流は、プレート運動を支えている。マントル対流の速度もプレート運動と 同じくらいだとすると、数億年で1周する。

マントル対流が地球の中で具体的にどうなっているかも興味深い話題だ。なかなか これは直接見ることはできないが、地震波を使って地震波の速度分布からある程度 推定できる。高温のところは地震波が遅く、低温のところは速いという性質があるので それから推測する。

地震波トモグラフィーの図
saw12d_um.gif, saw12d_lm.gif
source : Whole mantle shear velocity model SAW12D at UC Berkeley

4-4 地球のコアの流れと地球磁場生成

今度は、地球のコアを考えてみる。このうちの外核は液体で、そこにも流れがある。 そこに流れがあることは、地球の磁場を見ているとわかる。

地球は、北極を S 極、南極を N 極とする磁石になっている。 この原因は何か?過去にはいろいろな説があったが、現在では外核での液体鉄の 流れであるという以外の説は生き残っていない。

たとえば、地球の内部が大きい磁石になっているという説があった。これは 次の2つの理由で間違いであることがわかる。

  1. 磁石は、ある程度以上高温になると磁石でなくなる。高圧でも磁石でなくなる。 外核くらいの高温高圧の世界では、磁石が存在できるとは考えられない。
  2. 磁場はゆっくり変動している。たとえば、現在名古屋あたりでは、 方位磁石の指す北は、真北から 7 度くらい西にずれている。このずれの量は 時代によってゆっくり変化する。さらに、数十万年に一回、磁場の北と南が ひっくり返る(磁場の逆転)。このような変化は磁石では説明できない。
そこで、液体鉄の流れによって地球磁場ができるということが本当かどうかを 調べる研究が昔から行われている。最近ではコンピュータシミュレーションによって そのような磁場の作られ方が研究されている。その例が以下の図である。こういった 研究により、地球磁場が液体鉄の流れによって出来ていることや、それによって 逆転が起きうることが確立した。
MHD ダイナモ計算例 [389371ac.eps.2.gif]
左:磁場の軸対称成分、右:速度場の軸対称成分
上:Kuang-Bloxham、中:Glatzmaier-Roberts、下:Kuang-Bloxham with no-slip BC
source : Kuang and Bloxham (1997) Nature 389, 371-374, doi:10.1038/38712
MHD ダイナモ計算例 movie
1111831s1.mov : 逆転の例
1111831s2.mov : Ekman 数が大きい場合の例 (講義では使わない)
source : Takahashi, Matsushima and Honkura (2005) Science 309, 459-461, doi:10.1126/science.1111831

ただし、上の話は、そのような流れが作られうるということを述べているだけで、 本当に外核の中で中でどういう流れが現にあるかは、地球磁場の空間分布や 時間変化から推測する。しかし、本当のことはよくわかっていない。 これは私の専門分野である。

もうひとつ私の専門分野として、内核の中の流れというのもある。私は おそらく内核の中にも流れがあるのだと思っており、それは地震波の観測から ある程度証拠付けられるのだが、詳細はオタクになるので省略する。

参考:以下のQ&A

4-5 地球大気の流れ

地球大気の大規模な流れに関して決定的な要因は2つある(ほんとうはもう少しあるが)。
  1. 流れの原動力は、赤道付近がたくさん暖まって、極付近があまり暖まらないという ことによる「水平対流」である。
  2. 自転によるコリオリ力の影響が大きい。
コリオリ力の実験 : 直線運動する振り子を回転系から見るとどうなるか?
vpd4.avi 回転系の外から見た実験の様子
vpd2.avi 回転系から見た振り子
自分でも紙を回しながら鉛筆を前後にまっすぐ動かしてみるとわかる
source : 地球流体電脳倶楽部 : 京大実験 (フーコーの振り子)

そこで、コリオリ力は、北半球では進行方向に右向きにはたらく。 そして、大規模な流れの基本は地衡風になる。

[地衡風の図 : 黒板に描く]
圧力勾配とコリオリ力が釣り合うように流れが出来る。これが 天気図(とくに高層天気図)を見るときの基本。
高気圧を右手に見て進む!
コリオリ力のために水平対流は基本的にはなくなる。 ただし、赤道付近はコリオリ力が小さいので、水平対流的になる。 中緯度付近はそうではない。基本的には西風になる。これを説明する。
[温度風の図 : 黒板に描く]
図より、上空で基本的に西風(いわゆるジェット気流)が吹くことがわかる。 これが大規模な大気の流れの基本である(Q&A4-4-1 の言葉で言えば「差動回転」)。

[配布 : 大気大循環の図]

東西風
基本的には上空で西風。
<東風は聞かれたら答える。ハドレー循環と角運動量保存>
子午面循環
赤道付近は水平対流(ハドレー循環)
中緯度の逆向き循環は説明が面倒なので省略。
流速は、東西風よりずっと小さい。 図から、質量輸送が 100×109 kg s-1 で、 これが緯度 10 度 (1000 km くらい)くらいにわたって起こっている。 ということは、
(1 kg/m3)×(106m)×(4×107m 赤道一周) × w = 100×109 kg s-1
くらいだから、
w = 2.5×10-3 m/s 〜 3 mm/s
という程度。 <ふつうの低気圧に伴う上昇は数 cm/s。これは平均だからもっと小さい>

4-6 海洋の流れ:風成循環と熱塩循環

海は大きく表層(表面から深さ数 100 m の範囲)とその下の中深層の 2つに分かれる。それに対応して、海の流れには大きく2種類ある。 1つは表層の流れで、黒潮とかメキシコ湾流に代表されるような流れであり、 もう1つは海全体にわたる流れである。
[配布物2枚]

まず、海の特徴は、基本的に上から暖められているので、熱対流が起こ りにくいということだ。もう一つの特徴は、岸があるということだ。

[配布物1:世界の海流]
そこで、表面付近で起こる流れは、基本的には、風が駆動するものである (風成循環)。詳しいことは省略するが、基本は、北半球では南向きに流れが できることである。その反流として西岸に太平洋では黒潮、大西洋では メキシコ湾流ができる。基本は南向きで、北向きに流れられるのは西岸しかないので、 西岸に強い北向きの流れが出来るという仕組みだ(詳細略)。

[配布物2:深層循環]
一方で、深いところの流れはこれとは違う。大西洋の南北の極の近く (グリーンランド沖とウエェッデル海)で、 氷が出来る。氷の中には塩分が入りにくいので、氷ができるとそこの海が塩辛くなる。 それで、水が重くなる。また、寒いのでやはり水が重くなる。それで、大西洋の 南北で重くなった水が海底に沈んで、それが全世界に回るというのが基本的な描像。 このように、塩分と熱の両方の影響で起こる対流を熱塩循環という。 この循環は気候を決定づけるのに重要だと考えられており、映画 「The Day After Tomorrow」の初めの方で主人公が説明をする場面でも使われている。
[時間があれば、映画(DVD)のその部分を見る]

参考:なぜ北太平洋は深層循環の沈み込みにならないのか?

以上、地球のいろいろな場所でそれぞれ独特の流れが出来ているのが面白いところ。