第 2 章 宇宙と太陽系の起源―元素の輪廻

最終更新日:2008/05/19
この章全体に関係ある参考書
井田茂「惑星学が解いた宇宙の謎」(新書 y、洋泉社)
嶺重慎・小久保英一郎編「宇宙と生命の起源」(岩波ジュニア新書)
野本憲一編「元素はいかにつくられたか」(岩波講座 物理の世界)

この章全体として注目しておいて欲しいポイントは、元素の起源と行く先だ。 元素は宇宙において作られる。元素は物質を構成する基本的な要素だから、 そもそもどのような元素が地球や惑星に存在するのかということが、地球や惑星の成り立ちを 理解するための基本になる。

元素が宇宙の歴史の中でどのように巡り巡っているかを見てほしい。 元素は原子核反応で出来る。 原子核反応を起こすには高温と高圧が必要なので、できる可能性がある場所は 限られている。というのは、原子核反応が起るにはプラスの電気(電荷)を持った 原子核どうしが衝突しないといけないからだ。宇宙の中でそういう条件を 持った場所は限られる。最初に、道しるべとしてどういう元素がどういうときに できるかを簡単にまとめておく。これを道しるべに話を聞いて行って欲しい。 もう少し詳しいことは、その時々に説明する。

ビッグバンH, He, 少しの Li
恒星の中(ただし、恒星の中で作られた元素は、星風として、あるいは 超新星爆発の時に宇宙に撒き散らされる) He から Fe までの元素+Fe より重い元素の一部 (s プロセス元素)
超新星爆発Fe より重い元素を含むありとあらゆる元素

2-1 ビッグバン宇宙論

この節の参考書
杉山直「膨張宇宙とビッグバンの物理」(岩波講座 物理の世界)
ただし、これは1年生にはちょっと難しい。大学の物理をある程度勉強し、 物理学の語り口を分かっている人向け。

宇宙はビッグバンという大爆発でできた、ということは良く知られている。 最近は 137±2 億年ということまでわかっている。 そういう最近のことは私も良く知らないので、ビッグバンという考え方が でてきた歴史を見てゆこう。

1929 年、Edwin Hubble は、アメリカのウィルソン天文台で、銀河がわれわれから 遠ざかっており、遠ざかる速さは距離に比例していることを発見した。 これは、宇宙全体が一様に膨張していると考えるのが自然だ。 これは、宇宙に関するわれわれの認識に対する革命的な出来事だった。

Hubble はまず、1924 年に、アンドロメダ星雲がわれわれの銀河系の外にあることを 証明した。距離は、セファイド型変光星の明るさによって測定した (セファイド型変光星では、周期と光度の間に関係があることがわかっている)。 当時は、アンドロメダ星雲との距離が 90 万光年であると推定した(現在の推定は 230 万光年)。これに対して、私たちの銀河の直径は約 10 万光年だから、 アンドロメダ星雲は私たちの銀河の外にあるというわけだ。 (余談:Hubble は、大学卒業後、一時父親の希望もあって法律を勉強していた。 でも、やっぱり天文学をやりたくなって、25 歳のときに天文学の大学院に戻る。)

その後、いろいろな銀河の光のドップラーシフトを調べて、銀河までの距離と 銀河が遠ざかる速度が比例していることを発見した。これは、宇宙が一様に 膨張しているということだ [1次元の模式図を描いて説明]。

そうすると、昔にさかのぼってみると、最初宇宙はものすごく小さくて高密度だったと 考えるのが自然だ。そういうわけで、1946 年、George Gamov は当時最先端の 原子核物理学を駆使して、火の玉宇宙論を作った。これがビッグバン理論の 始まりである。なお、ビッグバンという名前は、定常宇宙論の親玉の Hoyle が ビッグバン理論を揶揄するために作った言葉である。皮肉なことにこれが定着した。 (余談:Hoyle は「暗黒星雲」という SF を書いたり、始祖鳥は嘘だ、と言ったり、 変わった人である。)

さて、元素の起源ということでは、その後の理論の発展により、 ビッグバンで、水素とヘリウムと少量のリチウムができたことがわかってきた。 正確に言えば、宇宙の最初(最初がいつかは問題だが、本当の初めから1秒後 くらい)には、陽子や中性子や電子などがバラバラな状態だった。陽子と中性子は、 宇宙が始まってから 3 分以内くらいまでに、ある程度くっついて、ヘリウムおよび 少量の重水素とリチウムの原子核を作った。その後、38 万年くらい経ってから、 それらの原子核と電子が結合して原子になった。その結果として、 宇宙の物質の大部分は水素とヘリウムになった。 その存在比はだいたいどこでも 10:1 で、これはビッグバンの名残である。 地球惑星科学のコンテクストでは、とりあえず、水素とヘリウムが 宇宙の始まりにできた、ということが大切である。 ほかの元素については、すぐこの後で話すように恒星の中でできた。

最初の宇宙の景色はどういうものだったかというと、けっこうのっぺらぼうだった。 これは、さっきの 38 万歳の宇宙の観測からわかっている。 現在のように銀河や星などの様々な構造ができたのは、 基本的には万有引力のためである。 万有引力の式

F = G M1 M2 / r2
を見てみよう。大事なことは、万有引力は、引力しかないということだ。 力は質量が大きいほど大きく、距離が近づくほど大きい。 すると、たとえば、密度のムラがいったんできると、そこはまわりから ものを引き付けるようになるのでますますものが集まってくる。 このようにして、銀河や星などの構造が宇宙にいろいろできたのである。

2-2 星(恒星)の輪廻と元素の起源

宇宙の進化を詳しく語るには時間もないし専門家でもないので、銀河の話などは 抜きにして、次には恒星の進化に着目してみる。というのも、ヘリウムよりも 重い元素は恒星の中で作られるからだ。恒星というのは自分で光っている星で、 一生があることがわかっている。すなわち、「死」があるということである。 万有引力の話だけだと、要するに「塊ができると集まるだけ」なのだが、 いったん集まるとほかの力も出てくるので、それでは済まなくなる。

恒星というのは、宇宙にあるガス、つまり、ほとんど水素とヘリウムが 万有引力で集まって、その中で核融合が起こって光っているものである。 その恒星の性質は質量で決まってくる。 つまり、たまたまどれだけガスが集まったか、で決まる。

質量による進化の違いを説明してゆく。 [配布図を見ながら:ニュートン 2005 年 12 月号より] [図(恒星進化の図)を描きながら]

M < 0.08 Msun褐色矮星
0.08 Msun < M < 0.45 MsunHe 白色矮星(He は燃えていないので、C, O が出来ていない)
0.45 Msun < M < 8 MsunC, O 白色矮星(C, O が出来ている)
8 Msun < M超新星、残りは中性子星、ブラックホール
注1:境目の質量はそれほど厳密ではない
注2:He 白色矮星になる星の寿命は 1000 億年以上(宇宙の年齢以上)なので、 そのような白色矮星はまだ存在しない。星の寿命については、 Q&A 「星の寿命はどのように決まるのか?」参照。

その集まった質量が 0.08 Msun 以下だと、核融合が起こらなくて恒星にならない。 核融合というのは、プラスの電気を持った原子核同士が衝突しないといけないので、 かなりの高温高圧にならないと発生しない。質量が小さいと内部が十分に 高温高圧にならず、褐色矮星(木星のような惑星と同じようなもの)になる。
参考:Q&A 「0.08 Msun 以下の星が褐色矮星なるのは どうしてわかったのか?」

それより大きい星、たとえば太陽くらいの星になると、まず水素の原子核同士が くっついてヘリウムになる。とりあえず、水素が原子の中で一番電荷が小さくて 反発力が弱く、原子核同士が近づきやすいからだ [ヘリウムを作る反応: pp chain, CNO cycle]。そのうち、ヘリウムの原子核同士がくっついて 酸素とか炭素ができるようになる [4He が3つくっつくと 12C になり、 それにさらに 4He がくっつくと 16O になる]。 太陽のような星は、やがて燃え尽きると白色矮星になる。 質量が 0.45 Msun 以下だと He が燃えずに He 白色矮星になる。 それ以上だと、C + O 白色矮星になる。

もっと大きな星(質量が 8 Msun より大きい)では、その炭素が燃え出して、 いろいろな核反応が起こり、最後は超新星爆発を起こし、 後には中性子星やブラックホールが残る。超新星爆発の時には、 (1) すでに星の中心で作られたいろいろな元素が撒き散らされると同時に、 (2) 激しい核反応で新しい元素もできる。とくに重い元素(鉄より重い元素)のある 部分 [金などの r プロセス元素] は、超新星爆発のときにできる。 ただし、これらの元素の生成機構はまだ詳細までは分かっていない点がある。

これでも本当は簡単すぎ。もっと詳しく知りたい人は、たとえば、最初に紹介した 野本編「元素はいかにつくられたか」を見られたし(ちょっと難しい。ただし、数式が多いわけではない。)。 これには、とくに8 Msun より大きな星の末路(ということはだいたい超新星爆発) の研究を中心にして、最新の研究成果を含めて書かれている。

太陽系を形作る元素は、

が混ざったものである。

2-3 太陽系の元素組成

その結果として、太陽系を作る元素の組成は 配布表「太陽系の基礎データ」のようになった。 これを solar abundance (cosmic abundance) という。 これらは太陽大気の観測と隕石とに基づくものである。 これは cosmic abundance という名前が付いているけれども 宇宙全体を代表するものではない。2-2 で述べたように、恒星の内部や 超新星爆発で重い元素が作られているために、宇宙全体の元素組成は 時間とともに重いものが増えてゆく。
参考:Q&A 「宇宙の水素とヘリウムの割合はどんどん変ってゆくのか?」

まず、H : He = 10 : 1 であることを確認する。これはビッグバンの名残である。 残りの元素は、近所の超新星爆発の名残である。先の星の進化の説明から、 これらの元素が恒星の中での核融合によってつくられやすい元素であることが わかるだろう。C, O が多いのは、星の中で He が核融合して出来る主要な元素が C, O だからである。全体的にみると、質量数(陽子と中性子の数の和)が 4の倍数になる元素が多いことにも注意しよう。これは、恒星の中の元素合成において、 4He がくっついたり離れたりすることでできる元素が多いためである。 質量数が 8 の元素は存在しないけれども、12C, 16O, 20Ne, 24Mg, 28Si, 32S と続く。 質量数が 4 の倍数でない元素で、これらの元素より存在量が多いものは、H と N だけである。14N は H から He ができるときの副産物として生成する [CNO サイクル]。

惑星科学的には、これらの元素を3種類に分けるのが便利である。

(1) ガス成分元素 H, He, Ne
H は H2 gas, He, Ne は希ガス
(2) 氷成分元素 C, N, O
水素がたくさんあると、CH4, NH3, H2O に なり、状況によって気体だったり液体だったり固体だったり (広い意味での「氷」)する。有機物を作る主要元素でもある。 酸素が多い状況では、CO2, NOx, O2 が できて、やはり気体だったり液体だったり固体だったりする。
(3) 岩石成分元素 Mg, Si, Fe
酸素がたくさんあると、MgO, SiO2, FeO やその組み合わせの 酸化物になり、それはいわゆる石である。酸素が少ないと、Fe は金属鉄になる こともある。
これらの元素の割合は (1):(2):(3) = 104 : 10 : 1 であることに 注意する。質量比であれば (1):(2):(3) = 103 : 10 : 1 である。 (これらはオーダーの話だけ i.e. 大きさの桁がどのくらいかつかんでもらうだけ)

2-4 太陽系の構成と大きさ

以上の元素の知識の元に、太陽系の構成員がどういうものからできているかを考え、 それをもとに太陽系の起源を考えてゆこう。

[板書] 太陽系の図を描く。
[配布表] 太陽系の基礎データ

太陽
太陽系の質量の 99.9% を占めている。元素組成としては、ほぼ太陽系の原料 そのものである。ただし、中心で核融合反応が起きているので、その分だけ ずれる。
地球型惑星
ほとんど「岩石成分元素」からできている。
木星、土星(木星型惑星)
「ガス成分元素」が多いが、太陽系の原料よりは「氷成分元素」と 「岩石成分元素」が多くなっている。
天王星、海王星(天王星型惑星)
「氷成分元素」が多い。「岩石成分元素」と「ガス成分元素」も そこそこある。
小惑星
「岩石成分元素」
Kuiper-Belt Objects(冥王星も仲間)
「岩石成分元素」+「氷成分元素」
参考 web page: Kuiper Belt
大きさ感覚も重要なので、長さを入れてゆく。
太陽系の大きさは、100 AU 程度。
各惑星の半径比が 太陽:木星:地球=100 : 10 : 1 くらい。
各惑星の質量比が 太陽:木星:地球=3 x 105 : 300 : 1 くらい
(太陽と木星の密度は 1.3-4 g/cm3, 地球の密度は 5.5 g/cm3: 太陽と木星はほとんど「ガス成分元素」、地球は「岩石成分元素」)。

2-5 太陽系の形成

この節の問題:2-4 で見られたような規則性がどのようにして作られたのか?

参考書

井田茂・小久保英一郎「一億個の地球」(岩波 科学ライブラリー 71)

太陽は、要するに銀河の中でガスの濃い部分が万有引力によって集まってできた。 そのほんの 1 % に満たないゴミのような部分から惑星などができた。 ゴミとはいえ、その上に私たちがいる惑星がどうやってできたかは非常に興味がある。

まず、星がどうやってできるのかを 2-2 節よりももう少し詳細に考える必要がある。 銀河の中でガスが少し濃い部分を星間雲という。いわゆる暗黒星雲である。 その中でもよりガスが濃い部分を星間雲コアという。 これが万有引力で互いに引き合って星ができてゆく。 ここで大事なのは角運動量保存則だ。 角運動量保存則は知っているかな?[学生に尋ねてみる] 角運動量保存則が言っていることは、縮むと早く回りだすということだ。 よく言われる例は、フィギュアスケーターの回転だ[図を描く]。

[図を描きながら]
最初ガスがあって、ほんの少しでも回転する成分があったとする。 縮むとその回転が強まって、遠心力が強くなる。 そこで、ガスは円盤状になってゆく。 この円盤のガスの大部分は中心に落ちて中心星になる。 ほんの少し落ち残ったものの中の岩石成分や氷成分が重力で集まって (要するに雪が降るようなもの)、惑星ができる。

最近の発展として、天文観測でこのような円盤が若い星の周りに 確認されてきているということがある。たとえば、 Hubble space telescope によって、若い星の周りに円盤が見えてきた。

Hubble 望遠鏡の写真については Hubble 望遠鏡のホームページ http://hubblesite.org/を見ると たくさん出てくる。とくに星周円盤については News Archive : Protoplanetary Disk を見よ (上記 HubbleSite から、Newscenter → News Release Archive → Star → Protoplanetary Disk とたどると出てくる)。
円盤の例

惑星の作られ方をもう少し詳しく説明しよう

参考 web page: 東京工業大学井田研究室による解説
[配布] solar_system_formation_IDA.jpg:太陽系形成の標準モデル
[見せる] NASA-protoplanets-small.mpg : 太陽系形成のイメージ (Hubble の News Archive : Protoplanetary Disk からたどれる場所に あったもの)
太陽系ができたのは約 45-46 億年前である。以下、そのときに何が 起ったかのを説明する。
  1. 原始太陽系円盤ができた。
  2. ダスト(岩石成分の微粒子;太陽から遠いところでは氷成分や有機物も含む)が 円盤の中心に集まってくる。
  3. 微惑星の形成:ダストが集まってキロメートルサイズの微惑星になる。 実は、ダストから微惑星への移行プロセスには現在でもいろいろ問題があって よくわかっていない。
  4. 微惑星がぶつかって成長し固体惑星ができる。 (このあたりの研究は先週紹介した本の井田さんや小久保さんが世界のトップを 走っている:本を参照のこと)
  5. 木星や土星は、その固体惑星が大きいので(太陽から遠いので、氷成分がある)、 重力が強くて、まわりにあったガス成分を大量にまとうようになる。 その際、いったんガスが流れ込むとガス自身の質量で重力が強くなる →ますますガスが流れ込む、という具合に暴走的にガスが増える。
  6. 天王星や海王星は十分に大きくなる前に原始太陽系星雲のガスがなくなった。 (どのようにしてなくなったかはよくわかっていない) そのため、木星や土星と違ってガス成分が少ない。
現在でも研究進行中:たとえば私のいる研究室でも

[ビデオ鑑賞] 「NHK 地球大進化」 地球と月がどうやってできたか?
参考:Q&A 「月を作った Giant Impact と 恐竜を絶滅させた衝突とではどの程度大きさが異なるのか?」

また、最近の発展として重要なこととしては、系外惑星系の発見がある。 最近、けっこう太陽以外の恒星のまわりに惑星が発見された(100個以上)。

参考 web page : California and Carnegie Planet Search
見つけ方:恒星の光のドップラー効果(惑星によって恒星も少し振り回される)
木星のように大きくて、かつ中心星にすごく近いものが多い(0.1 AU くらい)。 そのことから、私たちの太陽系がどこくらい普通なのかという疑問が出てきている。