第 6 章 炭素物語―地球史から見た地球温暖化問題と石油資源問題

最終更新日:2008/07/12
第5章までで、地球惑星科学の基礎編を終わる。これからは「ちょっと役に立つ」 応用編である。第6章が「炭素物語」で、第7章で災害科学を見て行く予定。 第6章では、地球の歴史と環境問題の関わりを取り上げてみよう。

第5章では炭素の生命を作る分子という側面を学んだ。本章では、 二酸化炭素を通じた気候のコントロール、化石燃料によるエネルギー供給という 観点で炭素を見て行く。それらの関わりを議論し、現代社会を議論する基礎としよう。

炭素は地球環境を決定づける元素である。その特徴をまとめておこう。

  1. 宇宙に(そして地球にも)ありふれた元素である(2 章)。
  2. 生命を作る元素である(5 章)。
  3. 酸化還元反応を通じて、生命が使うエネルギー源になる (光合成と呼吸:6-1 節、化石燃料:6-7 節)。
  4. 二酸化炭素やメタンの温室効果を通じて、地球の気温を変える(6-2, 6-3, 6-6 節)。
  5. 炭素循環を通じて、大気の酸素濃度を変える(6-1, 6-4 節)。

全体の構成は以下の通り。

基本編
1 炭素循環
2 温室効果
炭素と過去6億年の歴史
3 地球の CO2 と気候の歴史
4 大気の酸素濃度と生命の歴史
炭素と人間
5 気候と人間の歴史
6 地球温暖化問題
7 資源エネルギー問題(石油、バイオマス)

6-1 炭素循環

炭素が世の中をどのように巡っているか、ということを知っておくことは 基本的に重要である。

6-1-1 短期的炭素サイクル

まず一番大事なのは、生物による光合成と呼吸反応である。
CO2 + H2O ←→ CH2O + O2 (右向き矢印が光合成、左向き矢印が呼吸)
[黒板図:短期的炭素サイクル]
[配布図:短期的炭素サイクル] 通常は、このようなサイクルが定常的に回っているので、地球上の二酸化炭素や 酸素の量は急に大きく変動はしない(人間がこれを乱すことで地球温暖化問題が 発生している)。

これに関してよくある初歩的な勘違い:樹木を燃やすと CO2 が 増えるので環境に悪い。
これは、そこだけ取り出せば正しい。しかし、樹木を燃やしても、 その分植林をすれば CO2 は増えない。そこで、 樹木を燃やして燃料にするエネルギーを「バイオマス」と称して、 温暖化対策のひとつと考える人もいる。

[図:もうちょっとくわしい短期的炭素サイクル]
もうちょっと詳しく書くとこのようになる。細かいことはそんなに気にしないで良い。

6-1-2 長期的炭素サイクル

[図:長期的炭素サイクル]
上の短期的サイクルだけだと、生物量が変わらない限り、 大気中の二酸化炭素は増えも減りもしない。 地質学的スケールでは二酸化炭素は増減する。そのプロセスとして重要なものは
(1) 大気 CO2 を増やす要因
(1a) 脱ガス:火山ガスの主要成分は水蒸気と二酸化炭素
(2) 大気 CO2 を減らす要因
(2a) 風化と炭酸塩の沈殿
(2b) 有機炭素埋没

減らす要因に関して詳しく説明する

(2a) 風化と炭酸塩の沈殿
物事を単純化して考えるために、CaSiO3 という珪酸塩が風化されるとする。前に、世の中の石の代表は MgSiO3 だと言った。MgSiO3 でも良いのだが、 いろいろ紛れがあるので、CaSiO3 にする。

CaSiO3 + 2 CO2 + H2O → Ca2+ + 2 HCO3- + SiO2
これで、二酸化炭素が 2 mol 消費され、珪酸塩が水に溶けて、やがて海へ流入する。 海では、この炭酸水素イオンがやがて炭酸塩になる。
Ca2+ + 2 HCO3- → CaCO3 + CO2 + H2O
現在では、この反応は生物が殻を作ることによって行っている。たとえば、サンゴとか プランクトンである有孔虫などである。上の二つを合わせると、結局
CaSiO3 + CO2 → CaCO3 + SiO2
となり、岩石成分 1 mol の風化で二酸化炭素が 1 mol 消費されて、炭酸塩となる。

(2b) 有機炭素埋没
有機炭素を腐らせないで地中に埋めることが出来れば、短期的炭素サイクルを ちょん切って大気 CO2 を減らすことが出来る。 その有機炭素は化石燃料になりうる。そして、二酸化炭素が減って酸素が増える。 昔、20 億年前に大気中に酸素がたまり出したのも、結局こういう炭素の埋没が 起こったせいである(光合成が起きたというだけでは、酸素が増えることはない)。

最後に、人為的原因による二酸化炭素の増減で重要なプロセスは、もちろん
(1b) 化石燃料の燃焼
である。いったん埋没した有機炭素である化石燃料を燃やすと、 大気 CO2 が増えることになる。

6-1-3 堆積物中での炭素の存在形態

地面の中で炭素がどういう形でいるのかを見ておく。

[図:堆積物中での炭素の存在形態]

有機炭素:無機炭素=1:5
無機炭素の量が多いのは、(1) もともと CO2 ができやすく、 さらに、(2) その CO2 は海の中で生物が殻を作って石にするからである。 さらに、
石油:有機炭素全量=1:10000
利用できる石油(貯留岩):利用できない石油(非貯留岩)=1:240
なので、石油は希少資源である(ただし、石油が利用できるかできないかは 技術とコストとの兼ね合いなので、その境界はあいまいである)。

6-2 二酸化炭素と温室効果

温室効果の基礎を説明する。世の中で時々なされる誤解を除くためにも、 最初に概要を述べておく。すぐ後で詳しく説明するが、温室効果は、 大気が温室のように地表の温度を上げる効果である。温室効果は、 人間がいなくても存在するもので、大気に温室効果がなければ、 地表の平均気温は零下 20 度くらいになってしまう。大気に温室効果があることで、 地表の平均気温が 15 度くらいに保たれている。つまり、大気を現在のように 水が十分存在できる温度に保ってくれているのは温室効果のおかげなのである。 この節で扱うのは、主としてその問題である。これに対して、6-5 で説明する 地球温暖化問題は、人為的に放出されるガスの影響で、この温室効果が 少しだけ増えるという問題になる。つまり、大気はもともと 35 度分くらいの 温室効果を持っていて、地球温暖化問題はこれが人為的にさらに数度分 (21 世紀中に 1--5 度と言われている) 増加するという事である。

まず、次のことを認めてもらおう。 温度が T の不透明な物体は表面から光として単位面積あたり

I = σ T4
のエネルギーを放出する。これをステファン・ボルツマンの法則という。 ここで、σ = 5.67 × 10-8 W m-2 K-4 である。 こうなる理由は、物理をきちんと勉強しないと言えないのでここでは省略する。 要するに、温度が増えると温度の4乗にしたがって急激にエネルギー放射が 増えるということだ。

これを基にして温室効果がどういうものか考えてみよう。温室効果の本質は、

大気は太陽光のような可視光線は通す。一方、地球は赤外線で光っているのだが、 大気は赤外線に対して透明でない
ということだ。

これだけでは何のことやら分からないだろうから、もう少し説明する。 地球の表層のエネルギー収支の基本は

太陽から可視光としてエネルギーを受け取り
地球から赤外光として宇宙空間にエネルギーを捨てる
である。その出る方に関所があるので、いわば渋滞して(喩えが悪いか?) 温度が上がるというのが温室効果である。

大気において温室効果を持つガスとしては、水蒸気(H2O)、 二酸化炭素(CO2)、オゾン(O3)などが重要である。 現在の大気の温室効果のうち、60 % が水蒸気、 26 % が二酸化炭素、8 % がオゾンによるものである(数字は 定義の仕方に依存するので、目安だと思ってほしい)。
(出典) J.T. Kiehl and K.E. Trenberth (1997) "Earth's Annual Global Mean Energy Budget" Bull. Amer. Meteorological Society, 78, 197-208

温室効果ガスとしては水蒸気が重要であるにも関わらず、以下の話では 二酸化炭素がキーとして出てくる。そうなる理由は、水蒸気量は、その時の 大気海洋の状態(温度など)に応じて自動的に決まるもので、大気海洋の 外から決められないからである。たとえば、二酸化炭素が 2 倍になると 気温が 4 度上がるという予測がある。それは、もう少しきちんと言えば、 二酸化炭素が 2 倍になって気温が上昇すると、水蒸気の量も増えて、 その水蒸気と二酸化炭素の温室効果を合わせて 4 度上昇するという意味である (「水蒸気フィードバック」)。以下では、二酸化炭素が増えたら気温が 変わると言うときには、そこまで言外に含んでいるとする。 ここはよく誤解される点である (参考 web page : Real Climate "Water vapour: feedback or forcing?" ここにかなり詳しい 議論がある)。

[図:温室効果の簡単モデル]
もう少しだけ定量的に考えるために、 大気を赤外光に対して不透明な1層の物質としてモデル化しよう。 すると、地表に関するエネルギーバランスは

IE + σ Ta4 = σ Tg4
大気に対するエネルギーバランスは
σ Tg4 = 2 σ Ta4
となる。合わせると、
σ Ta4 = IE
σ Tg4 = 2 IE
そこで、実際に数字 IE = 241 W m-2 を入れて計算すると
Ta = 4√(IE/σ) = 255 K
Tg = 4√2 4√(IE/σ) = 304 K
となる。大気がないとすると、地表の温度は Ta になるはずだから、 その差が温室効果ということになる。実は、大気の枚数を n 枚にすると
Tg = 4√(n+1) 4√(IE/σ)
になっていくらでも温度を上げられる。問題は、大気が不透明層何枚分に当たるかと いうことで、それは本当はちゃんと計算しないとわからない。でも、現実的に 地表の温度は 300 K くらいだから、1枚分くらいというのが現実だろう。

ここまでが温室効果の原理である。

6-3 地球の CO2 と気候の歴史

[配布図:CO2 の歴史 870-1-med.gif]
図は、古生代以来(6 億年前以来)の大気 CO2 の量の変遷を表したものだ。 縦軸は現在の CO2 の何倍の CO2 が過去にあったか、 を示している。つまり、現在の 20 倍の CO2 が大気にあった時代も あった、ということだ。とはいえ、 だから、現在の二酸化炭素問題はたいしたことがないというのは短絡的だ。 この点については 6-5 で述べる。

大きく2つのトレンドを見て欲しい。

(1) 過去から現在に向かって、だいたい減少傾向
説明:太陽放射の増大と Walker feedback による温度調整

星の進化の理論から太陽放射は時代とともに少しずつ増えている。 逆に、過去に行くと太陽が少し暗くなっている。

では、過去ほど寒いかというとそういうことでもない (faint young sun paradox)。

Walker feedback
寒くなる→風化が減る→相対的に脱ガスが多くなり、大気に CO2 がたまる→温室効果で暖かくなる
逆に、たとえば太陽放射が増えて
暑くなる→風化が増える→相対的に脱ガスが少なくなり、 大気から CO2 が減る→温室効果で寒くなる
こういう理由で温度が調整される。そこで、過去ほど CO2 が 多い。
(注)風化は化学反応なので、温度が上がると風化が早まるということを用いている。
(2) 古生代と新生代に二つの山
説明:火山活動の活発化による脱ガスの増加
[図:Wilson cycle]
その結果として、6 億年以降大きく3回の氷河時代がある。
  1. 6 億年前(全球凍結)
  2. 3 億年前(石炭紀〜ペルム紀)
  3. 250 万年前以降現在まで(第4紀):現在は間氷期(1970 年代は氷河期を心配していた)

[DVD 地球大進化「全球凍結」 title1 chap4 (5 分くらいから) が 全球凍結の解説 (とくに 7:40 以降)、chap13 は全球凍結の終りの解説 (時間があれば)]
全球凍結:いったん地球が凍り付いてしまうと、二酸化炭素が大気にたまる ようになって、あるとき突然氷が融け初め、その次には気温60度とかいう ような極端な温暖化が起きたと言われている。

[氷期・間氷期サイクルは省略しよう]

6-4 大気の酸素濃度と生命の歴史

参考書
ピーター・D・ウォード「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」(文藝春秋)
ごく最近、大気の酸素濃度が動物の進化を決定づけたという説が出てきた。 その説は、上記の本で解説されている。その骨子は以下の通りである。 動物は、動くのに大量のエネルギーを使うので酸素呼吸が必須である。 そこで、大気中の酸素の増減が、動物の進化に決定的に重要だったというのだ。

[配布図:大気中の酸素濃度の歴史]
炭素循環の基本を考えると分かるように、 有機炭素が埋没すると、大気中の酸素が増えて二酸化炭素が減る。 逆に、有機炭素が燃えると、大気中の酸素が減って二酸化炭素が増える。 そんなわけで、二酸化炭素の歴史と酸素の歴史は相補的な関係にある。 昔の大気中の酸素濃度がどうであったかを示す直接的な証拠はない。 しかしながら、二酸化炭素やら気温やらと組み合わせて炭素循環や 硫黄循環などを考えると、間接的に大気中の酸素濃度を推定することができる。 そうしてみると、大気中の酸素濃度は、過去6億年の間にけっこう 変動していると推定される。

このグラフが細部まで信用できるかどうかよくわからないが、 これをそのまま信じると、大気中の酸素が減る時期と大量絶滅の時期が だいたい一致している(よく見るとちょっとずれているが、誤差の内か?)。 これは意味ありげである。もっとも、タイミングの細部までは信用できないので、 これは酸素濃度が低い時期に絶滅がおこりやすそうだという程度にとどめておこう。 なお、世に言う5大絶滅とは

  1. オルドビス紀末 4 億 4370 万年
  2. デボン紀後期 Frasnian-Famennian 境界 3 億 6700 万年
  3. ペルム紀末(P/T境界)2 億 5100 万年:過去最大
  4. 三畳紀末 1 億 9960 万年
  5. 白亜紀末(K/T境界) 6550 万年:隕石の衝突
である(年代は 知恵蔵 の斎藤靖二氏の記述による)。

重要なことは、おおざっぱな傾向を見ておくことである。とくに

  1. シルル紀と石炭紀の2回にわたって酸素上昇イベントがある
  2. P/T境界のあたりで酸素が急減していること。その傾向は三畳紀まで続くこと
の2つに注目しよう。実を言うと、このカーブの求め方の詳細を知らないので、 詳しい説明はできないけれど、少なくとも石炭紀の酸素上昇の理由は比較的明確である。 石炭紀は、文字通り石炭がたくさんできた時代、すなわち有機炭素が大量に埋没した時代である。 そのために、二酸化炭素が減少して酸素が増えた。そうなったのは、陸上で樹木が登場したことによる。 樹木は丈夫な物質でできているために、当時の微生物には腐らせることができなかった。 そのため、そのまま埋没してしまった。P/T境界のあたりの酸素の急減の理由は必ずしも はっきりしない(少なくともウォードの上記の本を読む限り)。P/T境界の付近で植物も 大量絶滅してバイオマスが減ったことが原因かもしれないし、ひょっとすると大規模な火山活動で メタンなどの有機炭素が地中から噴出したのかもしれない。

でもまあこれを信じることにしよう。すると、ウォードの主張は、 酸素の濃度と動物の進化が深く関わっているかもしれないということである。 ウォードは、低酸素期には生物の異質性が増し(いろいろなボディプランを試みる)、 高酸素期には多様性が増大する(同じボディプランで多様な種が枝分かれする)という説を述べている。 上記の大きな酸素変動に対応して以下のようなことが起こっている。

  1. シルル紀〜デボン紀前半と石炭紀後半の2度の酸素濃度の上昇に伴って 動物(とくに節足動物)が海から上陸した。 節足動物では、上陸ははっきりその2段階に分かれている。 脊椎動物は、主として第2波の時期に上陸した(両生類)。
  2. ペルム紀の高酸素期には巨大な昆虫が出現した。酸素が薄いと、大きい体には酸素が 行き渡らない。酸素が濃いからこそ巨大な昆虫が生きていた。
  3. 恐竜は三畳紀の低酸素濃度にうまく適応していた。だからこそ中生代に生態系の覇者となった。 第一に二足歩行を始めた。トカゲやサンショウウオのように横に広がった脚を持っていて四足歩行する 動物は、息をしながら歩くことができない。歩くときに肺が圧迫されるからである。恐竜は二足歩行によって この制限を外し、より酸素を効率的に取り入れられるようになった。第二に恐竜のうちの竜盤類 (恐竜は竜盤類と鳥盤類に分かれ、鳥はこの竜盤類の子孫)で、気嚢システムが発達してきた。 気嚢システムは現在では鳥が持っている呼吸システムで、このため鳥は哺乳類よりもより効率的に 酸素を吸収できている。
[DVD 地球大進化「大量絶滅」title1 chap11 「10 なぜ恐竜は繁栄したか」]
以上のことのうちでとくに恐竜の話を DVD で復習する。

というわけで、酸素の濃度が進化を左右しているというのが、ウォードの新説だ。 たいへん興味深いし、ありうることであるように思う。

6-5 気候と人間の歴史 [本年度省略]

参考書
安田喜憲「気候変動の文明史」(NTT出版)
過去の気候変動で人類がどういう影響を受けたかを見てみるのは、 人類の将来を占う上でも面白い。ただし、気候変動と人間の歴史の 対応関係は認められるものの、因果関係が証明されたわけではない。 したがって、以下の話は証明されたものではなくて、 「そういう話もある」という程度に受け取ってもらえると良い。

[配布図:炭素同位体比から見た気候変動]
歴史時代の気候変動を見ると、だいたい図のようになっている。 中世(平安時代)は温暖。江戸時代は寒冷(小氷期)。 これは、日本だけでなく世界的傾向としてそうである。 たとえばヨーロッパでは、中世の温暖期 (10-13 世紀)はバイキングが 活躍した時代で、グリーンランドは緑の島だった。 一方で、小氷期になると、イギリスではテームズ川が凍っていたと 言われている(現在では、とても凍りそうにない)。 さて、日本の歴史と対応してみると、気候が時代の「雰囲気」を決めて いるようにも見える。 まず、おおざっぱにみると

になっている。つまり、温暖期は文化の時代(文民国家:なよなよ)、 寒冷期は抑圧の時代(軍事国家:マッチョ)と考えられるのだ。

もう少し細かく見てもそんな感じがする。

その前の古墳時代もそんな感じがする。

もちろん、これを将来にあてはめて、地球温暖化が起こると 平和でおおらかな時代が来るだろうというのは、楽観的にすぎよう。 グローバル化して、人口とエネルギー消費が爆発的に増えた現代に過去の法則を あてはめるのには無理がある。日本はもう農業国ではないし、太陽の時代ではなくて、 石油資源の時代である。しかし、将来は本当はどうなるのかわからない。

6-6 地球温暖化問題

参考書
米本昌平「地球環境問題とは何か」(岩波新書)
地球温暖化問題の政治的な側面がわかる

地球温暖化問題とは?

地球温暖化問題とは、第一義的には、人間が地下に埋まっていた有機炭素を 燃やすことで、大気海洋系の正味の二酸化炭素量を増やすことによって生じる 温室効果の増加分である。地球温暖化によって、温室効果がどのくらい増すかは 実は丁寧な計算をしないとわからない。大気大循環を含めてもっと 丁寧な計算をすると、21 世紀末には 1.5 - 5 度くらいの温度上昇があるだろうと 言われている。誤解を防ぐために付け加えると、こういった計算には、 温度が増えたことで水蒸気が増えて温室効果が増える効果 (6-2 で述べた水蒸気フィードバック)などさまざまな効果が含まれている。

地球温暖化問題の重要性

地球温暖化問題でまず考えないといけないのは、実は、そもそもそれがどのくらい 重要な問題なのかという問題である。地球温暖化問題はそもそもインチキであるという議論をする人も多い。 ネット上にはそういう議論が結構流れている(たとえば、最近では 「らくちんランプ」という blog があったり 前に名古屋大学にいた武田邦彦先生のホームページ があったりする)。 この手の議論では科学的な方面に対する批判は間違っていることが多いので、信じない方が良いことが多い。 しかし、本当に地球温暖化は重要な問題かという問いは本気で考える必要がある。 たとえば、武田先生の議論は科学的な方面の批判ではなくて(武田先生は賢いのでそんな無理な批判はしない)、 温暖化はそれほど問題にしなくて良いという話である。

問題は、端的にいえば、こういう話である。

地球温暖化では、暑い地域の変動が少なく、寒い地域が暖かくなって全体に住みやすくなる
これはたぶんおおむね正しい。少なくとも寒冷化するよりは良さそうである。

では、なぜ地球温暖化問題が問題になるのか、それをよく考える必要がある。 地球温暖化問題は本質的には単に気温が上がるという問題ではない。 私の考えでは、2つの問題がある。

温暖化が非常に急速に起こるために、それに人間社会が対応できるかが 懸念されている
温暖化がゆっくりなら、人間社会も生態系も徐々にそれに対応して 変わっていけて、そうすると実際住みやすくなる可能性もある。しかし、 予想されることは、住みやすくなる場所と住みにくくなる場所があるという ことで、平均では住みやすくなるかもしれないということだ。その場合、 国境線はすぐには変わらないので、人々が住みにくい場所から 住みやすい場所に簡単には移動できない。そこで、人間社会としては 困る可能性が高い。
基本的には南北問題である
お金のある先進国は、温暖化して気候が 変わっても、技術的な手段でさまざまの対応ができると考えられる。 しかし、発展途上国はそうはいかない。予想されていることは、 たとえば、山岳の雪解け水が減って、現在雪解け水で灌漑をしているところが 困るとかいったようなことである。で、そういうことで打撃を特に受けやすい のが、発展途上国である。
したがって、地球温暖化問題は、科学の問題というよりは、本質的に 国際社会の問題である。ここを忘れると、温度が数度上がるくらいなら 何とかなるだろうし、暖かくなった方が良いじゃんという議論になる。 もちろん、上の社会問題もたいしたことはないという考え方もありうる。 武田先生も、とりあえず日本のことを考えるべきであって、そうならば温暖化歓迎という ような議論をしている。しかし、その問題はこの講義からあまりにも外れるので、 このへんで終りにする。

私の個人的見解は 次に説明する石油エネルギー問題の方が重要であって、地球温暖化問題は 実はそれほど問題にならないのではないかと思っている。つまり、石油生産量が 思ったように増えないために、否応なく二酸化炭素が排出できなくなってしまう 可能性である。それは次節で議論する。それに関連していえば、温暖化問題は 石油資源獲得競争であるといううがった見方もある。つまりCO2排出規制は 石油資源割り当てと事実上同じ意味になるからである。

地球温暖化の現状認識

外交問題はともかくとして、科学的な側面を見てゆこう。

だいたいの世界のコンセンサスを見るには、IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change) の 第4次報告書 (2007) を見るのが良い。これが一応の世界の科学者のコンセンサスである (IPCC は国連後援の科学的アセスメント機関)。科学の面では、世界の気象・気候学者が 数値シミュレーションを行って現在の説明と未来予測をしている。
気象庁のホームページに、 「第1作業部会報告政策決定者向け要約」の日本語訳がある。

レポートでは現状は次のように認識されている。

  1. CO2 濃度は工業化以前の 280 ppm から 2005 年には 379 ppm へと増加した (過去 65 万年間で最も多い)。この原因の主なものは化石燃料の燃焼によるものである。 森林減少など土地利用の変化も重要であるが、それほど影響は大きくない。
  2. CH4、N2O (どちらも温室効果ガス)も増加してきている。 メタンは工業化以前の 715 ppb から 2005 年には 1774 ppb へと増加した (過去 65 万年間で最も多い)。 (参考:二酸化炭素以外の温室効果ガス)
  3. 地球の平均気温は過去 100 年で約 0.74 度上昇した。
  4. 山岳氷河の後退が広く見られた。
  5. 20 世紀を通じた海面水位上昇量は 0.17 m。
  6. 結局、過去 50 年間の気温上昇は、人為起源のものである可能性が非常に高い。

ただし、こういうのを見るときに注意として、まだ科学的にも不確定な要素があることに注意する。 とくに

ということはある。ただし、いわゆる地球温暖化懐疑論者の議論はそれ以前の初歩的な間違いを していることも多いので、注意すること。

地球温暖化で何が起こるか?

実はよく分かっていない点が多い。良く分からない未来にどう対応するかが、 問われている問題である。
気温はどうなるか?
世界中の研究者がいろいろ計算した結果、将来予測は図(政策決定者用要約の中にある)のように なっている。21 世紀末の予測として 1 度から 6 度くらいまで いろいろある。幅が出る原因は大きく2つある。(1) 経済と化石燃料使用 の予測に幅がある。現状からすると、人間は結局のところあまり対策が できないまま、進んでしまいそう。だが、一方で石油の枯渇の問題が顕在化 してくるかもしれない。(2) 自然科学の問題としても不確定性がいろいろある。 とくに雲の予測が難しいとされている。温度が上がると水蒸気が増えるだろう。 そのときにどのように雲が出来るのかが問題。さらに、雲の出来かたによって、 日射を遮って温暖化を抑える方向に働くかも知れないし、温室効果で 暖める効果に働くかもしれない。
海水準が上昇するかもしれない。
海が暖まると、熱膨張で海水準が上昇する。 単純に極域の氷が融けるから海水準が上昇するというのは俗説で誤りである。 北極の氷はもともと海にあるので、融けても海水準は変わらないし、 南極の氷は降水量が増えるために増える可能性さえある。
海流が大きく変わるかもしれない
映画 The Day After Tomorrow で誇張された形で描かれていることである。 温暖化が起こると、深層循環で、冷たい海水がグリーンランド沖で 沈み込めなくなるかもしれない。そうすると、メキシコ湾流が弱くなって、 暖かい水が北大西洋に流れにくくなる。そうすると、北大西洋沿岸 (北米東岸と西ヨーロッパ)が寒くなるんじゃないか、という話。 もっとも、映画は誇張され過ぎていて、実際は寒くなるというよりは、 その地方で温暖化が少し抑えられるという程度かもしれない。
海洋生態系に大きな影響があるかもしれない
最近言われ始めたことで、二酸化炭素が水に溶け込むと、炭酸になるので 海洋が酸性化するんじゃないかということである。現在の海洋は、少し アルカリ性である。これが酸性になると、霰石(CaCO3)が 溶けやすくなる。そうすると霰石(CaCO3)の殻をつくる生物が 死ぬ。その例が、極域の海の翼足類で、これは極域の海の生態系を支えている。 それが死ぬと、生態系が大きく乱れることになる。
注意:冷静に言えば、以上のようなことがらが、どの程度の確からしさで 起きるかを言うのは難しい。そこが対策という点で難しい。

対策の問題

京都議定書 (1997)
先進国で CO2 排出を減らそうとした(米国は離脱)
日本は、1990 年に対して 6 % 減を約束した (2012 年までに、日本 6 %、米国 7 %、EU 8 %):日本が一番たいへん
ところが、1998 年で 1990 年に対し 5 % 増! 目標達成の見通しは暗い
原因:ほとんどは運輸部門(とくに自家用車)の伸び
1990 年から 1998 年で自家用車による CO2 排出が約 3 割増
しかし、自家用車は規制をかけづらいし、トヨタは日本経済の牽引車

地球温暖化問題に関する注意

近頃は、いろいろ大きな自然災害が多く、それをすぐに温暖化と結び付ける 議論もある。しかし、これは証明されてはいない。温暖化の議論では、 このように俗耳に入りやすいがほとんど証明されていないことも巷では 良く言われる。何が本当なのかは良く注意しておかないといけない。

地球温暖化問題は、不確定な未来にどう対応するか?という問題であることにも 注意を払う必要がある。温暖化で何度上がるか予想しろという問題に対する 気候学者の解答には依然としてかなり幅がある。地球システムには非常に多くの 要素が入っているので、研究者がいくら努力してもどうしても分からない部分が かなり残るのはやむを得ない。きちんとした答えが出てから対応しようとしていたら、 手遅れになる可能性がある。このような問題にどう対処したら良いか? これは皆さんのような将来世代に残された課題である。地球温暖化問題に限らず、 次節の石油資源問題、次章に関係する地震予知問題も、すべてこの手の問題である。 研究者が予測できることにかなり不確定性が残っている場合に社会として どのように対応したら良いのか?皆さん自身の問題である。

6-7 石油エネルギー問題

参考書
Kenneth S. Deffeyes "Hubbert's Peak -- The Impending World Oil Shortage" (Princeton Paperback)
ポール・ロバーツ「石油の終焉」(光文社)
参考HP
石井吉徳「豊かな石油時代が終わる」 http://www007.upp.so-net.ne.jp/tikyuu/index.html

石油とは?

資源の蓄積には時空間分布に偏りがある。どこにでもあるわけではないから価値がある。 また、熱力学的に不安定なものも多い。だからこそ価値がある。 今回は現代という時代に最も重要な資源である石油に絞って話を進める。

[表:石油の成分]
そのためにまず、石油とは何かということを見てゆこう。 そもそも、石油は単一の物質ではない。 石油とは、ふつうには、炭化水素を主とする有機炭素の混合物で液体のもの、である。 しかし、英語の petroleum は、液体の油(oil)、気体の天然ガス(natural gas)、 固体の炭化水素類(アスファルト、ワックスなど)を含むもので、専門家は これらをまとめて石油ということが多い。 産地や年代によっても中身は異なる。

[省略:石油は、貯留岩と呼ばれる砂岩や炭酸塩岩の粒の隙間に含まれている。 それを集めて資源にする。]

もうちょっと広く見ると、化石燃料とは、生物遺骸が有機炭素として残っているものである。それには、石油、天然ガス、石炭がある。それらの中間的なものもある。また、 とくに天然ガスでは、生物起源だが遺骸起源ではないもの、無機起源のものもある。 石炭は植物起源であることがはっきりしている。それに比べれば、石油の起源はわかりにくい。 それは、一言で言えば、液体には地質学の方法の重要なものが使えないからだ。 石炭だと植物の形が残っているが、液体になると残らない。また、液体は出来たところから 移動してしまうので、もともとどういう場所で出来たのかわからない。 ただし、生物起源であることは炭素同位体が δ13C が -25〜-30‰ と 軽いということで、まず確かである。

[図:続成作用に伴う石油の生成]
現在考えられている石油の生成プロセスは図の通りである。 石油は、堆積岩の中で有機物がだんだん変化してゆくことでできる。 元になる有機物が何かは場所によって異なる。 まず、何らかの理由で、有機物が分解されずに残ることが必要(還元的環境)。 それが、いったんある程度分解され再び重合してケロジェンと呼ばれる複雑な 高分子化合物の混合物になる。その後、熱などである程度分解したものが 石油であると考えられている。

[省略:化学成分の特徴から判断すると、たとえば中東の石油は、おそらく海底で出来たのであり、 藻類などに由来したもののようだ。一方で、アメリカの石油は陸とか海でも 河口付近でできたもののようだ。]

[省略:石油が出来た年代としては、ジュラ紀から第3紀( 2 億年から 100 万年前)のものが ほとんどである。新しい石油がないのは、おそらく石油ができるために ある程度「熟成」期間が必要なせいである。古いのが少ないのは、「熟成」しすぎると、 分解しすぎてガスになってしまうためであると考えられている。程よい熟成期間が 必要なのである。 ]

[図:白亜紀の石油産地]
石油は、良く知られている通り、中東に多い。なぜか?

中東の石油は白亜紀のものだ。先の気温変化を見ると、温暖期。 これはかなり暖かくて、大陸氷床はなかっただろう。それから、 海の底も 15 度くらいあったらしい。その結果として、 海洋循環がかなり滞ったらしい。前に深層の熱塩循環の話をした。 そのときやったように、現在の海は、グリーンランド沖とかウエッデル海で 冷たくて塩辛い水が沈むことで海全体がかき混ぜられている。ところが、 気候が暖かいと沈む水がないので、海が混ざらない。 しかも、今の中東は昔はテチス海という内海だったので、さらに混ざりにくい。 その結果、海のある程度以上深いところが長い間酸欠状態になったと 考えられている。そのために、底にたまった有機物が分解されずに埋没した。 これが中東の大油田の起源だと考えられる。

このように、CO2 と資源問題はこういうところでも結びついている。

石油の持続可能性

[図:石油の持続可能性]
石油はあと何年持続可能か?

昔から 40 年説があったが、今はそういうことを言う人はいない。 今世紀中になくなることはない。しかし、近いうちに供給はピークを迎えるであろう。 一方、需要は増えるだろうから、石油は高騰する。現在の石油の高騰も 単なるマネーゲームの結果だけではない。実際に供給がそろそろ需要に 追い付かなくなってきているのだ。

[図:石油発見の歴史]
(1) これからの石油供給はどうなるのか?
40 年説を聞き厭きて、これからも石油は発見されるだろうから、将来に 不安はないという楽観論を述べる人がいる。しかし、根拠がないことが多い。
(1-i) 大油田の発見は 1960 年代くらいまでで終わっている。 世界最大の油田 Ghawar (Saudi Arabia) は 1940 年代の発見、2番目の Burgan (Kuwait) は 1930 年代の発見である。これに匹敵する大油田はそれ以後全く 見つかっていない。
(1-ii) タールサンドがあると言って安心する人もいる。 しかし、量は多いが、採掘コストが格段に高い。すなわち、 (得られるエネルギー)/(投入エネルギー)が小さい。 だから、タールサンドを使うならば、価格が高くなることは避けられない。 また、硫黄分が多くて質もあまり良くない。
(1-iii) というわけで、近いうちに世界の石油生産がピークを迎えることは 避けられない。ひょっとするとすでにピークが来ているかもしれない。 今世紀中に石油がなくなることはないにしても、価格の高騰は避けられない。
(1-iv) ただし、石油が高騰すれば、採掘にコストがかかる油田やらタールサンドも採算が取れるようになるので 石油資源の量が増えるということは起こる。資源の量は価格の関数であることに注意しよう。
(1-v) 最後まで持つのは中東の石油であることにも注意しよう。

(2) 石油需要の増加
石油の需要は増加する。とくに中国など現在大きく発展している国々の 需要が増加する。だからこそ、中国は国策として石油確保に血眼になっている。 需要別で重要なのは、ひとつは運輸部門である。発電などは、天然ガス、 原子力など代わりがあるが、自動車、飛行機の燃料は代わりがない。 [余談:前に述べた通り、運輸部門は二酸化炭素問題でも重要]

(3) 石油の供給不足と社会の今後
石油は現代社会を支えているので、間もなく石油生産がピークを迎えると 社会が激変するだろう。石油がなくなってくると、石油は燃料としてよりは、 石油化学製品の原料として重要になってくるであろう。 石油は、食糧を支えていることにも注意すべきである。 たとえば、窒素肥料は間接的には石油化学製品である(窒素肥料は アンモニアから合成する。アンモニアは水素ガスと窒素ガスから合成する。 水素ガスの原料は石油である)。 今食べている食糧は世界中から燃料を使って運ばれてきている。 季節外れのものが食べられるのも燃料のおかげである。 そう言ったさまざまの意味で、われわれは「石油を食べて」いる。 石油が無くなると、何と飢える! ただ、石油不足は地球温暖化問題にとっては良いことである。 (ただし、ガソリン代が2倍になっても影響は小さいかもしれない:イギリスの例)

(4) 南北問題
先に、地球温暖化問題が南北問題であるという話をしたが、石油エネルギー問題も やはり南北問題の様相を帯びている。というのも、石油が高くなったとき、 先進国は買えるが、発展途上国(産油国を除く)は買えなくなって石油 獲得競争から脱落するからである。石油の値段が上がるというのは そういうことで、やはり金がものを言うのである。

(5) イラク戦争の背景:アメリカの石油戦略、日本の石油戦略
人道的な問題はもちろん重要だが、それは置いておいて、 石油問題としてはこの戦争は何か?考えてみよう。