講義補足メモ

last update: 2009/06/30
以下のメモは、講義の準備の下調べの補足的なもので、 受講者が理解する必要のないものである。

2-2 星(恒星)の輪廻と元素の起源

8 Msun より大きい星の進化の詳細。
野本憲一編「元素はいかにつくられたか」(岩波講座 物理の世界)
に基づいて、8 Msun より大きな星の進化をまとめる。

8-10 Msun の星

C + O コアはさらに燃焼して O + Ne + Mg コアができる(主成分が 16O, 20Ne, 24Mg)。そこからの進化は、2つの場合が考えられる。
外層が失われる場合
O + Ne + Mg 白色矮星が残る
外層が失われない場合
H, He の燃焼が続き、O + Ne + Mg コアの質量が増えてゆくと、今度は Ne, Mg の電子捕獲反応が出てくる。 すると、急速に重力収縮が進む。そうして高密度になると、酸素が爆発的に燃焼する。 そのあとは、さらに重力崩壊が進んで超新星爆発を起こし中性子星が残るシナリオと、雲散霧消するシナリオが 考えられる。1054 年の「かに星雲」を作った超新星爆発は前者のシナリオでできたと考えられている。

10-40 Msun の星

O + Ne + Mg コアから、さらに Ne, O が燃えて Si, S, Ca などが作られ、さらにさまざまの核反応が進む。 やがて最後は 56Fe という最も安定な原子核がつくられる。このようにして、 H / He / C / O + Ne + Mg / Si + S / Fe という「玉ねぎ構造」が作られる。

C + O コアができて以降は、ニュートリノが星のエネルギーを急速に持ち去るようになる。 そのため、56Fe ができた後も重力収縮が続く。そして、星の中心が非常に高温になると、 原子核の光分解が起こり、急速な重力崩壊が起こり、やがて超新星爆発が起こる。ただし、 爆発のメカニズムは理論的にはまだ十分には解明されていない。

8-20 Msun の星では、後に中性子星が残る。> 20 Msun の星では、後にブラックホールが残る。

>〜 30 Msun の星では、極超新星爆発が起こり、γ線バーストを伴うことが多い(伴わないものもある)。 γ線バーストは、一説では、ブラックホール降着円盤に伴うジェットで説明される。 〜20 Msun の星では、その小型版で、X線フラッシュを伴うことがある。

> 40 Msun の星

赤色超巨星になる前に、星から大量のガスを放出して Wolf-Rayet 星となる。

2-5 太陽系の構成と大きさ

KBO (Kuiper-Belt Object) やら TNO (Trans-Neptunian Object) やらの 名称問題

公式見解は、 日本学術会議の委員会報告にある。これによると、日本語は「太陽系外縁天体」 英語は「TNO = trans-Neptunian object」が正式名称。KBO は俗称。

多少気になる点


2-5 太陽系の形成

原始惑星の質量の決まり方

参考:岩波講座地球惑星科学12「比較惑星学」第3章「比較惑星系形成論」pp.223-226

原始惑星(暴走成長した微惑星の成長がいったん落ち着いた状態)の間隔は、 「軌道反発」効果により、だいたい Hill 半径の 10 倍くらいになる。 Hill 半径は、軌道長半径に比例するので、このことだけからも太陽から遠いほど 大きな原始惑星ができることが推測できる。もうちょっと定量的に考えてみよう。

林モデルでは、ダストの面密度は、

Σd = ΣE (a/a0)-3/2(地球領域)
Σd = ΣJ (a/a0)-3/2(木星領域)
で表される。ここで、ΣE、ΣJ はそれぞれ定数で、 ΣE = 7.1 g/cm2、ΣJ = 30 g/cm2 である。 木星領域では氷が凝結しているので、ΣE < ΣJ となっている。 a は軌道半径、a0 は地球の軌道半径(1天文単位)とする。

原始惑星の軌道間隔は f rH になるものとする。ここで f は 10 程度の定数で、

rH = (M/3Msun)1/3 a
は Hill 半径である。この範囲のドーナツ状領域に含まれる質量は
M = Σd (f rH) (2 π a)
である。

以上の3つの式から、Σd と rH とを消去すると、

M/ME = (2 π)3/2 3-1/2 f 3/2 (a/a0)3/4 (ME / Msun)1/2E a02 / ME )3/2 (地球領域)
M/ME = (2 π)3/2 3-1/2 f 3/2 (a/a0)3/4 (ME / Msun)1/2J a02 / ME )3/2 (木星領域)
が得られる。f=10 として計算すると、
M/ME = 0.09 (a/a0)3/4 (地球領域)
M/ME = 2.9 (a/aJ)3/4 (木星領域)
となる。ここで、aJ は木星の軌道半径である。なお、私の計算と教科書の 数字が 1.4 倍くらい異なるが、理由不明(私の計算ではファクターがそれぞれ 0.07 と 2.1)。 ΣE,J にちょっと別の数字を使ったのかもしれない。

というわけで、木星は地球よりも太陽から遠いこと(aJ > a0)と、 木星領域には氷成分が凝結していること(ΣJ > ΣE)から、 地球領域よりも木星領域の方が原始惑星のサイズが数十倍大きくなることが分かる。


2-5 太陽系の形成, 5-3 生命の誕生

NHK スペシャル「地球大進化」第1集 DVD 内容リスト

title/chapter内容
title1本編
chapter1タイトル
chapter2導入部:シリーズ全体の概観
chapter3山崎努:進化カレンダー
chapter4海に覆われた原始惑星(ミニ惑星) →地球型惑星の形成 [出演:小久保英一郎]
chapter5giant impact と月の形成 →火星はミニ惑星の生き残り(荒涼とした星) →地球には海ができたことが生命を育んだ [出演:小久保英一郎]
chapter6Greenland, Isua, 38 億年前の岩石 →生命の痕跡(炭素の粒子) →当時の生命の想像図 [出演:ミニック・ロージング]


3-5 [2004,2005,2009 年版] 火星

Suppl 3-5-1. 火星の極冠が主に water ice であることについて

火星の極冠が主に water ice であることが判明するまでの観測の歴史 [Timothy N. Titus (2004) Nature, 428, 610-611]

Suppl 3-5-2. 火星の岩石や表面を覆う soil について

岩石や soil

Harry Y. McSween Jr., G. Jeffrey Taylor, Michael B. Wyatt (2009)
Elemental Composition of the Martian crust [review]
Science, 324, 736-739, doi:10.1126/science.1165871 (2009, 8 May)

内容のまとめ:

Bertelsen, P. et al. (2004)
Magnetic properties experiments on the Mars exploration rover Spirit at Gusev crater [report]
Science, 305, 827-829, doi:10.1126/science.1100112 (2009, 8 May)

内容のまとめ:
火星の dust 粒子や岩石がどのくらい磁石にくっつくかを調べた。すると、 a few % 程度のフェリ磁性の粒子(magnetite か maghemite)を含んでいそうで あることがわかった。逆に磁性の小さい粒子はあまり存在しないようだ。

soil

Albert S. Yen et al. (2005)
An integrated view of the chemistry and mineralogy of martian soils [articles]
Nature, 436, 49-54, doi:10.1038/nature03637 (2005, 7 July)

内容のまとめ:
火星の表面を覆う soil の分析。一番表面には bright dust がある。これは全球的に分布するもので、 風でばらまかれていると考えられる。その下に dark soil がある。組成は basaltic で、pyroxene、 plagioclase feldspar, olivine などから成る。dark soil は、Gusev crater (Spirit) にも Meridiani planum (Opportunity) にも分布する。全球的なものかもしれないし、そうではなく 起源となる玄武岩が似ているということかもしれない。soil に olivine があって、2価の鉄が 残っていることから、変質度は限定的なものである。Br が濃くなっている部分があるところから、 液体の水が関与したか、あるいは薄い氷の層があたかも水のように塩を溶かしたのだと考えられる。

Suppl 3-5-3. Mars Pathfinder の rover Sojourner の名前の由来

どうやって名前をつけたかは この web page に書かれている。

世界の子供たちに歴史上のヒロインに関するエッセイを募集したところ、Sojourner Truth という 南北戦争時代の黒人女性活動家に関するエッセイが選ばれた。 Sojourner Truth は旅をたくさんしたということで rover の名前にふさわしいとされた。


5-2 炭素の存在形態

Suppl 5-2-1. 二酸化炭素やメタンの生成エネルギーのデータ源

生成エンタルピー等は理科年表による。
一酸化炭素:C + (1/2) O2 → CO + 110.5 kJ/mol (ΔH at 10^5Pa, 25℃)
                                 137.2 kJ/mol (ΔG at 10^5Pa, 25℃)
                         S0(標準エントロピー) = 197.56 J/K/mol
二酸化炭素:C + O2 → CO2 + 393.5 kJ/mol (ΔH at 10^5Pa, 25℃)
                            394.4 kJ/mol (ΔG at 10^5Pa, 25℃)
                         S0(標準エントロピー) = 213.6 J/K/mol
メタン:C + 2 H2 → CH4 + 74.85 kJ/mol (ΔH at 10^5Pa, 25℃)
                          50.84 kJ/mol (ΔG at 10^5Pa, 25℃)
                         S0(標準エントロピー) = 186.3 J/K/mol
エタン:2 C + 3 H2 → C2H6 + 84.68 kJ/mol (ΔH at 10^5Pa, 25℃)
                             32.93 kJ/mol (ΔG at 10^5Pa, 25℃)
                         S0(標準エントロピー) = 229.5 J/K/mol
水:H2 + 1/2 O2 → H2O(l) + 285.83 kJ/mol(ΔH at 10^5Pa, 25℃)
                          + 237.2 kJ/mol  (ΔG at 10^5Pa, 25℃)
                         S0(標準エントロピー) = 69.9 J/K/mol
このことから、
酸素がたくさんある環境では、炭素は二酸化炭素になりやすく、
水素がたくさんある環境では、炭素はメタンになりやすい。
単体は H, O などがあると安定ではない(H2O, CO2 or CH4 を作って、 なお C が余る状況が必要だが普通は起こらない)。
ことがわかる(メタンとエタンとを比べるときは、炭素1個あたりで比べよう)。

講義ノート本文中の反応熱はこれから計算した。


5-3 生命の誕生, 5-4 光合成と酸素の発生

NHK 特集「地球大紀行」第3集「残されていた原始の海」 DVD 内容リスト

title/chapter内容
title1本編
chapter1画像とタイトル
chapter2導入部:酸素のある大気
chapter3オーストラリアのストロマトライト
5-16分:ハメリンプールのストロマトライト
16-22分:ノースポールの世界最古の化石とストロマトライト [世界最古の化石のそばにストロマトライトがあることから、 かなり古くから光合成があったと主張している。 あやしいので講義では使わない。]
chapter4生命誕生の場
22-23分:導入
23-26分:イエローストーン。スルフォロバスなどのバクテリア
26-27分:アルビン号による海底探査。熱水噴出孔の生命
27-30分:細胞状構造をつくる実験
chapter5生命進化のシナリオ
30-32分:生命進化のシナリオの解説
32-36分:グレートスレーブ湖の大量のストロマトライト化石
chapter6BIF の形成
39-47分:ハマースレーの巨大鉄鉱床
47分-:エピローグ


5-4 光合成と酸素の発生

Suppl 5-4-1. 酸素急増の年代

20 億年前くらいに大気中の酸素が急増したことを示す証拠には以下のようなものがある [田近英一「地球環境46億年の大変動史」第4章2酸素濃度の変遷]

5-5 大量絶滅と生命の進化

NHK 特集「地球大紀行」第7集「恐竜の谷の大異変」 DVD 内容リスト

title/chapter内容
title1本編
chapter1画像とタイトル
chapter2恐竜の世界
2-4分:カナダのバッドランド―恐竜の谷
4-6分:恐竜のいろいろ
chapter36-8分:恐竜絶滅事変の導入
chapter4恐竜の生きていた環境を現在から想像する
8-14分:ガラパゴス諸島のイグアナの世界
14-16分:バッドランド(カナダ)の植物化石から当時が温暖だったことが分かる
16-17分:オーキフェノーキー(アメリカ)の温暖な環境は中生代に似ている
chapter5K/T境界の黒い地層とイリジウム
17-19分:恐竜絶滅説のいろいろ
19-21分:スチーブンス・クリント(デンマーク)の K/T 境界の地層 [ここでは、K/T クレータが未発見ということになっている。 講義の時は Chicxulub クレータの話をする]
21-23分:浦幌町(北海道):日本にも K/T 層がある
23-26分:UC Berkeley におけるイリジウムの発見
26-28分:Ir の説明、Ir が K/T にあることの意味
chapter6隕石衝突による絶滅のシナリオ
28-30分:隕石衝突の説明― 10km の隕石が落ちてきた
30-32分:カラバカ(スペイン)で、玄武岩起源のマイクロテクタイトが見つかったことから、隕石が海に落ちたと考えられる
32-33分:K/T 層の石から火災による煤が見つかる
22-40分:大量絶滅のシナリオのイメージ映像: 火災→粉塵発生→衝突の冬 →水蒸気による超温暖化
chapter7隕石衝突はいつでも起きうる
40-42分:衝突による絶滅のまとめ
42-45分:パロマ山天文台、小惑星監視(Shoemaker 先生登場)
45-46分:隕石が地球をかすめて飛んでいったことが目撃された映像
46-47分:月のクレーターが衝突痕であることについて
47分-:エピローグ


6-2 二酸化炭素と温室効果

Suppl 6-2-1. σ Tg4 = 2 IE となることの別の説明法

σ Tg4 = 2 IE
には以下のような説明の仕方も考えられる。地面にやってくる光は、太陽放射と、太陽放射をいったん吸収して大気に戻したうちの半分(大気は上下2方向に放射)と、それが地面にやってきてまた大気に戻したうちのさらに半分と……という風に考える。
 太陽         宇宙      宇宙
 ↓↓↓↓       ↑↑      ↑
 大気    大気   大気  大気  大気
 ↓↓↓↓  ↑↑↑↑ ↓↓  ↑↑  ↓
 地面    地面   地面  地面  地面
(このダイアグラムは等幅フォントで見ること)
すると、地面が発する赤外光は、全部で
σ Tg4 = IE + (1/2)IE + (1/2)2IE + … = 2 IE
となる。

6-5 地球温暖化問題

Suppl 6-5-1. 二酸化炭素以外の温室効果ガス

大気において温室効果を持つガスとして重要なものには、6-2 で述べたように 水蒸気、二酸化炭素(CO2)、オゾンがある。人為起源の 温室効果ガスとしては二酸化炭素(CO2)、 メタン(CH4)、フロン、N2O などが重要である。 水蒸気は温室効果は大きいものの 6-2 で説明したように、人為的には 変えられない。ただし、人為起源の温室効果に応じて変化する。 とくに、二酸化炭素、メタン、フロン等、炭素を含むガスに大きな温室効果がある ことに注意する。温室効果の能力としては、
CO2 : CH4 : N2O : フロン = 1 : 101 : 102 : 104
と言われている(数字は「温室効果の能力」の定義の仕方次第なので、 あくまでも目安)。ただし、CO2 が量が多いので最も重要である。
(注)上の数字のデータ源:
IPCC report 2001 WGI Chap6 Radiative Forcing of Climate Change の Global Warming Potentials。ただし、見るとすぐ分かるようにどの time horizon で定義するかでも数字が異なる。上のはあくまで桁の話。

7-3 断層運動とプレートテクトニクス

Suppl 7-3-1. 中学校理科教材ビデオ「地震と災害」内容

毎日 EVR システム制作の理科教材。災害対策室アーカイブから借用。 地震、津波、火山のしくみと被害の説明。地震研の吉田真吾さん指導のせいか、 地震の部分は良くできている。津波、火山は、それぞれ岩手県田老町、 伊豆大島三原山での過去の例のインタビュー中心で、教養講義に使うには今一つ。

時間内容
0:00-2:00根尾谷断層館
2:00-2:30濃尾地震
2:30-3:00タイトルとイントロ
3:00-7:30プレートテクトニクスと地震
7:30-9:00震度と地面の揺れ方
9:00-12:00P 波と S 波
12:00-15:40津波(岩手県田老町の例)
15:40-19:00火山(伊豆大島の例)
19:00-20:00エピローグ


7-5 日本の内陸地震と活断層

Suppl 7-5-1. 日本の内陸地震のマグニチュード

日本の内陸地震では気象庁マグニチュードは大きめの値を出す傾向にある。

年月日地震名MJMW地表断層の長さ(km)
1891.10.28濃尾8.07.480
1927.03.27北丹後7.37.030
1930.11.26北伊豆7.36.920
1995.01.17兵庫県南部7.26.910
出典:
翠川三郎、三浦弘之「内陸地震による地表での断層変位分布」 構造工学論文集, 50B (2004 年 3 月)


7-6 地震防災

Suppl 7-6-1. 東海テレビ「巨大地震!これだけの危険 東海地震被害予測」内容

ビデオ:東海テレビ (2006/01/15) 巨大地震!これだけの危険 東海地震被害予測
名大工学部の福和先生出演:福和先生のおかげで良い番組になっている

時間内容内容内訳
0:00-4:00はじめに
4:00-22:00建物倒壊 4:00-11:00 木造家屋倒壊実験+α
11:00-14:00 鉄筋建の場合
14:00-22:00 福和先生の解説
24:30-34:30火災
36:30-50:30液状化
50:30-70:40津波 50:30-54:30 スマトラ地震津波(現在の映像と当時の映像)
56:00-58:30 東南海地震のときの津波
58:30-63:00 津波の実験と解説
65:00-70:40 福和先生の解説
70:40-83:00最新の耐震建築技術
85:00-おわりに