吉田茂生先生(金曜日1時限) 法学部 030200784 住野孝治
「地球惑星の科学」レポート
2004.6.11提出
火星テラフォーミング
目次
1.はじめに
2.火星の基本データ
T.火星の物理的性質 U.火星の大気 V.火星の内部構造
3.火星探査の歴史
T.火星探査の先駆者ソ連 U.アメリカの追随
V.初の火星ランダ―(着陸船) W.バイキング計画
X.その後の火星探査
4.テラフォーミング
T.第1段階 U.第2段階 V.第3段階
5.パラテラフォーミング
6.おわりに
1.はじめに
ここ数十年の科学技術の発達により、人類は地球をとび出すまでになった。そうなると、それまでは、内側からしか見ることができなかった地球という惑星を外側から見ることが可能となり、同時に他の惑星を身近に感じることができるようになった。一方、地球上では世界人口が60億人を超え、人口に関わる食糧問題、資源問題などで悩むようになり、ついに他の惑星への移住を考えるようになった。そこで、白羽の矢が立てられたのが火星である。詳しくは後述するが、火星は距離的に見ても、性質を見ても、太陽系の中で最も地球に近いとされている惑星である。ただ近いとは言っても、他の惑星と比較しての話であって、地球とは大気組成も環境も大きな違いがある。そういった惑星環境を改造して、地球環境を作り出すのがテラフォーミング(惑星地球化)である。テラフォーミングの考え方は、1970年代の後半にアメリカの科学者であるカール・セーガンが最初に提唱した。その後、様々な科学者によって研究され、今では単なる夢物語ではなく、現実味を帯びた議論となっている。
2.火星の基本データ
テラフォーミングをするには火星のデータが必要不可欠である。ここでは、地球と比較しながら火星の基本的なデータを紹介する。
T.火星の物理的性質
地球の半径6378.4km、自転周期24時間に対し、火星の半径は3397.2km、自転周期は24時間37分23秒である。赤道傾斜角(自転軸の傾き)は地球の23.44度に対して火星は25.19度なので、地球と同じように火星にも季節の変化がある。ただ、公転周期を考えると、火星は687.98日で、地球の365.26日と比べると2倍近くあり、それぞれの季節の長さも倍になる。また、火星もフォボスとダイモスという衛星を持っている。しかし、月と比べるとはるかに小さいので、月のように主惑星から分離した塵が集積してできたものではなく、火星の重力に捕まった小惑星と言われている。また、月が地球から38万km離れたところを周回しているのに対し、フォボスは火星から6000km、ダイモスは2万kmとかなり近いところを周回している。
次に軌道だが、地球のほぼ真円とは異なり、火星は太陽系惑星の中で3番目の楕円軌道をしている。太陽からの平均距離は1.52AU(1AUは太陽と地球との距離約1億5000万km)で約2億2800万km、つまり地球より約1.5倍太陽から離れている。しかも、先に述べたように楕円軌道であるから、近日点距離と遠日点距離の差が4100万kmもある。地球の場合は、500万kmである。このことから、火星表面の平均気温は地球よりはるかに低いことがわかる。火星表面が受ける太陽光は、地球の43%で気温の変動も大きい。火星は、近日点では遠日点より45%も多く太陽放射熱を受けるので、表面の標準気温は−58℃だが、冬期には南極の気温は−125℃にまで下がる一方、夏期には南半球中緯度地方の昼間気温は22℃まで上昇する。しかし、アルベドと呼ばれる太陽光の反射率は0.25で、地球の0.3と比較しても大差はない。
最後に質量を見てみる。地球の質量は59.8×1023kgで、火星は6.43×1023kgとおよそ10分の1しかない。表面積は地球が5.11×1014u、火星が1.45×1014uである。火星の表面積は地球の陸の面積とほぼ同じである。また火星の密度は地球型惑星では最低で、地球の5.52g/cm³に対して3.93g/cm³である。これは火星のコアが地球よりも小さいことを示している。火星の重力場も、地球の1に対して0.38で、約3分の1と小さい。そのため、火星の重力圏を脱出する速度も5.02km/秒と、地球の11.18 km/秒の半分以下である。
U.火星の大気
火星には、月と違って大気がある。その構成と密度は地球大気と大きく異なっているが、構成要素には共通性がある。地球の大気は、N₂が78.08%、O₂が20.9%、Arが0.93%で、CO₂は0.03%に過ぎない。しかし火星の大気は、95.3%がCO₂で、2.7%がN₂、1.6%がArで構成されており、O₂は0.2%以下である。また、0.03%の水蒸気も含んでいる。
次に気圧を見てみよう。火星の大気は薄く、現在の火星大気の密度は、地球の1000分の1以下である。表面の気圧は、地球の1000hPaに対して、火星は平均8hPaで、季節によって6〜10 hPaの幅があるが、これは地球の成層圏とほぼ同じである。また火星はオゾン層を持っておらず、従って火星表面は放射線を始めとする様々な宇宙線に対して無防備である。
現在の火星大気はこのように薄いが、その初期にはもっと濃かったらしい。しかし、ソ連の「フォボス」探査機が送ってきたデータによると、太陽風が毎年5万tの率で火星の大気を運び去っており、弱い重力場のために大気を長期間保存できなかったようである。
V.火星の内部構造
地球の内部構造は、地震波の伝わり方を観測することで詳しくわかってきた。しかし、火星では地震のデータが欠如しており、その方法ではほとんど知ることができない。そこで、重力データなどから推定して、火星の内部構造の見積もりを出している。それによると、火星のコアの半径はおよそ2000km、その鉄を豊富に含んだコアは火星の質量の6%を占めると考えられている。それに対し、地球ではコアは全体の質量の32%を占めており、外核と内核を合わせると、その半径は3500kmである。火星の弱い磁場から、コアは液体でなくなっているか、液体のコアの流動がゆっくりしているかが予想される。そのマントルの広がりは、2300km以上深くはなく、平均比重(密度)はコアの6に対して4である。
地球の構造は、地殻、マントル、コアに分類され、内部のマントルはその粘性によって、リソスフェア(岩石圏)、アセノスフェア(岩流圏)、メソスフェア(中間圏)にさらに分けられる。アセノスフェアではマントル対流があり、それが地下のマグマを突き上げ、プレートを形成する。このプレートが常に拡大移動し、ほかのプレートとぶつかると沈み込むので、地震や火山活動などの地殻変動がおこる。この動きによって大陸も移動する、というのがプレート・テクトニクス理論である。しかし火星では、地殻と岩石圏の下に、2200kmほどのほぼ均一なマントルがあって、コアを包んでいる。しかも、その岩石圏は単一で堅く、太陽系の歴史の初期段階で安定してしまっている。そのサイズの違いから、火星内部は地球よりも急速に冷えたため、現在では内部の熱流は低く、火山活動もなくなっており、地球のようなプレート・テクトニクスがない。従って火星の地殻構造上の動きは垂直方向で、地球のような海溝、中央海嶺、火山帯などの特徴がないのである。
以上述べてきたものを表にしてみる。
物理量の比較 |
火星 |
地球 |
半径 |
3397.2km |
6378.4km |
コア半径 |
約2000km |
3500km |
自転周期 |
24時間37分23秒 |
24時間 |
赤道傾斜角 |
25.19度 |
23.44度 |
公転周期 |
687.98日 |
365.26日 |
太陽からの平均距離 |
1.52AU |
1AU |
近日点距離と遠日点距離の差 |
4100万km |
500万km |
地表平均気温 |
−58℃ |
22℃ |
質量 |
6.43×1023kg |
59.8×1023kg |
表面積 |
1.45×1014u |
5.11×1014u |
密度 |
3.93g/cm³ |
5.52g/cm³ |
重力場 |
0.38 |
1 |
地表気圧 |
1000hPa |
平均8hPa(6〜10 hPa) |
反射能(アルベド) |
0.25 |
0.3 |
脱出速度 |
5.02km/秒 |
11.18 km/秒 |
大気組成 |
火星 |
地球 |
CO₂ |
95.3% |
0.03% |
N₂ |
2.7% |
78.08% |
Ar |
1.6% |
0.93% |
O₂ |
0.13 % |
20.9% |
CO |
0.07% |
0.12ppm |
H₂O |
0.03%* |
0.1〜1.0%* |
Ne |
2.5ppm |
18ppm |
Kr |
0.3ppm |
1.1ppm |
Xe |
0.08ppm |
0.087ppm |
O₃ |
0.03ppm |
40ppb** |
*水蒸気の量は季節、時刻、場所により大きく変化する。地球の成層圏では10−4%
**地球の成層圏オゾン層では1.5×10−3%
3.火星探査の歴史
前記のデータは、物理学を用いて望遠鏡によって得ることができるものもあるが、やはり実際に火星へ探査機を送って調査したことで、より正確なデータが得られたことに間違いはない。そこで、そうしたデータの獲得に多大な貢献をした火星探査の歴史を振り返ってみようと思う。
T.火星探査の先駆者ソ連
最初に火星へ探査機を送ろうとしたのはソ連である。それは、1960年10月10日のことだったが、打ち上げに失敗した。その4日後の10月14日にも打ち上げを試みたが、これも失敗に終わった。4日後に再び挑戦するというのは、あまりにも早すぎ、いささか奇妙に思えるかもしれないが、ソ連は、同時期に複数の宇宙機を打ち上げ体制におくデュアル・ミッションを特徴としており、リスクを分散させるという点で理に適ったことであった。1962年10月24日に再び打ち上げを試みた。この時、探査機の打ち上げには成功したものの、火星へ向かう軌道に乗らず失敗、その後デュアル方式で11月1日に打ち上げられた探査機は、なんとか火星近傍に向かい、63年6月19日ごろに火星から19万3000km以内を通過した。これが初めて火星の近くに行った探査機となり、ソ連はこれを「マルス1号」と発表した。また、62年11月4日にも打ち上げが行われたが、火星の軌道に乗らず失敗した。現在では、これら失敗した4機の探査機も「マルス」と呼んでいる。その後もソ連は火星への挑戦を続け、1964年11月30日には「ゾンド2号」が打ち上げられ、65年8月6日ごろに火星から1500km以内を通過した。しかし、それ以前の5月2日に通信が途絶していたため、火星データの地球への送信はなかった。65年7月18日には「ゾンド3号」が打ち上げられた。これは月へ向かい、月面の写真撮影を行ったが、ミッションの本当の目的は、火星探査機の技術的テストだったとされている。また、69年3月27日にも火星探査機が打ち上げられたが、打ち上げに失敗している。そのため、この探査機には名前が付いていない。
U.アメリカの追随
アメリカで最初に成功した惑星探査機は「マリナー2号」である。これは、1962年8月27日に打ち上げられ、62年12月14日に金星を通過し、フライバイ(通過飛行)しながら近接観測を実施した。火星に初めて送られたのは、1964年11月28日に打ち上げられた「マリナー4号」である。その23日前の11月5日に打ち上げられた「マリナー3号」は、打ち上げ直後に電波が途絶し、軌道に乗らず失敗していた。なにはともあれ、「マリナー4号」は、65年7月14日に世界で初めて火星表面の近接撮影に成功し、様々な火星のデータを獲得した。今から考えれば、そのデータは決して豊富とは言えないものの、人類が長年抱いていた火星への畏怖、幻想を突き崩すには十分であった。ここから火星への科学の時代が始まったと言える。その後、「マリナー6号」が1969年2月25日に、「マリナー7号」が同年3月27日に打ち上げられた。6号は7月31日に、7号は8月5日にフライバイを行い、写真を撮影するとともに、赤外線と紫外線のセンサーで火星を調査した。それにより、火星が薄い炭酸ガスの大気に包まれていることが判明し、幅広く火星表面を風が吹いていることも分かった。また、写真は高分解能の画像で、火星地図の作成が可能となった。そして、1971年には最大の探査チャンスがやってきた。この年は火星が地球に最接近した年で、2機の火星探査機を打ち上げることになった。まず、5月8日に「マリナー8号」を打ち上げたが、発射5分後に激しい振動に襲われ制御に失敗し墜落してしまった。続く「マリナー9号」は、5月30日に打ち上げられた。これは11月13日に火星周回軌道に到着し、地球以外の惑星を回る軌道に乗った最初の宇宙機となった。これにより、火星表面から約1200km以内の軌道上から、大気の組成や表面を調査するとともに、衛星フォボスとダイモスの探査を行い、それにより大気中に水素と酸素の原子があることが分かり、また大気の循環パターンのデータなども収集できた。
V.初の火星ランダー(着陸船)
火星が地球に最接近した1971年には、ソ連も2機の探査機を火星に送ることを計画していた。そのとき打ち上げられたのが「マルス2号」と「マルス3号」である。2号は5月19日、3号は5月28日に打ち上げられたのだが、火星到達は3号の方が早く、11月2日に火星周回軌道に達し、続いて2号が11月27日に火星周回軌道に入った。どちらも火星の大気と表面の観測を目的としており、着陸用のカプセルを搭載していたが、2号のカプセルは火星に墜落してしまった。しかし、3号は12月に初めて着陸カプセルを火星表面に軟着陸させることに成功し、そのカプセルが人類初の火星ランダー(着陸船)となった。このカプセルには、温度・気圧を計測するセンサー、大気の化学組成を調べる質量分光計、風力計、火星表面の化学的物理的性質を測定する装置が備えられており、表面付近の火星の状態がわかった。これには2台のテレビカメラも備えられていたが、画像送信後20秒で通信が途絶えてしまい、何らかの情報のある映像は送られなかった。その後、アメリカのマリナー探査機の成功に対抗して、1973年に4機の探査機を火星に送った。その第1弾は「マルス4号」である。7月21日に打ち上げられ、翌年2月10日に火星に到達したが、火星周回に失敗し、2200km離れたところを通過しただけであった。続いて「マルス5号」が7月25日に打ち上げられ、74年2月12日に火星に達し、火星周回軌道に乗って数日間稼動し、数枚の写真を撮影した。次は「マルス6号」である。8月5日に打ち上げられ、74年3月12日に火星到達、周回軌道に乗り、着陸カプセルの軟着陸にも成功した。しかし、着陸1秒後に通信が途絶えたため、表面のデータを得ることはできなかった。ただ、大気突入中に大気のデータを収集し、アルゴンの量が多いことを報告している。最後は8月9日に打ち上げられた「マルス7号」である。74年3月9日に火星に到達はしたものの、火星周回軌道に乗れず、着陸カプセルも投下はしたが火星をはずれてしまった。
W.バイキング計画
バイキング計画はアメリカにおける火星探査のピークであった。バイキングは軌道を周回するとともに、火星表面に着陸して探査するように設計されていたため、オービター(軌道船)とランダーを備えていた。1975年8月20日に「バイキング1号」が、同年9月9日に「バイキング2号」が打ち上げられた。そして、1号が76年6月19日に、2号が同年8月7日に火星軌道に到達し、1号ランダーが7月20日に、2号ランダーが9月3日に火星へ軟着陸した。当初の計画では、ランダー着陸後90日間継続する予定であったが、オービター、ランダーとも設計寿命をはるかに超えて稼動し、バイキング計画が終了したのは、1983年5月21日のことであった。その甲斐もあり、バイキング計画では大きな成果があった。まず、オービターとランダーからの画像は合わせて5万5000枚を超え、火星表面の97%の地図の作成が可能となった。さらに、火星の気候についても詳しいことが分かった。年2回のペースで気圧が変化すること、そしてその原因は大気の主成分である炭酸ガスで、四季による温度変化により、蒸発と氷結を繰り返していること、火星表面を吹く風は予想よりも低速で、時速120kmを超えることはなかったことなどである。しかし、バイキング計画の最大の目的である火星の生命を探ることに関しては、搭載された3種の生物学試験機器によっても、生物学的反応があったとも、なかったとも断言できない実験結果であった。とはいうものの、バイキング計画により火星の解明が飛躍的に進んだことは疑いのないことである。
X.その後の火星探査
1988年、ソ連が7月7日に「フォボス1号」を、7月12日に「フォボス2号」を打ち上げた。しかし、フォボス1号は火星へと向かう途中で地上の管制官の人為的ミスにより通信が途絶してしまった。フォボス2号は2月1日に火星を回る楕円軌道から、火星の大気と構造のデータを収集し地球に送信を開始したが、その後原因不明のトラブルが発生して通信が途絶してしまい、失敗に終わった。1992年9月25日にアメリカが「マーズ・オブザーバー」を打ち上げた。この目的を集約すると、
● 全火星規模で、表面物質の元素と鉱物学的性質を確定すること
● 全火星規模で、その地形と重力場を明らかにすること
● 磁場の性質を立証すること
● 季節の全サイクルを通じて、揮発性物質および塵の、時間的空間的な分布、多寡、発生原因、滞留場所を確定すること
● 大気循環の仕組みと状態を探求すること
の5項目になる。最も期待されたのが、火星に水を見つけることだったが、火星周回軌道に入るまえに通信が途絶し、回復することはなかった。それから4年後の1996年11月6日にアメリカは「マーズ・グローバル・サーベイヤー」を、12月4日には「マーズ・パスファインダー」を打ち上げた。これは火星からきた隕石中に原始的な生命の痕跡を発見したという発表がなされた後で、火星への関心が高まった中での打ち上げだった。マーズ・グローバル・サーベイヤーは1997年9月に火星に到着し、それから1年半をかけて火星周回軌道に入り、1999年3月から、観測を開始した。レーザー高度計によって、地形の高低差も精密に測定することができ、バイキング探査機により火星の地形の全体像は明らかになってはいたが、より詳細な地形が明らかになった。マーズ・パスファインダーは1997年7月4日に火星に軟着陸し、積載されていた「ソジャーナ」と名付けられたローバー(移動車)が着陸地点の周囲を移動し、岩石の分析などを行った。2001年4月7日に「マーズ・オデッセイ」が打ち上げられた。同年10月に火星に到着し、2002年2月から観測を開始している。マーズ・オデッセイは火星表面の化学組成や地下の氷の存在などを調べることを目的としている。
●火星探査年表
打ち上げ年月日 |
探査機名 |
所属国 |
主な結果 |
1960・10・10 |
マルス |
ソ連 |
打ち上げ失敗 |
1960・10・14 |
マルス |
ソ連 |
打ち上げ失敗 |
1962・10・24 |
マルス |
ソ連 |
周回軌道失敗 |
1962・11・1 |
マルス1号 |
ソ連 |
近接接近 |
1962・11・4 |
マルス |
ソ連 |
周回軌道失敗 |
1964・11・5 |
マリナー3号 |
アメリカ |
周回軌道失敗 |
1964・11・28 |
マリナー4号 |
アメリカ |
火星表面近接撮影 |
1964・11・30 |
ゾンド2号 |
ソ連 |
通信途絶 |
1965・7・18 |
ゾンド3号 |
ソ連 |
通信試験 |
1969・2・25 |
マリナー6号 |
アメリカ |
フライバイ |
1969・3・27 |
マリナー7号 |
アメリカ |
フライバイ |
1969・3・27 |
無名 |
ソ連 |
打ち上げ失敗 |
1971・5・8 |
マリナー8号 |
アメリカ |
墜落 |
1971・5・19 |
マルス2号 |
ソ連 |
ランダ―墜落 |
1971・5・28 |
マルス3号 |
ソ連 |
ランダ―着陸 |
1971・5・30 |
マリナー9号 |
アメリカ |
初の火星人工衛星 |
1973・7・21 |
マルス4号 |
ソ連 |
周回軌道失敗 |
1973・7・25 |
マルス5号 |
ソ連 |
人工衛星、数日間稼動 |
1973・8・5 |
マルス6号 |
ソ連 |
軟着陸成功後、 通信途絶 |
1973・8・9 |
マルス7号 |
ソ連 |
周回軌道失敗 |
1975・8・20 |
バイキング1号 |
アメリカ |
1982年 11月まで運用 |
1975・9・9 |
バイキング2号 |
アメリカ |
1980年 4月まで運用 |
1988・7・7 |
フォボス1号 |
ソ連 |
通信途絶 |
1988・7・12 |
フォボス2号 |
ソ連 |
通信途絶 |
1992・9・25 |
マーズ・オブザーバー |
アメリカ |
周回軌道失敗 |
1996・11・6 |
マーズ・グローバル・ サーベイヤー |
アメリカ |
現在稼動中 |
1996・12・4 |
マーズ・ パスファインダー |
アメリカ |
ローバーによる調査 |
2001・4・7 |
マーズ・オデッセイ |
アメリカ |
現在稼動中 |
4.テラフォーミング
これまで、火星探査の歴史を述べてきたが、こうした火星探査をしているうちに、火星環境を地球のそれと同じように改造しようという議論が出現した。それがテラフォーミング論である。この提唱者であるカール・セーガンによると、テラフォーミングにはおよそ以下に挙げる4つの条件が必要である。
@ 平均気温を現在の−58℃から40〜60℃上昇させる。
A 地表の大気圧を地球とほぼ同じ1000hPaまで高める。
B 大気の成分を今の地球大気に近いものにする。
C 地表に降り注ぐ有害な紫外線をできる限り減らす。
これらの条件は互いに連関しており、1つの条件を満たせば他の条件が達成しやすくなる。そこで、段階に分けてテラフォーミングの過程を見ていくことにする。
T.第1段階
火星の現状でまず問題となるのは、気温の低さである。火星は地球より1.5倍も太陽から離れており、太陽光が地球の43%しか当たらないので、地表の平均気温が−58℃、最低気温ともなると−125℃という極寒の世界である。これでは生命は存在することができない。そこで、火星テラフォーミングの第1段階として、火星の気温を上昇させることが必要である。それは、地表に吸収される太陽エネルギーの量を増やすこと、温室効果ガスを増やすことで解決される。具体的な方法として、以下の方法が挙げられる。
・ 巨大鏡を利用する方法
アルミホイルよりも薄い巨大な鏡を火星近くの宇宙空間に設置し、太陽の光を集めて火星の極冠の氷を溶かす。すると、大気中に水蒸気と二酸化炭素が増加し、その二酸化炭素の温室効果により火星の気温が上昇する。コストを考えると不可能という見解もあるが、現在の打ち上げ技術を考慮すると、その計画自体は決して不可能とは言えないので、最も実現可能性が高い方法と言える。
・ 地下核爆弾を利用する方法
火星には炭酸塩堆積物が存在するとされており、それを地下核爆弾によって液化して二酸化炭素を取り出し、大気を作り、また同様に氷を溶かして海を作る。しかし、放射性物質の拡散という危険性もあり、後に移住することを考えると適当な方法とは言えない。また、炭酸塩が他の種類の岩石と混じりあい、分散した形で存在しているとすれば、核掘削という方法で地殻から多量の大気成分を取り出すことはできない、という問題もある。
・ 隕石、彗星を利用する方法
隕石や彗星を火星にぶつけて揮発性物質を得る。研究によると、半径1kmの彗星100万個で1気圧の大気が作り出せると言われている。また、シャトルを使って揮発性物質を運搬するという案もあるが、1気圧を作り出すには10万tの揮発性物質が必要で、最も運搬力のあるものでもかなりの回数宇宙空間を往復する必要がある。したがって、どちらにせよ、あまり現実的ではない。
・ 炭素質物質を利用する方法
炭素質物質は暗黒色のため太陽光を吸収しやすいので、それを粉状にして火星表面に撒き散らし、太陽光の吸収率を上げることで、火星の気温を上昇させるのである。また、同様の方法として、表層の下の黒い層を露出させる方法、暗色に近い針葉樹林を植える方法も考え出されているが、下層を露出させるにも相当の力が必要であり、それこそ核兵器レベルの破壊力を持ったものが必要となる。また、針葉樹林を植えるにもまず、植物の生育できる環境が作り出されていることが前提なので、手段と目的が逆転することになり、やはり、粉状炭素質物質を散布する方法と比べると実現可能性が低い。しかし、その方法ですら、炭素物質が火星を吹く風に吹き飛ばされてしまう、という指摘がある。
・ 温室効果ガスを利用する方法
上記の方法も多かれ少なかれ、温度上昇によって二酸化炭素を増やして、その温室効果に期待する点では、温室効果ガスを利用する方法と言えるが、ここでいうのは、直接火星の大気中にフロンのような人工温室効果ガスを持ち込むという方法である。研究では、火星大気の100万分の0.06〜1(0.06〜1ppm)のフロンを加えると温度が最大40℃上昇するという計算もある。ただ、火星のような紫外線が透過している大気中では、フロンはわずか数日で破壊されてしまうという欠点もある。それに、そのままのフロンでは、後々酸素ができて、オゾン層が作られるようになった時に、それを阻害してしまうことが考えられる。
以上のように様々な方法が考え出されてはいるが、実現可能なのはごく一部と言える。
さて、これまで気圧に関してあまり言及してこなかったが、気温と気圧には、気温が上昇すれば気圧も上昇し、気圧が上昇すれば気温も上昇するという関係がある。よって両者は並行的に進行するので、別々に考える必要はない。それでは、どの程度気温を上昇させれば気候が安定するのだろうか。ここで興味深い研究結果がある。クリス・マッケイとロバート・ズブリンの研究によると、火星の南極の温度をわずか4℃上昇させて持続すれば、極地に一方的な温室効果の進行を起こすことができ、結果として極冠の蒸発をもたらすことができるそうだ。極冠が蒸発するにつれ、惑星規模で気温と気圧が上昇し、それにより表土に閉じ込められている膨大な量の二酸化炭素の放出を引き起こす。すると、気温は数10度上昇し、気圧は数100hPa単位のものに変わる。このように、目標である40〜60℃の温度上昇を全て人工的に行わなくてもよく、実現も不可能とは言えなくなった。
U.第2段階
こうして気温と気圧の上昇に成功したら、次に必要となるのが酸素である。火星の大気中には酸素は0.02%以下の割合でしか存在していない。そこで、藻類を利用して酸素濃度を上げる方法が考えられる。火星の気温が上がったことで、水が液体状態を維持できるようになり、そこに藻類を生やすことができるというわけである。火星における水の存在は、研究により一部は北極の永久極冠として残っているが、大半は地下に浸み込んで凍りついているらしいことがわかっており、実現の可能性も比較的高いと言える。ただ、利用する藻類は地球環境に適応しきったものでは、火星環境で生育できるか分からないので、遺伝子工学的研究を重ね、火星でも生育できるように品種改良されたものを用いることが必要となる。また、藻類以外の生命体繁殖を利用した方法もある。火星の地下に水の氷が存在するらしいことは先にも述べたが、それを溶かして、塩分調節のために大量の塩を持ち込んで人工の海を作り、その中に酸素や日光を必要としない生命体を放して繁殖させる。その生命体の中に酸素を作り出すものも入れておくと、酸素が充分に海に溶けて飽和状態になり、やがて大気へと流出しはじめる。さて、酸素濃度を上げることは生命にとって必要なのだが、同時にそれまで火星の温暖化を担っていた二酸化炭素の割合を減らすことにもなる。すると、火星が再び寒冷化するのではないかという問題が発生する。そのときには、温室効果ガスを放出したり、巨大鏡を増設したりして温室効果を助長させることが必要となる。
V.第3段階
大気中の酸素濃度を上昇させることで、酸素は紫外線に当たって化学反応を起こし、オゾン層を作り出して有害な宇宙線を地表に届かなくさせるようになる。すると、人間は防護服なしで火星の大地を歩くことができ、テラフォーミングも完了と言える。しかし、この時点で火星に存在している生命は、人間を除くと酸素供給役の藻類だけである。つまり、生活に必要な物資は地球に依存せざるを得ない状況ということである。火星を第2の地球と呼べるようになるには、やはり、地球から独立して生活できる環境を整えなければならないだろう。そこで、閉鎖環境を作り出すため、高等生物を火星に放すことが第3段階といえる。最初は生産者である植物を放す。その中でもケナフやユーカリといった成長の早いものが望ましい。それから順次、種類を増やしていく。次は小動物である。しかし、小動物とはいっても始めは小さな虫が中心である。こうして、植物がエネルギーを生産し、虫がそれを食べ、代謝をし、その死骸は植物に吸収されるという食物連鎖を基礎とした火星生態系が確立する。そして、最後に脊椎動物を放す。これは、言うなれば地球での生物の進化過程を短時間に凝縮したものである。そして、最終的に地球からの物資に依存しない閉鎖環境を作り出して、テラフォーミングは完成する。
5.パラテラフォーミング
上記したテラフォーミングの方法は、完全に地球環境を再現できる一方、実現までに気の遠くなるような時間を要する。人間が特別な防護服を身につけなくても生活できる程度の最低条件は、火星の大気が地球にそっくりになるずっと以前に整うものの、火星の大気が地球にそっくりになること自体には1000〜1万年かかると言われている。そこで、人工ではあるが、ある程度自立的な環境コントロールの能力を持った居住空間を作る「パラテラフォーミング」という手法が考えられた。これを考え出したのは、イギリスのロンドン大学のリチャード・テイラーである。その方法とは、火星の地表を一種の天井構造である天蓋で覆うというものである。テイラーはその巨大な居住空間を「ワールドハウス」と名付けている。ワールドハウスの天蓋は高さ1〜3km、内部には川が流れ、湖もある。空気は循環し、気象も生じるので様々な植物が生育し、動物も生活できる。しかし、完全なテラフォーミングとは違って、密閉空間なので最小限の管理をしなくてはならない。このように、パラテラフォーミングは本当のテラフォーミングではないが、いくつかの優れた点があることが認められる。
まず、大気量がはるかに少なくてよいという点である。完全なテラフォーミングでは、火星を1気圧の大気で覆うには、地球の大気の4分の3もの量が必要になる。これは火星の重力が地球の3分の1しかないことが原因である。重力が小さいと大気がより上空に広がるので、地球より小さい火星であってもそれだけの量が必要となるのである。それに対し、パラテラフォーミングでは必要な大気は地球の10分の1で済む。面積が小さければさらに少なくてもよい。それ故、単純に計算しても完全なテラフォーミングの10分の1の時間でできる。そして、また別の利点として経済性が挙げられる。ワールドハウスはモジュール方式という、部分的な構造をいくつもつないでいく方式で、天蓋をもつ多数のモジュールが組み合わされる。すると、人間は最初のモジュールが完成すれば、すぐにそこに生活できるので、その時点からパラテラフォーミングの投資を回収することができる。完全なテラフォーミングでは、惑星全体が生存可能にならなければならないのでこの違いは大きい。
だが、最も優れた点は、現在の科学や工学の技術で実行できることである。高さ1〜3kmの天蓋を支えるのは、超高層ビルや鉄塔である。地球の物理環境で考えれば少し驚くかもしれないが、火星の重力は地球の3分の1であるため、強度もずっと小さくて済む。従って決して困難な仕事ではない。実際、1960年代にイギリスのウィレム・フリッシュマンという建築家が、地球上に850階建て、高さ3.2kmの超高層ビルを建設しようと提案したことがあり、フリッシュマンによれば当時の技術でも作れるものだったという。とすれば、当時よりはるかに優れた建築材料と設計技術がある現在なら、重力の小さい火星でそうした超高層ビルを建てることも充分可能といえるのである。
6.おわりに
火星に関する研究は日々刻々と進み、もはや人類が火星の大地に立つことも時間の問題となっている。 そうなれば、現在抱えている人口増加に関わる様々な問題も解決できるようになるだろう。しかし、ひとつ心に留めておかなければならないことがある。地球は今、人間の活動により、地球温暖化をはじめとする惑星規模の環境破壊に悩まされている。それは、人間が利便あるいは利益を優先させた結果である。火星への移住を考える前に、そのことを反省しなければならない。そうしなければ、火星も今の地球のような問題に悩まされるようになるだろう。問題は火星にとどまらない。もっとこの先科学が進歩して、他の惑星のテラフォーミングも可能となったとき、それは、全惑星の問題となる。住んでいる惑星がだめになったら、他の惑星に移住すればいい、などという考えは決して持ってはならない。なぜ火星に移住するのか、あるいは移住しなければならなくなったのか、そのことを問い続けることが必要である。
<参考文献>
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中村浩美『火星|雑学ノート 人類は赤い星を目指す―火星ミッション最前線』
ダイヤモンド社 1997年
島崎達夫『火星と人類』 新日本出版社 1999年
ロバート・ズブリン[著] 小菅正夫[訳]『マーズ・ダイレクト NASA火星移住計画』
徳間書店 1997年
『ムー謎シリーズS 火星の謎 NASAがひた隠す「赤い星」の真実』 学研 2001年
ヴァルター・ハイン[著] 赤根洋子[訳]『火星 人面岩はなぜできたか』 文藝春秋 1996年
小森長生『火星の驚異 赤い惑星の謎にせまる』 平凡社 2001年
河島信樹 小池惇平『図解火星探検 火星人から生命探査まで』 PHP研究所 1997年
<参照URL>
テラフォーミング(惑星地球化計画)
http://spaceinfo.jaxa.jp/note/kouso/j/kou104_tera2.html
テラフォーミングの考え方
http://contest.thinkquest.jp/tqj2000/30307/terapho.html
テラフォーミング
http://www.rinku.zap.ne.jp/sanson/hp/space/tera.html
マーズウィーク★2003 テラフォーミング
http://www.miraikan.jst.go.jp/mars/08_contents.html
火星:火星探査の歴史
http://e-zukan.cplaza.ne.jp/zukan/universe/solar_system/mars/08/
Mars Habitation
http://www.alloe.jp/mars/index.html
Mars Odyssey
http://www33.ocn.ne.jp/^inetwada/odva01.htm