「熱力学」シラバス
基本情報
- 講義名
- 2年生向け「地球惑星物理学基礎II熱力学」2単位
- 曜日と時間
- 水曜3限 (13:00-14:30)
- 講義日程
- 今のところ、全学的な休講日以外に休講を予定しているのは、5/25 です。
休講・休日の補講をしなければ、全部で 13 回の講義があります。
なお、休講の予定は変わる可能性もあるので、その都度掲示等に
注意してください。場合によっては、補講の可能性もあります。
- 講義内容と目的
- 地球科学者向の熱力学の基礎的な講義をする。
熱力学は地球科学では主として2つの局面で使われる。
- 地球のさまざまの活動のエネルギー源は広い意味での「熱」で
あることが多い。そのような熱がどのように地球をめぐっているか、
あるいはどのようにして地球で起っている運動に
転化されるかを記述する手段として用いる。
いいかえると、地球を「熱機関」としてとらえたときの記述の手段だ。
- 物質の性質を巨視的に記述する手段として用いる。
たとえば、状態方程式や相図を定量的に記述する。
それらを用いて、物質の状態変化を記述する。
こういった手段として、地球科学にとって熱力学は基本的だ。
したがって、地球物理学、地球化学、岩石学などで広く用いられている。
そこで本講義でやることは
- 熱力学の論理の骨格を学ぶ
- 熱力学は多変量の関係式を駆使した数学を多用するので、
そのテクニックを学ぶ
- 地球科学で熱力学がどのように使われるのか、その簡単な
応用を学ぶ
である。
- 担当教員
- 吉田茂生(居室:E121, 内線:4580, e-mail:yoshida@eps.nagoya-u.ac.jp)
- 担当 TA
- 堀久美子(居室:E125, 内線:3014, e-mail:hori@eps.nagoya-u.ac.jp)
- 評価の方法
- 出席と試験とレポート(宿題)と講義時間内の演習問題を元に決めます。
出席は1回10点に換算し(遅刻早退は減点)、レポートは
問題によりますが、だいたい1題10点満点で採点します。
この2つが主要な評価の元で、試験(これも1問10点)と
講義時間内の演習問題をこれに加える形になります。
それらの合計点を元に評価します。
だいたいの目安は、8割以上が優、6割以上が良、4割以上が可、
4割以下が不可、です。ただし、授業態度なども加味します。
このように、基本的には日常点で評価するので、
ふだんさぼっておいて講義の最後になって何とかして下さいと
いうのは認められません。特例として、すでに熱力学の知識が
十分にある者は、受講しなくても優を付けます。
第1回目に私に申し出て下さい。
十分な知識があるかどうか口頭試験をします。
- レポート
- 基本的に毎回、練習問題を出します。翌週の月曜日午後1時までに解いて、
レポートを作成し、E121 号室の前の箱に入れておいてください。
レポートということは、問題に対して、単に最終的な答えが
合っていれば良いということではなく、解く過程や論理の流れや書き方も
評価の対象になります。提出期限に遅れたものは減点とします。
また、レポートには、講義に対する質問や要望も適宜書いて下さい。
もっとも、疑問はその場で解決する方が良いので、質問は
講義時間内にしてくれた方が望ましいのではありますが。
講義の内容
本講義は、以下の教科書の 2 ― 6 章を利用して行う。
だいたい 1 つの章を 2 回で終わらせるくらいのペースを考えている。
その中で、地球科学への応用とか、偏微分の数学に慣れることなども入れていくので、
結局 13 回程度になるであろう。理学部の「講義概要では」
Part1, Part2, Part3 と独立に3つの部分があるようにを書いたが、それらを
独立にやると抽象度の高い講義になってしまうので、適当に混ぜて講義する。
- Introduction ― 熱力学の重要性
- 熱力学の設定
熱力学がどういう形式的な設定の元に論理が展開されているかを整理する。
- 熱力学第1法則
エネルギー保存則を学ぶ。エネルギー保存則は、平衡であるかどうかにかかわらず
いつでも成り立つ法則なので、応用範囲は広い。地球においてエネルギーが
どのようにめぐってゆくかも概説する。
- 熱力学第2法則
熱力学の根幹をなす法則。熱機関の効率という概念が出てくると同時に、
絶対温度の定義を学ぶ。地球においてエネルギーの効率がどう考えられるかの
解説も行う。
- エントロピー
熱力学第2法則に伴って導入される熱力学の基本概念であるエントロピー
を学ぶ。
- 熱力学関係式
状態方程式や相図が扱えるようになる数学的枠組みを学ぶ。偏微分の
関係式を自由に扱えるようになることが目標。地球惑星科学でよく出てくる
物質にその結果を応用する。
教科書
佐々真一「熱力学入門」(共立出版 2000 年)を用いる。
この教科書は私が学部生の教科書に求めている以下の条件を珍しく満たしている。
条件3のために少し抽象度が高いのだが、できるだけ講義で補うようにしたい。
- 薄い(あまり欲張ると消化不良になる。また、本を読み切れないので
挫折感が残る)
- 難しい数学を使っていない(2、3年生用としては、数学が難しいと
すぐに挫折する。数学に振り回されて物理的な本質がわからなくなる。)
- 物理としての論理構成がわかりやすい(上の2つの条件を満たす教科書は、
易しく身近に感じさせようとするあまり、学問体系の体系性が
見えなくなっていることが多い。この本はそうではない。)
参考書
熱力学の教科書として私が読んだことがあるものをいくつか紹介しておく。
いろいろな教科書を比較したわけではないので、偏りがある。
- 朝永振一郎 (1979)「物理学とは何だろうか 上下」(岩波新書 黄85,86)
- 題名は物理学全般について語っているように見えるが、実は熱力学と
気体分子運動論の成立過程が中心になっている。学問の成立の歴史的
苦闘を知りたい方はどうぞ。ただし、歴史的な紆余曲折が書かれているので、
学問の論理をまとめるのには向かない。
- 小出昭一郎(1980) 基礎物理学2 熱学 (東京大学出版会)
- 私が学生の時に勉強に使ったもの。熱力学・統計力学の入門的な
スタンダードな教科書である。ただし、今になってみると、分子的な
イメージや理想気体の例などを多用している分、熱力学の論理がわかりにくい
意味がある。しかし、この教科書の考えは逆で、「まえがき」にあるように、
分子のイメージがないと熱力学は抽象的でかえってわかりにくいのでは
ないか、という考え方に立っている。どっちが良いかはむずかしい。
私は熱力学の論理の方を大事にしたい。
- 久保亮五(1961) 大学演習 熱学・統計力学(裳華房)
- 演習書の定番。演習問題の充実もさることながら、演習の前に基礎事項を
まとめてある部分が非常にコンパクトで要領が良く、一度勉強した後で
知識を整理するのに適している。