「熱力学」シラバス


基本情報

講義名
2年生向け「熱力学基礎 (2007 年度入学者:必修)」「地球惑星物理学基礎II熱力学 (2006 年度以前入学者)」2単位
曜日と時間
金曜2限 (10:30-12:00)
講義日程
今のところ、休講の予定はありません(ひょっとして 11/14, 1/16 が休講になるかも?)。 休講・休日の補講をしなければ、全部で 14 回の講義があります。 なお、休講の予定は変わる可能性もあるので、その都度掲示等に 注意してください。場合によっては、補講の可能性もあります。
講義内容と目的
地球科学者向の熱力学の基礎的な講義をする。 熱力学は地球科学では主として2つの局面で使われる。 こういった記述をするための手段として、 地球科学にとって熱力学は基本的だ。 したがって、地球物理学、地球化学、岩石学などで広く用いられている。 そこで本講義でやることは である。
担当教員
吉田茂生(居室:理学館 203-2, 内線:4580, e-mail:yoshida@eps.nagoya-u.ac.jp)
担当 TA
河村恵里(居室:理学館 203-4, 内線:3555, e-mail:eri@eps.nagoya-u.ac.jp)
評価の方法
試験 (40%)、出席 (30%)、平常演習点 (30%) により決めます。 平常演習点は、レポート(宿題)が主で、講義時間内の演習問題を やればそれも加えて決めます。レポートは問題によりますが、 だいたい1題10点満点で採点します。 だいたいの目安は、8.5割以上が優、7割以上が良、5割以上が可、 5割以下が不可、です。ただし、授業態度なども加味します。
このように、半分以上は日常点で評価するので、 ふだんさぼっておいて講義の最後になって何とかして下さいと いうのは認められません。特例として、すでに熱力学の知識が 十分にある者は、受講しなくても優を付けます。 第1回目に私に申し出て下さい。 十分な知識があるかどうか口頭試験をします。
レポート
基本的に毎回、練習問題を出します(と思っていますが、今年度は 2回に1回くらいにするかもしれません)。翌週の火曜日午後7時までに 解いて、レポートを作成し、理学館 203-2 号室の前の箱に入れておいてください。 レポートということは、問題に対して、単に最終的な答えが 合っていれば良いということではなく、解く過程や論理の流れや書き方も 評価の対象になります。提出期限に遅れたものは減点とします。 また、レポートには、講義に対する質問や要望も適宜書いて下さい。 もっとも、疑問はその場で解決する方が良いので、質問は 講義時間内にしてくれた方が望ましいのではありますが。

教科書

教科書は2冊用いる。講義の主要な部分は、このうちの2の方に基づいているので、 2は必ず買ってください。

[教科書1] 岡部拓也「熱力学の基礎」(丸善 2002 年)

最初の数回の多変量の数学の基礎を学ぶ部分で用いる。そこ以外の骨格の部分も ミクロな視点を利用した独特のやり方で論理展開をしていて面白いのだが、 本講義ではマクロな論理に徹した教科書2の方を用いることにする。 興味があれば買って損はないと思うが、実は著者が以下のホームページで 原稿(最新版ではない)を公開しているので、本講義のためだけなら 必要な部分をそこからダウンロードしてくれば十分である 買わない人はこのうちで「状態方程式」「微分公式」「膨張率と圧縮率」の 部分を各自ダウンロードして印刷すること。
[でも、先日確認したら、ホームページを移動中みたいで現在は見られなかったので、 必要に応じて、コピーを配布することにする]

http://jaguar.eng.shizuoka.ac.jp/lecture/chap/index.html 「熱学の基礎」岡部拓也
なお、教科書を買った人も、著者が正誤表を
http://jaguar.eng.shizuoka.ac.jp/lecture/thermo.html 「熱学の基礎」岡部拓也
で公開しているので、参考にされたい。

[教科書2] 佐々真一「熱力学入門」(共立出版 2000 年)

熱力学の骨格の説明にはこの教科書を用いる。 この教科書は私が学部生の教科書に求めている以下の条件を珍しく満たしている。 条件3のために少し抽象度が高いのだが、できるだけ講義で補うようにしたい。

  1. 薄い(あまり欲張ると消化不良になる。また、本を読み切れないので 挫折感が残る)
  2. 難しい数学を使っていない(2、3年生用としては、数学が難しいと すぐに挫折する。数学に振り回されて物理的な本質がわからなくなる。)
  3. 物理としての論理構成がわかりやすい(上の2つの条件を満たす教科書は、 易しく身近に感じさせようとするあまり、学問体系の体系性が 見えなくなっていることが多い。この本はそうではない。)

講義の内容

本講義は、上の教科書1の 2 ― 4 章(これは多変量の数学の基礎を学ぶ部分)と 教科書2の 2 ― 6 章(これは熱力学の骨子を学ぶ部分)を利用して行う。 だいたい 1 つの章を教科書1は 1 回、教科書2は 2 回で終わらせるくらいの ペースを考えている。そうすると、結局 14 回程度になるであろう。
  1. Introduction ― 熱力学の重要性
  2. 状態方程式(教科書1の 2 章、教科書2の 2 章)
    圧力、温度、状態方程式という概念をとりあえず導入して、 物質の状態の記述法の基礎を学ぶ
  3. 偏微分の使い方(教科書1の 3 章)
    多変量関数の取り扱い方の数学的な基礎を学ぶ。
  4. 熱膨張率と等温圧縮率(教科書1の 4 章)
    偏微分の使い方の状態方程式への応用。
  5. 熱力学の設定(教科書2の 2 章)
    これから学ぶ熱力学の骨子を説明するための形式的な設定の整理。
  6. 熱力学第1法則(教科書2の 3 章)
    エネルギー保存則を学ぶ。エネルギー保存則は、平衡であるかどうかにかかわらず いつでも成り立つ法則なので、応用範囲は広い。
  7. 熱力学第2法則(教科書2の 4 章)
    熱力学の根幹をなす法則。熱機関の効率という概念が出てくると同時に、 絶対温度の定義を学ぶ。
  8. エントロピー(教科書2の 5 章)
    熱力学第2法則に伴って導入される熱力学の基本概念であるエントロピー を学ぶ。この概念を使うと、第2法則をスマートに表現することができる。
  9. 熱力学関係式(教科書2の 6 章)
    派生する概念として、自由エネルギーの概念を導入すると同時に、 状態方程式や相図が扱えるようになる数学的枠組みを学ぶ。偏微分の 関係式を自由に扱えるようになることが目標。
  10. これまでのまとめ(熱力学の骨格部分)
    ここからは教科書を離れる。まず、ここまでの整理を行う。一度熱力学の 骨組みを勉強した後では、エントロピーを天下りに導入して論理を 整理し直すのがわかりやすい。
  11. 相転移(教科書1の 8 章、教科書2の 6 章)
    地球科学への応用として重要な相転移に関する熱力学関係式を学ぶと同時に、 マントル対流などへの応用を議論する。
  12. 熱力学の応用(もし時間があれば)
    星への応用、もしくは環境への応用

参考書

熱力学の教科書として私が読んだことがあるものをいくつか紹介しておく。 いろいろな教科書を比較したわけではないので、偏りがある。

小出昭一郎(1980) 基礎物理学2 熱学 (東京大学出版会)
私が学生の時に勉強に使ったもの。熱力学・統計力学の入門的な スタンダードな教科書である。ただし、今になってみると、分子的な イメージや理想気体の例などを多用している分、熱力学の論理がわかりにくい 意味がある。しかし、この教科書の考えは逆で、「まえがき」にあるように、 分子のイメージがないと熱力学は抽象的でかえってわかりにくいのでは ないか、という考え方に立っている。どっちが良いかはむずかしい。 私の講義では熱力学の論理の方を大事にしたい。
久保亮五(1961) 大学演習 熱学・統計力学(裳華房)
演習書の定番。演習問題の充実もさることながら、演習の前に基礎事項を まとめてある部分が非常にコンパクトで要領が良く、一度勉強した後で 知識を整理するのに適している。ただし、熱力学は1/3くらいで、残りは統計力学。
清水明 (2007) 熱力学の基礎(東京大学出版会)
最近出た本で、論理構成的にはきわめて綿密に美しく書かれている。 それというのも、エントロピーという量を最初に天下り的に持ってきているからである。 たしかに論理構成的にはそうするのがうまくいくので、私の講義でも chapter 10 で いったん勉強したものを復習するときにはそのようにしている。しかし、 初学者にいきなりそれをやるのには私は抵抗があるから、これを教科書としては使わない。 とはいえ、著者は、初学者でもこのスタイルが良いと信じていて、これを 大学1年生の教科書に使っているらしい(だから結構ていねいに書かれている)。 いずれにせよ、数学的な論理が好きな人にはこれが向いているし、いったん一通り勉強した後の 復習にも良い。
岡田功(1969) 初歩者のための熱力学読本(オーム社)
とくに化学への応用を念頭に置いて書かれた熱力学の本。手軽に読めるように 雑談ぽいことを織り混ぜながら書かれている。例も多い。ただし、その分、 論理的には弱い部分がいくらか見られる。細かいことを気にせず、 ざっと読むには良い本だが、じっくり読むのにはあまり向かない。
朝永振一郎 (1979) 物理学とは何だろうか 上下(岩波新書 黄85,86)
題名は物理学全般について語っているように見えるが、実は熱力学と 気体分子運動論の成立過程が中心になっている。学問の成立の歴史的 苦闘を知りたい方はどうぞ。ただし、歴史的な紆余曲折が書かれているので、 学問の論理をまとめるのには向かない。