CD 聴き比べ
Beethoven Symphony No.5 in C minor 「運命」

last update: 2005/04/25
言わずと知れた「運命」。4 種類手元にある。大きくタイプを分類するのには 第 1 楽章の演奏時間を見ると良い。

番号指揮者オーケストラ 録音年レーベル第1楽章の時間 (括弧内は最後の空白を含まない時間)
1Riccardo MutiThe Philadelphia Orchestra 1985EMI7 分 17 秒 (7 分 12 秒)
2Wolfgang SawallischRoyal Concertgebouw Orchestra 1991EMI (小学館 クラシックイン)7 分 54 秒 (7 分 50 秒)
3Herbert BlomstedtStaatskapelle Dresden 1977(? 記載なし)Deutsche Schallplatten (徳間 CD 文庫)8 分 02 秒 (7 分 58 秒)
4Otto KlempererPhilharmonia Orchestra 1959EMI8 分 58 秒 (8 分 51 秒)

第1楽章

まず演奏時間でテンポを見てみると、大きく3つに分かれる。(a) 高速バージョン(1)、 (b) 標準的速度バージョン(2,3)、(c) 低速バージョン(4)。これは聴いても 非常にわかりやすい違いである。Muti のは快速のきびきびしたもので、 深刻さは少ない。Klemperer のはゆったりしている。ただし、 フェルマータを大きく伸ばすような演奏ではなく、端正なものである。 Sawallisch と Blomstedt は堂々とした標準的な演奏で、私の耳には やっぱり標準的な速度のものが聴きやすい。お好み次第であろうが。

ところで、実はベートーベン自身の指示は「2分音符=108」なので、1分間に 108 小節 進むはずのものである。これは Muti のものに近くかなり速い。 Muti のものでさえ、1分間に 100 小節くらいなので、遅いくらいのものである。

2 と 3 の演奏はテンポの取り方が非常に似ているために、 私の程度に耳にはあまり違いがない。3 の方が少し音が柔らかく、 2 の方が少しシャープである。録音のせいかもしれない。

第2楽章

演奏時間(正確には CD の1トラックの時間)から言えば、1 が 9 分 54 秒、2 が 10 分 21 秒、3 が 11 分 17 秒、4 が 11 分 14 秒だから、 1 と 2 が速めのグループで、3 と 4 が遅めのグループということになる。 そこで速めのグループどうしと遅めのグループどうしを比較してみる。

速めの方はスマートで、私はこちらの方が好みである。 速めの Muti と Sawallisch を比べてみると、録音のせいかもしれないが、 Muti の音は明るくて牧歌的なのに対し、Sawallisch の方は低音まで よく響いているために音が分厚い。

遅めの方は当然粘った感じになる。しかし、かえって スタッカートが目立つので楷書で書いたような感じがはっきり出る。 3 と 4 の違いを挙げると、Blomstedt の方が強弱の付け方などが柔らかく スマートで、Klemperer の方が武骨な感じがする。

第3楽章

この楽章は A-B-A' の複合三部形式である。3 のみ A-B-A-B-A' という ふうにトリオから再び冒頭に戻るという演奏がなされている。 ただし、2度目の B では 140-160 小節目の反復がなされない。 私は反復をしない方があっさりしていて好みに合っているが、 いろいろ解釈があるのだろう。

テンポは、1,2 が速く、3 はそれより少し遅めで、4 は遅い。 速いもの (1,2) は浮き立つような感じが出てくるのに対し、 遅い方 (3,4) は決然とした行進といった印象が強くなる。

速めの Muti と Sawallisch を比べてみると、録音のせいかもしれないが、 Sawallisch の方が華やかに音が響いて好ましい。

第4楽章

この楽章は四部構成のソナタ形式である。1,4 では提示部が反復され、 2,3 では提示部の反復が省略されている。

テンポは 1,2,3 はそれほど変わらない。4 は例によって極めて遅く、 演奏時間は他の演奏の 2-3 割長い。それだけに 4 は、 アレグロであるにもかかわらず一音一音きっちり流さずに演奏するぞ! という気持ちが伝わってくる。とくに速いと一音一音がよくわからなく なりがちな低音部もしっかり聞こえてくる。

1,2,3 のテンポは似たり寄ったりなのだが、比べるとやはり 1 が少し速く 3 が少し遅い。第3楽章と同様、Sawallisch のものが一番音が華やかに響き いかにも最終楽章という感じになっている。Muti のはやはり録音のせいか 響きが少し薄い。

まとめ

4者4様の演奏で、そのときの気分次第なのではないかと思う。 私としては Sawallisch のがスマートで音が分厚く一番聴きやすい。 録音が一番新しくて音が良いせいもしれないが。

web ページを見てゆくと

いろいろとウェブページを見てみると、熱心なクラシックファンには 重い方が人気があるようで、Klemperer のは以下のような熱烈な解説を 作っちゃう人がいる。 Blomstedt や Sawallisch は、全集版を高く評価する人もいるようだ。 これに対し、Muti のは明るすぎてベートーベンらしくないと思われる せいか、今一つ熱心なファンがいないようだ(少なくとも日本語の ウェブページには)。これはこれで個性的だと思うのだが。
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