氷期・間氷期サイクルの基礎
last update: 2004/08/21
Milankovitch cycle
天体力学的変動による日射量変動の効果で重要なのは、以下の2つ。
- 赤道傾角 (obliquity) 項:赤道面と黄道面のずれが時間変化することから
発生する効果。高緯度地方の日射量の季節のコントラストに影響を与える。
obliquity は、約 4 万年(通常 41000 年と言われる)周期で、
22°〜 24°くらいの間で変化する。
- 気候的歳差項:離心率の変化と歳差運動と近日点の移動の組合わせで、
北半球の夏が近日点にあるか遠日点にあるかということが変化する。
結果として季節のコントラストの大小に影響する。この周期は
23000 年 と 19000 年である。この周期は、歳差の周期 26000 年が
離心率の変化の周期(10 万年、40 万年)などで変調されたと思えば良い。
日射量変動に 10 万年や 40 万年周期の変動はない。
どちらの効果も季節のコントラストに関わりがある。北半球で季節変化が
小さくなると氷が増えるとされている。というのは、
夏涼しいと氷が融けにくくなり、冬暖かいと湿潤になって雪が増えるからだ。
情報源
[本] 伊藤孝士 (2002) 「日射量変動の基礎理論」 in 熊澤・伊藤・吉田編
「全地球史解読」(東京大学出版会)
[本] Richard B. Alley (2000) 「The Two-Mile Time Machine」(Princeton University Press) 10. The Solar System Swing
10 万年周期の変動
80 万年前以降の変動は 10 万年周期である。これを出す方法はいくつか
考えられている。
何らかの非線形性
気候的歳差項には 2.3 万年周期と 1.9 万年周期があり、その2つを合わせた
時系列の envelope は 1/(1/1.9 - 1/2.3) = 10.9 万年周期で変動する。
これを何らかの非線型性で取り出せば良い。
Paillard (1998) のモデル
間氷期(i)→中間(g)→氷期(G)→間氷期(i)→…という3状態を
繰り返すサイクルであるとするおもちゃモデル。
この g 状態ではゆっくり氷床が成長してその間は日射に応答する
スイッチを切っておくことがポイント。G→i, i→g は、
それぞれ日射がある値を上回ったときと下回ったときに起こることにする。
すると、それらは比較的短い時間(気候的歳差の2万年程度)で起こることになる。
g 状態では、氷が十分成長するまで日射に応答しなくなる。十分成長すると
G 状態に遷移するものとする。氷が十分成長するには5万年程度の時間がかかるとし、
しかも日射量変動が少ない時期(10 万年周期の envelope の節の時期)に
氷床の成長が起きやすいようなモデルを作る。
すると、g→G は、i→g の7万年程度後で、かつ envelope の節の時期あたりに
起こるようになる。そのようにして、実際の気候変動を再現できるようになる
(しかしモデルにはいろいろなネジがある)。
情報源
[セミナー] 川田佳史 (名大 COE-PD) 論文紹介 (2006/06/16) :
Paillard, D. (1998) The timing of Pleistocene glaciations from a simple
multiple-state climate model, Nature, 391, 378-381.
時間変化の鋸歯状の非対称性
大きな氷床はゆっくり凍り速く融ける。その理由は、次のようなものであると
考えられている。それは
- 氷が断熱材になるため、氷床の底は暖まって融けやすくなっていること。
- 氷の重さで地面が下がることと、地面の応答が遅いこと。そのため
十分氷床が発達してから融け始めると、
- 地面が下がって高度が下がっている分、氷が融けるのが容易になっている。
- 地面が下がって周囲の水が流れ込みやすくなっており、その水の
流れが熱を奪って氷が融けやすくなっている。
である。
情報源
[本] Richard B. Alley (2000) 「The Two-Mile Time Machine」(Princeton University Press) 11. Dancing to the Orbital Band
氷期・間氷期サイクルと温室効果ガス
氷期・間氷期サイクルと大気中の温室効果ガスの量の変化は連動している。
以下で説明するように、気温と温室効果ガスの量との間には
正のフィードバックが存在することが考えられ、それが
気温と温室効果ガスの間の相関が高い原因であろう。
そして、天体力学的な日射量の変動という些細なことで、
気候変化が起こる原因なのでもあろう。
以下、各論:
- 水蒸気
- 「温暖になると湿潤になり、水蒸気による温室効果が増える」
という正のフィードバックがあるだろう。しかし、直接的な証拠は
堆積物にも樹木にも氷コアにも残らないので(もともとそれらのものは
水分を多く含んでいる)、過去の変動はあまりよくわかっていない。
- 二酸化炭素
- 氷コアの記録だと、たしかに氷期・間氷期サイクルと同期して変動している。
氷期最盛期で 200 ppmv くらい、間氷期で 270 ppmv くらい。
変化の理由はよくわかっていないが、海には大気中の 50 倍もの二酸化炭素が
あることから海が関与していると考えられる。正のフィードバックがかかる
可能性として以下のようなものが考えられる。(1) 寒くなる→
二酸化炭素の溶解度が上がる→海に二酸化炭素がたくさん溶けて大気中の
二酸化炭素が減る→温室効果が減ってますます寒くなる
(2) 寒くなる→南北の寒暖の差が増す→風が強くなる→陸から海へ栄養が
たくさん飛ばされてくる→海中の生物活動がさかんになる→糞という形で
炭素が海底堆積物中に固定される→温室効果が減ってますます寒くなる
- メタン
- これも気温に対して正のフィードバックが考えられる:
寒くなる→沼地・湿地が乾燥するか凍る→沼地・湿地における
バクテリアによるメタン生成が減る→温室効果が減ってますます寒くなる。
情報源
[本] Richard B. Alley (2000) 「The Two-Mile Time Machine」(Princeton University Press) 11. Dancing to the Orbital Band, 12. What the Worms Turned