語源的には、Dryas は植物のチョウノスケソウ属(バラ科)の学名である。 Dryas は、現在では高山植物で、寒いところに生える。寒冷期に 繁栄するので、寒冷期の堆積物には Dryas の花粉や植物体が残ることになる。 それで、寒冷期に Dryas という名前が付いた。web で「チョウノスケソウ」を 検索するとたくさん写真を見ることができる。同じバラ科の高山植物の 「チングルマ」に似ているが、チングルマはダイコンソウ属 (Geum) である。 [注: Alley (2000) では、英名を avens としているが、avens はふつう ダイコンソウ属 (Geum) の植物を指すので不適切である。ただし、チョウノスケソウ (Dryas octopetala) は mountain avens とも呼ばれるようであり、 それを指したと考えられる。とはいえ、mountain を付けていないのは誤りだし、 チョウノスケソウには white dryas という英名もあり、 そちらを使った方が紛らわしくなくて良い。]
Younger Dryas の終わりとなった温暖化は非常に急激で、グリーンランドでは 10 年以内に華氏 15 度(摂氏 8.3 度)の気温上昇が起こったのではないかと 言われている。
[本] 北村四郎・村田源 (1961) 「原色日本植物図鑑」(保育社)
[web page] 角階静男 (2000) 「函館物語 (I):チョウノスケソウとヤンガードリアス」
[web page] Mountain Avens in Wikipedia, the free encyclopedia
Willi Dansgaard はデンマークの地球化学者、Hans Oeschger はスイスの地球化学者。 Dansgaard らがこれを発見したのは 1960 年代終わりから 1970 年代初めにかけてで、 北西 Greenland の the Camp Century ice core の解析によるものだが、 この記録はあまり質が良くなかったので注目されなかった。こののち、 1980 年代半ばに Dansgaard と Oeschger らが南グリーンランドの the Dye 3 core で同様の現象を発見してから、注目されるようになった。
Dansgaard-Oeschger cycles は数回で1まとまりを成している。 Dansgaard-Oeschger cycles が弱まりながら何度か続いたあと、 北大西洋に氷山によって運ばれた堆積物がたまる事件があって (Heinrich event)、 そのあとに比較的大きな温暖化がある。Gerald Bond は、このことを 北大西洋の海底堆積物で発見した(最初の論文は 1993 年)。それで、 このサイクルを Bond cycle と呼ぶ。
Bond Cycle の原因は Hudson 湾の氷床の消長によると思われている (MacAyeal, 1993)。まず、Hudson 湾でゆっくりと氷床が成長する。 ある程度以上厚くなったところで、氷床自身の毛布効果により、 その底部が地熱によって融ける。すると、氷床が崩壊し、 氷山が大量に北大西洋に流失して Heinrich event の堆積物を残す。 氷がなくなると、まわりの空気が冷却される効果が弱まって、温暖期が訪れる。 一方、これに対し、10 万年周期の氷期・間氷期サイクルは ローレンタイド氷床全体の消長である。Heinrich event ではローレンタイド氷床 全体が融けることはない。
[本] 増田耕一・阿部彩子 (1996) 「第4紀の気候変動」 in 「岩波講座地球惑星科学11 気候変動論」(岩波書店)