δ18O を初めて古気候の指標として用いたのは Cesare Emiliani である。それは 1950 年頃で、そんなに昔ではない。
水から炭酸カルシウムが析出するとき、もしも同位体平衡が成り立っていれば、 同位体分配係数が水温の関数なので、炭酸カルシウム中の δ18O は 周囲の水の δ18O と水温とで決まる。しかし、実際は、サンゴは 生き物なので必ずしも平衡にはない。
実用的には、水温と同位体分配係数の関係には経験式を用いる。 造礁サンゴにおいては、水温が1度上昇するごとに δ18O は 0.18-0.22‰ 減少する。一方、降水量が増えると周辺海水の δ18O が 減り、それに伴ってサンゴ骨格の δ18O が減ることになる。
骨格の Sr/Ca は経験的には水温にのみ依存するので、それから水温を推定すれば、 δ18O から周辺海水の δ18O を求めることができる。 周辺海水の δ18O の変化の要因には、降水量・蒸発量、陸水流入量、 海洋全体の δ18O の変化がある。そのことからも想像されるように、 海水の δ18O は塩分との相関も高い。そこで、昔の塩分を推定するの にも用いられる。
1990 年代になって、時間分解能が 1-3 ヵ月となり、ENSO の良い指標に できることがわかってきた(水温と δ18O の影響の分離ができなくても 指標としてある程度役に立つ)。2000 年代になるとさらに時間分解能が向上し、 場合によっては週単位での測定ができる。
[講演] 北川浩之 (名大) 「気候変動」 at 名古屋大学万博記念国際フォーラム 市民向け講座「氷河期から地球温暖化、そして未来は」 (2005/07/31) 名古屋市科学館
[web page] Cesare Emiliani : the founder of paleoceanography by Toby Tyrell