宇宙論のよくある質問や誤解

last update: 2005/04/29

宇宙の大きさ

宇宙で見える範囲は約 140 億光年だが、その先にも宇宙はある。 とはいえ、見える範囲の先は観測不能なので議論してもしかたがない。 したがって、大きさは何とも言いようがない。

宇宙は flat だということが最近わかってきているので、 端がありそうな気もするわけなのだが、数学的にはトーラスのように 向こう端とこっち端をつないでしまうことは一応できて、そうすれば 端はないことになる。といっても、それは単なる数学的操作なので、 だから何かが解決したわけでもない。

情報源

[会話] with 松原隆彦氏(名古屋大学理学部物理学科)(2004/07/13)

[web page] 宇宙論よくある質問 by 松原隆彦(名古屋大学理学部物理学科)


宇宙膨張を誤解しないためのポイント

日経サイエンス Lineweaver and Davis 記事の6つの論点: 宇宙膨張が空間の膨張であり、物体の空間内での移動と取り違えてはいけないことが 強調されている。

論点1:ビッグバンはどんな爆発だったのか?
答え:ビッグバンは空間そのものの爆発だった。これが、何もない空間内の 特定の場所で炸裂した爆弾のようなものではないことに注意する。 ビッグバンが狭い場所で起ったと考えるのもしたがって誤りである。 宇宙空間が無限だとすれば、いくら縮めても無限である。

論点2:銀河は光よりも速く後退できるか?
答え:できる。ハッブル距離 (c/H, H はハッブル定数) よりも遠い天体は 後退速度が光速を超える。これは空間内を移動する物体の速度ではなくて、 空間の膨張に起因するものなので、特殊相対論の制約は受けない。

論点3:超高速で遠ざかる銀河を見ることができるか?
答え:できる。ハッブル距離は時間とともに増加している (ハッブル定数は時間とともに減少している)ので、 時間が経てばやがて光子がハッブル距離の中に入ってくる。 ただし、宇宙が加速膨張しているとすると、ハッブル距離の増加が止まるので、 それより先を決して見ることができない「事象の地平」ができてしまう。

論点4:銀河の赤方偏移はなぜ起るのか?
答え:空間が膨張し、そこを伝わるすべての光波が引き伸ばされるから。 これはドップラー偏移とは全く異なる。超光速で後退する銀河からの光が 観測されていることから、ドップラー偏移と異なることは明らか。

論点5:観測可能な宇宙の大きさは?
答え:宇宙の年齢が 140 億年だから 140 億光年のように思えるが、 光子が伝わる間にもその空間が膨張しているから、観測している最も遠くの 天体は現在は 460 億光年彼方にいる。

論点6:宇宙の中の物体も空間とともに膨張するのか?
答え:そんな気がしそうだが、膨張そのものは(加減速していなければ) 何の力も及ぼさないので、分子間力などで決まる物質の大きさは変わらない。 現在宇宙は加速膨張しているので、物体には外向きの力がわずかにかかっている。 その結果として、加速膨張しない宇宙の場合よりも物体はわずかに大きくなっている。

情報源

[科学記事] Charles H. Lineweaver, Tamara M. Davis (2005) 「ビッグバンをめぐる6つの誤解」 日経サイエンス 2005 年 6 月号, 16-27