有害化学物質問題

last update: 2005/10/31

有害化学物質問題の社会における問題

有害化学物質(たとえば、ダイオキシン)問題は、一般の人から見るとだいたい 次のような経過をたどる。まず、何かのきっかけで大きな社会問題になる。 すると厳しい規制がかかって、そのうちに実はそんなにたいした問題では なかったのだという人が現れる。ここに至って、一般人は何を信じたら 良いのか困惑する。

これの真相は以下のようなものである。たとえばダイオキシンで言えば、 以下のようになる。ダイオキシンに限らず、水銀でも PCB でもたいてい同じである。 ダイオキシンが非常に毒性が高い物質で、人体にたまる性質もあることは だいぶん前から分かっていたにもかかわらず、行政は長い間それを放置してきた。 何かのきっかけで、それがマスコミや社会で問題にされるようになると、 問題意識が一挙に高まり一種のパニック状態になる。すると、役人はお金を 取ってくるのが役目なので、莫大な予算を獲得して、研究費や対策費をばらまいたり、 規制を厳しくしたりする。社会問題になるのは、ダイオキシンなら ゴミ焼却炉というように一つに集中する傾向にあり、その点に関しては 非常に規制が厳しくなり対策が進む。で、その件に関しては一見落ち着いた ようにみえる。そうなるってくると、その件に関しては予算が過剰になるのだが、 既得権でなかなか変わらない。そうすると、ダイオキシン問題に過剰にお金が 回っていることに気付く人が出てきて、ダイオキシン問題はやり過ぎで 他にも大事な問題があると言い出すようになる。ところが、 実際はダイオキシンに関しては、ゴミ焼却炉以外にもたくさん問題がある。 しかし、社会はそれをもう忘れて関心はどこか他の問題に行ってしまっている。 ダイオキシンは農薬のために水田にもまだたくさん残っているし、いろいろな工場 からも大量に出ていることがわかっている。工場のものは全国平均すれば たいしたことはないかもしれないが、周辺住民には大きな影響がある。 水田のものは日々食べる米に入ってくる。

このようにして、有害化学物質問題は、次々に社会問題になっては 規制されてそのうち下火になるけれども、問題は局所的にしか解決しておらず、 全体的に見れば問題山積という状態がずっと続いている。実際、日本人の髪の毛から 検出される水銀は世界的に見ても高い水準にある。日本人の母乳の有害物質濃度も 高い。ダイオキシン問題は終わったなどという本を書く学者もいるが、その人は ダイオキシン問題の全体をよく知らないのである。

情報源

[講演] 浦野紘平(横浜国立大学大学院環境情報研究院) 「化学物質の有用性と有害性」 at UFJ 環境財団寄付講義「環境問題への挑戦II」 (2005/10/31) 名古屋大学 IB 電子総合館大講義室

身の回りの有害化学物質問題の種類

物質群名用途(発生源)避ける方法
PBDE (ポリ臭化ジフェニルエーテル) 類 難燃剤として幅広く用いられている 動物実験では発達障害を起こす 避けることはほぼ不可能
フタル酸エステル類 ビニール製品を柔軟にしたり、ローションをとろりとさせたりする 動物実験では雄の生殖器官の発達を妨げる 避けることは困難
殺虫剤(各種薬剤) さまざまな「敵」の退治 ぜんそく、神経系・免疫系の異常、発達不全など 農作物はよく洗う、有機無農薬作物を買う、農業地帯ではこまめに掃除をする
PFA 類(フッ素樹脂) フライパンの表面加工(テフロン加工)、防水スプレー、衣服の汚れを防ぐ表面加工 動物では肝機能の異常、甲状腺ホルモンの分泌異常、先天異常。 発がん性も疑われている 避けることは不可能
PCB (ポリ塩化ビフェニル) 類 冷媒、電気の絶縁体など 動物では肝不全やがんを起こす すでに禁止されているが、環境中に広く存在。汚染地域の魚を食べない
ダイオキシン類 工場、ゴミの焼却、火災などで発生 がんや先天異常のおそれ 脂肪分の多い魚や肉を控える。汚染地域に近寄らない
ビスフェノール類 硬質プラスチックの一種。ポリカーボネートの成分 女性ホルモンのエストロゲンに似ている。生殖器官の発達障害を起こすおそれあり プラスチック容器の使用を避ける
金属類 産業に由来する 幼児では発達障害のおそれあり 水銀を多く含む魚を控える。古い塗料や砒素・クロムで処理した集成材を除去するか密封する

情報源

[雑誌記事] デビッド・ユーイング・ダンカン 「身近な化学物質の脅威」 NATIONAL GEOGRAPHIC 2006 年 12 月号, 96-123