発光現象
last update: 2009/04/08
発光現象のいろいろ
光が出るからには、何かのエネルギーを光のエネルギーに変えるということになる。
それによって、発光現象を分類できる。大別すると、熱が光になる incandescence
(白熱)と luminescence の2つになる。
incandescence は、典型的には黒体放射であり、熱平衡で光子が発せられる。
たとえば、太陽の光もそうだし、白熱灯の光もそうである。
これに対して、luminescence は基本的には熱を伴わないので、冷たい光と呼ばれる。
それにも様々な種類がある.
- Photoluminescence
- エネルギーの高い光(典型的には紫外線)を受け取って、エネルギーの低い光を出す。
- Electroluminescence
- 電場、もしくは電流への応答として光を出す。自然現象としては、オーロラがある。
- Cathodoluminescence
- 電子を蛍光体に当てて光を出す。Electroluminescence の一種と見ることもできるが、
区別する場合が多いようだ。
- Chemiluminescence, Chemoluminescence
- 化学反応のエネルギーを使って光を出す。生物発光 (bioluminescence) など
- Mechanoluminescence
- 力学的作用のエネルギーで光を出す。fractoluminescence (破壊),
piezoluminescence (圧力), triboluminescence (摩擦),
sonoluminescence (音) など。地震に関係する発光現象はこれのどれかであろう。
- Thermoluminescence
- 光もしくは放射線を吸収した物質が、熱せられたときに光を出す。
蛍光と燐光
蛍光 (fluorescence) や燐光 (phosphorescence) は
狭い意味では、Photoluminescence の発光過程を2つに分類したものである。
しかし、Photoluminescence に限らず、luminescence 一般に関して、
発光過程の方に着目すると、蛍光と燐光とに分類することができる。
蛍光は、スピン許容遷移に伴う放射で、励起状態の寿命が短くて、直ちに発光する。
燐光は、スピン禁制遷移に伴う放射で、励起状態の寿命が長いため、長い間少しずつ発光する。
Photoluminescence
蛍光灯、プラズマディスプレイ
蛍光灯やプラズマディスプレイなどは、蛍光で発光する。封入された気体やプラズマが
放電によって発する紫外線をガラスに塗った蛍光体に当てて発光させる。
通常の蛍光灯では、蛍光体に当てる紫外線は、水銀原子の 253.7 nm の線
(63P1--61S0 の遷移)である。
プラズマディスプレイでは、Ne と Xe が封入されており、発生する紫外線は
主に励起 Xe 原子および励起 Xe2 分子から発生するものである。
波長は 147 nm, 173 nm 領域が主となる。
Electroluminescence
発光ダイオード LED (Light Emitting Diode)
pn 接合の半導体で作る。p 型半導体の側に正の電圧をかけ、n 型半導体の側に負の電圧をかけると、
p 型半導体内部を接合部に向かってホールが流れ、n 型半導体内部を接合部に向かって電子が流れる。
その結果として、pn 接合部でホールと電子が再結合する。このときに発光する。
伝導体にある電子が、価電子帯にあるホールに落ちるときのエネルギー
(バンドギャップに相当する)が発光のエネルギーになる。
有機 EL 素子
有機物質で作った LED だと考えれば良い。なので、有機発光ダイオード (OLED
Organic Light-Emitting Diode) とも呼ばれる。
ホールと電子が出会うところに(pn 接合部に相当するところ)に発光材料を入れて
発光層とする。発光材料としては、発光輝度は小さいが成膜性が良いホスト材料に、
発光輝度は大きいが成膜性が悪いゲスト材料(ドーパント)を加えた「ドーピング方式」が
用いられることが多い。ホスト物質の代表的なものに Alq3
(tris-(8-hydroxyquinoline) aluminum) がある。
Cathodoluminescence
CRT, FED
電子を蛍光体に当てて光らせる。CRT (Cathode Ray Tube ブラウン管) や
FED (Field Emission Display) で使われている。CRT では、1画面に対し
電子銃が1個なのに対し、FED では、画素ごとにそれぞれ電子放出源がある。
そのため、FED は薄型化が可能である。
Chmiluminescence
生物発光:ルシフェリン/ルシフェラーゼ型
生物発光 (bioluminescence) の最も基本的な型では、
luciferin(発光基質のことを一般的に指す単語)と
luciferase(発光酵素のことを一般的に指す単語)とが別々に存在して発光する。
そのメカニズムは:
- luciferase のはたらきで luciferin が酸化されて、
励起状態の酸化 luciferin (oxyluciferin) になる。
- 励起状態の酸化 luciferin が発光して基底状態になる。
蛍の luciferin/luciferase 系には、エネルギー源として ATP が必要である。
このことを利用して、蛍の luciferin/luciferase 系は、ATP の検出に使われている。
あらゆる生物が ATP を使っているので、luciferin/luciferase 系は、微生物が
いるかどうか?殺菌が十分になされたかどうか?などを調べるのに使われている。
生物発光:発光タンパク質型
発光基質 luciferin と luciferase に相当するタンパク質と co-factor の
酸素などとが最初から一体化しているような発光タンパク質 (FP = Fluorescent Protein)
による生物発光もある。
下村脩が発見し、ノーベル賞で有名になった
オワンクラゲの発光メカニズムを例にして説明する。
なお、オワンクラゲの分類は、今ひとつはっきりしないようである。
オワンクラゲの学名には、Aequorea aequorea, Aequorea victoria,
Aequorea forskalea、Aequorea coerulescens などがある。aequorea, victoria,
forskalea は同じもののようである。日本産のものは coerulescens と呼ばれ、
欧米産のものより少し大きいようだが、別種かどうかはわかっていないようだ。
[詳しい説明が Choice and use of species name for Aequorea
in "Bioluminescence of Aequorea" by C.E. Mills, University of Washington
にある]
オワンクラゲの発光機構には、発光タンパク質イクオリン (aequorin) と
GFP(Green Fluorescent Protein 緑色蛍光タンパク質)とが
関係している。aequorin は、オワンクラゲの学名 Aequorea から付けられた名前である。
- イクオリンの励起:イクオリンは、発光基質セレンテラジンと
アポイクオリン(アポタンパク質)とから形成される。イクオリンに Ca2+ が
結合すると、励起状態のセレンテラミドとタンパク質が複合した青色蛍光タンパク質
(BFP*) ができる。これは単独では青色 (460nm) に光る。
- 生きているオワンクラゲの中では、BFP* のエネルギーが
GFP に移動して GFP の励起状態 GFP* を作る。
- GFP* の発光:GFP* が緑色 (510nm) に発光して
基底状態の GFP に戻る。
イクオリンは、Ca イオンの検出に応用されている。
生体内で使うときには、アポイクオリンを作る遺伝子を組み込んで、
セレンテラジンを与えてやる。すると、Ca イオンに反応して光るようになる。
なお、オワンクラゲにおいても、セレンテラジンは、自分で作るのではなく、
餌から得ているようで、水族館で飼う場合は、餌にわざわざセレンテラジンを
入れないと光らない
[YOMIURI ONLINE 2008/11/02]。
GFP は純粋にタンパク質なので、遺伝子でコードできる。しかも、
単体で蛍光物質として機能し、酵素などを必要としない。そこで、
分子生物学で広く利用されるようになり、ノーベル賞の対象となった。
情報源
[本]
西久保靖彦 (2009) 「大画面・薄型ディスプレイの疑問100」(サイエンス・アイ新書)
[本]
Marc Zimmer (2009) 「光る遺伝子」(丸善)
[web page]
有機 EL の科学 in 「ナノエレクトロニクス」
[web page]
The Bioluminescence Web Page
[論文]
鈴木敬三 (2003) 解説「交流 (AC) 型プラズマディスプレイの放電特性と技術開発」
Journal of Plasma and Fusion research, 79(4), 326--335.
[
pdf 版]
[論文]
丹羽治樹 (2009) 「オワンクラゲの生物発光機構」
科学, 79(4), 384--385.