研究指導
名古屋大学と九州大学で主たる指導教員になって指導した学生の
卒業論文・修士論文・博士論文の紹介です。
博士論文
2008 年度
堀久美子「天体ダイナモにおけるα効果の非局所性と非瞬間性」
修士論文を進めて、投稿論文になるまで詳しく検討したもの。
G.O. Roberts (1970, 1972) という古典的論文で使われた流れで、磁気レイノルズ数の関数としてα効果を数値計算した。
この場合のα効果は、非局所的、非瞬間的になるので、応答関数の形で表現される。
磁気レイノルズ数の関数として、α効果がどのように非局所的、非瞬間的になってゆくのかを
丁寧に調べた。
α効果に関してこのように丁寧に調べた例は他にない。
特別な流れについてではあるが、α効果の全貌がよくわかった。
2003 年度
川田佳史「海底熱水循環の数値シミュレーション:海水の相分離と
硬石膏の沈殿が循環のダイナミクスに与える影響の解明」
海底の熱水循環の数値計算で大きく分けると2つの部分から成る。
(1) 塩水の相分離を入れた熱水循環の計算。修士論文の続きだが、
数値計算の信頼性とか物性パラメタとか解釈とかがより精密になっている。
相分離がどうやって起こってその結果どうなるかを明らかにした功績は
大きい。それまでは、単に想像図があっただけで、その想像図も
この計算結果を見るとだいぶん違っていたことがはっきりした。
(2) 硬石膏の沈殿が循環のダイナミクスに与える影響。Archaen Park
という研究プロジェクトにおける水曜海山の熱水循環の観測に触発されて
なされた研究。水曜海山では、硬石膏によってシールされた熱水だまりが
発見された。それが形成されたプロセスを提案してシミュレートしたもの。
対流によって硬石膏が沈殿し、それが対流パターンを固めてゆく様子がわかる。
修士論文
2013 年度
中埜勇樹「火道内部気液2相流モデルを用いたガスの圧縮性による火山噴火の周期性」
Michaut et al (2013) が見出した火道2相流の不安定現象の原因をかなり解析的に数理的に解明した。
もうちょっと詰められると良かったのだが、少し時間切れな感じになってしまった。
2011 年度
波々伯部広隆「The direction of surace zonal flow controlled by two-layer thermal convection in ice giants」
私は波々伯部君の指導教員ではなかったのだが、実質的に指導を行った。波々伯部君は名古屋大学の学生で、M2の途中から九州大学に来てもらって指導をした。
球殻内に2層対流ができたとき、どのような対流パターンになるかを、準地衡流円筒近似で線形論の範囲で調べた。
そして、それが及ぼすレイノルズ応力によって表面に東風ができるか西風ができるかを調べた。
1層の深い対流だと、このような計算では必ず表面が西風になる。
2層になれば東風になるかもしれないということで計算をしてみたのだが、多少そのような効果があるもののたいして大きくはないことがわかってしまった。
ということで、深い対流で天王星や海王星で見られるような東風を作るのは難しいことを再認識してしまったのだが、この研究はこの研究として地球流体力学的には意味があると思う。
2007 年度
朝倉彬「Numerical simulations of hydrothermal circulation: the effect of the bottom slope of the circulation region on upwelling water salinity」
海水が相分離する熱水循環系で、底面が傾いていることによって噴出する熱水の塩分が変わるだろうという川田君のアイディアに基づいて数値計算したもの。
数値計算の部分の指導は、ほぼ川田君による。
アイディアは非常におもしろくて、実際、底面が浅いところからは薄い塩水が安定して出るという結果が得られる。
2004 年度
堀久美子「Re-examination of dynamo action by fluid motion with
two-dimensional periodicity」
G.O. Roberts (1970, 1972) という古典的論文を再検討して
alpha 効果とは何だろうかというダイナモにおける基礎的な問題を
考え直してみたという研究。そこで現れる α 効果は、
狭い意味での瞬間的局所的な α 効果ではない、ということがわかった。
実は、修士論文の後で、わかりやすい解釈に気付いた。
それが博士論文のネタの一つである。
岡本建人「Deformation of a partially molten D"-layer by small-scale
convection and the resulting seismic anisotropy and ultra-low velocity zone」
D"層が部分溶融しているとして、その部分溶融している melt 部分が
対流で変形されることによって地震学的な異方性ができるということを
主張している。D"の異方性の原因が新しい高圧相だというその後の流行の
先駆けとなる論文が研究をやっている最中に出てきて影が薄くなってしまった。
でも、新しい相があってもその部分溶融ということも考えられるし、まあ
まだ利用価値はあると思っている。
1999 年度
川田佳史「Numerical simulations of mid-ocean ridge hydrothermal
circulation including the phase separation of seawater」
海底熱水系といういわば海底温泉の地下水の流れの数値シミュレーション。
海水が相分離して、より濃い塩水ができるという過程を取り入れたところが
画期的で、世界初!だと思っている。塩水の濃度が変化するプロセスが
いろいろわかった。研究を始めたころは、私もこの手の研究は初めてだったので、
良く分からないことも多かったが、川田君と一緒に考えて次第に様子が
わかっていったのは、面白い思い出。
卒業論文
2014 年度
中島涼輔「外核最上部の密度成層した層に存在する軸対称 MAC 波の境界モード」
外核最上部に密度成層した層があるとして(いわゆるH層)、そこに存在する波を考えようということで Braginsky (1993) という論文を読んでいたら、
境界モードがあるということに気付いた。卒業論文としては、初めて学会発表ができるレベルのものができた。
川路雄喜「内核における表面での熱不均質による対流に対する成層の影響」
内核内に安定な密度成層があるとして、どういう対流ができるかを計算したもの。計算自体は Deguen らがすでにやっていることではあるが、
この卒論では、一般化された球面調和関数を使って、スマートに定式化して計算してみた。
2013 年度
瀧口嶺「内核の成長に伴った内核表面の空隙率構造の進化」
内核の成長に伴う圧密という昔やった問題に、並進を加えるというだけではあったが、やむを得ず...
2012 年度
木村諭志「D"層内のポストペロブスカイト存在領域の熱的パラメーター依存性」
D"層内のポストペロブスカイト相存在領域を簡単な1次元熱伝導モデルで計算してみたというもの。相転移の潜熱の効果と、ペロブスカイト相とポストペロブスカイト相で熱伝導率が違う効果とを一応入れてみた。いかんせんツッコミ不足だがやむをえず...
2011 年度
中埜勇樹「プリニー式噴煙柱の挙動に対する浮力に依存するエントレインメント係数の影響」
Woods (1988) の1次元噴煙柱モデルに、Kaminski et al (2005) のエントレインメント係数のパラメタリゼーションを簡略化したものを取り込んで、ちょっと計算してみたというところ。このパラメタリゼーションの適否に付いて本当はもっと深く検討しないといけないのだが...
2002 年度
堀久美子「コア内の微小スケール流体によるα効果の計算」
簡単な渦状の流れでキネマティック・ダイナモ問題を計算してα効果を
計算してもらった。たった一つの方程式なのに、これがなかなか単純では
ないんだよねえ...
2000 年度
柴田祥吾「マントル自転速度変化と地球磁場の西方移動速度変化の関連」
磁場変動とコア・マントル間の電磁トルクの関係を見てみた。
いわゆる leakage トルクを計算してみて、西方移動とどういう関係が
あるかを見てみた。結果的には、なかなか単純な関係はなかったのだが、
それは今後の課題ということで...
1998 年度
野村明生「火道の変形によるマグマの流れの変化」
火山の爆発的噴火における火道内ダイナミクスの計算をしようと思って
研究を始めた。火道内ダイナミクスの時間変化は重要な割に
まだ計算が少ないのでやってみようとした。でも、卒論としては、
時間変化が少し出せたかなあというところで終わってしまった...