総力特集 アメリカ不信

文藝春秋 2002 年 10 月号
成田空港第2ターミナル地下のキオスクで購入
読了日:2002/09/14
しばらく前までは、世の中をアメリカ礼賛の論説が席巻していたと思うのに、 今やブッシュの独善的政策やら会計不正事件やらで すっかり世の中反米になってしまった。まったく移り気なものである。 大統領がゴアになっていればだいぶん違っていただろうに。 そういう世の中を象徴するような以下の論説集。

(IF)は対談。石原が、アメリカはモンゴル帝国化しかけている、という 持論を展開する。その心は、圧倒的な軍事力で世界を制覇するが、その後を 平和的に統治しようとする気はなく、自分の国さえ良ければ良い、という 態度である。ブッシュには理念も倫理もないから、日本がそういう面を しっかりしなきゃあという話で終わる。

(NU)の内容:アメリカ流経営には、監視機関の設置など良い点もあるけど、 最近の不正会計事件でも分かる通り、駄目な面がたくさんあるから、 そのまま真似しちゃだめだよ、という話。とくに最近の商法改正で 社外取締役を義務づけたのは愚かで、アメリカでは取締役の報酬を 上げるのに役立っただけだ、とのこと。アメリカの会社は、重役が 儲け過ぎで貧富の差が付きすぎる。そんなシステムが良いわけがない。

(KP)では、アメリカが嫌われる原因をアメリカ人の立場で分析している。 ごく自然な分析で、こういう認識をアメリカの政府首脳が 持ってくれていると良いのだけれど。

(MS)の内容:ピュリツァー賞を受賞したビックス著「昭和天皇」が 昭和天皇に戦争責任があるという結論ありきから始まっているという 批判の対談。一般にこの手の議論は、冷静なものが少ないので、 この対談も当を得ているのかどうなのか私には良く分からない。

(SI)の内容:ブッシュ一家が祖父の代から何をしてきたかという解説。 実力者であったブッシュ・シニアの負の遺産を、放蕩息子の ジョージ・W が尻拭いしないといけなくなったというのが現在の構図で、 前途多難という話。

(AN)の内容:アメリカは価値観の多様性を認める良い国だという論説。 一般論としてそうだと言っているだけで、昨今の反米の元となる個別問題を 擁護しているわけではない。

(ST)の内容:日本人のうち英語を使わないといけない人はごく一部だから、 そういう人だけに集中してきっちりした教育をすれば良いので、 大部分の日本人は何より日本語をきちんと勉強しなさいという論説。 私のような仕事では、かなりの英語力が必要とされるので、複雑な気分。 私自身、自分の英語力の不足を感じている。と同時に、私は最近あるきっかけで、 かなり立派な研究者でさえ、人によって日本語力がかなり低いことを 認識したので、日本語教育の重要性も感じている次第。

(HS)の内容:GE の経営者として評判の高かったジャック・ウェルチは、 結局 GE をめちゃめちゃにして、株価が最高の時に引退するという 勝ち逃げを行ったという解説。ウェルチは、リストラで大量に従業員を 解雇し、かつての家電業を捨て、GE を金融業者にした。マネーゲームで GE の株価を吊り上げた挙げ句、ウェルチが引退したら GE の株価は下がり、 GE の未来は絶望的とのこと。

(SE)の内容:FRB 議長のグリーンスパンは、これまで現実的な政策で 非常にうまくやってきたけど、さすがに時代の波には勝てないのでは ないかという話。世界-経済の中心は、そのうちニューヨーク以外の どこかに行くのではないかという、ブローデルの予想が解説される。

(MT)の内容:アメリカでは下品で俗悪なテレビ番組が流行っているという話。 まあ、アメリカは民放ばかりだからねえ。NHK や BBC のような準国営放送は 批判もされるけど、やっぱりテレビ全体が俗悪に陥るのを防いでいるのでは ないだろうか。

(ST)の内容:ジブリは、ディズニーとは違って、規模が小さいから思ったように 良い仕事ができるのだという自信に満ちた宣言。ヨーロッパやアメリカで どう受け入れられようが構わんという感じなのが立派。

(TY)は、アメリカのバブルの分析。アメリカは強大すぎるので、 助けようにも助けられないという話。ま、何が起こっても 驚かないことが肝心でしょうな。

(SK)の内容:アメリカの医療制度、保険制度の問題を語り、自分が 椎間板ヘルニアの手術を日本で受けて良かったという話。 同じ号に、日本の医療制度が 諸外国に比べて問題点が多いという特集が 載っているのが面白いところ。医療問題は、個別の経験はわかるが、 全体像が分からないことが多いのが難点。(SK)氏は、はたして 本当に日本で手術を受けたのが良かったのか?

(UHY)は、アメリカでは陰謀論がよく巷で流行るのだという鼎談。 9.11テロをブッシュは事前に知っていたのだとかいう類のことである。

(KK)の内容:料理のレシピで売り出したカリスマ主婦マーサが、 インサイダー取引疑惑以来、マスコミでこてんぱんにいじめられているという話。 マスコミによるたたきかたがひどすぎるのは、アメリカ人も堕ちたのでは、 と結ばれる。

(TT)の内容:ボスニア紛争におけるセルビア叩きで分かるように、PR は 強力だから注意しようねという話。で、ブッシュ政権も、最近の反米気分は PR が足りないのじゃないかということで、PR に力を入れだしているとのこと。 今の反米はそんなことだけではどうしようもないと思うけど、今後 だまされないように注意しよう。

(SN)は、イラクの首脳の一人へのインタビュー。イラク側の言い分が語られる。 まじめに受け取っても仕方ないかもしれないのだけれど。