「日本人論」再考

船曳建夫著
NHK 人間講座 2002 年 6 月〜 7 月期、日本放送出版協会
刊行:2002/06/01
名古屋東山の東山書店で購入
読了日:2002/08/17

折りにふれては良く出版され時々ベストセラーにもなる 日本人論のうちの代表的なものを整理して分析した NHK 人間講座の内容のテキスト。 日本人論が、日本が「不安」の中にあった時代に多く書かれたことが 示され、それらを観点別に整理して紹介している。 著者の姿勢は目次を並べてみるとよくわかる。
  1. 序説・日本人論
  2. 臣民〜民主主義社会の逆説
  3. 国民〜龍馬から三四郎へ
  4. 市民〜タテ社会と世間
  5. 職人〜もの言わず、もの作る人
  6. 母〜「甘え」はよいのか悪いのか
  7. ゲイシャとサムライ〜蝶々夫人からイチローまで
  8. 人間〜「日本教」と勤勉の思想
  9. さまざまな顔を持つ日本人たち
冷静にいろいろな観点から見ていることがわかる。

最後の結論の回は

戦後の日本人論を読んできて、奇妙なことに気がつきました。漱石の人気です。 いろいろな人が漱石を引く。(中略)日本人の生き方が五十年、いや一世紀 経ったいまでも、未だに漱石が描写したものとそう変わっていない、という ことでしょうか。

私は、しかし、と、思います。変わっていないところはあるだろうが、 変わっているところも大いにあるのではないか、と。

という感じで始まって、その理由を
このように今までの日本人論が、単発的で、発展性が少なかったことには 理由があります。その多くが「余技」として書かれているために、まともに 対応するものではない、とみなされたからです。
と述べ、そこで最後に
この講座であつかった国民、職人、母といったものは、日本社会の中の、 実体としてのそうした人々を指すのではなく、日本人全体の中のある側面、 それが持っているさまざまな顔として考えているのです。

(中略)

新たな日本人論、いえ、新たな「日本人たち論」が必要です。

と結ぶ。

私もその通りだろうと思う。日本人は今やかなり多様だから、そう簡単に 十把一絡げに区切ることができるものではない。外国人と話をしても、 同じ人間どうしでそう大きく違うわけでもない。単純な思いつきだけで語ると、 たとえばRobin Gill が批判するような 浅薄なものになってしまう。それでもなお、平均的にいえば 外国人はどこか違うのも確かだし、たとえば、日本という国全体が なぜ非欧米諸国の中で最も速く先進国のひとつになりえたのか というような問題がある。総合的で丁寧な分析が必要である。