The Ice Chronicles -- The Quest to Understand Global Climate Change

Paul Andrew Mayewski and Frank White 著
University of New Hampshire, University Press of New England
刊行:2002 年
amazon.co.jp で購入
読了:2004/11/29
名大サロンで、「映画「デイ・アフター・トゥモロー」を科学で楽しむ」 などという講演を引き受けてしまったので、そのネタ作りに読んだ。 前に読んだ Richard Alley の "The Two-Mile Time Machine" と同様、 GISP2 (Greenland Ice Sheet Project Two) プロジェクトに関わった人が 一般向けに書いた本。とくにこちらの Mayewski は GISP2 の中心人物である だけに、GISP2 の計画を立ち上げる時の話などが詳しい。 共著者の White はサイエンスライターである。 Alley の本よりは網羅的で、氷期の気候変動だけでなく、 MWP (Medieval Warm Period) や LIA (Little Ice Age) の話など や気候変動と文明との関わりなどまで含まれている。そういうところでも いろいろ勉強になる本である。
なお、専門家の 増田耕一氏によるレビュー もある。
以下は読んでいる途中で備忘録として採ったメモである。

途中でランダムに採ったメモ

地球変動の解明プロジェクトの歴史

(1) IGY (International Geophysical Year) 1957-1958
1950s-60s を象徴する大イベント
このときに
大気 CO2 モニタリングが開始 (C.D. Keeling at the Scripps Institute of Oceanography)
オゾンモニタリングが開始 (at the British Antarctic station in Halley Bay)
参考HP: National Academics - IGY

(2) CLIMAP (Climate: Long-Range Investigation, Mapping and Prediction) 1960s-70s
氷期の地球表層環境の復元
リーダー:John Imbrie

(3) 氷コアプロジェクト

Vostok ice core 1990s
Russia/France/USA 連携プロジェクト
NOAA Paleoclimatorogy - Vostok Ice Core
現在では 3350m, 42 万年の記録がある (p.40, Fig.2.1)
GISP2 (Greenland Ice Sheet Project 2)
アメリカのプロジェクト
1986-1988 予備調査;1989-1993 本調査;1993/07/01 基盤まで掘り抜く
GISP2 Home Page
GRIP (Greenland Ice Core Project) 1989-1995
ヨーロッパのプロジェクト
ESF - GRIP
GISP2/GRIP 連携
1987 年くらいから連携会合が始まる。30 km 離れてコアを掘って対比することに合意。

気候変動問題の世界の風潮

1960 年代:寒冷化が心配されていた。実際 1940-70 年代は、一時的な寒冷期であった。
1980 年代:地球温暖化が心配されるようになった。

GISP2

特徴

(1) 年縞をできるだけ正確に読んで年代を決定した
(2) 高い時間分解能 (3) 系統的に多くの種類の測定を行った

GISP2 から見つかった気候変動

Mayewski らは GISP2 から作った PCI (Polar Circulation Index 極域の風の強さの指標) の 周期性解析を行っていくつかの周期を発見した (Fig. 3.8)

気候変動の要因

気候変動の要因のまとめ

氷期・間氷期の名前

Holocene 現在から1万年位前までの温暖期
Wurm Glacial (欧), Wisconsin Glacial (米) 1万年から12万年位前までの氷期
Eemian Interglacial (欧), Sangamon Interglacial (米) 12万年位前に1万年くらい続いた間氷期

RCCE (Rapid Climate Change Events)

RCCE : 「リッキー」と発音

RCCEs に関連している positive feedbacks

ice sheet albedo
氷はアルベドが高いので、地球を冷やす。するとまた氷が出来やすくなる。
ice sheet elevation
氷があって、しかも高いと、冷えた空気が周りに降りてくる。
surface smoothness of ice sheet
氷表面は比較的滑らかなので、上を通る風があまり減速しない。

Younger Dryas

16000 -- 11500 年前:氷期から間氷期へ向かう時期
14500 年の頃急激に温暖化し、その後急速に寒冷化して YD となる。
気温は現在より 15 ℃くらい低い。
YD は 1300 年くらい継続し、11640 年前に突然終わる。YD の終わりが Holocene の始まり。
開始と終了には、それぞれ 10 年程度かそれ以下しかかかっていないことに注意。
YD の記録としては Ca の増加が顕著である。これは風が強くなって dust が増えたことによるのだろう。
原因は Conveyor Belt の停止である。

NADW (North Atlantic Deep Water)

NADW が出来るのは、冷たくて塩辛いから。塩辛い理由は NADW が止まるとすると、その理由として考えられるものは

Holocene の気候変動

Holocene の寒冷期

Holocene の寒冷期は 2,600 年ごとくらいに起きており、 太陽活動の減少期と対応しているようだ (Fig. 4.4)

最近の千年

MWP (Medieval Warm Period) a few x 100 AD - 1300(1350) AD
LIA (Little Ice Age) 1400 AD - 1900s 初頭 (現在?)
GISP2 によれば、開始は比較的急速。北大西洋地域では季節風が強まった (Fig. 5.7)。 原因は太陽活動が不活発になったせいかもしれない (14C にも似たような 変化がある ← Fig. 5.7)
1940-1970s 少し cooling
原因として考えられること (1) 太陽活動の不活発期 (2) 第2次大戦と戦後の工業の発達に 伴う硫酸の放出で、太陽放射が遮られた

文明と気候

メソポタミア
2,200-1,900 BC には北大西洋が暖かくなり、西風が弱まって、メソポタミアが乾燥した。 このため 2,200 BC くらいにアッカド王国が崩壊した。 (吉田注:エジプト古王国の崩壊もこれに関係しているかもしれない)
グリーンランド
985 AD にバイキングが入植した。このときは MWP で暖かかった。 ところが、1400 AD くらいに LIA が到来し、グリーンランドには ヨーロッパのような生活様式では人が住めなくなった。
マヤ文明
750-900 AD に乾燥化によって帝国が崩壊した。
ぺトラ
300 BC - 100 AD に栄えたにもかかわらず、現在ではヨルダンの砂漠地帯
シルクロード
200 AD -1000 AD (MWP) に栄えたにも関わらず、現在ではトルファン砂漠が広がっている