ウィトゲンシュタインはこう考えた
鬼界彰夫著
講談社現代新書 1675、講談社
刊行:2003/07/20
紀伊国屋書店新潟店で購入
読了:2005/01/29
ウィトゲンシュタインが書いたものは、主張の理由や前後関係がよくわからないことが多くて
わかりにくい。本書は、草稿からウィトゲンシュタインの思考の流れを時間を追ってたどり、
ウィトゲンシュタインが考えたことが明確にわかるように解説したものである。
よく分からないところも少しはあるが、全体的にはわかりやすい。
これによって、ウィトゲンシュタインの思考が時間とともにうねるように変化していることが
よくわかる。ウィトゲンシュタインの思考の限界や欠点も明確に指摘されている。
本書は、ウィトゲンシュタインのテキストから神秘のヴェールを取り払ったものだといえる。
一見神秘的に見える文も、思考の流れをたどってみると、実は明快な意味と必然性を
持っていることがわかる。
遺稿が完全に出版されたのは、2000 年だそうである。この本はそれを基にした成果であり、
おかげで画期的にウィトゲンシュタインがわかりやすくなったと言える。
(遺稿集については The Wittgenstein Archives at the
University of Bergen (WAB) 参照。ここに書いてある "Wittgenstein's Nachlass. BEE"
(Oxford University Press, 2000) がその完全遺稿集である。)
こうしてウィトゲンシュタインの思考をたどってみると、硬直化した論理から
より自然で人間の実践に基づいた柔らかな論理へと移り変わって行く様子が
よくわかる。後期になると、論理の源を日常的な実践の中に求めるように
なっていった。ウィトゲンシュタインが現在も生き続けていれば、脳の科学
や生物学の知識も援用しながら知識や言語や「私」の問題を考えていって
いる(クワインの「自然化」プログラムのように)のではないかと想像できる。
ノートをとりながら読んだ。
些細ではあるが、しっくり来ない点を一つ挙げておく。
- ウィトゲンシュタインのテキストの構造を「ゲノム的不連続構造」と読んでいるが、
ゲノムとどのようにアナロジーが成立すると考えているのかよくわからない。
単にぶつぶつ区切ってあって、重複があるという意味だとするなら、ちょっと
大げさすぎという感じである。