この本が、戦前の明治憲法下の日本を懐かしんでいるということは、 大半が幕末から終戦まで、すなわち 1850 年くらいから 1950 年くらいまでの 歴史の話であることからわかる。数少ない戦後は、ある程度私でも真偽が 分かる部分があるためにそれなりに冷やかしがいがあるので、 以下で見てゆくことにする。
まず、湾岸戦争の項を見てみよう。ここでもいっそのこと 「あのときの日本の外交は立派だった」と書けば (自由思議史観としては)潔いと私は思うのだが、 産経新聞史観しか書いてないのが情けないところである。 いわく、日本は欧米と共同行動を取らなかったから醜いし、 クウェート政府から感謝されなかったのは屈辱である。 私なら逆に、日本は欧米と共同行動を取らなくて良かったし、 クウェート政府なんかに感謝されなくて結構だったね、と 書くところだ。その方が、聞き厭きた産経新聞史観よりずっと新鮮だし、 それでこそ自由主義史観だと思うのだが。
司馬遼太郎を持ち上げている項がある。しかし、実は司馬を評価していると いうよりは、「竜馬がゆく」と「坂の上の雲」を評価しているのである。 同じ司馬の作品でも「関ケ原」や「梟の城」なんかは眼中にないところが、 いかにも明治好きの著者が書いたところである。
戦後では、あと松下幸之助と田中角栄という問題ある人物を 持ち上げている。ものごとを多面的に見るという意味では、 持ち上げるのを否定はしないけど、その持ち上げ方がいかにも 浅いのが気になる。たとえば、松下幸之助の項で、 「ビデオを VHS にするかベータにするか選択するときに、 VHS は2時間録画だから、幸之助は消費者のためだと考えて VHS に決めた」 などというそんなに単純であるはずがないことが 書かれていたりする。この調子だと、ほかの項目の記述も 浅いんじゃないかと心配になる。