本文には何ヵ所か推敲不足のせいか論理が乱れているところがあったりして、 あまり明快とは言えない部分がある。それでも大事なところは、繰り返して まとめが書いてあったりするので、内容の読解に支障はない。あと最初の第1章で、 いきなり血液型の種類がちょっと専門的な言葉遣いで記載的にたくさん書いて あるのが読みにくいのだけれど、大事な点は後から詳しく説明してあるので、 第2章に入ってしまえば問題なく読める。
血液型 Gm は、免疫グロブリンのうち ガンマー・グロブリンの型である。その遺伝子の型(ハプロタイプ)が 人種を見分ける鍵になる。というのは、たまたま遺伝子の変異速度が 人種の進化を判別するのにちょうど良いくらいだからである。人種を特徴づける Gm 遺伝子には以下のものがある。
モンゴロイド(蒙古系) | ag, axg, afb1b3, ab3st |
コーカソイド(白人) | ag, axg, fb1b3 |
ニグロイド(黒人) | ab1b3, ab1c, ab3s |
このことからだけでも、白人と蒙古系に共通する遺伝子があることから、 人種の分岐パターンが
―――――――――――黒人というものであろうと推定できる。
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―――――――――――白人
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―――――――蒙古系
蒙古系は更に3つに分かれる。
以上のことから、著者は、日本人がバイカル湖付近から来たとしている。 殊にその古い型がアイヌと先島諸島に残っている。南北端以外では 中国・朝鮮との交流により南方型の要素が少しだけ入ってきたのだろう。
以上、内容のまとめ
さらに、少なくとも現在の知見から言えば、他の遺伝子を用いて ヒトの系統を分子系統学的に調べた例もたくさんあるので、 Gm 遺伝子は今や単にそのひとつにすぎない。ただし、この本が出版された 1992 年当時他の研究がどの程度あったのはかは、私は専門ではないので よくわからない。とはいえ、血液型やミトコンドリア DNA の研究などは すでに行われていたようではあるから、それにあまり触れていないのは偏っている。
そういえば、前にこれに関連した NHK スペシャルの本を読んだことがあったのを思い出した。それによると、 遺伝子のタイプの民族による類似性は、使う遺伝子によって違って見えたりするので 日本人の起源に関してあんまりはっきりした結論はなかったようだ。 本書の日本人とブリアートとの共通性が高いという結論も、いろいろ 他の遺伝子を見るとどの程度正しいのかよくわからない。たとえば、 Y 染色体とミトコンドリアの遺伝子の例を見ると、 日本人はそれほどブリアートと近いようには見えない。 結局のところ、遺伝子のハプロタイプの構成比のようなものは、 偶然で同じようになってしまうこともあるから、Gm 遺伝子の構成比だけで あまり細かい類似性を議論するのは無理ということなのであろう。 さらに、民族の移動は何度かに分けて起こったり、その過程で混血したりするから、 それが遺伝子に反映されるやり方はたぶん複雑になる。 だから、単にひとつの遺伝子の類似性だけでは細かい系統は議論できないのだろう。 ヒトの大ざっぱなグループ分けとその系統に関しては、Gm 遺伝子でもそれ以外の 遺伝子でも結論はそう変わらない。
関連 web pages で、大山元氏による 「Gm血液型遺伝子」 というものを見つけた。大山氏は、ここで本書にいろいろケチを付けている。 それはともかくとしても、この web pages では Gm 遺伝子の構成のグラフを いろいろ書き直してみてあるので、見方を変えてみるのに便利である。