気候変動とエネルギー問題 CO2温暖化論争を超えて
深井有 著
中公新書 2120、中央公論新社
刊行:2011/07/25
九大生協で購入
読了:2011/10/11
K 先生のおすすめで読んでみることにした。地球温暖化問題とエネルギー問題を扱った本。
この本の特に興味深い部分は、宇宙線と雲の関係をレビューしてある 1.2 節と、
慣性核融合を将来有望なエネルギー技術として扱った 3.2 節である。
参考文献もきちんと挙げてあるので、こういった問題を勉強するのに良い。
前半は、太陽活動が、宇宙線の増減をコントロールすることを通して雲の増減を生んで、
気候変動が起こるという仮説を軸にして議論している。これはこれで面白い仮説で、
最近の文献までレビューしてあるのは役に立つ。しかしながら、それからさらに進んで、
IPCC を批判してみたり、二酸化炭素による温暖化を否定してみたりするところは
ちょっと行き過ぎている感がある。
- 序章でいわゆる climategate 事件を取り上げて、IPCC を攻撃しているが、
climategate 事件自身は幻(不正は無かった)という話もあり、私には真偽が判断しかねる。
参考:
いわゆる Climategate [クライイメートゲート]、わたしなりの問題整理 by 増田耕一氏
- いわゆるホッケースティックの図が、温暖化の原因が二酸化炭素であるという考えの基に
なっているかのような書き方がなされているが、これは違う。
二酸化炭素が重要と考えられている理由は、むしろ以下のような比較的理解しやすく
定量的にももっともらしい物理プロセスによって説明できるからだ。
- 二酸化炭素自体に温室効果がある
- いったん気温が上がると、大気中の水蒸気が増えて温室効果が増幅される
- 氷アルベドフィードバックによって、氷が融けると特に極域で温度が上がる
したがって、ホッケースティックの図が誤っていても、二酸化炭素が重要であるという考えには
ほとんど影響がない。
温暖化の原因が二酸化炭素であっても、二酸化炭素排出削減にお金をかけるのは無駄だという議論は、
ロンボルグとか武田邦彦がそうしているように
可能である。私もそういう考えが妥当だと思っている。
二酸化炭素による温暖化の程度の不確定性は大きいにせよ、それを全否定するのは行き過ぎであろう。
気候変動の部分に関しては、専門家である
増田耕一氏の書評
が参考になる。
後半は、エネルギー問題である。化石燃料や原子力に代わるエネルギーは何かを議論している。
未来のエネルギーとして著者が有望視しているのは、次の3つである。
- 水素を二次エネルギーとして太陽エネルギーを利用すること
- 藻類を利用したバイオマス;藻類は成長が速い
- 慣性核融合;今や磁場閉じ込め方式よりも有望
殊に核融合関連の話は興味深い。
ミスプリ1カ所発見
p.135
(誤)草野完世
(正)草野完也