ももたろう
松井直(文)、赤羽末吉(画)
福音館書店
刊行:1965/02/20、刷:2010/09/01(第117刷)
福岡博多の丸善博多店で購入
読了:2011/04/24
参考版
桃太郎
楠山正雄著
青空文庫 (online) 桃太郎
登録:2003/08/21,27
青空文庫の元になった文庫本:1983/05/10 講談社学術文庫「日本童話宝石集(二)日本の神話と十大昔話」
その元となった単行本:1921,1922 冨山房「日本童話宝玉集(上・下)」
読了:2011/04/24
以下、主に松居・赤羽版の感想で、楠山版(青空文庫)はその参考として使った。
言わずと知れた「桃太郎」。本屋で物色してみると、いろいろなバージョンがある。
おじいさんが山に「たきぎとり」に行ったりするようなバージョンもある中で、
やっぱりおじいさんは「しばかり」に行かなきゃ、ということで選んだもの。
そこで、文も絵もちょっと昔風なものになった。
日本語の質も絵の感じも良く、文と絵が一体として作られていることがわかる。
桃太郎の絵がけっこう凛々しい。
発行年を見てみたら 1965 年ということでロングセラーである。
気に入る人が多いのであろう。第12回サンケイ児童出版文化賞も受賞している。
絵を描いた赤羽末吉は国際アンデルセン賞を受賞した大家で、
いかにもこの年代という感じの和風ヘタウマ感がある。
文を書いた松居直は、福音館書店の編集長や社長を務めた児童文学界の大立物である。
桃太郎が鬼が島に行くときの表現が、「やまこえ たにこえ」に続いて、見開き2ページを使って
「うみをこえ、ゆくがゆくが ゆくと―」としているのが面白いし、
船が海原を越えて行く絵も素晴らしい。この絵本の中でも白眉の部分である。
「ゆくがゆくがゆくと」のリズムが三連符のように心地良い。
ちょっと昔風と言っても、本当の伝統からはいろいろずれていて、以下のような特徴がある。
楠山版は、もともと大正時代のもので、文は平明、内容も私たちの知っている
オーソドックス版なので(なお、明治時代以前はまただいぶん違うようである)、
それと比較するとよく分かる。
- 独特の擬音を用いている。
(1) 桃は「どんぶらこ」と流れるくるのではなくて、
「つんぶく かんぶく」流れてくる。この擬音はどこから来たものだろうか。
正確に言うと、第一の小さい桃が「つんぶく かんぶく」と流れてきてこれをおばあさんが食べ、
第二の大きな桃は擬音がなくてただ流れてくる。
ちなみに楠本版は、最初から大きな桃が「ドンブラコッコ、スッコッコ」と流れてくる。
(2) ももたろうの泣き声は「おぎゃあ」(楠本版もそう)ではなくて、
「ほうげあ ほうげあっ」である。これはおもしろい良い語感だと思う。
- ストーリーをきっちり勧善懲悪にしてある。これはおそらく賛否両論あろう。
もともと、桃太郎は、はっきりしない理由で鬼を退治しそのお宝を強奪するという物語なので、
解釈によっては、芥川龍之介が
小説にしたように、あるいは福沢諭吉が批判しているように (Wikipedia による)、
桃太郎はあまり理由も無く宝物を強奪する悪者なのである。
この絵本の作者は、それではまずいと思ったのであろう。
鬼がお姫様をさらったので、それを取り戻すというストーリーにしてある。
さらに念を入れて、お宝も持って帰らず、お姫様を救うだけで戻るという筋にしてある。
で、そのお姫様は桃太郎のお嫁さんになる。
これは何となく 1960 年代風な気がする。
今風だと、不条理な部分も含めて昔話を受け入れるものかもしれない。
桃太郎比較サイトを以下に挙げておく。
松居・赤羽版の紹介サイト