ところで、「Frozen」が「アナと雪の女王」のもとの英語の題である。 日本語で、たとえば「凍って」などと訳するとちょっとカッコ悪いので、「アナと雪の女王」にしたものと推測される。 英語だとなぜ「Frozen」がカッコ悪いと感じられないのかは私にはよく分からない。
「アナと雪の女王」は本当にうまくやっているなあと思う。 Let it Go の歌は無料でネット配布し、ヒットさせて、みんな映画に行きたいなあという気にさせる。 以下で分析するように、ストーリーも良くできているから、リピーターも現れる。 そして、これからはビデオ(DVD でもブルーレイでも規格はともかくとして)を大々的に売って行くのだろうと思う。 ついでに言えば、YouTube には無料配布されている歌の替え歌もごっそりあってなかなか楽しめる。
販売戦略はともかくとしても、中身もよくできている。まず、大事なことは、話が基本的にはこの手の物語の型に従っているということだ。 英雄物語には型があるというのを、私は最近、松岡正剛著「17歳のための世界と日本の見方」で知った。 それは Joseph Campbell というアメリカの神話学者の分析によるものだそうである。以下、「アナと雪の女王」に従ってあてはめてみる。
「アナと雪の女王」の場合は、これに「シンデレラ」の要素が混合されている。シンデレラに相当するのは Elsa 女王である。 これもシンデレラと比較してみると、
というわけで、おそらく意識的だと思うけれど、この Frozen は、Anna をヒロインに、Elsa をシンデレラにした物語であって、 英雄物語とシンデレラという2つの型を巧みに合成して作り上げられている。もちろん、当然ヒットするわけである。 さらには、Olaf という道化役を入れて笑いを取るのも忘れていないし、もちろん映像も CG を駆使して美しい。 主題歌の Let It Go がシンコペーションを多用しすぎているのが気にならなくもないけど、映画物語製作の技巧を駆使して 作り上げられた名作であると言える、と思う。このように、おそらく組織的に売れる物語の構造を研究し、 形にしてゆくのはアメリカ文化の強さを示していると思う。日本にもアニメの名作はいろいろあるけれど、 骨格の部分は作者の個人技に頼っている感じがあって、それは良さでもあるけど欠点でもあると感じる。
YouTube(元はラジオ番組「伊集院光 深夜の馬鹿力」4/30 らしい)で伊集院光が、「アナと雪の女王」を酷評していた。 曰く「悪いところが一切ない。良いところが一切ない。こんな毒にも薬にもならない映画を久々に観たな」 「見どころを一か所。雪のサクサク感」。これらは要するに、上で書いたような型通りに造りこまれたところが 気に入らないということだと思う。ま、これは見方の違いで、この組織的な技巧に感銘を受けるかどうかってとこですね。 私は、分析的に見てゆける技巧も結構好きということで。
あと、洒落たところとしては伏線の入れ方がある。最初の方で Anna が Elsa の魔法で頭をやられて、Pabbie に治してもらうとき、 Pabbie は、
You are lucky it wasn't her heart that was struck. The heart is not so easily changed, but the head can be persuaded.と言っていた。後の方で、今度は心臓をやられたときの Pabbie の言葉は
当たったのが心臓でなくて良かった。心はなかなか取り替えられないけれど、頭は手なずけられる。
If it were in her head, that would be easy. But only an act of true love can thaw a frozen heart.であった。この鮮やかな対照が物語に芯を入れている。ところで、英語だと「心」も「心臓」も heart だから良いけど、 訳すときはどっちにするか迷ってしまう。
頭だったら簡単だったのに。凍った心を融かせるのは、真の愛がこもった行いしかないんだよ。
小説化の方は、映画に忠実に沿っている。歌が入っておらず、すべて説明的に書いてあるのが違いと言えば違いである。 Let it go の歌も、以下のような説明に置き換えられている。
But a tiny part of her also felt relieved. Her magic had been a hard secret to keep, and she didn't have to hide it anymore. Being alone was easier, too. She didn't have to worry about hurting anyone. (以下略)英語の勉強になったところをひとつだけ。これはたまたま映画を見る直前に読んで、ちょっと意味が取れずに、 映画を見て意味が分かったので憶えているというだけのことだが。
でも、彼女は心の底でちょっと気持ちが楽になっていた。いままではずっと苦労して魔法を秘密にしてきたけど、もう隠さなくてよくなった。 一人ぼっちなのもかえって気が楽だ。もうだれを傷付ける心配もしなくてよいから。
I figured after we married, I'd have to stage a little accident for Elsa.Hans が悪者ぶりを見せる場面で言ったセリフである。ポイントは stage が「企てる」の意味であるということである。
ぼくたちが結婚したら、エルサをちょっとした事故に巻き込んで(殺して)やらなきゃと思ってたのさ。