iPS 細胞 第2版
水谷仁 編集長
Newton 別冊、ニュートンプレス
刊行:2012/10/15
福岡天神のジュンク堂書店福岡店で購入
読了:2014/09/06
最近 STAP 細胞が話題になってるからということで買ってしばらく放ってあったのを、
エピジェネティックスの本を読んだついでの勢いで読んだ。
本書は、ニュートンの記事を集めて再編集し、さらに新しい記事も加えられたもののようである。
ニュートンなので、素人向けでわかりやすい。
読者の質問に答えたQ&Aコーナーがなかなか良い。たとえば、「iPS細胞のDNAは、もとの患者のDNAとは厳密には違う (p.65, Q30)」
といったことは、おそらく玄人だと当たり前すぎて書き落としそうだが、私のような素人だと一応確認したくなるようなところである。
あるいは、「iPS細胞のDNAにはテロメアが無いのか (p.60, Q14)」というのも疑問になるところで、
これも、テロメラーゼが働いているからテロメアが短くならないと答えてある。
万能細胞を作るということは、エピジェネティックな修飾を外して細胞を初期化するということである。
エピジェネティックな修飾の複雑さを勉強した後だと、4つの転写因子(ヤマナカファクター)で初期化ができる
というのはとても不思議なことで、iPS 細胞の革新性というのがよくわかる。
とはいっても、どうやって初期化されるかのメカニズムはまだちゃんとわかっていないようである。
クローン羊「ドリー」で初期化ができるということが分かった後ではあったので、
何か簡単な手続きで初期化ができるはずだという発想がでてきたというのはわかるのではあるが、
少数の因子だけで良いはずだと考えるのは大胆な話である。
近頃 STAP 細胞問題で話題になる人も出てくる。
若山照彦氏は、世界で初めてクローンES細胞をマウスで作った研究者として似顔絵入りで出てくる (pp.42-43)。
笹井芳樹氏は、インタビュー記事があり (pp.124-127)、ES細胞から立体的な組織を作ることに成功した優れた科学者として紹介されている。
自殺に追い込まれたのは、傷ましいことである。数日前の Nature に
追悼記事が出た。
本書でも紹介されているようなES細胞から眼杯や神経細胞を作ったこと (p.109, pp.125-126) が高く評価されている。
以下、簡単なまとめ:
- ES 細胞 (Embryonic Stem cell) は、初期の胚(胚盤胞)から内側の細胞を取り出して培養したもので、無限に増殖できて多能性がある。
- ES 細胞は、ヒトの場合は、不妊治療で体外受精させてできた胚のうち余ったもの(余剰胚)から作る。
この余剰胚をほぐしてしまうので、倫理問題がある。再生医療に使う場合は、他人のES細胞を使うことになるので、拒絶問題がある。
- iPS 細胞 (induced Pluripotent Stem Cell) は、体細胞(最初に山中氏が用いたのは線維芽細胞)に、
4つの初期化因子(のちに3つで良いことが分かった)を組み込んだレトロウイルスベクターを送り込むことによって、
初期化させたもの。
- 医療への応用としては、大きく (1) 再生医療 (2) 病気の原因究明 (3) 新薬開発がある。
- 再生医療:iPS 細胞はいろいろな細胞に分化できるので、それで体の部品を作ることが原理的にはできるはず。
といっても、臓器のように複雑なものに分化させるのは難しい。安全性の問題もある。
- 病気の原因究明:遺伝的疾患の場合は、患者の iPS 細胞をその病気の細胞に分化させることで、詳しい原因究明に役立つ。
- 新薬開発:患者の iPS 細胞を患部の細胞に分化させることで、薬のテストができる。生きた人間では簡単にはできないテストができるようになる。