1秒って誰が決めるの? 日時計から光格子時計まで
安田正美 著
ちくまプリマ―新書 215、筑摩書房
刊行:2014/06/10、刷:2014/06/10(第1刷)
九大生協で購入
読了:2014/08/28
本書は、精度が良い時計を作る歴史と、著者も開発者の一人である最新の高精度時計である光格子時計の話である。
その最近話題の光格子時計というものがどういうものか知りたかったので読んでみた。
読んでみた結果、なんとなく雰囲気は分かったものの、やっぱり中高生向きの新書なのでやや物足りなく、分かった気がしない部分も多かった。
やさしくしようという努力がいろいろ感じられる一方で、やさしくするがためにどうしても十分な説明になっていない部分もあった。
こういう本を書くときは、そのへんのかねあいが難しいところである。
ここで紹介されている時計の歴史について簡単にまとめておく。
- 機械式時計
- 一定の力を加えることで一定の速さで時計の針を回すもの。12 世紀にヨーロッパで重力を利用するものが作られた。
最初は精度が1日に1時間程度 (i.e. 10-1 程度)。16 世紀初頭にはぜんまいが作られた。
- 振り子時計
- 振り子の等時性を利用して時を刻むもの。1583 年にガリレオ・ガリレイが等時性を発見。これを利用して時計が作られるようになった。
誤差が1日に10分程度 (i.e. 10-2 程度)になった。
- ハリソンの時計
- ばねによる振動を用いるもので、18 世紀に経度の測定のために職人のジョン・ハリソンが作った。船上でも使える高精度の時計であった。
(「経度への挑戦」参照)
- ショートの時計
- 20 世紀初めに鉄道技師のウィリアム・ショートが高精度の振り子時計を作った。誤差は1年に1秒程度 (i.e. 10-7 程度)。
- クォーツ時計
- 圧電効果に伴う振動を利用して時を刻む。1928 年に誕生。セイコーが腕時計に利用するのに成功し、以後、日常的によく使われている。
精度は1年に数秒から数分程度 (i.e. 10-6 程度)。
- 原子時計
- 1945 年、原子時計のアイディアが生まれる。1949 年、ハロルド・ライオンズがアンモニアの吸収線に基づいた時計を発明。
1955 年、ルイ・エッセンがセシウム原子時計を開発。1969 年、1 秒の定義がセシウム原子時計に基づくものに変更される。
セシウム原子時計は、セシウム原子の 91.9 GHz のマイクロ波の振動を測定する。セシウムが採用された理由は、
天然には質量数 133 の同位体しか存在しないことと、重いので調べやすいということであろう。
- 単一イオン時計
- 原子どうしやイオンどうしの衝突の影響を無くすために、単一のイオンを捕まえて、その共鳴散乱を測る。
単一のイオンを捕まえる方法は、ヴォルフガング・パウルが開発した。
イオンを静止させるための「レーザー冷却法」は、アメリカやフランスの物理学者が 1970 年代以降に発明した。
2000 年ころにジョン・ホールとテオドール・ヘンシュが開発した光周波数コムを使うことで可視光域の周波数の測定ができるようになった。
- 光格子時計
- 単一イオンでは信号強度が弱い。そこで、原子をきれいに並べるという光格子の方法を香取秀俊が 2001 年に提案した。
光格子はレーザーの干渉縞で作る。問題は、光格子を作るためのレーザー光で原子の共鳴周波数がずれないかということなのだが、
「魔法波長」というものがあって、原子をだましてあたかもレーザーを当てていないかのような状況を作ることができる。
香取は 2003 年にストロンチウム光格子時計の開発に成功した。
時計の精度は 10-15 に達した。さらに、著者らは産総研でイッテルビウム光格子時計の開発を行っている。
地球科学関連のことが書いてあるところで、省略しすぎだという気がする点が2つあった。
- pp.150-153 GPS を使った位置の測定で、コードを用いる通常の測位と搬送波を使った干渉測位とが区別せずに書かれている。
もちろん、本題でないところなので、詳しく書くことはできないだろうが、精度の違う方式がいくつかあるくらいのことは書いても良さそう。
- pp.154-158 時計を使って重力を測定する可能性が書かれている。これだけ読むと、一見、現在は重力による地下探査が
行われていないように読める。もちろん、重力による地下探査は現在すでにいろいろ使われている。
現在行われているのは、時間の一般相対論的効果を使うのではなくて、高精度のばねばかりのような重力計を使う方法である。
そのくらいのことは、ひとこと書いてほしかった。
もちろん、時計で現在の重力計と同程度の精度が出せるようになれば(時計の精度が 10-18 まで行けば良いそうだ)、
たいへん有用なのだが。
よくわからなかった点
- p.126 「光格子の容器の深さが 0.25mm」のこの深さは本当の空間スケールなのか何かの喩えなのかよくわからない。
- p.128 「原子が飛び上がって」の飛び上がるのも、喩えなのか実際に飛び上がるのかがよくわからない。