少年が旅をして、途中苦しい目にも遭いながら、たくましく成長する物語だ。といえば、ありふれているといえばありふれている。 しかし、これは美しい言葉で書かれているし、Joseph Campbell が見抜いた定型の バリエーションであるところが感動の源であり、私も引き込まれてすぐに読めた。定型どおり、助言者と指導者のような人が出てくる。 助言者に当たるのが、老いているが輝く衣を着た王メルキゼデックである。指導者は、オアシスで出会った錬金術師である。
ただし、そうは言いながら、全体的に伝えられるメッセージが、いわば反知性主義的なのが気になるところだ。 体験的に受け取る経験知と、運命のようなものを信じて、強く望みさえすれば望みがかなうのだ、というのが全体のメッセージである。 それは一見美しくて良いのだけれど、ちょっとおとぎ話でありすぎるのではないかと思う。 大人向けの本ではないということかもしれないが、子供向けのメッセージとしてもなんかちょっと違和感を感じてしまう。 夢見る人に受けるように書いちゃったんじゃないのかという感じがする。とはいえ、世界的なベストセラーだそうな。
上に関連して、amazon レビューで★一つのものを見ると、「運命」は personal legend の訳らしい。 だから、もともとは「運命」とはちょっと違った意味合いで使われていたのかもしれない。
細かいが気になったことがひとつある。メルキゼデックがセイラムの王だと書いてあることだ。メルキゼデクは旧約聖書の登場人物で、 Salem の王である。この小説ではその伝説の人物を少年の導き手として登場させている。 本書では、その近くで Abraham をエイブラハムではなくアブラハムと音訳している以上、Salem はサレムと音訳すべきだ。 Salem は Jerusalem(エルサレム)のことだとされることも多いらしいので、であれば猶更「サレム」でなければならない。 アメリカに Salem(セイラム)という地名があるから、それに合わせたのだろうが、もともと英語圏の小説ではないのだから、 a をエイと読んではいけない。とはいえ、ナイル川をニール川と書かれたらわからなくなるかもしれないから、統一もできないけど。