ジェイン・オースティン 高慢と偏見

著者廣野 由美子
シリーズNHK 100分de名著 2017 年 7 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2017/07/01(発売:2017/06/25)
入手電子書籍書店 honto で購入
読了2017/07/31

タイトルしか知らなかった本であるが、解説を聞いてみるとおもしろい。繊細な心理描写が魅力のようだ。 そのうち小説をちゃんと読んでみたい。

漱石が冒頭部を激賞していると紹介してある。おそらくそれは、そのような会話による繊細な描写を漱石が苦手としていたからであろうと思う。 以前読んだ小谷野敦「『こころ』は本当に名作か」では、 小谷野はオースティンご推奨で、漱石は貶されていた。まさにこのような会話による自然な描写を、オースティンは得意としていたのに対し、 漱石は苦手としていたことが小谷野の評価の原因であろう。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 偏見はこうして生まれた

ジェイン・オースティンと『高慢と偏見』
1775 年生まれ。中産階級の家で育った。父親が本好き。1817 年、病気のため 41 歳で死去。生涯独身で、恋愛小説を書き続けた。
1813 年に『高慢と偏見』を出版。当時から評判が良く、イギリスでは長い間読み継がれている。
冒頭
ベネット家の隣にお金持ちの独身男性ビングリー氏が越してくる。
ベネット家には5人の娘がいて、母親は娘たちを金持ち男性と結婚させたいと思っている。
父親は、賢い次女のエリザベスが気に入っている。母親は長女のジェインと末娘のリディアをかわいがっている。
当時のイギリスでは、長男が相続することになっていた(限定相続制)。
舞踏会
舞踏会で、ベネット家の母娘とビングリーが顔を合わせる。
ビングリーは友達のダーシーを連れてくる。ダーシーは金持ち。
ビングリーは美人の長女ジェインに一目ぼれ。ダーシーは人付き合いが下手。
コリンズ
ベネット家には男子がいないので、甥のコリンズが財産を相続することになっていた。 コリンズはベネット家の娘と結婚したいと思っていた。コリンズは教養のない俗物で、成り上がり。
コリンズはエリザベスに求婚するが、エリザベスは拒否。
スキーマと偏見
信念の土台となるような考えのことを認知療法では「スキーマ」と呼ぶ。このスキーマに基づいて無自覚のうちに認知が歪む。これが「偏見」である。
エリザベスのスキーマは「自分は上昇しなければならない」というもの。 エリザベスは、知的レベルの低いコリンズが、「成り上がり意識」を自分と共有していることに我慢がならなかったのではないか。

第2回 認識をゆがめるもの

ウィッカム
エリザベスも妹たちも将校のウィッカムに夢中になる。
ウィッカムは、ダーシーの悪口をエリザベスに吹き込む。エリザベスのウィッカムへの恋心は高まり、ダーシーをますます嫌いになる。
しかし、ウィッカムの言っていたことは嘘と偏見に満ちていたことが後で分かる。
ウィッカムも「成り上がり」組。ウィッカムは財産が無いので、働かなくてはならない。ベネット家よりも格下。
ジェインとエリザベス
エリザベスは、ウィッカムから聞いたことをジェインにすべて話す。
ジェインは素直にものを見ているが、エリザベスはウィッカムの言ったことを信じている。
ウィッカムが他の金持ちの女性に言い寄ってエリザベスが振られても、エリザベスはウィッカムのことを悪く思わない。
ダーシー
ダーシーはエリザベスに惹かれはじめる。
舞踏会で、エリザベスは、ダーシーに偏見をぶつける。
ベネット家の母親が俗物根性を丸出しにして醜態を演じる。その後、ビングリーは屋敷を去る。ビングリーはジェインと結婚しないことにする。

第3回 恋愛のメカニズム

エリザベスの偏見とプライド
エリザベスはダーシーへの憤慨を募らせる。
一方、ダーシーはエリザベスに恋心を抱くようになる。
ルーカス家でのパーティーで、ダーシーからのダンスの誘いをピシャリと断る。このエリザベスの媚びない態度がかえってダーシーにとって新鮮に感じられた。
ミス・ビングリー
ビングリーの妹であるミス・ビングリーは、ダーシーに好意を抱き、ダーシーとエリザベスとの関係を引き裂こうとする。
しかし、結果として、ミス・ビングリーは、ダーシーとエリザベスとの間を近付ける役割を果たしてしまう。
ダーシーの求婚
エリザベスは、ジェインとビングリーの間を引き裂いたのがダーシーであることを知る。それは身分の違いのせいだったのだろうと思い込む。
そこへダーシーがやってきて求婚する。エリザベスはその身分の違いを気にする言葉に怒って、求婚を断固として断る。ダーシーの高慢 (pride) がエリザベスの自尊心 (pride) を傷つけたのだった。
ダーシーは自分の高慢さを反省し、エリザベスのことを再評価した。

第4回 「虚栄心」と「誇り」のはざまで

ダーシーとエリザベス
エリザベスは、ダーシーからの手紙を読んで、ウィッカムに関しては自分が間違っていたことに気付いた。 自分のプライドのありかたが間違っていたと反省した。
エリザベスはガーディナー夫妻とともにダーシーのペンバリー屋敷を見学。 エリザベスには新たな虚栄心も芽生える「これらの部屋は、私にとって馴染み深いむのになっていたかもしれないのだわ!」 (=ダーシーと結婚していたら私はこの立派な屋敷の主人になっていたかもしれない)。
そこへ不在と思っていたダーシーが帰ってくる。
末の妹のリディアがウィッカムと駆け落ちしたことにエリザベスはショックを受ける。それをダーシーに打ち明ける。 自分のプライドが覆されたとき、エリザベスはダーシーへの愛に目覚める。
ダーシーは、リディアとウィッカムが結婚するように取り計らう。ダーシーの計らいもあって、ジェインとビングリーが婚約。
キャサリン・ド・バーグ夫人(ダーシーの叔母)が、エリザベスとダーシーの仲を裂こうとしてエリザベスを侮辱したので、エリザベスが徹底抗戦。 その話をダーシーが聞いて、ダーシーはエリザベスの本心を知り、ダーシーはふたたびエリザベスに求婚。 エリザベスはそれを受け入れる。キャサリン・ド・バーグ夫人は、結果的にかえってエリザベスとダーシーの縁結びをしてしまった。
最後にエリザベスは、ガーディナー夫妻に婚約の報告をする手紙の中で、「私は世界一の幸せ者です」とか「私はジェインよりも幸せです」とか 「私は笑っちゃいます」とか「ペンバリーにいらしてくださいね」などと書いている。これは、これまでエリザベスが恥としていた 自分の母のベネット夫人とか妹のリディアのものの言い方を思わせる。賢いエリザベスにも俗物根性がある。
オースティンの評価
オースティンの描いている世界が狭いということで嫌う作家もいれば、人間関係や感情を上手に描いているということで絶賛する作家もいる。
オースティンは、狭い世界の中で深い人間性を描いている。