著者の山下氏は、昨年は「NHK カルチャーラジオ」で宮沢賢治を紹介していたと思ったら、
今年は「100 分 de 名著」に登場である。「カルチャーラジオ」の方が時間が長いので詳しかったわけだが、
今回は4回なので視点を絞って紹介されている。
「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー
第1回 自然からもらってきた物語―「注文の多い料理店」「鹿踊りのはじまり」「貝の火」「イーハトーボ農学校の春」
今回は、風や光などの周囲の自然を共感覚の感性で描く賢治を見てゆく。
- 宮沢賢治
- 1896 年生まれ、1933 年歿。
- 名家に生まれ、生涯にわたって金銭の心配をする必要がなかった。
- 生前発表されたのは『春と修羅』『注文の多い料理店』
- 生前はあまり知られていなかったが、草野心平や中原中也は注目していた。
- 賢治は、自然のエネルギーを吸収して童話を書いた。共感覚(複数の感覚が混ざること)があったとも言われる。
- 作品には、科学用語や宗教用語がたくさんでてくる。それは、賢治が理系であったことと、法華宗の熱心な信者であったことが関係している。
- 「イーハトーボ農学校の春」
- 文章中に楽譜が挿入されている。
- 春の光がさまざまの感覚で表現されている。
- 風
- 「注文の多い料理店」では、風と共に西洋料理店「山猫軒」が出てくる。そして料理店は風と共に消える。
- 「鹿踊り(ししおどり)のはじまり」では、風が吹いて自然の声が聞こえてくる。
- 「貝の火」
- 子ウサギのホモイは、「貝の火」という「玉」を授かって力を持つことができるようになった。
それで、ホモイは増長する。最後には「玉」が砕けて、その破片が目に入り、ホモイは失明する。
- 横溢する感性の世界と、慢心の報いが描かれている。
- ホモイ=ホモ・サピエンス
第2回 永遠の中に刻まれた悲しみ―「永訣の朝」「オホーツク挽歌」「雪渡り」「やまなし」
今回は、死を扱った作品を見てゆく。
- 詩集『春と修羅』
- 賢治は、これを「心象スケッチ」と呼んでいる。
- 書いた詩に日付が記されている。
- 妹トシの死
- 二つ下の妹のトシが1922年11月27日に24歳の若さで亡くなる。病気のトシを賢治は献身的に看護した。
- トシは優秀で、日本女子大学校を卒業し、花巻高等女学校の教師となった。トシは、賢治の法華宗の同志でもあった。
- トシへの挽歌が、「永訣の朝」「無声慟哭」「オホーツク挽歌」など。
- 「雪渡り」
- 物語には死のイメージが漂っている。
- 四郎とかん子の兄弟が狐の幻燈会に出かける。二人は幻燈会の後で死の世界に渡ったとも読める。
- 「やまなし」
- これにも死が登場する。それを包み込む命も感じられる。
- 蟹の子供の会話:『クラムボンはわらつたよ。』で始まるが、後の方になると『クラムボンは殺されたよ。』となり、やがて魚がカワセミに捕えられるのを見る。
第3回 理想と現実のはざまで―「雨ニモマケズ」「毒もみのすきな署長さん」「土神ときつね」「なめとこ山の熊」
今回は、理想を掲げながらも現実を肯定する視点で描かれた作品群を見てゆく。
- 「雨ニモマケズ」
- 現実の壁に突き当たった賢治の生き方が描かれている。
- 手帳に書かれていたのが偶然見つかった。作品として世に出したいと思っていたかどうかわからない。
- 実は、手帳の詩の後には法華経の言葉が書かれている。これも詩と一体なのかもしれない。
- この詩は、軍国主義の中で広まった。
- 戦後は教科書に載り、戦後の窮乏を耐えることと重ね合わされた。こうして、「雨ニモマケズ」とともに宮沢賢治が日本人全体に知れ渡った。
- 賢治の理想と現実
- 賢治は本当の百姓になろうとして、花巻農学校の教師を辞める。「羅須地人協会」を立ち上げて農民芸術をしようとするが、一年足らずで挫折する。
- 羅須地人協会が終わってからは、賢治は化学肥料のセールスや農業指導を行う。
- 「毒もみのすきな署長さん」
- 毒もみという魚の捕り方が禁じられている国があった。
- 新しく来た警察署長が毒もみをした。そこで死刑になった。
- 署長さんは「地獄で毒もみをやるかな」と言って首をはねられた。そこで、「みんなはすっかり感服しました。」
- 賢治には、このように現実を直視する視点があった。
- 「土神ときつね」
- 男である土神ときつね、それと女である樺の木の三角関係である。
- 土神は、上品でおしゃれで不誠実なきつねに嫉妬と義憤を感じ、理性を失って殺してしまう。
- このように、賢治は人間の抑えがたく非理性的な心の動きも描いている。
- 「なめとこ山の熊」
- 漁師の小十郎と熊たちは心の中で結ばれていた。
- あるとき、ある熊に二年殺すのを待ってくれと言われる。その二年後、熊は小十郎の家の前で死んでいた。
- 老いた小十郎は熊に襲われて死んだ。その後、小十郎の亡骸は熊たちに崇拝された。
第4回 「ほんとう」を問い続けて―「学者アラムハラドの見た着物」「ポラーノの広場」「マリヴロンと少女」「銀河鉄道の夜」
今回は、「まこと」や「ほんたう」を問い続けた賢治に迫る。
- 「学者アラムハラドの見た着物」
- 人は本当の良いことが何かを考えないではいられない。人は本当の道を求める。
- 「ポラーノの広場」
- 存在の起源を探しに行く物語であると解釈。
- 「マリヴロンと少女」
- 少女ギルダは声楽家マリヴロンを尊敬している。
- もともと「めくらぶだうと虹」という物語だった。すなわち平凡に働く人と美しい芸術の関係を描いたもの。
- マリヴロンのことば「正しく清くはたらく人はひとつの大きな芸術を時間のうしろにつくるのです。」
- 『農民芸術概論綱要』
- 賢治の芸術論。
- 労働と芸術の一体性。
- 「銀河鉄道の夜」
- ジョバンニとカムパネルラは、銀河を旅する。二人は本当の幸いについて話す、