神谷美恵子 生きがいについて

著者若松 英輔
シリーズNHK 100分de名著 2018 年 5 月
発行所NHK 出版
電子書籍
刊行2018/05/01(発売:2018/04/25)
入手電子書籍書店 honto で購入
読了2018/06/13

著者は、「100 分de名著」に過去講師として少なくとも2度(内村鑑三と石牟礼道子)登場するとともに、 最近「カルチャーラジオ」にも登場していたので、本の取り上げ方の傾向がわかってきた。 著者(講師)は、論理的な思索よりは、魂の訴えを重視するタイプの人である。 神谷美恵子は「カルチャーラジオ」でも取り上げていたので、 この『生きがいについて』こそ著者が最も好きな本なのかもしれない。

元の本のせいか、著者のせいかよくわからないけど、この解説は全体としての像があまり伝わらない。 個別の部分は感情に訴える部分があるしその通りだなあと思うけれど、なぜか全体として頭に入ってこない。 論理性が軸になっていないためだと思う。

「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー

第1回 生きがいとは何か

神谷美恵子
精神科医。1914生まれ。ハンセン病療養所で患者と向き合う。
『生きがいについて』
1966年出版。
生きがいとは
生きがいは、存在理由 raison d'être というより生存理由 raison d'existence といったほうが良い。
「生きがい」という言葉の使い方には、狭い意味での「生きがい」と「生きがい感」と呼ぶべきものの2種類がある。
狭い意味での「生きがい」は、生きがいの源泉のこと。
「生きがい感」は、生きがいを感じている精神状態のこと。
生きがいは腹の底から湧き上がるもの
数学者岡潔に学ぶ。研究の喜びは、素朴で純粋な感覚。
生きがいは、目的に向かって歩く道程そのもの。
「生きがい」を考えるためのの4つの問い
1 自分の生存は必要か
2 自分固有の生きていく目標は何か
3 自分は生きていく資格があるか
4 人生は生きるに値するのか
上の4つを順に見てゆくと、個人である自分から出発して、やがて普遍的な問いへと変化している。
希望と使命
生きがいを感じるのは、したいと思うことと義務とが一致する時。
シュヴァイツァーに学ぶ。30歳を過ぎたら、社会に奉仕をする。
待つことの創造性
詩人ミルトンに学ぶ。失明したミルトンは、詩人としての使命を支えにして生きる。
待つ時間が必要なこともある。ミルトンも失明の絶望から立ち直るのに時間がかかった。

第2回 無名なものたちに照らされて

神谷美恵子の生い立ち
1914 年岡山生まれ。津田塾大学卒業。
ハンセン病患者と出会い、医師になることを決意。東京女子医大に編入。
精神科医として長島愛生園ではたらく。
長島愛生園で、生きがいを失った人が多い中で、生きがいを持っている人がいることを目の当たりにする。
わざわざ研究などしなくても、はじめからいえることは、人間がいききと生きて行くために、生きがいほど必要なものはない、 という事実である。それゆえに人間から生きがいをうばうほど残酷なことはなく、人間に生きがいを与えるほど大きな愛はない。
志樹逸馬
ハンセン病患者で詩人。
わたしは
おろ おろと しびれた手で足もとの土を耕す
泥にまみれる いつか暗さの中にも延ばしてくる根に
すべての母体である この土壌に
ただ 耳をかたむける
言葉の中に使命感を感じている。
神谷美恵子の感受性
ハンセン病患者の痛みと向き合う。
自分がガンに罹って、死と向き合う。

第3回 生きがいを奪い去るもの

愛する人の死
神谷は、若い頃、恋人を結核で失っている。
他人の死を通常は「社会的な死」として受け入れる。しかし、本当に大事な人の死は「私の死」になる。
「私の死」を経験することによる「うめき」。
生きがいの喪失と待つこと
生きがいを奪われたような状況は、意識の背景に残る。
待っていると、生きがいが生まれてくる。
作家パール・バックは、知的障害のある子を持った。 彼女は絶望したが、自分を中心に考えず、子供を中心に考えることができるようになって再び生きがいを見出した。
詩人ジョン・ミルトンは、失明の絶望の果てに、傑作『失楽園』を書き上げた。
他者の悲しみとの共鳴
悲しみは、他者と共感する「心の弦」を生み出す。
私は孤独でもあるが、見えない仲間たちに支えられている。

第4回 人間の根底を支えるもの

変革体験
人はあるとき自分の使命に気付く。それが生きがいとなる。
人は何かに生かされているのだと気づく。素朴な経験の中に感謝を感じる。
生かされていることに忠実に生き抜かなければならない。
近藤宏一(筆名:小島浩二)の変革体験
近藤宏一は、ハンセン病の後遺症のため、目も見えず、指先も使えなかった。
あるとき聖書を聞いて、読みたいと思った。そこで、唇と舌で読むこと(舌読)を学んだ。
近藤宏一は、仲間と「青い鳥楽団」をしていた。点字の楽譜も唇と舌で読んだ。
近藤宏一は仲間のためにも楽譜を読んだ。人とのつながりの中に生きがいを感じた。
生きがいと宗教
既存の宗教ではない「生きた宗教」がある。精神的な宗教、内面的な宗教は、祈り。
自分を取り巻く力の中で生きる。
宗教というものを、既成宗教や宗派の枠にとらわれずに、教義や礼拝形式などの形をとる以前のもの、 またはそれらを通してみられるもの、つまり、目にみえぬ人間の心のありかたにまで還元して考えるならば、 それは認識、美、愛など、精神の世界のあらゆる領域に浸透しているように思われる。