『モモ』を読んだことはなかったが、この解説でどんな話かわかった。主人公が試練を乗り越えて大人になるという
Campbell の言う英雄伝説のパターン
に則ったファンタジー小説である。そこに、一見無駄に見える時間が豊かなのだということだとか、
気が熟するということが大切だとかいったような時間に関するテーマを乗せてある。
賢い助言者たるマイスター・ホラという名前が、ラテン語の「時間 hora」から来ているのは分かるのだが、
どうもカタカナで見るとホラ吹きのホラに見えていけない。「時の匠」などのように日本語に訳してしまった方が
良かったのではないかという気がする。
「100分de名著」放送時のメモと放送テキストのサマリー
第1回 モモは心の中にいる!
テーマ:時間と物語の豊かさ
作者ミヒャエル・エンデ
- 1929 年、ドイツ南部で生まれる。
- 1971 年、イタリアに移住。
- 代表作『ジム・ボタンの機関車大旅行』『モモ』『はてしない物語』
イタリアは時間通りにものごとが進まない国、ドイツは几帳面な国
物語の進行と解説
物語の進行 | 解説 |
- むかしの大都市の様子が語られる。円形劇場で芝居が演じられるのが人気だった。
- 今、円形劇場の廃墟の一角にモモが住んでいる。モモは、身寄りがなく外見もユニークな女の子。
- 近くにいる人がいろいろ尋ねにやってくる。「モモ」は自分でつけた名前。
|
- 「はるかむかし」と「いま」が対比されている。
- モモは、民俗学的に言えばストレンジャー。座敷童のような存在。昔からいる存在。豊かさをもたらしてくれる存在。
|
- 町の人たちはモモの部屋を整えてくれる。人々とモモの間に友情が生まれる。
- モモは、相手の話を聞くことができた。モモに話を聞いてもらうと、自然に解決策が生まれてくる。
|
- モモは、カウンセラー的。
- モモは円形劇場で豊かな世界を感じ取っていた。
|
- モモにはジジ(本名ジロラモ)とベッポという友達ができた。
- ジジは自称観光ガイドの夢見る青年。いつも出まかせの話をしながら観光案内をしている。
- ベッポは道路掃除をする老人。モモと話していて、つぎの一歩のことだけを考えるのが重要だと気付く。
|
- ベッポは「今、ここが満ち足りる」ことが豊かな時間だと自覚する。
- ジジが象徴するのは、ファンタジーがもつ豊かさ。
- モモ、ジジ、ベッポは三位一体。3人は仲が良かった。
|
- 「灰色の男たち」が動き出す。誰もそれに気づかない。
- モモは、彼らの黒い影を見て寒気を感じる。
- ジジがモモのために作った恋愛物語を語る。
|
- ジジとモモのように二人が物語をシェアすることが重要。
|
第2回 時間を奪う「灰色の男たち」
灰色の男たちが時間を盗んでゆく。
物語の進行と解説
物語の進行 | 解説 |
- 灰色の男たちは人々のことを調べ上げていた。
- 床屋のフージー氏が、ふと人生がつまらなく思えてくる。そこに灰色の男がやってくる。男は時間貯蓄銀行から来たという。
男は、フージー氏が時間を浪費してきたと言い、時間を貯蓄することを勧める。
- 時間を貯蓄した人々は、不機嫌で怒りっぽくなった。大人たちはモモのところにやってこなくなった。
|
- 灰色の男は、実は時間泥棒であった。
節約した時間はいつの間にかなくなる。現代の実生活でも、便利になるとかえって忙しくなったりする。
|
- 大人たちがあわただしくなったので、子供たちがモモのところに来るようになった。
- 親たちは子供たちにお金を与えるが、面倒を見なくなった。
|
- 子供たちは自分で遊びを工夫できなくなっている。想像力が奪われている。
- 高価なおもちゃは、ひとつの事しかできないので、すぐに飽きてしまう。
|
- モモは、大人たちに会いに行く。灰色の男たちは、モモが自分たちの邪魔をしているということで、モモに人形を与える。
- 灰色の男は、モモに、友達と会うのは役に立たないと言う。
- モモが話を聞いていると、灰色の男は思わずモモに真実を話してしまう。灰色の男は時間泥棒だった。
|
- モモには聞く力があるので、灰色の男は思わず本当のことを話してしまう。
|
- モモはジジとベッポに灰色の男の真実を教える。
- ジジの、自分が英雄になることを夢見てデモ行進をしたが、失敗に終わる。
- ベッポは、モモに本当のことを話した灰色の男が処刑される場面を目撃。
|
|
- 亀のカシオペイアがモモを導いて、不思議な町「さかさま小路」に行く。
- 「どこにもない家」に導かれる。そこにマイスター・ホラがいた。
|
- モモとマイスター・ホラとカシオペイアの三人は、深層心理の三位一体。
- マイスター・ホラは知恵のある老人。動物は本能を象徴する。
- 河合隼雄によると、箱庭療法において、摂食障害の人の箱庭にはしばしば少女と老人と犬が出てくる。
|
- モモを取り逃がした灰色の男たちは、モモの友達を狙うことにする。
|
- 灰色の男たちは、真実は共有されないと意味がないことを知っている。モモ一人が真実を知っていても、モモには何もできないだろう。
|
第3回 時間とは「いのち」である
マイスター・ホラは時間を司る存在(hora はラテン語で「時間」、英語なら hour、フランス語なら heure、イタリア語なら ora)。
物語の進行と解説
物語の進行 | 解説 |
- 「どこにもない家」でマイスター・ホラが待っていた。
そこは、時間の国で、ホラは、時間を配る役割をしている。
- 彼は「なんでも見えるめがね」で町の様子を観察していた。
- ホラによれば、灰色の男たちは、本当はいないはずのもの。
- ホラは、モモを「時間の源」に案内する。
|
- 灰色の男は、人間の心の隙が生み出した存在。
- 「時間の源」は、人間の豊かさの源泉。
- 仏教の華厳経でも、一瞬の内に無限が含まれているという考えがある。
- 灰色の男たちは、「時間の源」とはつながっていない。それゆえ、人々から時間を盗む。
|
- 「時間の源」の描写。振子と花。花はゆっくりした振子の運動とともに咲いては散る。
|
- 丸天井からぶらさがっている振り子。その幾何学的な姿は、曼荼羅を連想させる。
- この振り子は、生命の時計とも言える。
|
|
- 死生観において、モモは近代人の心を持っていない。
- 前近代の人にとって、死はこわくない。それは、あの世に帰ってゆくこと。
|
- モモは、ここで見たことを友達に話してあげたいと思う。しかし、
ホラは、待たなければならないと言う。言葉が熟するまで待たなければならない。
- モモは眠りにつく。目を覚ますと、円形劇場跡だった。
|
- 「星の時間」に普通は誰も気づかない。「星の時間」は、特別な瞬間である。人との関係の中で訪れる勝負の時のこと。
|
- 円形劇場跡に戻ったモモのところには、誰も訪ねてこなかった。
- 実は、モモは丸一年眠っていた。「すべては過ぎ去った」
- 街は灰色の男たちに支配されていた。モモはひとりぼっちになった。
- ジジは、お金持ちで有名になった。が、モモがいなくなって空虚な作り話しかできなくなった。心が空っぽになってしまった。
- ベッポは、起こったことをうまく話せなくて精神病院に送られる。そして、灰色の男たちの論理にはまってしまう。
- 子供たちも施設に収容される。
|
|
第4回 「受動」から「能動」へ
物語の進行 | 解説 |
- モモは、灰色の男に真夜中に会おうと言われるが、怖くなっていったんトラックの荷台で眠る。
|
- モモはもともと受動的だった。すべてを放棄したときに転機が訪れる。
|
- 目覚めたモモは逃げ回ることをやめることにする。
- モモは友人たちを助けようと決心する。不安は消えた。
- 灰色の男たちは、モモにマイスター・ホラの許に案内しろと言う。モモは拒否する。
|
- モモの立ち上がりは「自然(じねん)」=「みずから」と「おのずから」が合致した状態。
- 受動から能動という動きは、日本の昔話にもよくある展開。たとえば「炭焼長者」。
|
- モモは、カメのカシオペイアと再会してホラの許へ行くことにする。
- 灰色の男たちは、時間が逆流する「さかさま小路」に入ることができない。
- モモは、灰色の男たちのことをホラに語る。
- ホラは、モモに灰色の男に対抗する作戦を授ける。モモは、灰色の男たちがあつめた時間の花を取り戻さなければならない。しかし、この作戦ができるのは1時間しかない。
|
- これはモモのイニシエーション(大人になる儀式)。世界を再生する任務を女の子が担っている。
|
- 灰色の男たちは、時間の貯蔵庫に向かう。それをモモが追う。
- モモは金庫に近づいて、扉を閉める。灰色の男たちが消えて行く。
- 閉じ込められた時間の花は元の持ち主の許に戻る。
|
- 灰色の男たちを生んだのは我々の心だから、心の持ち方が変わると灰色の男たちも消える。
- 灰色の男たちがいたからこそ、モモは時間の根源まで行けた。毒にも意味がある。
|
- あとがき:汽車の乗客の言葉「この話は、過去に起こったことだと考えても将来に起こることだと考えてもよい」
|
- 灰色の男たちはいつでも現れうるというような意味。
- 芸能も時間の豊かさを取り戻す一つの契機。
- ファンタジーはリアル。架空がある種の真実になる。
|