オリエント急行の殺人

著者Agatha Christie
訳者山本 やよい
シリーズクリスティー文庫
発行所早川書房
電子書籍
電子書籍刊行2012/01/10
電子書籍底本刊行2011/04
原題Murder on the Orient Express
原出版社Collins Crime Club
原著刊行1934
翻訳底本Harper Collins 社、ペーパーバック版
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読了2021/08/13

過去に何度も読んでいるが、 今回は Suchet 版(脚本は Stewart Harcourt)のテレビドラマを見ながら読んでみた。 Suchet 版では、正義のために私的な制裁が許されるべきかという問題が強調される。 もともと、ポワロが食堂車で乗客と車掌に尋問をしながら、犯人たちの心理の弱点を突いて 全員の嘘を少しずつ暴いていくという物語なのだが、 それをそのまま映像化するとたぶん単調になるし、わかりづらい。 そこで、映像化するときは、何か単調にせずわかりやすくする工夫が必要になってくる。 Suchet 版に関する詳細は後述する。

以下、犯行の夜、ポワロが被害者のコンパートメントの隣にいて気付いたことをまとめ、その真相がなんだったのかを 書いておくことにする。

時刻ポワロが気づいたことと車掌の証言でわかったこと真相
0:10 ころ 列車がヴィンコヴチ駅を出発。
0:30 列車が雪だまりに突っ込む。
0:37 より少し前 悲鳴に近いうめき声がした。同時に、ベルの音が鳴り響いた。 車掌がラチェットの部屋をノックすると Ce n'est rien. Je me suis trompé. という返事があった。 その後、車掌は、ランプがついたドラゴミロフ公爵夫人のところに行くと、メイドを呼んでほしいと頼まれた。 ラチェットが睡眠薬で眠っていたにもかかわらず、ポワロに死んでいたと思わせるための芝居。
1:15 過ぎ どこかでベルの音がした。ハバード夫人が車掌にコンパートメントに男がいたと言っている。 その後、ポワロがベルを鳴らして、車掌にミネラルウォーターを頼んだ。
ポワロがうとうとしかけたとき 重い物が倒れてドアにぶつかったような音がした。 ドアを開けて通路を覗くと、右の方(食堂車側)に真っ赤なガウンを着た女が遠ざかっていた。 左の方の端(アテネから来た車両側)では車掌が紙に数字を書き込んでいた。 ポワロを混乱させるための芝居。
2:00 ころ ポワロ睡眠中。 ラチェットが殺害される。

Suchet 版の特徴と筋書き

Suchet 版の特徴は二つある。

  1. 原作では、ポワロが薄皮をはぐように少しずつ真相に近づいてゆく様子が描かれるが、Suchet 版では そのあたりが大幅に省かれている。1時間半という時間制限のせいと、ドラマとしてはやや単調になるのを避ける狙いだろう。
  2. Suchet 版では、正義のために私的な制裁が許されるのか、あるいは悪事は死をもって償われるべきかという問題が強調されている。 そのために原作にはないシーンがいくつか挿入されている。原作では、あまりにも簡単に犯人たちが赦されてしまっていると 考えたのだろう。

第二の点に関して原作になかったシーン:

第一の点を含めて他には以下のような違いがある。