ヒッコリー・ロードの殺人

著者Agatha Christie
訳者高橋 豊
シリーズクリスティー文庫
発行所早川書房
電子書籍
電子書籍刊行2012/06/25
電子書籍底本刊行2004/07
原題イギリス版 Hickory Dickory Dock; アメリカ版 Hickory Dickory Death
原出版社イギリス版 Collins Crime Club; アメリカ版 Dodd, Mead and Company
原著刊行1955 (イギリス版・アメリカ版とも)
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読了2023/09/06
参考 web pages Wikipedia「ヒッコリー・ロードの殺人」
Wikipedia「Hickory Dickory Dock (novel)」
ヒッコリー・ロードの殺人 in 「名探偵ポワロ」データベース
Wikipedia「名探偵ポワロ」
Wikipedia -- List of Agatha Christie's Poirot episodes

国際色豊かな学生寮で起きる殺人事件である。最初は登場人物が多くて混乱するとともに、事件全体が ひどくとりとめのないもののように見える。それが小説の終わりに向かってだんだん脈絡が見えてきて、最後に意外な( ある意味で最初から疑われていたけど、だんだん疑いが晴れていっていた)人物が犯人だと分かる。 Suchet 版のテレビドラマとの違いにも注目しつつ読んでみた。

霜月蒼は酷評している けど、私から見ると別に悪くはない。この手の最近の作品と比べて出来が悪いということらしいが、 この手の最近の作品を知らない私としては、まあどうでも良いことである。謎が最後に一気ではなく 徐々に解けていく感じになっているのをどう評価するかも評価の分かれ目である。霜月によると、 半分くらい読んだところで犯行の動機がわかってしまうのがつまらないという。私はそうも思わなかったけれど。 とはいえ、登場人物が多過ぎることもあって、全体的にやや散漫な感じになっているということはあると思う。 タイトルになっている Hickory Dickory Dock の歌がたいした役割を果たしていないのもマイナスポイントか。

以下、起こったことをある程度ネタバレでまとめてゆく。

学生寮の住人のまとめ

学生寮の住人の数が多くてこんがらがるので、pp.19-23 (2 章) でのハバード夫人による説明と pp.46-49 (4 章) でのシーリアによる説明を中心にしてまとめておく。 Suchet 版だと少し役回りが違っているので、それもまとめておく。

名前人物紹介Suchet 版
Miss Celia Austin St. Catherine's Hospital の薬剤師 (dispenser)。きれいな娘。Colin McNabb に恋をしている。何かに怯えている。 第一の犠牲者。 化学の学生。薬局でアルバイトをしている。
Mr Colin McNabb 精神医学 (psychiatry) の大学院生。St. Catherine's Hospital の研究生。 体格が良く、肌は浅黒く、いつもパイプを吸っている。古いズボンを盗まれる。 心理学 (psycology) の学生。
Miss Patricia Lane 考古学専攻。眼鏡をかけている。肌の色は中間色で勉強家タイプ。髪は鼠色で眼は青い。 指輪を盗まれるが、Valerie のスープ皿から出てくる。 5 章の終わりで Nigel Chapman に恋していることが分かる。 政治学専攻。
Mr Nigel Chapman 中世史とイタリア語を勉強中。よく人の気に障ることを言う。 中世史と考古学専攻。
Miss Sally Finch フルブライト留学生のアメリカ人。赤毛。夜会靴の片方を盗まれ、寮を出たいと思っている。最後の方の 23 章 1 節になって Len Bateson に恋していることが分かる。 イギリス文学を研究しているふりをしている。
実は関税・間接税務局の捜査員。
Mr Leonard (Len) Bateson 医学生。St. Catherine's Hospital に出入りしている。赤毛で体格が良い。親切だが短気。聴診器を盗まれる。 医学部。もうすぐ医師免許を得る。
Miss Velerie Hobhouse 美容院勤務。背が高く、肌が浅黒い。利口で辛辣な皮肉をよく言う。絹のスカーフをズタズタにされる。 ファッションの勉強と製作。
Miss Jean Tomlinson St. Catherine's Hospital の理学療法士 (physiotherapist)。金髪で小柄。27 歳。近づきがたい容貌 (severe-looking)。 登場せず。
Miss Elizabeth Johnston ジャマイカから来た法学生。勉強家。ノートを緑色のインクで汚された。 登場せず。
Miss Geneviève Maricaud 英語を勉強中。 登場せず。
Miss René Halle 英語を勉強中。 登場せず。
Mr Akibombo 西アフリカから来た学生。縮れ毛の黒人。 登場せず。
Mr Chandra Lai インド人。 登場せず。
Mr Gopal Ram インド人。欲が無く、いつもにこにこしている。 登場せず。
Miss Reinleer オランダ人。 登場せず。
Mr Ahmed Ali エジプト人。政治の話題が好き。 登場せず。
2人のトルコ人学生。まだ英語をほとんど話せない。 登場せず。

英語メモ

p.278 the balloon goes up tomorrow
シャープ警部の言葉である。高橋訳では「気球は明日あがるわけです」と直訳してあるが、これでは 意味が分からない。"the balloon goes up" は 第一次世界大戦のときにできた idiom で「事態が深刻になる、重大なことが起こる、作戦が始まる」と いった意味のようである。今の文脈だと「明日、捜査が大きく進展するはずです。」とでも訳すべきである。

Suchet テレビドラマ版のあらすじとメモ

Suchet 版は第43話「ヒッコリー・ロードの殺人 (Hickory Dickory Dock)」(脚本 Anthony Horowitz)。 以下、ネタバレしつつ原作との違いなどをまとめておく。

まず登場人物の改変がある:

その上で、ストーリーも細かく色々変えてある:

全体的に言えば、Suchet 版は、原作の大枠を維持しつつもだいぶん話の展開を変えてある。 登場人物を減らして各々の事件との関係を明確化してわかりやすくしてある。 以下、Suchet 版のあらすじ。

原作は、Poirot と Miss Lemon の会話から始まるのだが、テレビドラマでは、それまでに起こったことが 映像で示される。

ここで、Poirot と Miss Lemon の会話の場面になり、原作の冒頭からの流れになる。

このあたりから原作と違う展開になってくる。Celia が殺される点は同じだが、原作の Sharpe 警部による 長い聞き取り調査はドラマ版では Japp 警部、Poirot、Miss Lemon の三人による聞き取りに置き換えられているし、 Sharpe 警部が学生寮で聞き取りを行っているのに対し、三人はいろいろなところに行っている。 事件時の Sally の行動が原作とだいぶん違っているし、Mrs Nicoletis の殺され方も違う。 病院からモルヒネを盗んだのは、原作では Nigel なのに対して、ドラマ版では Colin になっている。