死人の鏡

著者Agatha Christie
訳者小倉 多加志
シリーズクリスティー文庫
発行所早川書房
電子書籍
電子書籍刊行2012/03/10
電子書籍底本刊行2004/05
原題イギリス版 Murder in the Mews and Other Stories / アメリカ版 Dead Man's Mirror
原出版社イギリス版 Collins Crime Club / アメリカ版 Dodd, Mead and Company
原著刊行1937
初出 Murder in the Mews (1936/09-10, Redbook Magazine [US]; 1936/12, Woman's Journal [UK])
The Incredible Theft (1937/04, the Daily Express [UK])
Dead Man's Mirror ("The Second Gong" の改作)
Triangle at Rhodes (1936/02, This Week Magazine [US]; 1936/05, The Strand Magazine, 原題 Poirot and the triangle at Rhodes [UK])
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読了2023/03/19
参考 web pages Wikipedia「死人の鏡」
Wikipedia「Murder in the Mews」
Wikipedia「名探偵ポワロ」
Wikipedia -- List of Agatha Christie's Poirot episodes

ポワロもの中編集。Suchet 版テレビドラマを見ながら読んでみた。

厩舎街の殺人 Murder in the Mews

本作品が書かれた十数年前に短編『マーケット・ベイジングの怪事件』 が書かれており、それに肉付けした作品。『マーケット・ベイジングの怪事件』の方は、ほとんどトリックだけという感じの作品だが、 本作品においてはクリスティらしい繊細な心理描写がなされており、登場人物が付け加えられて筋が複雑になっている。 初期のころと比べて、腕が上がった成果と見られる。 ただし、本作品には『マーケット・ベイジングの怪事件』では登場していたヘイスティングスは出てこない。 いわゆるワトソン役はジャップ警部がしている。

雑学いくつか:

Suchet 版では第2話「ミューズ街の殺人」(脚本 Clive Exton)。以下、このテレビドラマ版の特徴:

謎の盗難事件 The Incredible Theft

本作品の十数年前に書かれた短編『潜水艦の設計図』 に肉付けして中編にしたもの。『潜水艦の設計図』にあったいくつかの不自然な点が解消されている一方、 『潜水艦の設計図』における首相候補との以心伝心の格好良いやり取りが消えている。以下、両作品の比較をしてみる。 『潜水艦の設計図』は SP、『謎の盗難事件』は IT と書くことにする。

翻訳で気付いたこと:

Suchet 版では第8話「なぞの盗難事件」(脚本 David Reid, Clive Exton)。以下、このテレビドラマ版の特徴:

死人の鏡 Dead Man's Mirror

本書出版の数年前に書かれた短編『The Second Gong』 を中編にする形での改作。分量としては3倍くらいになっている。基本的なトリックは変わっていない。 以下、違いをいくつかまとめておく。

Suchet 版では第40話「死人の鏡」(脚本 Anthony Horowitz)。このテレビドラマ版は、 原作の基本的な筋は活かしながらも、かなり筋を変えてしまっている。 大きく変えてあるところは、登場人物を減らすとともに登場人物の特徴づけを最初から明確化していること、 ドラマチックな演出を増やしていることである。

砂にかかれた三角形 Triangle at Rhodes

クリスティの興味がトリックではなく、人間関係の心理にあることがよくわかる作品。 真相は三重になっている。まず、表面的な真相。男Aが横恋慕した女性の夫Bを殺そうとして、誤って男Bの妻を殺す。 これが偽装であることは読者にもすぐにわかり、男Bが、男Aに横恋慕した妻を嫉妬のあまり殺す、というストーリーが次に現れる。 だが、ポアロが明かす真相は、この裏にある人間関係が違うということである。男Bは自分の妻を最初から殺すつもりでいて、 男Aの妻と結託してこれを実行したということである。

物語の舞台はロードス島である。英語では Rhodes で発音は roudz である。発音が rose に似ている。 ロードス島の語源も、 一説ではギリシャ語のバラ (rhodon) だそうだ。だが、よりもっともらしいのは、フェニキア語の erod(蛇)だそうである。 小説の中で、人々がイタリアの船で来ているらしいのは、当時、ロードス島は イタリア領だったためのようだ。

本作品のワトソン役は、パメラ・ライアル嬢である。

Suchet 版では第6話「砂に書かれた三角形」(脚本 Stephen Wakelam, Clive Exton)。以下、このテレビドラマ版の特徴: