Miss Marple ものの長編としては最後に書かれた作品。Christie 後期の作品らしく、文藝知識を
散りばめてきている点も読みどころ。最後の方になって、タイトルの Nemesis は、Miss Marple を
表す言葉だったと分かる。Nemesis は「復讐の女神」と訳されているが、Wikipedia によると「復讐」というよりも「義憤」と言うべきで、
天罰を下す女神とのこと。それは確かに Miss Marple に相応しい。Miss Marple は復讐をしたわけではなく、
単に正義を為しただけである。
本作品は、Miss Marple が解決すべき事件が、最初は何だかわからない状況が長く続くのが特徴である。
金持ちの Rafiel 氏の遺言で、Miss Marple はとあるバスツアーに参加することになる。最初の 1/3 くらい
過ぎた Chapter 10 でようやく、Rafiel 氏は、過去の殺人事件に関する息子の冤罪を晴らしていると思っていた
ことがわかる。さりとて手掛かりはほとんどない。Chapter 11 で Elizabeth Temple が落石事故に遭い、
それをきっかけに事件が展開を始める。その後は、展開が加速度的に速くなって Miss Marple による
解決に向かって進む。このような過去の事件を調べるのは非常に困難なはずだが、Miss Marple は
お得意の心理的な手掛かりを絡めて事件を解決していく。結果を見ると、故 Rafiel 氏は実に周到な
お膳立てをしていたこともわかる。それは、この多少無理な感じのある状況設定を自然に見せるための
著者 Christie の工夫でもある。
Christie の叙述の妙も相変わらずである。とくに、真相がわかってから Chapter 20 における
Miss Marple と The Old Manor House の三人姉妹との会話を読み直してみると、Clothilde の言うことと
Mrs. Lavinia Glynne の言うことの間に微妙な齟齬が仕掛けられていて、それが真相への伏線になっている
ことがわかる。
本作には Miss Marple がいる St. Mary Mead 村(架空の村)の場所についての手掛かりがいくつか出てくる
[以下、ページ番号は、kindle 版クリスティー文庫 (全 380 ページ) に基づく。]。
結局のところ、Hampshire, Surrey, West Sussex のどこかあたりなのだろう。
- East Hampshire の Alton から 25 マイル(40 km)くらい。[Chapter 4, p.61]
- Loomouth の海岸から 12 マイル (20 km) くらい。Loomouth は架空の地名だが、ともかく England 南岸から 20 km ほど
北に行ったところだと分かる。[Chapter 7, p.109]
- London から 25 マイル (40 km) くらい。[Chapter 9, p.130]
登場人物のまとめ
The Old Manor House の三姉妹。
父親は退役軍人で、砲兵少佐だった。
The Old Manor House は、もともと叔父の Colonel Bradbury-Scott の家で、
20 年くらい前に彼が亡くなって、姪に遺された。
名前 | 人となり |
Miss Clotilde Bradbury-Scott | 背が高くて美人。黒い巻毛。 |
Mrs. Lavinia Glynne | 50 歳くらい。夫が 4, 5 年前に亡くなり、インドからイギリスに帰ってきた。 |
Miss Anthea Bradbury-Scott | 痩せている。白髪混じりの金髪。灰色の大きな目。ぼうっとした感じ。 |
バスツアー客
Miss Marple が行くバスツアーの客も数が多過ぎて覚えきれないので表にまとめておく。
名前 | 人となり |
Mrs. Geraldine Riseley-Porter | 老婦人 (60 歳くらい)。声が大きくて、ボス的、自己中心的。 |
Miss Joanna Crawford | Mrs. Riseley-Porter の姪。Emlyn Price に好意を抱き始めている。 |
Colonel Walker | 退役軍人。 |
Mrs. Walker | |
Mr. Henry T. Butler | アメリカ人。おだやか。 |
Mrs. Mamie Butler | アメリカ人。やさしくておしゃべり。 |
Miss Elizabeth Temple | 美しい老婦人 (60 歳くらい)。背が高く白髪交じりで声が鋭い。
有名女学校 Fallowfield の元校長。 |
Professor Wanstead | 四角い肩に四角い顎の大男。白髪交じりの頭に巨大なもじゃもじゃの眉。
病理学者で心理学者。法医学に関する仕事をしている。 |
Mr. Richard Jameson | 30 歳くらい。背が高くて痩せている。建築家。 |
Miss Lumley | 老婦人 (70 歳くらい)。Somerset 州在住。Miss Bentham の友達。 |
Miss Bentham | 老婦人 (70 歳くらい)。Somerset 州在住。Miss Lumley の友達。 |
Mr. Casper | 背の高い色黒の外国人。落ち着きが無く、興奮しやすい。 |
Miss Cooke | 中年婦人。Miss Barrow の友達。金髪でがっしりしている。
Miss Marple は以前に会ったことがあったが、そのときの髪の色は黒に近い褐色だった。
さらに、そのときは Bartlell と名乗っていた。 |
Miss Barrow | 中年婦人。Miss Cooke の友達。黒髪で痩せ型。 |
Mr. Emlyn Price | 20 歳くらいの若い男。黒いもじゃもじゃ髪。Joanna Crawford に好意を抱き始めている。 |
あらすじと英語・翻訳・文化的背景メモ
以下、ページ番号は、kindle 版クリスティー文庫 (全 380 ページ) に基づく。ネタバレあり。
1 序曲 Overture
Miss Marple が新聞の死亡欄に Jason Rafiel の名前を見出し、
以前カリブ海で会ったことのある富豪だと思い出した。
- the Daily All-Sorts (p.10)
- Miss Marple が日刊紙 "the Daily Newsgiver" に付けた綽名。
乾訳では「毎日よろず屋」となっていて、新聞に付けた綽名っぽくない。
たとえば、「日刊何でも新聞」みたいな訳の方が良かったのではないか。
- A treat from her nephew Raymond. (p.14)
- Miss Marple のカリブ海旅行は、甥の Raymond がプレゼントしてくれたものだった。
乾訳では、treat を「はなむけ」と訳してあったので、何のことかわからなかった。
- a fascinator (p.18)
- 乾訳では「かぎ編みの頭巾」となっているが、こういうときは
Wikipedia でも見た方が早い。Wikipedia の見出しは「ファシネーター」に
なっている。これを「頭巾」と訳すのはイメージが違う。
- snapdragon, antirrhinum (p.22)
- キンギョソウ。日本語では花を金魚に見立てるが、
英語では竜に見立てて snapdragon と呼ぶ。antirrhinum は、属名(キンギョソウ属)。
Wikipedia によれば、
昔はゴマノハグサ科に分類されていたが、最近の分子系統学ではオオバコ科に分類するとのこと。
- sucker (p.24)
- サッカー(吸枝)というのが何か知らなかったのだが、
地下茎から伸びて地上に出てきた子株のことらしい。
- Ships that pass in the night (pp.24,25)
- アメリカの詩人 Henry Wadsworth Longfellow の詩文集
Tales of a Wayside Inn (1863) の中の The Theologian's Tale; Elizabeth の一節。
これをイギリスの女性作家 Beatrice Harraden が自分の小説 (1893) の題名にしている。
乾訳は「夜陰に去り行く船」である。
- "ships that pass in the night" はもはや熟語になっており、意味は、①一度出会ったきり二度と会わない二人、
あるいは②親しいわりにあまり出会わない二人、といったところである。
- Christie は、おそらく以上のことを全部踏まえたうえで、Miss Marple と Mr. Rafiel が一度会ったきりの
関係だということを示すと同時に、詩の一節を引用し、さらに本の題名としても引用していると思われる。
2 合いことばはネメシス Code Word Nemesis
I Rafiel 氏の弁護士の Broadribb 氏と Schuster 氏から Miss Marple のもとに来訪を求める
手紙が届く。
II Miss Marple が弁護士事務所で Rafiel 氏の奇妙な遺言を受け取る。それは、犯罪の捜査をし、
正義を行っていただければ、二万ポンドを遺贈するというものだった。しかし、その犯罪が
何であるのかはよくわからない。
- Bloomsbury (p.27)
- London の West End にある高級住宅地。大英博物館がある。
本小説では、Broadribb 氏と Schuster 氏の弁護士事務所がある場所として出てくる。
- rattled (p.28)
- 英英辞書だと「nervous, worried, or irritated」(Concise Oxford 英英電子版) と出てくる。
何と訳すか難しいところだが、もともと rattle が「ガタガタ音を立てる」という意味なので、
乾訳が「ごたごたして」となっているのも理解できる。
- the Women's Institute (p.28)
- 「婦人会」
(乾訳では「婦人協会」となっているが、「婦人会」とするほうが普通のようである)
は、イングランドとウェールズの最大の女性団体で 1915 年に創設された。
農村を基盤とした保守的な草の根組織とされている。
Miss Marple のイメージに合っている。
- He had a flair. (p.31)
- 「彼には鋭いかんがありましたよ」(乾訳)。鋭い直観力のことを a flair というのだと初めて知った。
不可算名詞として He's got flair. のように使うこともあるようである。
- Let justice roll down like waters. / And righteousness like an everlasting stream. (p.44)
- 旧約聖書「アモス書」5:24 を引用したものである。訳を4つ比べてみる。
- [聖書協会共同訳 (2018)] 公正を水のように/正義を大河のように/尽きることなく流れさせよ。
- [新共同訳 (1987)(乾はこれを採用)]
正義を洪水のように/恵みの業を大河のように/尽きることなく流れさせよ。
- [
口語訳 (1955)] 公道を水のように、正義をつきない川のように流れさせよ。
- [New International Reader's Version (NIRV)(パラフレーズ型の訳)]
I want you to treat others fairly.
So let fair treatment roll on
just as a river does!
Always do what is right.
Let right living flow along
like a stream that never runs dry!
- 日本語訳はやはり新しい訳の方が読み易くなっている。NIRV のパラフレーズが正しいとすれば、
本小説で採用されている英訳の justice と righteousness との対比は、聖書協会共同訳のように
「公正」と「正義」と訳するのが良さそうである。
3 ミス・マープル活躍を始める Miss Marple Takes Action
I Miss Marple は Rafiel 氏の依頼を受ける決心をする。
II Miss Marple は Broadribb 氏に Rafiel 氏の周辺で犯罪もしくは不正が起きていなかったかを
問い合わせる手紙を書く。
III Broadribb 氏と Schuster 氏は Miss Marple の手紙を受け取ったが、特に何もしなかった。
Broadribb 氏は Rafiel 氏から封印された指示書類を預かってはいるが、開封できる条件は
まだ満たされていない。
IV Miss Marple は、かつてカリブ海で会ったことのある Miss Prescott に Rafiel 氏の秘書であった
Esther Walters の住所を問い合わせる。すぐに返事が返って来て、Alton の近くの Winslow Lodge だとわかった。
Esther は再婚していて、新しい苗字は Anderson である。
V Miss Marple は Alton に行って偶然 Mrs Anderson に会った風を装うための策をめぐらす。
- brief (p.47)
- 乾訳では「簡潔指令」。brief はここでは動詞として使われていて、「前もって簡潔な指示を与える」
という意味である。ただし、イギリスではとくに「barrister に訴訟の要点を予め伝える」という意味も
あるので、Miss Marple は相手が弁護士ということでこの単語を使ったのだと思われる。
- fidget, stir up (p.51)
- 乾訳ではどちらも「いらいら(させる)」となっている。しかし「いらいら」というより、
「落ち着かなく(させる)」くらいの感じが良いのではないか。
- St. Honoré (p.53)
- 『カリブ海の秘密』の舞台となった架空の島。
- Winslow Lodge, near Alton, Hants (p.53)
- Hants は Hampshire のことで、London から南西の海岸沿いの州。Alton は East Hampshire 地域の町で、
Southampton から北東に 50 km の場所にある。
4 エスター・ウォルターズ Esther Walters
Miss Marple は、スーパーマーケットの前で偶然を装って Esther Anderson に会い、
午後三時過ぎに彼女の家 (Winslow Lodge) に行って話をする。
Rafiel 氏の周りで何か事件が無かったかを聞き出そうとするが、何もわからなかった。
わかったことは、Rafiel 氏がかなりの額の遺産を Esther に遺したこと、
Rafiel 氏は妻を早く亡くしており、娘が二人と息子が一人いることだった。
娘のうち一人はアメリカ在住、もう一人は早逝、息子も数年前に死去したようだった。
- Jersey, Guernsey (p.66)
- いずれも英仏海峡のフランスに近いところにある Channel Islands の島。イギリス領。
- manage (p.72)
- 乾訳では「支配する」としているが、ちょっと違うのではないか。秘書の Esther が
主人の Rafiel 氏と「何とかうまくやっていた」という程度だと思う。
5 あの世からの指図 Instructions from Beyond
I 3、4日後、Rafiel 氏が遺した手紙が Miss Marple のもとに届いた。ツアー旅行に参加してほしい
というものだった。旅行社から来た手紙によると、ツアーは2~3週かけてイングランドを回るものだった。
Mrs. Sandbourne が添乗員として同行するとのことだった。費用は Rafiel 氏がすでに支払っていた。
II ツアーバスが出発する。Miss Marple はツアーの一行一人一人の観察を始める。
午後の観光場所は Bleinheim だ。ホテルに着く頃には、参加者の顔と名前が一致するようになった。
III Miss Marple は、ホテルの部屋で Rafiel 氏の依頼が何なのか考えを巡らせてみるが、全く見当が付かない。
ツアー1日目終了。
- Bertram's Hotel (p.81)
- Miss Marple ものの推理小説に『バートラム・ホテルにて (At Bertram's Hotel)』がある。
Bertram's Hotel は London のホテルという設定である。
- St George (p.81)
- Miss Marple が London で宿泊するホテル名。
- she would be in personal charge of this particular tour (p.82)
- Mrs. Sandbourne の役割の説明。乾訳では「個人的な世話」としてあるので、最初は
Miss Marple 専属の添乗員なのかと思ったら、そうではないらしい。personal には
「自分が直接行う、じきじきの」(プログレッシブ英和中)という意味もあり、そちらの意味だと思う。
そうすると、要するに「Mrs. Sandbourne はこのツアーの添乗員です。」という意味になる。
- Blenheim (p.88)
- Blenheim Palace のことだと思われる。Oxford 近郊にある宮殿で、
世界文化遺産でもある。
- fuchsia (p.89)
- フクシアは、アカバナ科フクシア属 (fuchsia) の植物。花が美しい。
乾訳の「ツリウキ草」は fuchsia magellanica のこと。
- Here endeth the First Day (p.98)
- 「茲に第一の日は終はれり」(拙訳)。何かの引用だろうと思ってネット検索すると、
真っ先にに引っかかったのは、Boccaccio の Decameron(十日物語)の英訳 (John Payne 訳) の1日目の終わりだった。
Here endeth the First Day of the Decameron. とある。動詞の三人称単数現在形が -eth になるのは、中英語。
6 愛 Love
次の日の午前は、manor house 見物だった。建物を見た後、Miss Marple が庭に出て腰掛けに座ると、
Miss Elizabeth Temple が横に座った。Miss Temple は、Mr. Rafiel を知っているという。かつて関係していた
教育事業に寄付をしてくれたことがあったことと、かつて自分の学校の女生徒が Rafiel 氏の息子と婚約をしていたが
死んでしまったことを語った。Miss Marple が、彼女がなぜ死んだのかと問うと、Miss Temple は "Love" と答えた。
- moulding of fireplace (p.98)
- 暖炉の繰形。乾訳では「くりがたや暖炉」となっているが誤りであろう。
繰形 (moulding)
とは、この場合、暖炉を縁取っている装飾的部材のことのようである。
- Fallowfield (p.105)
- Miss Temple のいた学校があった場所。Manchester 郊外の町である。
7 ある招待 An Invitation
I 午後、喫茶室で Miss Marple は Miss Cooke に、以前会いましたよね、と話しかけてみた。Miss Cooke は
St. Mary Mead の Hastings 夫人のところに泊りがけで来ていたことがあることが分かる。
II 翌日、Mrs. Lavinia Glynn という人がやってきて、Miss Marple に自分の家に二晩泊まりに来てくれと言う。
Rafiel 氏の紹介だという。Miss Marple はその申し出を受けることにする。
- She would (中略) join them at the tearoom which had been pointed out to her in the main street. (p.107)
- 乾訳がややわかりづらい箇所。乾訳の「彼女に指示されている大通りに面した喫茶室でまたみんなと落ち合うことにした。」
では、指示をしたのが彼女なのか他の人なのか、指示されたものが大通りなのか喫茶室なのかわからない。
英語を見ると、指示をしたのは他の人で、指示されたものは喫茶室であることが分かる。それを踏まえて訳してみると、
「彼女は、目抜き通りにある喫茶室で一行と合流することになった。喫茶室の場所は予め教えてもらっていた。」となる。
8 三人姉妹 The Three Sisters
Miss Marple は The Old Manor House を訪れる。そこには三人姉妹が住んでいた。
屋敷は寂れてきており、Miss Marple は屋敷に悲しみが浸み込んでいると感じた。
- Three Sisters. (p.117)
- Miss Marple は、チェーホフの『三人姉妹』を思い出す。
- oystershell bureau (p.125)
- 乾訳では「かきがら塗り大机」だが、「螺鈿の書斎机」の方が良いと思う。
- Limerick Aubusson type (carpet) (p.125)
-
Aubusson tapestry はフランスの Aubusson で作られたタペストリー。
Limerick
はアイルランドの都市名だから、Limerick で作られた Aubusson 様式のカーペットという意味か?
- Cherry Pie (p.128)
-
Cherry Plant は、Heliotropium arborescens で、和名は
キダチルリソウ。甘い香りがするようである。
9 ポリゴナム・バルドシュアニカム Polygonum Baldschuanicum
Miss Marple は、三人姉妹と昼食を食べ、その後 Anthea に庭の案内をしてもらった。
庭は、かつては手入れが行き届いていたようだったが、今ではだいぶん荒れていた。
かつて温室だったところは、ナツユキカズラで覆われていた。
- speckled laurel (p.133)
- 乾訳では「まだら月桂樹」となっているが、これは日本のアオキ (Aucuba Japonica, 別名
spotted laurel) のことのようである。アオキはガリア科もしくはアオキ科、月桂樹はクスノキ科の植物で、
植物種としてはだいぶん違う。常緑樹である点は共通。
- Polygonum Baldschuanicum (p.135)
- 別名 Fallopia baldschuanica、和名はナツユキカズラ。中国、チベット原産の蔓性の植物。
- floribunda rose (p.136)
-
floribunda は、園芸用薔薇の品種の一グループ。
10 “なんと、やさしく! なんと、美しく! 過ぎし日よ” “Oh! Fond, Oh! Fair, The Days That Were”
I 翌朝、寝室に家政婦の Janet がお茶と軽食を持ってきた。Janet は、この屋敷に関係する人々を襲った不幸について語る。
その中に、Miss Clotilde が面倒を見ていた娘が殺害された事件があった。彼女は Rafiel 氏の息子の Michael
と恋に落ち、彼に殺されたのだという。
II Miss Marple は散歩に出た。墓地があった。Prince 姓と Broad 姓の墓が多かった。教会にも行ってみた。
III Miss Marple は The Old Manor House に戻った。そこで Mrs. Glynne と言葉を交わした。
Mrs. Glynne によれば、Anthea は庭の手入れをしたいと思っているけれど、お金がかかるので無理だとのこと。
Miss Marple は、その日の午後はゆっくり休んだ。
- Miss Marple looked enquiring. (p.141)
- Miss Marple は、もっと話を聞きたそうな素振りを見せた。乾訳の「不審そうな顔」ではちょっとわかりづらい。
- Rose white youth, passionate, pale, ... (p.144)
- 引用されている詩は、若くして自殺した詩人 Thomas Chatterton (1752-1770) によるものらしい。
- vague (p.153)
- 人がぼうっとしていることは vague と表現するようだ。乾訳では「ぼんやり」。
- pampas grass (p.155)
- 和名は、シロガネヨシ。学名は、cortaderia selloana。
秋に大きな白い穂を付ける。
- Mrs. Simpkin (p.155)
- ネットを見るとMrs. Sinkins と綴るのが正しいようで、
撫子 (pink, 属名 dianthus) の園芸品種のひとつ。
11 事故 Accident
I 翌朝、ツアーに戻る準備をしていた Miss Marple のもとに Emlyn Price が事故の知らせをもたらした。
Elizabeth Temple が落石に当たって意識不明の重体とのこと。とりあえずホテルに行ってみると、ツアー客は
落ち着かない様子だった。
II 皆が街に出て行って、Wanstead 教授と Miss Marple が残った。Wanstead 教授は、Rafiel 氏から
Miss Marple を護衛するように頼まれているという。彼は法医学に関する専門的な仕事をしている。
二人は、まず用心深く腹の内を探り合う。
- Not really. (p.175)
- 乾訳では、なぜか「いかにも」になっているが、ここは普通に「そうでもないんです。」であろう。
12 協議 A Consultation
Wanstead 教授が自分と事件との関わりを Miss Marple に語る。刑務所長から依頼されて、Rafiel 氏の
息子の精神鑑定のようなことをしたという。所長と意見が一致したところだと、Michael Rafiel は、
根っからの不良青年だが、殺し屋ではなさそうだということだった。Rafiel 氏は、その意見を聞いて、
息子の濡れ衣を晴らしたいと考えた。それで Miss Marple に調査を依頼したのだった。
Miss Marple は、自分が気付いた点を Wastead 教授に言う。それは Miss Cooke が嘘を言っているようだ
ということだ。
- I do not like evil beings who do evil things. (p.182)
- Miss Marple の (そしておそらく Christie の) 考え方が現れた部分である。
犯罪を不幸な幼年時代のせいにしたりして擁護するのは嫌いで、悪人は悪人だ、と言っている。
- What he said was he thought you had a very fine sense of evil. (p.190)
- ここで he は Rafiel 氏、you は Miss Marple のことである。Rafiel 氏は、Miss Marple の
悪を繊細に感じ取る能力を極めて高く評価していたのだった。
- you'll think I'm just silly about gardens and plants (p.194)
- 乾訳では「あなたはわたしが庭のことや草木についてはまるでばかだと思っておられることでしょう」
となっているが、これはおそらく誤訳。silly about には「夢中になる、はまる」という意味があり、これはおそらくそっち。
なので、正しい訳は「あなたはわたしが庭のことや草木についてマニアだからそんな風に言うのだと思っておられることでしょう」となる。
13 黒と赤のチェック Black and Red Check
I Wanstead 教授が Miss Marple を外に誘う。
II Wanstead 教授は Miss Marple を Elizabeth Temple がいる病院に連れて行く。Miss Temple が
一瞬正気付いたときに Miss Marple に会いたいと言ったからだ。病院に向かう車の中で、
Wanstead 教授は、Joanna Crawford と Emylin Price が Miss Temple に向かって石を転がした人影を
見たと言っていることを Miss Marple に告げる。その人影は派手なセーターを着ていた。さらに、
過去に Jocelyn St. Mary 村から二人の少女が行方不明になった事件があったと Wanstead 教授は言う。
一人は Michael Rafiel に殺されたとされる娘で、もう一人は Nora Broad という娘だ。
Miss Marple が Miss Temple の病室に行くと、Miss Temple は一瞬正気付いて、Verity Hunt の
ことをよろしくと Miss Marple に頼んだ。Miss Temple はその一時間半後に亡くなった。
- a lurid poloneck pullover in red and black checks (p.204)
- 乾訳では「赤と黒のはでなチェックのポロネックのプルオーバー」となっているが、このような
カタカナのオンパレードで普通の人はわかるのだろうか?私ならもう少し古風に
「派手な赤と黒の格子柄のとっくり襟のセーター」と訳す。
- They remain childish longer. (p.206)
- 最近の若い女の子は子供っぽいと Miss Marple が言っている。これはきっと Christie の考えでも
あるのだろう。
- Henry Clithering (pp.215-216)
-
Henry Clithering は、Scotland Yard の元長官で、Miss Marple ものに何度か出てきている。
14 ブロードリブ氏の疑念 Mr. Broadribb Wonders
Mr. Broadribb は新聞で Elizabeth Temple の死亡記事を見て、Verity Hunt 殺害事件を思い出し、
Rafiel 氏と Miss Marple の件と何かつながっているのではないかと思い始める。
- The Times, Telegraph (p.219)
- Telegraph は The Daily Telegraph のことで、いずれもイギリスの右寄り新聞。Christie が保守的であったことを
反映しているのだろう。
15 ヴェリティ Verity
I Miss Marple は再び The Old Manor House に招かれた。Miss Marple は、三人姉妹の前で
編み物をしながら、声に出して "Verity" と言ってみた。すると、三者三様の反応があった。
Clothilde は涙を流し、Mrs. Glynne は驚き、Anthea は興奮して Verity Hunt 殺害事件のことを語り出した。
II その晩、Mrs. Glynne は Miss Marple に Michael Rafiel の不良ぶりを語り、改めて
Verity Hunt 殺害事件を説明する。
- We were friends of his mother's. (p.233)
- 三人姉妹は Michael Rafiel の母親の友達だったことがわかる。
16 検屍審問 The Inquest
I Miss Marple は、毛糸を売る店に行って、派手な格子柄のセーターについて話を聞いてみる。
セーターに関する情報は得られなかったが、Nora Broad が粉屋の Mrs. Broad の姪で、男友達が
たくさんいたことがわかる。Clothilde が Verity Hunt を娘同様に可愛がっていたことも裏付けられる。
Miss Marple は、次に郵便局に行って、Anthea が送った小包の宛先を突き止める。
II 検屍審問では、まず Dr. Stokes が医学的見地からの証言をした。
次に、Mrs. Sandbourne が落石事故の概要を説明した。それから Joanna Crawford が証言をした。
彼女は岩を押している人がいたと語った。その人は赤と黒の派手なセーターを着ていた。
Emlyn Price も同様の証言をした。
- Farmer Plummer (p.243)
- 話のついでに出てくるたいした役割の無い人物名。
日本語で「農家のプラマー」(乾訳)と出てくると唐突だが、英語で読むと脚韻を踏んでいるので少し唐突さが減る。
- a sort of great patch of boulders (p.251)
- 乾訳では、patch を「集落」と訳しているが、変な感じである。「大きな岩が集まっているところ」とでも
すれば良いだろう。
- But the one he or she was pushing seemed to be balanced like a rocking stone. (p.252)
- 「ですけど、その彼だか彼女だかが押していた岩は、もともと少しぐらぐらしているようでした」(拙訳)。
乾訳の「だけど、その彼だか彼女だかは押しているうちに、ゆるぎ石みたいに石をぐらぐらさせたようでした」
は、少し違うと思う。岩はもともと少しぐらついていたと読むべきだと思う。
- The Coroner (中略) adjourned the inquest for a fortnight. (p.253)
- 「検屍官は、審問の続きを二週間後に行うことにした」(拙訳)。
乾訳では「検屍官は、検屍審問を二週間延期すると宣告した」となっているが、すでに最初の審問が
行われているのに「延期」と表現するのは変だと思う。
17 ミス・マープルの訪問 Miss Marple Makes a Visit
I バスツアーは葬儀追悼式の翌日から続行されることになった。Miss Marple は、ツアーを離れて、
この土地でもう少し Nora Broad について調べることにした。Wanstead 教授はロンドンに帰ることにした。
II 翌日、葬儀が行われた。その後、Butler 夫妻と Casper 氏は、ロンドンに帰ることにした。
Miss Cooke と Miss Barrow はしばらくここに残ることにした。そのほかの人々は旅行を続けることにした。
Miss Marple は Nora Broad の親戚の Mrs. Blackett のところに行って話を聞く。Nora は、男友達と
遊び回っていたが、行方不明だという。Miss Marple は、次に Nora を知っている別の女性のところに
話を聞きに行く。彼女は Nora のことを男狂い (boy mad) だと言った。
- foulard (p.268)
- OED によれば、「絹もしくは絹と木綿の混紡の軽い布地で、表面は滑らかかもしくは綾織り。
典型的には小さな幾何学模様が付いている。」とのこと。
18 ブラバゾン副司教 Archdeacon Brabazon
Archdeacon Brabazon が Miss Marple を訪ねて来る。Miss Marple が Elizabeth Temple と
最後に言葉を交わしたと聞いたからだ。Miss Temple は Archdeacon Brabazon のところに行くことになっていた。
Verity Hunt の婚約について確認をしたかったのだと考えられる。Archdeacon Brabazon が言うには、
Verity Hunt と Michael Rafiel は愛し合っていて婚約をしていた。Verity は Michael が不良青年で
あることも承知していた。Michael は心を入れ替えると言っていた。が、二人は自分が執り行うはずだった
結婚式になぜか現れなかったのだと言う。
- archdeacon (p.271)
- ジーニアス英和大辞典電子版によれば、英国国教会(あるいは聖公会、Anglican)では、archdeacon は「大執事」と訳され、
教区の管理運営の実務責任者だそうである。Anglican における archdeacon の職務について、
Wikipedia (
Anglican ministry,
Archdeacon) にしたがってまとめておく。まず、Anglican 用語の予備知識2つ:
- 聖職者には、主教 (bishop)・司祭 (priest)・執事 (deacon) の三職位がある。
- 教区には、大主教管区 (province)、主教区 (diocese)、大執事管区 (archdeaconry)、
地方執事管区 (rural deanery) の階層構造がある。
Wikipedia によれば、一つの主教区 (diocese) の中では、archdeacon (大執事) は、bishop に次ぐ地位である。
archdeacon になるのは、通常 priest (司祭) である。archdeacon は大執事管区 (archdeaconry) の
建物管理、聖職者の福利厚生、教区の政策の実施を担当する。
- 乾訳では、archdeacon を副司教と訳しているが、これはカトリックならあり得る訳のようである。
カトリックでは、archdeacon は、かつて司教 (bishop) と司祭 (priest) の間にあった職位だが、
現在では形式的呼称として残っているだけのものなので決まった訳が無い。そこで、「副司教」
と訳しても悪くはない。しかし、この小説の舞台はイギリスだし、実質的職名として使われているので、
英国国教会と見て、「大執事」と訳すべきだろう。
- confirmation (p.277)
- 堅信礼、もしくは堅信式。Anglican では、入信の儀式に洗礼式と堅信式がある。洗礼式は幼い時に行うもので、堅信式は
自分が判断できる年齢になってから行う。堅信式によって、教会の一員となることを表明する。
- Lent (p.277)
- 大斎節。乾訳ではカタカナで地名であるかのようにしているが、誤り。
Lent は、カトリックでは四旬節、聖公会では大斎節と言い、
復活祭前の四十日のこと。
- schizophrenic (p.287)
- 精神分裂症の。乾訳では「早発性痴呆症」となっているが、これは誤訳と言うべきだろう。
schizophrenia は、
現在、統合失調症と呼ばれるが、かつては精神分裂症と呼ばれた。schizophrenia はもともと
「分裂した心」という意味なので、直訳として「精神分裂症」は正しい。早発性痴呆 (dementia praecox) は、
かつて Kraepelin が統合失調症に与えた名前である。だから「早発性痴呆症」と訳しても間違いではないと
言えそうだがそうではない。ここで、Archdeacon Brabazon は、二重人格のことを、「分裂した心」という
意味に引っ張られて間違えて「精神分裂症」と言っているのだから、「精神分裂症」と訳さなければ
意味が通らない。
19 別れの言葉を交わす Good-Byes Are Said
翌日、ツアーバスが出発する。Joanna Crawford は、体調が悪いと嘘をついて Emlyn Price と
その場に残ることにした。Miss Marple は Wanstead 教授に Anthea が慈善団体に送った小包の調査を依頼する。
Miss Cooke と Miss Barrow も近くの教会を見物するのだと言ってここに残っている。
- Good Riddance (p.295)
- 「いい厄介払いだ」(乾訳)。嫌な人がいなくなって清々した、というようなときに使う表現。
- magnolia highdownensis (p.297)
- 木蓮の品種の一つ。magnolia wilsonii と同じかもしれないし、
magnolia wilsonii と magnolia sinensis との交雑種かもしれないということらしい。
- mahonia japonica (p.297)
- ヒイラギナンテン。
20 ミス・マープルに考えあり Miss Marple Has Ideas
昼過ぎ、Anthea Bradbury-Scott が The Old Manor House に Miss Marple を再び招待する。
Miss Marple が三人姉妹と話していると、Miss Cooke と Miss Barrow が教会が閉まっていたと Miss Marple に
言いに入って来る。Miss Marple は新たに来た二人と三人姉妹の前で、Joanna Crawford と Emlyn Price が
岩を落とした可能性を示唆する。皆は夕食後に一緒にコーヒーを飲むことを約束し、Miss Cooke と Miss Barrow は
いったんホテルに戻る。
- Clytemnestra (p.310)
- Wikipedia ではクリュタイムネーストラー。夫アガメムノーンを殺し、
息子オレステースに殺される。
- Taormina (p.315)
- タオルミーナは、シチリア島にある町。
21 大時計三時を打つ The Clock Strikes Three
I 夜、Miss Cooke と Miss Barrow がやってきて、雑談が始まる。Clothilde が持ってきたコーヒーを
眠れなくなるからと言って Miss Cooke が断り、Miss Marple も彼女の勧めで断る。Miss Cooke と Miss Barrow は
帰って行く。
II 夜中の三時、Clothilde が Miss Marple の寝室にそうっと入って来る。Miss Marple は起きていた。
Miss Marple は Clothilde に向かって自分は Nemesis だと言う。すなわち、あなたに正義の鉄槌を下すと。
Miss Marple が真相を明かす。Clothilde が Miss Marple を殺そうとしたとき、Miss Marple は笛を鳴らした。
すると、Miss Barrow と Miss Cooke が飛び出してきた。二人は Rafiel 氏が用意した護衛だったのだ。
- Mr. Rafiel always did things on a lavish scale. (p.344)
- 「ラフィールさんは、やることなすこといつも太っ腹ですからねえ。」(拙訳)
22 ミス・マープルその次第を語る Miss Marple Tells Her Story
Miss Marple が Wanstead 教授、内務大臣らお偉方5人の前で種明かしをする。
Clothilde がその後服毒自殺していたことも判明する。
- hemlock (p.362)
- ドクニンジン
conium maculatum。古代ギリシャでは、罪人を毒殺するのに使われた。ソクラテスがあおいだ毒杯も
hemlock の毒。
23 終曲 End Pieces
I Miss Marple の話を聞いていた5人は驚嘆する。
II Michael Rafiel が自由の身になる。
III Miss Marple は約束のお金を受け取る。
- Nemesis! He could not imagine anything less like it, he said. (p.369)
- 「ネメシスだとさ!全くイメージが合わないんだがな、と彼は言っておった。」(拙訳)。
乾訳の「ネメシスだよ!それよりひどいもの考えたこともなないと彼がいっとったよ。」では
意味が通じない。
- Nemesis. Never seen anybody less like Nemesis, have you? (p.378)
- 「ネメシス。これほどイメージと違う人はいないよね。」(拙訳)。
乾訳の「ネメシスね!あれほどネメシスらしいのを見たことないね、どうだね?」では
意味が反対。
McEwan テレビドラマ版のあらすじとメモ
ITV-WGBH 制作の Miss Marpe シリーズを BS11 でやっていたので見てみた。
主演 Geraldine McEwan で Series 3 Episode 4「復讐の女神 (Nemesis)」(脚本 Stephen Churchett;監督 Nicolas Winding Refn)。
以下、ネタバレしつつ原作との違いをまとめておく。
この作品は、原作とは大きく違っている。Rafiel 氏の遺言によるバスツアー、愛し合っていた Michael Rafiel と
Vanity Hunt、犯人の名前と Verity 殺しの動機という大枠だけを原作から借りてきて、中身はほとんど別の物になっている。
登場人物も大きく変わっている。おそらくテレビ的に次の2点を重視して、原作に従わなかったのだろう。
- 主要な事件をドラマと同時進行で起こるものにする。原作においては、解かなければならない主要な犯罪は、
過去に起きた Verity Hunt と Nora Broad の殺害事件である。同時進行で起きた Elizabeth Temple 殺しは
付随的である。一方、ドラマにおいては、解かなければならない主要な犯罪は、同時進行で起きた Lawrence Raeburn と
Rowena Waddy の殺害事件とその他いくつかの謎の出来事で、Verity Hunt 殺害の方は付随的な感じになっている。
このため、原作は、愛がもたらした悲劇が強くテーマとして押し出されているのに対して、テレビドラマ版では
そのテーマは後退している。
- バスツアー客が全員 Verity Hunt 殺害事件に何らかの意味で関わっている人々になっていることにする。
原作では、バスツアー客の半分以上は、事件と無関係である。この変更によって事件の構成が複雑になって
それらが緊密につながっていることになっている。しかし一方で、そうであるためには故 Rafiel 氏が
事件の真相をほとんど予め掴んでいたことになるという不自然さがある。そこまで知っていたなら、
Miss Marple に事件の真相究明を頼むまでもないはずだ。もちろん、ドラマの中では
一応これらの人々が呼ばれた理由を付けてあるものの、やはりこのツアー客の揃え方は不自然だと思う。
バスツアーの客を表にまとめておく。
名前 | 人となり |
Sydney Lumley | 中年の男。 |
Margaret Lumley | Sydney の若い妻。明るい金髪で、Verity Hunt に似ている。 |
Lawrence Raeburn |
老人。Amos Flaire なる人物 (Flaire は Rafiel のアナグラム) からチケットが送られてきて、
ツアーに参加することにした。Miss Dalrymple のおじの Lord Forrester の元執事。 |
Michael Faber | ドイツ人の青年。実は、Jason Rafiel の息子の Michael Rafiel。 |
Amanda Dalrymple | Raymond West の友達。Lord Forrester の姪。 |
Derek Turnbull | Amanda Dalrymple の弁護士。 |
Martin Waddy | 傷痍軍人。大尉。 |
Rowena Waddy | Martin の妻。 |
Agnes Carson | 修道院長。 |
Clothilde Merryweather | 修道女。 |
Georgina Barrow | バスガイド。 |
以下、ネタバレ付きであらすじをまとめておく。
- 冒頭、1940 年、飛行機が墜落して若い男(後から Michael Rafiel だとわかる)が脱出する。
- 11 年後、Miss Marple は Jason Rafiel(慈善家、著述家)の死亡記事を見る。
- Broadribb 氏が Miss Marple のところにやって来て、Rafiel 氏の遺言の録音を聞かせる。
犯罪を調べて、Nemesis になってほしい、とのこと。ミステリーツアーのチケットが2枚用意されていた。
- Miss Marple は甥の Raymond West のところに行く。二人で Jason Rafiel の墓参りをし、ツアーに参加することに決める。
- ツアー客が集まって、バス旅行が始まる。
- 最初に行くのは、Forrester 家の屋敷。Lord Forrester は、もう先行きが短く、姪の Miss Dalrymple が屋敷を相続する
ことになっている。見学の途中で Miss Dalrymple の気持ちが高ぶり、皆に出て行けと言い、ある女性の写真を足で踏み付ける。
- その夜は Medhurst 村の Flying Horse という宿に宿泊する。Colin Hards という青年が Raymond West に声をかける。
Miss Marple は Michael Faber に声をかける。彼は、自分が Jason Rafiel の息子だと明かすが、父親のことを良く思っていないらしい。
- 夜中、Mr. Raeburn が階段から落ちて怪我をする。彼は Margaret の方を見て、なぜか Verity と言う。
また、Martin Waddy もベッドで Verity と言いながらうなされている。
- 朝、Mr. Raeburn がベッドで死んでいた。Colin Hards は警官 (Detective Constable、刑事) だった。
彼は事件性はないと判断するが、Miss Marple は毒殺を疑い、ベッド脇にあった薬を調べるように頼む。
- 朝食の場。修道女たちが Verity を知っていた。1939 年、Verity は修道院に入った。彼女は、Mr. Lumley の間借り人で、
家主に言い寄られて逃げてきていた。数日後、Verity は失踪した。Verity は Forrester 家のメイドの娘で、盗みがバレて
逃げたのだと Miss Dalrymple は言う。場に不穏な空気が漂う。
- 散歩。修道女たちが、Michael Faber は Michael Rafiel で、Verity を殺したのだと Miss Marple に言う。
戦争の時、飛行機が墜落して怪我をした Michael Rafiel を見習い修道女の Verity が看病した。
二人が愛し合って駆け落ちしようとしたのを修道女たちが止めた。Verity は Michael に別れを告げに行ったきり、帰って来なかった。
- 散歩。Derek Turnbull が Margaret Lumley に向かって、あなたが誰かを知っているから取引しないかと言う。
- ホテル。Colin Hards が Miss Marple のところにやってきて、Mr. Raeburn は毒を盛られていたと言う。ただし、
薬に入れられていたのではなく、おそらくシャンパンに入れられていたのだと。
- Rowela Waddy が何者かに崖から落とされて死んだ。
- 以下、Colin Hards と Miss Marple と Raymond West は、ホテルの一室でツアー関係者全員から話を聞く。
- インタビュー。Martin Waddy は、Verity という名前に悩まされているが、戦争の傷で記憶を失っており、誰だかわからない、と言う。
- インタビュー。Mr. Lumley は、Amanda Dalrymple が Verity を脅していたと言う。
- インタビュー。Amanda Dalrymple は、Verity が Lord Forrester の不義の子だと言う。それを Verity に言ったら、
Verity は出て行ったと言う。Verity は既に死んだことになっているので、Amanda が Lord Forrester の相続人になっている。
- インタビュー。Verity が失踪した日、Michael Rafiel は Verity を待っていたが現れなかったと言う。その代わり、当局に捕まって
捕虜になったと言う。
- ホテル。Miss Marple は、Verity から Mr. Raeburn への手紙を見つける。Michael と駆け落ちすると書かれていた。
- ホテル。Derek Turnbull が Margaret Lumley の部屋に行くと、夫の Sydney が一緒にいた。Derek は Sydney に殴られる。
- 翌日の訪問地は、St. Elspeth's 女子修道院だった。そこは、廃墟だった。Martin Waddy は、妻の死が悲しくないことに苦しむ。
- バスが故障する。Michael Faber の鞄の中に Rowela Waddy が殺されたときに近くにいた人影が来ていた服が見つかり、
Michael が逮捕される。
- 墓地に Ralph Collins という兵士の墓があった。葬儀が行われたのは、Verity 失踪の一週間後だった。
- バスの手すりに手錠でつながれていた Michael がバスの手すりを壊して逃げ出す。Michael は Amanda Dalrymple に
刃物を突き付け、Verity を殺したのはお前だろうと言う。Amanda は Verity はまだ生きていると叫ぶ。しかし、
その真相は Margaret Lumley が Verity に化けて Amanda を脅していたのだった。Amanda は Verity が失踪したとき
Medhurst 村にいた。それは Verity を買収して実父の件を隠そうとしたからだ。でも、Amanda は Verity に会えなかった。
- Sister Clothilde が Miss Marple にココアを持ってくる。
- Miss Marple は礼拝堂にいた Sister Clothilde に「I am Nemesis.」と言う。つまり、私が正義を為すということだ。
Sister Clothilde は Mr. Raeburn をココアに入れた毒で殺した。Mr. Raeburn が Verity に贈った locket を Sister Clothilde
が付けていることに気付いたからだった。Sister Clothilde は、Verity を愛していたがゆえに殺し、Ralph Collins として
埋葬したのだった。Martin Waddy こそ、本物の Ralph Collins だった。Rowena Waddy は、Sister Clothilde が傷だらけの
Martin を家に連れてきた人だと気付きそうになったので、Clothilde に殺された。
- 追い詰められた Clothilde は、自らの胸を突いて死ぬ。
このテレビドラマ版で一番不自然なのは、Rowena Waddy が、自分の夫ということにされている Ralph Collins が
自分の夫ではないことに気付かないことである。ドラマの設定としては、Rowena は自分の夫が戦死したことを
受け入れられなくて、重傷を負って記憶喪失になった Ralph Collins のことを、その傷ゆえに顔も性格も変わってしまった
夫だと信じた、ということになっているが、無理があると思う。