パディントン発 4 時 50 分

著者Agatha Christie
訳者松下 祥子
シリーズクリスティー文庫
発行所早川書房
電子書籍
電子書籍刊行2012/03/10
電子書籍底本刊行2003/10
原題イギリス版 4.50 from Paddington / アメリカ版 What Mrs McGillicuddy Saw!
原出版社イギリス版 Collins Crime Club / アメリカ版 Dodd, Mead and Company
原著刊行1957
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読了2024/07/26
参考 web pages Wikipedia「パディントン発4時50分」
Wikipedia「4.50 from Paddington」
Wikipedia「アガサ・クリスティー ミス・マープル」
Wikipedia「Agatha Christie's Marple」

新型コロナで寝込んでいる間に一気読みした。以前にも旧訳で読んだことがあって、 犯人も覚えていたのだが、事件の経過はおおむね忘れていたので、楽しく読めた。

今回は ITV の Geraldine McEwan 版のテレビドラマとの比較も行った。テレビドラマで変えられている部分は、 単にドラマ化上の都合(ドラマチックにするとか、放送時間に合わせるとか)もあるけれど、 原作の弱い部分を補強しているところもあって、それは原作批判とも言える。

メモ

以下のページ番号は、ハヤカワ・クリスティー文庫 kindle 版(全 346 ページ)に基づく。

事件が起こった年に関して
出版された 1957 年は、ちょうど 12 月 20 日が金曜日なので、事件の年の想定もその年だと考えておくことにする。 第 27 章に Miss Marple が、死刑が廃止になったのが残念だと言う場面がある。訳注によると、イギリスで死刑判決を 限定する法律ができたのが 1957 年、完全な死刑廃止は 1965 年だそうなので、出版後の未来予測をしているわけでは ないとすると、やはり事件の年は 1957 年と考えるのが妥当そうである。
事件が起こった場所に関して
Brackhampton という町は、架空の町のようだ。
terrain (p.29)
Miss Marple が汽車に乗って事件現場の「地勢」を確認しに行くという時に terrain という語が用いられている。 Miss Marple も、適切な単語は何だったかしら、と言いながら、terrain という言葉を頭の中で探してきている。 因みに地学用語としては、terrain は、特別な地質的あるいは物理的な特徴を持つ領域のことである (Oxford Dictionary of Earth Sciences)。terrane (周囲を断層によって境され、隣接地域と地史や形成機構が異なっている部分;地学辞典)と 区別するときとしないときがあるようでややこしい。
the New Statesman (p.38)
1913 年創刊の政治や文化に関する週刊誌。左寄りの権威ある雑誌らしい。
granite (p.45)
むろん花崗岩のことだが、硬いことや頑固なことの比喩として使われるようだ。ここでは、Elspeth McGillicuddy が全く空想的ではない人物だということを表現するのに、She’s almost unsuggestible, rather like granite. 「暗示にかかりようがないのよ、まるで御影石みたいに」(松本訳)としてある。
mare's nest (p.49)
直訳は「雌馬の巣」で、「あとで誤りとわかる大発見」(ジーニアス英和大電子版)のこと。 馬が巣を 作ることはないということから来ている
M.G. car (p.108)
1924 年頃発祥のイギリスのスポーツカー。Morris Garages の略。現在は、上海汽車 (SAIC Motor) グループ傘下。
gay Paree (p.124)
「花の都パリ」(松下訳)。Quora による説明
an Answer to Prayer (p.144)
切実な必要性に対する完璧な解決」(The Free Dictionary by Farlex)。「地獄で仏」(松下訳)。
Ibiza, one of the Balearic Islands (p.172)
バレアレス諸島は、スペイン東部沖の地中海に浮かぶ島々。その主要な島は、マヨルカ島、メノルカ島、イビサ島。
Could I go upstairs for a moment? (p.334)
訳注によれば、お手洗いを借りるときの婉曲表現。 Wikitionnaire でも本小説を引用して同様の説明がなされている。

ITV の Geraldine McEwan 主演テレビドラマ版と原作との主な相違点

ITV 版で脚本は Stephen Churchett、監督は Andy Wilson。 大筋では原作に沿っているものの、Miss Marple の活躍場面を増やしたり、 原作で弱かった部分を強化したりする工夫などが随所でなされている。 それらのうちで主なものを列挙していく。