サン=テグジュペリと言えば、 『星の王子さま』を読んだことがあるだけである。解説を読むと、サン=テグジュペリはもともと文学青年ではあったが 飛行機乗りになる前はたいした作品が書けなかったのだそうだ。それが、飛行機乗りになって高い精神性のある作品が 書けるようになった。その到達点が『人間の大地』だとのこと。
第2回「惑星視点で見る」の解説を読むと、当時の飛行機乗りは、今で言えば宇宙飛行士のようなもの だったということがわかる。空高くから惑星地球を見るという経験は、他では得難い精神的な経験であった。 宇宙飛行士の精神的な体験をまとめた本として、立花隆『宇宙からの帰還』があるが、 『人間の大地』では、それと同様な体験が、文学的な修辞を使って美しく書かれている。
砂漠で遭難した体験も美しく詩的に書かれる。ベドウィンが助けてくれたことも宗教的啓示のように描かれている。
われわれを救ってくれたリビアのベドウィンよ、それなのにきみは、わたしの記憶から永遠に消え去るだろう。 きみの顔を思い出すことは決してないだろう。きみは「人間」であり、わたしの前に同時にありとあらゆる 人間の顔で現れる。きみは顔をまじまじと見たりするまでもなく、すぐにわれわれを認めてくれた。きみは 最愛の兄弟だ。そしてわたしもまた、あらゆる人間のうちにきみを認めるだろう。[野崎訳]
Quant à toi qui nous sauves, Bédouin de Libye, tu t’effaceras cependant à jamais de ma mémoire. Je ne me souviendrai jamais de ton visage. Tu es l’Homme et tu m’apparais avec le visage de tous les hommes à la fois. Tu ne nous as jamais dévisagés et déjà tu nous as reconnus. Tu es le frère bien-aimé. Et, à mon tour, je te reconnaîtrai dans tous les hommes.
- 相手の呼称には、親しみを込めて tu 「きみ」が使われている。
- à jamais は、「いつまでも、永久に」。
- 大文字で始まる単数形の l'Homme を講師はカギ括弧付きの「人間」と訳している。 人間性を重視した「人間」ということである。個別性のある人間すべては tous les hommes (複数形)と書かれている。