使われる放射壊変で代表的なものには以下のものがある。
壊変 | compatible/incompatible | その理由 | 娘元素の同位体比の変化の方向 |
---|---|---|---|
87Rb → 87Sr | Rb と Sr では、Rb の方が液相に濃集する (相対的に incompatible) | Rb は一価のアルカリ元素でイオン半径が大きいのに対し (Large-Ion Lithophile)、Sr は二価のアルカリ土類金属で Rb よりも イオン半径が小さい | εSr (87/86 から定義) は液相側で増える |
147Sm → 143Nd, 146Sm → 142Nd | Sm と Nd では、Sm の方が固相に濃集する (相対的に compatible) | Sm も Nd もどちらも希土類だが、Sm の方が重くて イオン半径が小さい | εNd (143/144 から定義) は固相側で増える |
176Lu → 176Hf | Lu と Hf では、Lu の方が固相に濃集する (相対的に compatible) | Lu は希土類で三価であるのに対し、Hf は遷移金属で 四価になる High Field Strength 元素である | εHf (176/177 から定義) は固相側で増える |
187Re → 187Os | Re と Os では、Re の方が液相に濃集する (incompatible)。 Os が compatible である(相対的にではなく)のが特徴 (この手の議論で使われる元素は incompatible であるものが多い)。 | εOs (187/188 から定義) は液相側で増える |
143Nd/144Nd は chondritic ならば 0.5126。 従来は、pristine mantle の値は chondritic であると考えることが多かったが、 Boyet and Carlson (2005) Science 309, 576 が測定した 142Nd/144Nd の結果から、初期マントルでは chondrite よりも Sm/Nd が高かったことが示唆された。 そうだとすると、pristine mantle の 143Nd/144Nd は 0.5129-0.5131 ということになる。[Jackson et al (2010) Nature 466, 853]
[講義] 兼岡一郎(東大地震研究所)「固体地球物理学基礎論I」 (1988/06/28)
[本] Scott M. McLennan (1999) "Geochemical Classification of the Elements" in Encyclopedia of Geochemistry (Kluwer), pp.263-266.
[本] A.W. Hofmann (2003) "Sampling mantle heterogeneity through oceanic basalts: Isotopes and trace elements", pp.61-101, in The Mantle and Core, Vol.2, Treatise on Geochemistry, Elsevier-Pergamon, Oxford.
[雑誌記事] Johanna Miller (2010) "Isotope ratios hint at a piece of pristine Earth", Physics Today, 63(10), [news / search and discovery], 16-18.
[雑誌記事] 中島林彦、磯崎行雄(監修) (2013) 「古生代末に何が起きたか」, 日経サイエンス, 43(10), 32-41.
Pt, Re, Os はいずれも highly siderophile elements なのでコアの中の 相対存在度はもともと chondrite と変わらないはずだ。しかし、 内核ができると Os に比べて Pt, Re は外核で高くなると考えられる (きちんとした分配実験はないが、既存の実験や鉄隕石に基づけばそうなる)。
187Re→187Os、190Pt→186Os という壊変がある。上記の分配の傾向によって、内核ができると、 外核では Os の 187/188, 186/188 が chondritic ratio より高くなるはずだ。 これが mantle plume に含まれているかもしれないコア物質のマーカーになりうる。
(1) コア形成年代を調べる。マントルの ε182W はコンドライトより 2 ppm 大きいことがわかったので、コア形成は太陽系形成から 30 Myr 以内である ことがわかった。[情報源:Fitzgerald 論文]
(2) コアの ε182W は低いはずなので、mantle plume で そのような低い ε182W が見つかれば、plume にコア起源物質が 混ざっている証拠になる。[情報源:Walker and Walker 論文]
[科学論文] R.J. Walker and D. Walker (2005) Does the Core Leak? EOS, 86(25), 237, 242.
使われる放射壊変で代表的なものには以下のものがある。
壊変 | 沈澱のしやすさとその理由 | 娘元素の同位体比の変化の方向 |
---|---|---|
138La → 138Ce | 希土類は通常 3 価だが、Ce は酸化的環境では 4 価になる。 4 価の Ce は沈澱をしやすい。そこで、酸化的な水では Ce が 減って La/Ce が大きくなる。(参考: 希土類元素) | εCe (138/142 から定義) は酸化的な水からの堆積物では 増える |
226Ra (1600y) → 222Rn (3.8d) → 218Po (3.1m)となっている。
222Rn は次の特徴を利用して大気・海洋間の物質交換率の推定に用いる。
(1) Rn は希ガスなので大気へ逃げやすい。一方 Ra は海中にずっといる。
(2) 半減期が数日ということで、物質交換の時間スケールに近い。
放射平衡では
d[222Rn]/dt = λ226 [226Ra] - λ222 [222Rn] = 0が成立する。すなわち、放射平衡濃度は
[222Rn]eq-rad = (λ226/λ222) [226Ra]で与えられる。
一方、混合層の 22Rn は大気中に逃げるものとする。 海面の単位面積当たり逃げる速さは、大気との交換に対する平衡濃度 [222Rn]eq-atm からの差に比例し
- K { [222Rn] - [222Rn]eq-atm}で与えられるとする。そうすると、混合層の [222Rn] の変化を表す式は
d (D [222Rn])/dt = - K { [222Rn] - [222Rn]eq-atm} + λ226 D [226Ra] - λ222 D [222Rn]で与えられる。ただし、D は混合層の厚さである。定常状態では
or
d (D [222Rn])/dt = = - K { [222Rn] - [222Rn]eq-atm} - λ222 D { [222Rn] - [222Rn]eq-rad}
K { [222Rn] - [222Rn]eq-atm} = λ222 D { [222Rn]eq-rad - [222Rn]}となり、これから大気・海洋間の物質の交換率 K が求められる。