地震におけるスケーリング則
last update: 2016/07/07
地震において経験的にいくつかのスケーリング則が知られている。
応力降下一定則;マグニチュードと断層の大きさ
地震においては、地震のマグニチュードによらず
応力降下が 10-100 bar くらいになることが知られている。
[Kanamori and Anderson (1975) BSSA, 65, 1073-1095]
そのことから地震モーメントやマグニチュードと断層の大きさの間に
次のようなスケーリングが導かれる
(正確に言うなら、以下のスケーリング則を見出したことから
応力降下が一定であると導かれた)。
地震モーメント M0 は
M0 = μ U S
と表される。ここで μ は剛性率、U は変位、S は断層面積である。
一方、応力降下 Δσ は断層の長さスケールを L として
Δσ 〜 μ U / L
である。S 〜 L2 とすれば、上の2つの式から
M0 〜 Δσ L3 〜 Δσ S3/2
となる。Kanamori and Anderson (1975) では、
M0 ∝ S3/2
が見出され、そのことから応力降下一定則が導かれた。
M0 と L の関係として表せば
M0 ∝ L3
となる。また、破壊の継続時間 τ がだいたい
τ 〜 L / c
(ただし、c は地震波速度)と表されるとすれば、
M0 ∝ τ3
ということにもなる。
さらに、モーメントマグニチュード Mw とモーメント M0
とは
1.5 δ Mw = δ log M0
という関係にあるから(δ は変化分を表す)、
δ Mw = δ log S = 2 δ log L
となる。すなわち、マグニチュードが1増えると断層面積が1桁増え、
マグニチュードが2増えると断層の長さ(幅)が1桁増える。
目安は以下の通り。
magnitude | characteristic length |
M6 | 10km |
M7 | 30km |
M8 | 100km |
巨大地震の場合
大きい地震(M7 以上くらい)で断層の幅 W が頭打ちになる場合は、
断層の長さ L と幅 W を区別しないといけない。
その場合にやり直すと、
M0 = μ U S
S 〜 L W
と
- case 1 縦ずれ断層を想定
Δσ 〜 μ U / W
- case 2 横ずれ断層を想定
Δσ 〜 μ U / L
より
- case 1
M0 〜 Δσ W2 L
- case 2
M0 〜 Δσ W L2
となる。応力降下 Δσ が一定で W も頭打ちで一定とすれば、
- case 1
M0 ∝ L
- case 2
M0 ∝ L2
となる。
日本の大きな内陸地震では、上の case 2 の M0∝L2 が良いようである。
W は上部地殻のうち地震を起こす領域の厚さの 13 km 程度で頭打ちになる。
この場合の具体的なスケーリング則として
- 武村 (1998) 地震, 第2輯, 51, 211 による
M0 = 4.365×1016 L(km)2
U = 1.273 L(km)/W(km)
- 山中・島崎 (1990) J. Phys. Earth, 38, 305 による
M0 = 3.802×1016 L(km)2
U = 1.108 L(km)/W(km)
がある。
情報源
- [会話] with 古本宗充氏(名古屋大学理学部地球惑星科学科) (2007/02/10)
- [本] 宇津徳治 (1984)「地震学 第2版」(共立全書 216) 10.3 節
- [本] S. Stein and M. Wysession (2003) An Introduction to Seismology,
Earthquakes, and Earth Structure, Blackwell, 4.6, 4.7 節
- [論文] 武村雅之 (1998) 日本列島における地殻内地震のスケーリング―地震断層の影響および地震被害との関連―,
地震 第2輯, 51, 211-228
- [論文] B. Romanowicz, L.J. Ruff (2002) On moment-length scaling of
large strike slip earthquakes and the strength of faults,
Geophys. Res. Lett., 29(12), doi:10.1029/2001GL014479
- [論文] 島崎邦彦 (2016) 最大クラスではない日本海「最大クラス」の津波―過ちを糾さないままでは「想定外」の災害が再生産される,
科学 2016 年 7 月号, 86(7), 653-660
- [web page] 小山真人・里村幹夫 (2000)
地震のマグニチュードはなぜ市民に理解されにくいのか
地震動のスペクトル
地震の変位スペクトルは、おおむね低周波側で一定、高周波側で ω-2 に比例することが知られている。
その境目となる周波数をコーナー周波数 ωc と呼び、
ωc 〜 VS/R
の関係がある。ここで、VS は S 波速度、R は断層面の大きさである。
情報源
- [本] 宇津徳治 (1984)「地震学 第2版」(共立全書 216) 10.3D 節