ナイルに死す

著者Agatha Christie
訳者黒原 敏行
シリーズクリスティー文庫
発行所早川書房
電子書籍
電子書籍刊行2020/09/15
電子書籍底本刊行2020/09
原題Death on the Nile
原出版社Collins Crime Club
原著刊行1938
入手電子書籍書店 honto で購入
読了2021/08/07

Suchet 版(脚本は Kevin Elyot)のテレビドラマを見ながら読んでみた。登場人物の多い複雑なストーリーである。

ミステリー評論家霜月蒼の評論によれば、 『死との約束』は、この『ナイルに死す』が 進化した形だそうで、似た構成を取っている。どちらも舞台は中東で、前半は不穏な空気の中の心理劇で、 殺人は物語の中ほどで起こる。後半がポワロによる謎解きである。霜月蒼は、『死との約束』の方を高く評価している。 それは、『ナイルに死す』ではいろいろな悪事を絡めすぎて少しゴタゴタしているせいのようである。 『死との約束』の方がシンプルである。ただし、『死との約束』では脇役的な人が犯人になっているのに対して、 『ナイルに死す』は主役級が犯人という違いがある。そのため、『死との約束』は、推理より心理劇的な要素が強調される。 一方、『ナイルに死す』は、複雑な真実の解きほぐしのほうに重点がある。

前半の話の軸となるのは、リネット・リッジウエイ、サイモン・ドイル、ジャクリーヌ・ド・ベルフォールの 三角関係である。リネット・リッジウエイは資産家の美貌の女性である。サイモンとジャクリーヌが最初恋人同士だったが、 サイモンが失業したので、ジャクリーヌが友人のリネットにサイモンを雇ってくれと頼む。その結果、どういうわけか リネットの略奪愛でサイモンとリネットが結婚することになる。で、二人は新婚旅行でエジプトに行くのだが、 ジャクリーヌは二人を追い回してストーカーをしているというのが話の始まりである。 ポワロもエジプト観光に来ていて、図らずもこの3人と行動をともにする。 前半のポイントは、ポワロによるこの三角関係の心理分析である。

中盤からいくつかの事件が起こる。

  1. アブ・シンベル神殿を出たところで、リネットのいるところに岩が落ちて来て、危うく難を逃れる。
  2. 船上で真夜中、ジャッキーが酔っぱらって興奮し、サイモンの脚を拳銃で撃つ。 その後、ジャクリーヌは川に飛び込んで自殺しようとしたが、周囲にいた人々に押しとどめられる。
  3. その翌朝、リネットが射殺されているのが見つかる。高価な真珠のネックレスがなくなっていた。
  4. リネットのメイドのルイーズ・ブールジェが刺殺される。
  5. 作家のオッターボーン夫人がリヴォルヴァーで撃たれる。

後半が、この複雑な事件をポワロが解きほぐしてゆく過程である。いくつかの悪事、いくつかの家庭の恥 などが組み合わさって、真相は込み入っている。そして、メインの犯人は意外なものになっている。 ポワロらしく、心理的な綾をてがかりにして、はったりも交えながら、少しずつ真相に迫ってゆく。

Suchet 版の特徴と筋書き

全体を1時間半に納めないといけないせいで、原作の場面をいくつか省略したりして展開は原作よりスピーディーだが、 それほど原作を崩していない。原作との相違点でメモできたところは以下の通り。