スタイルズ荘の怪事件

著者Agatha Christie
訳者田村 隆一
シリーズハヤカワ文庫 HM ク ① 67
発行所早川書房
刊行1982/06/30、刷:1995/12/15(25刷)
原題The Mysterious Affair at Styles
原出版社アメリカ版 John Lane / イギリス版 The Bodly Head
原著刊行1920 [US]; 1921 [UK]
入手たぶんどこかの古本屋で購入(忘れた)
読了2022/10/30
参考 web pages Wikipedia「スタイルズ荘の怪事件」
Wikipedia「The Mysterious Affair at Styles」
スタイルズ荘の怪事件 in 「名探偵ポワロ」データベース
The Mysterious Affair at Styles YouTube
Wikipedia「名探偵ポワロ」
Wikipedia -- List of Agatha Christie's Poirot episodes

クリスティのデビュー作。以前にも読んでいて、デビュー作だけにイマイチだと思った記憶があるが、 今回は Suchet 版のテレビドラマを見ながら、ノートを取りつつの再読。 すると、実はきわめて凝った作品であることを認識した。

前に読んだ時、今一つ印象が薄かったのは、ノートを取らなかったせいかもしれない。 ノートを取ってみると、事件がかなり複雑に入り組んでいることが分かる。ノートを取らないと、 複雑すぎてかえって印象に残らなくなる。デビュー作なので、張り切って練り上げたのだろうが、 よほど注意深く読まないとごちゃごちゃする。そもそも殺害方法が何度か読み返さないとどうなっているのかわからない。 殺害方法の説明が一ヶ所にまとまっておらず、何カ所かに散りばめられているせいもある。 それらをまとめると以下のようになる。希薄なストリキニーネが入っている 液体の強壮剤に睡眠薬の臭化カリウムの粉末を入れると臭化ストリキニーネが沈殿する。 被害者は一度に大量のたくさんの強壮剤を作らせていて、それを少しずつ飲んでいた。 この大量の強壮剤に臭化カリウムを入れると、ストリキニーネ成分が沈殿し、底にたまった沈殿物は致死的になる。 そこで、強壮剤の最後の一滴を飲んだ時に、その沈殿物も一緒に飲めば死ぬ、というわけだ。 上手に沈殿物を貯められるか、そして、それを液体と一緒に被害者が飲んでくれるかどうかという疑問も残るものの、 ともかく凝ったアイディアではある。 なお、専門家による解説が ここここにある。

殺害方法が単純でない上、話を複雑化している要素がいくつかある。(1) 犯人が二人いること。(2) 殺害の瞬間、 犯人はどちらも現場にいないこと。(3) 下の [手がかり 10] に書いたように、殺害に関係ないストリキニーネが2つ 出てくること。ひとつは犯人が用意した目くらまし、もうひとつは作者が用意した目くらましである。(4) 犯罪とは 関係ない理由で Mary Cavendish と Lawrence Cavendish が嘘を言い、変な行動をすること。 ―― Poirot がこれらの関門を突破して真相を明かすのは見事である。

推理小説評論家霜月蒼によると、 この小説は、世界で初めての「本格ミステリ」だそうだ。それまでの長編推理小説は、たとえば『バスカヴィル家の犬』が 怪奇活劇であるように推理とは別の要素で膨らませて長編になっているのに対し、『スタイルズ荘の怪事件』は 全編が推理要素でできている。同年に発表されたクロフツの『樽』と並んで、本格ミステリの先駆けだとのこと。

Poirot の登場と第一次世界大戦が深く変わっていることもこの小説で知った。Poirot は、戦争のため イギリスに亡命したベルギー人の一人であると書かれている。さらに Hastings もおそらく第一世界大戦従軍で 負傷してイギリスに帰ってきたのだろう。

各章ごとのあらすじといろいろなメモ

1 スタイルズ荘へ

2 七月十六日・十七日

3 惨劇の夜

4 ポアロ、乗り出す

5 「キニーネではないですか?」

6 検死審問

7 ポアロ、借りを返す

8 新たな疑惑

9 バウエルスタイン博士

10 逮捕

11 告訴の申し立て

12 最後の一環

13 ポアロの説明

Suchet テレビドラマ版と原作との違いなどメモ

Suchet 版は第20話「スタイルズ荘の怪事件」(脚本 Clive Exton)。

全体的に言えば、この長編を1時間45分に納めるため、いくつか重要でない人物や映像としてつまらない出来事が 割愛されている。全体のストーリーはそれほど変えられていない。筋書きをわかりやすくするための変更もある。

登場人物

日時

1 スタイルズ荘へ

2 七月十六日・十七日

3 惨劇の夜

4 ポアロ、乗り出す

5 「キニーネではないですか?」

6 検死審問

7 ポアロ、借りを返す

8 新たな疑惑

9 バウエルスタイン博士

10 逮捕

11 告訴の申し立て

12 最後の一環

13 ポアロの説明