名探偵コナン 都道府県警察特集

著者青山 剛昌
シリーズ少年サンデーコミックス
発行所小学館
電子書籍
掲載時期2023/10/24--2023/11/09(公式アプリ)
入手名探偵コナン公式アプリ
読了2023/11/09

スマホアプリ「名探偵コナン」に掲載された都道府県警察特集。 『婚活パーティー殺人事件』以外はすでに読んでいるので、警察関連場面や関連事項等をまとめておく。

事件のサマリー

事件名Files以前の読書録警察の描写 or 関連事項のまとめ
65, 66死亡の館、赤い壁 [三顧の礼/掌中の物/死せる孔明/空城の計] 8 赤い壁、9 掌中、10 死せる孔明、11 生ける仲達を走らす、12 絶妙好餌

諸伏高明刑事が登場すると、中国の故事がたくさん出てくるので、そのうちの一つについてまとめる。

ありえないことという意味で、諸伏刑事が「雪中の筍(たけのこ・たかんな)」という言葉を使っている。 「日本国語大辞典」によれば、これは、「中国、三国呉の孟宗が、冬に竹林に入って哀歎したところ、母の好む筍を得たという 「呉志‐孫皓伝」の注に引かれる「楚国先賢伝」に見える故事から出たことば」 だそうで、有り得ないもの、得難いもの、孝心が深いこと、孝心が天に報われることを指している。

この故事は「二十四孝」の一つとして知られ、日本では「雪中筍」として 絵など描かれているが、四字熟語の国の中国では 「 哭竹生筍(哭竹生笋) kūzhúshēngsǔn」(漢文風に読めば「竹に哭けば、筍生えにけり」であろうか) の話として知られているようである。熟語に使われている文字に反映されている通り、この話は、日本では「雪」、中国では「泣くこと」に重点が置かれて伝わっている。 中国と日本で異なる伝わり方をしている故事の一例である。

「孟宗竹」の名もこの故事から来ているとのこと。「孟宗竹 Phyllostachys heterocycla もしくは Phyllostachys edulis」は中国原産の外来植物で、日本には18 世紀に導入された。したがって、 「 孟宗竹」の名前も同時に中国から輸入されたもののようである。日本に多い竹としては、 ほかに「真竹 Phyllostachys bambusoides」「淡竹(ハチク) Phyllostachys nigra var. henonis」がある。

竹はもともと暖かい地方の植物なので、「雪中の筍」というのは季節がおかしいだけでなく地理的にも変な図柄ではある。 たとえば、寒い北海道に生えている竹と言えば「根曲がり竹」くらいしかないが、これも実は 「チシマザサ」 という笹である。とはいえ、この「根曲がり竹」の筍も食用になるので、「雪中の筍」も孟宗竹でなければ 地理的にはありうる図柄なのかもしれない。

86かまいたちの宿 5 鎌鼬あらわる、6 殺意の鎌鼬、7 鎌鼬の侵入経路、8 鎌鼬の幕切れ

本作品の中には、葛湯の上を走るというトリックが出てくる。実際、これは可能で、 片栗粉を水で溶いたものの上を走ってみせる実験が YouTube で公開されている。 葛湯のようなものが、急に変形させようとすると固体として振る舞い、 ゆっくり力を加えた時は液体として振舞うという現象のことをダイラタンシー現象というらしい。

ところで、dilate という単語は、もともと「 膨張する、膨張させる」という意味なので、どうしてそれが急激な衝撃に対して硬くなるということと関係があるのか 不思議に思っていたところ、九大物理の中西秀先生のページにちゃんとした説明があった。 巷に出回っている説明は間違っているものも多いようなので注意しないといけないようだ。ただし、槍玉にあがっている Wikipedia の記述は、その後、改善されているようである。

86, 87県警の黒い闇 9 啄木鳥(キツツキ)、10 足跡と啄木鳥会、11 妻女山へ…、1 往く事は流れの如し、2 鞭声粛々夜河を渡る

『名探偵コナン』で大和勘助と上原由衣が初めて出てくる 59 巻が発行されたのが 2007 年で、 NHK 大河ドラマ『風林火山』が放映されたのも 2007 年である。で、大河ドラマの主人公が 山本勘助でヒロインが由布姫であったことから、『名探偵コナン』の登場人物の名を大和敢助と上原由衣にしたのだろう。 本作品が掲載されている 86, 87 巻は 2015 年の出版だから、8 年経って今度は川中島の決戦をモチーフにした作品を 描いてみたということのようだ。

本作品でモチーフとなっているのは、激戦となった 1561 年の第4次川中島合戦で、啄木鳥戦法もここで出てくる。山本勘助もここで戦死する。 それで、勘助の首を勘助の家来たちが奪い返したものの、損傷が激しく、いくつかの首のうちどれが勘助の首かわからず、 胴体と合わせてみてようやくわかったという話が出てくる。これが本作品の死体トリックの発想の源になっているようだ。

連続殺人事件の被害者(と殺されかけた人と犯人)の名前と第4次川中島合戦の武田側の戦死者の名前を似せてあるのも ちょっとした工夫である。竹田繁は武田信繁、鹿野晶次は初鹿野忠次、油川信介は油川信吉、三枝守は三枝守直、大和敢助は山本勘助 という具合である。さらに、結婚等で苗字を変えるなどして、これらを武田二十四将の名前に早変わりさせている。竹田繁は武田信繁、 土屋晶次は土屋昌次、秋山信介は秋山信友、三枝守は三枝守友、大和敢助は山本勘助というわけである。

ところで、上で引用した「ながの観光コンベンションビューロー」による「川中島の戦い」というサイトには川中島合戦のことが詳しく書いてあり、 作者もこれを参照したと思われる節がある。というのは、川中島合戦で討ち死にした兵士たちを詠んだ浅井洌の歌が「骨をつみしほ流ししもののふのおもかげうかぶ赤川の水」 として紹介されているが、漫画もこのウェブサイトも同じように「血」の字が抜けていて、正しくは 「骨をつみ 血しほ流しし もののふの おもかげうかぶ 赤川の水」だからである。きっと漫画がウェブサイトの記述を うっかり意味を考えずに丸写ししたのだろう。


事件名Files登場人物事件の概要神奈川県警の人々の描写
102婚活パーティー殺人事件 5 15の受難、6 18の想起、7 バカ共
  • 泊里安珠(とまり あんじゅ):参加者番号 24
  • 忍(しのぶ):萩原千速の友人
  • 上寺幾久(うえでら いくひさ):参加者番号 31、無職
  • 円崎源司(えんざき げんじ):参加者番号 27、書評家
  • 蕪木到(かぶらぎ いたる):参加者番号 19、IT 関連会社社長

マスカレード婚活パーティーが行われている。参加者はアイマスクをしており、番号で区別される。 フリータイムの後、意中の人5人の番号を書いて、カップルを発表する仕組みだ。 とくに人気が高かった美人の女性 18 番(萩原千速)と 24 番(泊里安珠)には特別アプローチタイムが設けられた。

そのアプローチタイムの間に泊里安珠が殺される。警視庁の目暮警部、髙木刑事と佐藤刑事が捜査に当たるが、 パーティーに参加していた横溝重悟、萩原千速と、たまたま間違えて会場近くにいた毛利小五郎(と蘭とコナン)も 成行き上協力することになる。

犯行の可能性があるのは、アプローチタイムで安珠と話をした蕪木、上寺、円崎の3人だ。 眠りの小五郎が、安珠が遺したメモなどをもとにして、蕪木が犯人だと言い当てる。 安珠は結婚詐欺師で本名を鋤山有梨(すきやま あり)と言った。蕪木の兄が彼女に騙されて自殺に追い込まれたことへの恨みだった。

神奈川県警捜査一課の横溝重悟警部がマスカレード婚活パーティーに参加している(参加者番号15)。ここは東京だから 知った人は誰もいないだろうと思って安心していると、神奈川県警交通部交通機動隊の萩原千速警部補 (参加者番号18) に 声を掛けられて驚く。千速は、友達の忍に誘われて来たらしい。

萩原千速は、萩原研二の姉で、亡き松田陣平の恋人だったということで、ときどき千速が陣平を回想するシーンが挟まる。 髙木刑事には陣平に似た危うさがあり、佐藤刑事には昔の千速に似た危うさがある、と千速は思う。

最後の場面で、横溝重悟も、朝、強殺事件の犯人に刺されたのに、それをものともしていなかったということがわかる。