「地球惑星の科学」優秀レポート集


提出されたレポートのうち、電子フォームになっており、優秀で、本人の 掲載許可が得られたものを掲載します。以下、掲載の順番は、宇宙から はじまって地球へという感じにしており、出来の良さとは無関係です。

レポート課題:講義で教えたことに関連する内容について新書1冊分程度以上の ものを読み、その内容を自分なりに分かりやすくまとめよ。

さまざまな姿をみせる銀河

作者:百合草陽介(理学部)
ファイル:html 版
図の出典は文書の最後に全部書いてあります。

講評:要領よくまとめてあると思います。主として「不思議な銀河の物語」を 読んだのだと思いますが、本の選択は1年生には丁度良いレベルだと 思います。

私は、銀河の話は専門から遠いので、あんまりまともな科学的コメント はできませんが、専門的な内容以外のところで細かいですが2つくらい コメントをしておきます。

(1) <まとめ>にちょっと違和感がある部分があります。「引力は 光が何万年もかかる距離もかまわず引き合っている」とありますが、 万有引力にしても光の速さでしか伝わらないので、念のため。

(2) 「リング状の銀河」のところ:「不安定」という言葉を使ってい ますが、不安定にはいろいろな種類のものがあるので、いつもどういう 不安定か少なくともひとことは書いておく方が良いですね。この場合は 「自己重力不安定」です。その直後の「差動運動」は「差動回転」と した方が良いです。4文字で定着した単語なので。

太陽系の起源について

作者:秋山友香(農学部)
ファイル:html 版word 版
なお、本当のレポートには、これに図表のコピーが貼り込んであります。 見るときには、空白部分に何かの図か表があるのだと思ってください。 また、html 版は正常に見えないことがあります。

講評:矢印や図がうまく使ってあって、工夫されたまとめかたをしている ところが評価できます。このように自分なりに工夫してまとめているかどうかが 評価のポイントになります。ただし、ちょっと内容的に違うかなという点が 以下のように2つほどあります。

(1) 「太陽系の誕生」の最後の方で、低質量円盤モデルと大質量モデルを 対比しているところ:「時間的に2つのモデルの中間の時間に円盤が 形成された」とあるのが意味が取れません。現在の標準モデルは、 低質量円盤モデルのほうです。

(2) 「月の誕生」の集積説:集積説と巨大衝突説は共通する部分もありますが、 異なるものです。現在、もっとも有力なのは巨大衝突説です。

太陽系生成のプロセスについてのレポート

作者:小川祐樹(農学部)
ファイル:html 版word 版

講評:上の秋山さんのより後に提出されたせいか、秋山さんのと まとめかたの傾向が似ていますが、すっきりまとまっています。 細かいコメントを2つ書いておきます。

(1) 5頁目:ダストが恒星の中の核融合で合成されたとも読める書き方を してありますが、正確には、恒星の中で合成されたのはダストの原料になる 元素であって、ダスト自体は原始太陽系星雲の中などで合成されました。

(2) 6頁目:「秩序的成長」の説明が少しまずい。正しい説明は、「すべての 微惑星が同程度の速さで成長してゆく過程」です。

火星テラフォーミング

作者:住野孝治(法学部)
ファイル:html 版word 版

講評:いろいろ調べてそつ無くまとめたという意味で優等生的優秀作品です。 文章も読みやすく、要領よくまとまっています。欲を言えば、次のような 考察が深められればもっとおもしろいレポートになったでしょう。

(1) 「4. テラフォーミング」で、ここで書かれている3段階だけで、 火星に住むのに十分かどうか考えて議論してみると面白いと思います。 例:微生物の役割は十分に考慮されているか?火星重力が小さいことは本質的では ないのか?

(2) 「5. おわりに」で、他の惑星に移住することの意味や是非について 自分の意見をもっとはっきり出して議論すると面白かったでしょう。 例:移住を積極的に進めるべきだ。移住は人類の宿命だ。等々。

全球凍結

作者:加納麻弓子(医学部)
ファイル:html 版word 版
図の出典は文書の最後に全部書いてあります。

講評:NHK スペシャルの本を軸にしてまとめたのだと思いますが、半分取材記 のような文章から、要領良く科学的な部分をまとめてあると思いました。 参考にしている web pages の選び方も良いと思います。 以下、一般的な注意を二つばかり書いておきます。

(1) 通常、こういう科学的なレポートの場合には、図や写真には必ずキャ プションを付けるようにしてください。新書や専門書などを見るとわかり ますよね。図の題名、見方の説明、出典などがその内容になります。 そうしておくと、図だけを見ていっただけでもだいたいの内容がわかって便利です。

(2) NHK の本にも書いてありますが、全球凍結の話は、まだまだ新しい話 なので、確定していない部分が数多くあります。たとえば、海が深さ 1000 m まで凍ったなどという話は、将来けっこう変わってもおかしく ありません。今回のレポートとしては、そんなことは書かなくて良いで すが、ちょっと注意しておいてください。

バージェス頁岩の奇妙奇天烈生物

作者:渡邉ゆか(理学部)
ファイル:html 版word 版

講評:グールドの「ワンダフル・ライフ」という分厚い本を読んで、うまく ポイントを絞ってまとめてあります。ただし、図がないのが、ちょっと 見づらいです。図やイラストを入れてもらうともっと良かったと思います。 以下に、内容に関するコメント(レポートの評価とは別問題です)を 2つ書いておきます。

(1) ハルキゲニアは、「ワンダフル・ライフ」の後で、復元図の上下が ひっくり返りました。そのあたりの事情は、たとえば、

Past Lives: Chronicles of Canadian Paleontology -- Chapter 9 The Hallucigenia flip by Natural Resources Canada
を見てください。そのことによって、ハルキゲニアは有爪動物門に 入れられるようになりました。それで、より大きな動物の付属肢という 可能性は減りました。

(2) グールドの見方は大事だけれどちょっと過激すぎるというのが、 今はむしろ一般的なのかもしれません。たとえば、この話の主人公の 一人であったコンウェイ・モリスの書いた「カンブリア紀の怪物たち」 (講談社現代新書 1343)を見ると、もっと穏健な見方が書かれています。 カンブリア紀の「怪物」はそれほど奇妙なものではないという見方です。

動物の進化

作者:古谷美咲(医学部)
ファイル:html 版word 版
なお、本当のレポートには、これに1ヶ所大陸移動の図のコピーが 貼り込んであります。見るときには、空白部分にその図があるのだと思ってください。

講評:化石の話でとくに6億年前以降に重点をおいて要領よく まとめてあります。以下に、内容に関するコメント(レポートの評価とは 別で、元にした本の記述に関することです)を2つ書いておきます。

(1) 石炭紀の北半球が熱帯性の気候という書き方がなされていますが、 これはおそらく不正確です。今のヨーロッパや北米が石炭紀には低緯度 地方にあったというのが正しいと思います。石炭紀自体(とくに後半) は、全世界的に見れば現在と同じような氷河時代で、寒冷期です。寒冷 になった理由に関して有力な考え方の一つは、植物が繁茂してそれが十 分に分解されず石炭になったために、二酸化炭素が吸収されたからとい うことです。

(2) この本では、恐竜の絶滅の原因として隕石説を比較的軽視していま すが、これには少し疑問があります。浮遊性の有孔虫と呼ばれる微生物 の化石を調べてみると、絶滅はゆっくりではなく、かなり急激であるこ とがわかってきているので、非常に激しい環境変動があったことは事実 だと考えられています。恐竜も一緒に滅びたと思う方が私は自然だと思 います(もっとも私はそれほど専門家ではありませんが)。

日本列島の成り立ち

作者:小川よしみ(理学部)
ファイル:html 版word 版
図の出典は文書の最後に全部書いてあります。ワープロの変換ミス等の誤字が いくつかあるのですが、修正せず、そのまま貼り付けました。

講評:提出された中で最も優秀なレポートのひとつです。ちゃんと本を 読みこなしていて、自分なりの再構成がちゃんとできています。 以下、細かいコメントをいくつか。

(1) 見出しの付け方が少し不適切な場所があります。たとえば、「はじめに」 の次の「地向斜説」の中の B 以降は地向斜説ではないことが書いてあります。 したがって、見出しはたとえば、「地向斜の考え方から付加体の考え方へ」 などとした方が良いです。

(2) 途中で「内帯と外帯とは岩石の種類が全く異なる」とありますが、 平先生の本の趣旨では、図3-3 にあるようにむしろ共通性の方を強調し ています。中央構造線を境にして元々別の場所にあったものがくっつい たということでした。

(3) 変換ミスの一つですが、「第4期」は「第4紀」が正しいです。

(4) 最後の感想で「インターネットでいろいろ違うことが書いてあって」 とありましたが、その通りです。何を信用したら良いかはわからないと 思いますが、結果的に平先生の本を信用したのは正解です。科学のなか でも地学はそう言う意味で最もごちゃごちゃした分野で、どれを信用す るかは難しいのですが、平先生の信用度が高いことは確かです。